最近のメンヘラをテーマにしたグループはマーケティングされたもの
──ファンが“隠れキリシタン”だった時代と比べて、客層は変わりましたか?
浜崎 最近はそういう感じの子たちばっかりじゃなくって、純粋に音楽ファンだなっていう感じの方もライブに来てくれるようになりましたね。
松永 男性とか親子で来る人も増えたんですよ。5歳ぐらいの女の子が僕に拙い字で書いた手紙をくれたりして。NHKの「Let's 天才てれびくん」に出た効果もあると思いますけど(参照:アーバンギャルド松永天馬「天才てれびくん」の新レギュラーに)。
浜崎 私も小さい子から手紙をもらうようになりましたね。「きれいな声だから売れると思います」って全部ひらがなで書いてありました(笑)。
松永 メンヘラ系みたいなものが、浅く広く世の中に浸透した部分があるのかもしれない。
浜崎 マイノリティが普通になっちゃったからね。サブカルがメインカルチャーになっちゃったので、こういうバンドがやりやすい時代になったのかもしれないですよね。
──サブカルの代表がアニメになって、アニメ好きがマイノリティじゃなくなった以上、もうサブカルも何もないですからね(笑)。
松永 よく「地方にはオタクとヤンキーしかいない」とか言うじゃないですか。でもアーバンギャルドを好きなのはそのどちらでもなく、地方のクラスで誰ともなじめない子たちなんですよね。だからアーバンギャルドをYouTubeで観るしかない。オタクにもヤンキーにもなれなかった人の音楽なのかもしれないです。
──なんでこの隙間をすくい取るような路線になったんですかね。
松永 なんでなんでしょうね。
浜崎 そこを狙ったつもりは全然なかったんですけど。
松永 最近はヴィジュアル系やアイドルでメンヘラをテーマにしたグループって多いんだけど、それは言っちゃ悪いけどある程度マーケティングされたものなんですよ。例えばヴィレッジヴァンガードだったらこのへんの棚に置かれるだろうみたいなことをマーケティングされたうえで作られてるんですけど、我々の頃はマーケティング的にメンヘラを捉える人なんて誰もいなかったですから。
浜崎 “病みかわいい”とか、「なんじゃそりゃ」って感じですよ(笑)。
松永 だから「こういう層にウケる」とも思ってなかったんですよ。単に自分のやりたいことをやってただけ。そして、メンバーにそれに付き合ってもらってただけ。そしたら結果的に、たまたま同じ波長を持ってるような子たち、50席のミニシアターに3人ぐらいしかいないレイトショーを観てたりするような、その3人に響いたんですよね。たぶん。
浜崎 その3人を全国からかき集めたらけっこうな数になりますから(笑)。
松永 それに比べたらオタクなんて「俺たちはマイノリティだ」みたいなこと言ってるけど、「お前らアニサマ(Animelo Summer Live)でさいたまスーパーアリーナ埋められるじゃん!」って。
浜崎 こっちは全国のミニシアターから3人ずつかき集めてもアリーナ埋められないですもん(笑)。
10年目にしてやっと部署が決まった
松永 隙間をすくい取れた一方で、僕は「音楽ライターに無視され続けてきた」みたいな気持ちがあるんですよ。でもなぜか「夜想」だとか、美術とか映像とかほかのジャンルの人が評価してくれたりして。
──なんなんですかね、松永さんが「STUDIO VOICE」の編集者出身だからとか?
松永 なんですかね。ほかのジャンルの人が評価してくれるのはありがたい話なんですけど、まあこれは名誉なことなんですが「ミュージック・マガジン」で0点を付けられたりして、音楽ではずっと評価されてこなかった。
浜崎 音楽ライターさんに無視されたとは思ってないんだけど、こういう取材で話してくうちに、どうしても音楽以外の話になっちゃうんですよ。
松永 僕がね。
──音楽以上に語りたいことがあるから。
浜崎 だから「あー、そこにいっちゃうか」って思っていつも歯痒い思いをしながら取材を終えてましたね(笑)。もっと音楽のことしゃべりたかったなって。奇抜なことやってるって思われてるから仕方ないのかなって、そこは受け入れるしかないと思ってますけどね。
松永 最近はそうでもないかもしれないけど、昔は映像的に曲を作ってた部分があったんです。例えば冬の曲だったらベルの音を入れるとか。僕は音楽的な話はできないので、それをメンバーに一生懸命伝えるわけですよ(笑)。
──ふんわりした感じで(笑)。
松永 それをメンバーが劇伴のような感じで音像化してくっていう。よくみんな翻訳できるなって感じですけどね。
浜崎 それも才能ですかね(笑)。
松永 コードも何もわからない人が、「もっと青っぽい感じ」とか言って。
浜崎 それで「あー、はいはい」ってわかる。
松永 それを彼女は理解してくれるんですよね。これはもっと知られていくべきだと思うんですけど、浜崎容子はプログラミング含め、アレンジのかなり重要なところを担っているんです。
浜崎 知られなくていいです。
松永 いや、知られたほうがいいことですよ!
浜崎 知らなくていいです(笑)。そういうことを声高らかにアピールしたいっていう欲も減ってきましたね。いい意味でも悪い意味でも、私はもともと承認欲求の塊でしたけど、自分はこれもできますあれもできますって言ったときに、自分がどんどん薄くなっていくような気がするんです。なんでもできる人はいっぱいいるし、だったら特化してるものがあったほうが魅力的だなって。自分はそれが歌ですって言える人になりたいと最近は思ってます。
松永 逆に僕は1つのことだけをやることができない人間なんですよね。詩や小説を書いたり、俳優をやったり、NHKのカルチャーセンターで講師をしたり、いろんなことをさせていただいてるんですけど、それは全部僕自身だし、アーバンギャルドの世界観とつながるものだと思ってるので。MV制作はほかの人に委ねてた時期もあったんですけど、やっぱり曲を作るときに明確なビジュアルがあって作ってるので、結果的にどんどん口出ししてしまう(笑)。
──自分の脳内が完全再現されることはまずないですもんね。
松永 そう。だから「自分でやろう!」となる。でも、人に委ねないっていうのはよくない経営者の考え方ですよね。
浜崎 だからずっとビジネス的には平行線なんですよ(笑)。今回のアルバム制作は松永さんが映画の撮影に入ってるときに始まったんで、すごくやりやすかったです。
松永 最初にデモを選ぶところまではいたんですけど、10曲ぐらい選び終ったら主演映画の撮影に入っちゃったから、「あとは任せた」って言って。あとはおおくぼ(けい / Key)、浜崎でやり取りして音楽的な部分を作ってくれました。
浜崎 「今のうちにやっとこう!」とこっそり話し合って(笑)。その2週間ぐらいの間に、もう覆すことのできない状態まで持って行ったので、やりやすかったですよ。
松永 でもね、別に覆したくなるようなものではなかったし、驚きがあったりしてよかったです。
浜崎 逆にいない方がいいんだなって(笑)。
松永 アレンジの細かい部分ではね。コンセプトにはこだわりがあるんで。
──ちゃんと役割分担したほうがいいんじゃないかって。
浜崎 そうそうそう。よかったです。10年目にしてやっと部署が決まって(笑)。
──インタビューでも、コンセプトを語る人と音楽を語る人に分かれればいいんですよ。
浜崎 私もいろいろ話したいことはあるんですけど、分野が違うから天馬さんとライターさんが映画に特化した話をすると話に入れないし、「私この取材に必要だったんだろうか?」っていうこともたくさん経験してきましたからね。長く続けてるとそういうのがわかかるようになってよかったなって思いますね。
リストカットは人間として正しいことなのかもしれない
──話は変わりますけど、ボクもアーバンギャルドの曲にひっそりと参加してたじゃないですか。
浜崎 「昭和九十年」(2015年発売アルバム)に入ってる「平成死亡遊戯」ですね。
松永 アイドルの子たちへのインタビューを豪さんにしてもらって、それを曲中に挿入しています。
──ゆるめるモ!のあのちゃんを筆頭に、ライブ会場でリスカして救急車を呼ばれた人とか、いろんな人を。
松永 白石さくらさんですね(笑)。あとはLinQの伊藤(麻希)ちゃんとか。で、その声を曲に使いました。
浜崎 私はインタビュー音源を全部聞かせてもらいました。ライブのときに違う部分を切り取ってインタールード的に使うから、いい感じの言葉を選んでくれって言われて。面白かったですね。とっても人間らしくていいなって思いました。
松永 白石さんの発言でなんか「ビールとか飲むような感じで手首を切っちゃうんですよね」とかありましたね(笑)。
浜崎 言ってた言ってた。
──意外とポップでしたね。
松永 そう、ポップなんですよ。
浜崎 でも、みんなもそういう気持ちの切り替え方はあるじゃないですか? ストレス発散でバッティングセンターに行ったりお酒を飲んだり、すごくいっぱい食べちゃったりとか。気持ちの持って行き方がどうしようもないときにする行動がいっぱいある中で、それが彼女たちはリスカだったってだけで、人間の生き方として正しいことなのかもなと思いました。
──音楽的にはどうしてもここだけは守るラインっていうのはあるんですか?
松永 あるかなあ。天衣無縫なバンドですからね。
浜崎 私はあります。「絶対ポップであること」ですね。
松永 なるほど。ポップであることは至上の命題かもしれないな。
浜崎 聴いたときにジャンルがどうとか、なんでもカテゴライズしたがるじゃないですか。日本人って特に。でも、そうじゃなくって「私たちがやってる音楽はポップスです」って言いたいんですよ。
松永 確かに「キャッチーであることが重要」っていうのは最初から掲げてました。僕はこういう人間なので大学生の頃は周りにアングラな友達がたくさんいたんですけど、いまだに土方巽とか天井桟敷とか唐十郎とか、あの世界で止まってるんですよね。アングラの人たちってある意味すごく権威主義で、昔のすでに評価されてるものしか評価せずに「今のものはクソだ、売れてるものはクソだ」っていう考え方を持っている人たちが多いんです。あと自分たちの作品が面白くないのを「これは崇高なものだから俗世間には受けない」と言って納得したり。
──世間の人間にはそれがわかる能力がないだけだって。
松永 そう! 「一般人にはそれがわからないんだ、俗物にはわからないんだ」っていう考え方の人たちがすごく多かった。サブカルも根底に流れてるのは同じ、自意識過剰な選民思想ですよね。サブカルチャーは愛しているけど、特権意識の強い“サブカル”とはお別れしたいと思って「さよならサブカルチャー」という曲も書きました。自分は難しいこともやるけれども、それをキャッチーに伝えられる自信があるし、心を使って仕事をしてるから相手の心に絶対に届くって気持ちでやってきましたね。
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我々が作ってるのは鏡なんですよ
- アーバンギャルド「少女フィクション」
- 2018年4月4日発売 / 前衛都市
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初回限定盤 [CD+DVD]
4104円 / FBAC-050 -
通常盤 [CD]
3024円 / FBAC-051
- CD収録曲
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- あたしフィクション
- あくまで悪魔
- ふぁむふぁたファンタジー
- トーキョー・キッド
- ビデオのように
- 大人病
- インターネット葬
- 鉄屑鉄男
- キスについて
- 少女にしやがれ
- 大破壊交響楽
- 初回限定盤DVD収録内容
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- あたしフィクション(PROPAGANDA VIDEO)
- あくまで悪魔(PROPAGANDA VIDEO)
- ふぁむふぁたファンタジー(PROPAGANDA VIDEO)
- 大破壊交響楽(MEMORIAL VIDEO)
公演情報
- アーバンギャルド「アーバンギャルドのディストピア2018『KEKKON SHIKI』」
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2018年4月8日(日)東京都 中野サンプラザホール
OPEN 16:00 / START 17:00
- アーバンギャルドの公開処刑13(トークライブ & サイン会)
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2018年4月3日(火)埼玉県 ヴィレッジヴァンガードPLUS イオン越谷レイクタウン店
START 18:002018年4月4日(水)大阪府 タワーレコード梅田NU茶屋町店
START 19:302018年4月5日(木)愛知県 HMV栄
START 19:302018年4月6日(金)東京都 タワーレコード新宿店
START 21:00
- アーバンギャルド
- 「トラウマテクノポップ」をコンセプトに掲げる4人組バンド。詩や演劇などの活動をしていた松永天馬(Vo)を中心に結成され、2007年にシャンソン歌手だった浜崎容子(Vo)が加入した。2009年3月に初の全国流通アルバム「少女は二度死ぬ」を発表。ガーリーかつ病的な世界観を徹底的に貫き、多くのリスナーから共感を集める。2011年7月にはシングル「スカート革命」でメジャーデビューし、2012年には東京・SHIBUYA-AXでワンマンライブを敢行。2014年から東京・TSUTAYA O-EASTを舞台にした主催イベント「鬱フェス」を毎年開催している。松永は2015年から2017年にかけてNHK Eテレの子供向け番組「Let's天才てれびくん」にレギュラー出演し、2016年にはNHK BSプレミアム「シリーズ・江戸川乱歩短編集 1925年の明智小五郎」でドラマ初出演も果たしている。2018年4月にはCDデビュー10周年を記念したアルバム「少女フィクション」をリリースし、同月に東京・中野サンプラザホールでデビュー10周年記念ライブ「アーバンギャルドのディストピア2018『KEKKON SHIKI』」を開催する。