僕を見て「エネミー!」って言うんです
──「Sad In Saudi Arabia」はタイトル通り、サウジアラビア公演で得たインスピレーションがもとになっているそうですね。
サウジには5月と8月に行ったんですよ。歌詞にも出てくるジェッダとリヤドなんですが、まずは暑さが印象に残りましたね。アジアのまとわりつくような暑さではなくて、火に近付いたときの「熱!」という感じがあって。あと「内なる情熱を秘めた国」という印象もあって、それはサウンドにも歌詞にも出ていると思います。
──サウジの民族音楽を取り入れるのではなくて、あくまでもビッケさんが感じたことを曲にしたということですか?
そうです。サウジの伝統楽器を入れるのは誰でもできるというか、YouTubeとかで検索して、その音を入れたらいいわけじゃないですか。この曲はそうじゃなくて、僕が体験したサウジの空気だったり、現地の人たちと実際に触れ合う中で感じたことを取り入れているんです。街中にはめちゃくちゃデカくてキレイなビルがいっぱい建ってるんだけど、1本道を挟めばホコリだらけの車が走っているような場所で。その対比みたいなこともテーマにしていますね。
──日本にいると、サウジの人たちの雰囲気ってわからないですからね。
住んでる人たちがすごく素朴でピュアなんですよ。本当に優しいし、笑顔もめっちゃよくて。でも、奥底にはエネルギーがうごめいているというか。この曲のドロップの部分は、そういうエネルギーを……下のほうでグッと燃えている感じを表現しているんですよ。
──なるほど。実際に現地でライブをしたときのリアクションはどうでした?
叫び声がデカい(笑)。体育館みたいな会場にびっしりお客さんが入っていて、すごい声量で反応してくれるんですよ。特にアニメの曲の盛り上がりはすごいです。イベント会場からホテルまで移動していたら、僕を見て「エネミー!」って言うんです。最初は“敵(enemy)”って言われるのかと思っちゃって、「I'm not your enemy」って返したら、「エネミー」じゃなくて「アニメ」って言ってたみたいで。日本人の僕を見て「日本のアニメ好きだよ」と伝えようとしてたんです。それくらい日本のアニメは人気があるってことですね。
──音楽イベントが増えているのも、カルチャーの普及に力を入れているからなんでしょうね。
そうそう。サウジに世界最先端の音楽スタジオがあって。見学させてもらったんですけど、最新システムのすごいスタジオでした。たぶん海外から有名な作曲家やエンジニアを呼んで、そのスタジオで音楽を作ってもらいたいんじゃないかなって。
暮らしている人たちのマインドをもとに曲を作ろう
──そして「Luca」は、イタリアのシチリア島で出会った仲間との思い出をもとにした曲だとか。仲間というのは?
シチリア島に「Black Rover」をカバーしているBlinding Sunriseというバンドがいるんですよ。Lucaはそのバンドのギタリストの名前なんです。歌詞に出てくる「Valeri」「Frio」もメンバーの名前です。みんな本当にいいヤツで、切迫感なく生きてる感じがする。スタジオの周りには何もなくて、草むらからウサギが飛び出してくるようなところなんですけど、そのせいか誰もいい意味でがんばらないんです。平日は仕事して、土日でバンドやって。それだけで幸せっていう。それって最高だなと思ったんですよね。
──その様子を曲にしたら、「Luca」になったと。
そうそう。「Sad In Saudi Arabia」と同じように、その地域の伝統楽器を使うんじゃなくて、そこで暮らしている人たちのマインドをもとに曲を作ろうと思って。楽器はドラム、ベース、ピアノだけ。シンセを入れたり、EQの調整とかもせず、ただ楽器を鳴らすだけでいいなと。メロディもがんばって歌う感じではなく、途中からポエトリーリーディングみたいになる。それも全部、あの島の雰囲気と暮らす人の人間性から来てるんですよね。
──「Valeri said『There's no winner or loser, we all brothers』」という歌詞も象徴的ですよね。そういうゆったりとした人生に憧れる部分もあるんですか?
ありますね。とにかく風土がいいし、彼らのマインドもすごくいいなと。小学校からの友達と一緒にずっと幸せに生きていくというのが当たり前なんですよ。島を出るとか、海外で活動するなんてまったく考えてない。そういう生き方もいいなと思ったから「がんばらない」をテーマにしたくて。もちろんショボい曲にはしたくなかったから、そこはしっかりやりましたけどね。
──「Luca」みたいなチルい曲を作るの、初めてですよね?
そうなんですよ。ライブでもやりたいですね。例えばトイピアノを弾きながら歌ったらいい感じじゃないかな……って、昨日思いつきました(笑)。
これからのこと、未来のことを歌っています
──さらに3月に配信リリースされた「革命」も収録されています。「私はできる 私を信じれば」という力強いフレーズが鳴り響く“マーチングロック調”の曲であり、ビッケブランカの個性を改めて示す楽曲だと思いますが、ビッケさんの中でこの曲はどんな位置付けにありますか?
こんなにすごい曲になるとは思ってなかったですね、正直。ちょっと「革命」をナメてたかもしれない(笑)。
──今年のライブハウスツアー(「Vicke Blanka LIVE HOUSE TOUR 2023」)でも大きな役割を果たしていましたよね。新曲なのに、早くもこれまでのライブの定番曲から主役の座を奪い取ったというか。
「革命」を中心に据えてみようとは思っていたんですけど、想像以上にすごく盛り上がりました。ライブを締めくくれるパワーを持った楽曲というのがあって、そういう類の曲になってくるのかなと。この曲、ギターを弾きながら歌うパートがあるんですけど、ツアーが始まった頃はうまく弾けていなかったんですよ。けれどファイナルの東京公演では完璧に弾けたので、僕自身のスキルも上がりました(笑)。
──そしてEPの最後に収録されているのは、タイトルトラックの「Worldfly」です。
12月にバルセロナでライブをやるんですけど、そのことを踏まえて、このEPを総括する曲を作ろうと思って。「Worldfly」ではこれからのこと、未来のことを歌っています。インタビューとかでよく最後に「この先の目標は?」「リスナーの皆さんにメッセージを」と聞かれますけど、それを曲で表現しているイメージですね。
──「Worldfly」は造語ですけど、いい言葉ですね。
いいですよね! dragonflyはトンボ、fireflyはホタルなんですけど、世界を飛び回るというイメージでWorldfyという言葉を考えました。自分でも気に入ってます。ピアノと歌だけの構成で1分くらいの曲なんですけど、ピアノは清塚信也さんが弾いてくれました。2時間くらいでデモ音源を作ったんですけどもっとクラシカルな感じにしたいなと思って、清塚さんに直接連絡して「弾いてくれませんか?」とお願いしたら、「いいよ」と。テレビ番組で共演したこともあるし、仲よくさせてもらってます。
ラブリーライフですよ
──まさに世界中を飛び回るような作品になりましたね。12月にはスペインのイベントに出演される予定もあります。コロナ禍前には「EDMのアーティストとして世界中でライブをやりたい」という構想がありましたけど、違う形ではあるものの、ワールドワイドな活動になりつつありますね。
うん、まさにそうで。コロナがなかったらとっくに行ってたし、3年くらい足踏みするような状況になってしまったのがストレスになってたんですけど、その分、今跳ね上がってますね。ここから巻き返したいし、海外公演はもともと得意で性格に合ってるのもわかってるから、ようやくやれてるって感じです。スペインに行くときもコンディショニングがあるからそんなにゆっくりはできないんだけど、バルセロナで買い物くらいしたいですね(笑)。
──素敵です。
ラブリーライフですよ(笑)。日本の活動も右肩上がりだし、このままの調子で行きたいですね。
──さらに12月28日には、スペシャルイベント第2弾「Vicke Blanka presents RAINBOW ROAD -翔-」がTOKYO DOME CITY HALLで行われます。第1弾は昨年10月でしたが(参照:ビッケブランカが「RAINBOW ROAD」で見た“素晴らしい景色”「またここで会いましょうね!」)、今振り返ってみるとどんなライブでしたか?
「RAINBOW ROAD」は毎年開催することを決めて立ち上げたイベントで、これ以上ないスタートが切れたと思います。「絶対に続けるんだ」という強い意志があるし、それを口にすることで、会場が特別な場所になるというか。先々のスケジュールを決めるときも、「年末には『RAINBOW ROAD』があるから」という軸ができるんですよ。
──今回の「RAINBOW ROAD」はどんなステージになりそうですか?
さらに曲が増えましたからね。「Worldfly」が1つのテーマにはなりそうなので、にぎやかなライブになると思ってます。具体的なことはこれからですけどね。さっき言った「Luca」の演出はなんとなく決まってるけど、そのほかのことはこれから考えます。絶対いいライブになるので、楽しみにしててください。
ライブ情報
Vicke Blanka presents RAINBOW ROAD -翔-
2023年12月28日(木)東京都 TOKYO DOME CITY HALL
プロフィール
ビッケブランカ
愛知県出身のシンガーソングライター。2018年発表の「まっしろ」がドラマ挿入歌として話題を呼び、翌2019年には「Spotify」のテレビCMに「Ca Va?」が使用された。海外においてもアニメ「ブラッククローバー」のオープニング曲がロングヒットを続けている。2022年3月にメジャーデビュー5周年記念ベストアルバム「BEST ALBUM SUPERVILLAIN」をリリースし、4月にはフランス映画「シャイニー・シュリンプス!」の新作「La Revanche des Crevettes Pailletées(原題)」の全世界共通エンディング曲である「Changes」を配信リリースした。8月には新作EP「United」をリリースし、10月には新たなライブイベント「Vicke Blanka presents RAINBOW ROAD -軌-」を成功させた。2023年3月に「革命」を配信リリースし、10月にはEP「Worldfly」を発表。このほか楽曲提供、ラジオDJ、広告モデル、eSportsストリーマーなどさまざまな分野に活躍の場を広げている。
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