我々が作ってるのは鏡なんですよ
──こうして改めて話を聞いてみて、考え方は違うんだけどやっぱりこの2人はいい組み合わせだと思いましたよ。
松永 ほら、いい組み合わせだって!
浜崎 あー、そうですか(無感情に)。
──なんでそんな微妙な反応なんですか(笑)。
松永 10年間を振り返ってみても、僕はアーバンギャルドの世界観は、彼女だからここまで表現できたと改めて思ってますね。このバンドと“KEKKON”するにふさわしい相手ですよ。
浜崎 いや、そんな取って付けたように言わなくていいですよ(笑)。
松永 いやいや、ホントに!
──みんな思ってると思いますよ。
浜崎 だったらいいんですけどね。
──そこはあんまり自信ないんですか?
浜崎 あると言えばあるし、ないと言えばないですね。歌声にはあると言えるんですけど。やっぱり「ボーカルが変わっちゃうんじゃないか」とかいまだに言われるのもそうだし、大ブレイクしないのは自分のせいなんじゃないかってさっき話しましたけど、そういうことがあるから自信は常にないですね。
松永 でも、常にそうやって不安を持ってるのは別によこたんがどうとかじゃなくて、「リスナーが常に不安を抱えて生きてる人たちだから」っていうのもあるかもしれないですよ。
浜崎 私は自信を持って出せるものは作品だけでいいと思ってます。自分の存在意義には常に疑問を抱えながらやってるから、MVも「私が出なくていいんじゃない?」と思ってるし、全体的に「私じゃないと成り立たないでしょ」とは思わない。
──「ジャケは全部私にして」みたいな思いはないんですか?
浜崎 むしろなんなら「載せないでくれ」って言ってるんで(笑)。「平成死亡遊戯」のMVみたいにそこはもう一番似合う人がやったらいいんじゃないかな。
──2人とも「売れたい!」っていう思いはあるんですか?
浜崎 ありました。今はもうないです。
松永 ホントに? 僕はずっとありますよ。
──浜崎さんはなくなっちゃったんですか?
浜崎 なくなりました。
──なんでまた?
浜崎 売れたいと思って試行錯誤していたものがアーバン的に間違いだと気付いたから。
──それは音楽的に?
浜崎 ですね。やっぱり今のアーバンギャルドの音楽がすごく楽しいんですよ。だからもう自分が楽しめないのに売れたいがためにきれいごとを言ったり、媚を売ったりはしたくないって思えてきちゃったな。
──たぶんビジネス的に横ばいでいることに対しての葛藤とかもあったと思うんですよ。
浜崎 ありますね。いろんな人が出てきては抜かされ、そして消えみたいな(笑)。もちろん、関わってくれてる周りの方のこと考えるともっと上に行きたいし、経済的な意味でもいろいろあるんですけど、やりたいことがやれなくなるとアーバンギャルドの存在意義がなくなってしまうんじゃないかなって。そう考えたら、「めちゃめちゃ売れたい」「武道館でやりたい」みたいな気持ちがちょっとずつ少なくなってきて。もちろん売れるに越したことはないですよ(笑)。
──当然、売れたくないわけじゃないですもんね?
浜崎 売れたくないわけじゃないです(笑)。
松永 ただ、今音楽業界が「CDが売れない」だとか「儲からない」だとか「ビジネスがどんどん衰退してる」とか言ってることが、最近は「悲しい」とか以前に「遅いな」と思っていて。もうそんなことはどうでもいいんですよ。CDは消えゆくものかもしれないけど、音楽は残り続けるだろうと思うし。例えば昔よりMVにかけられるお金は圧倒的に減ったと思います。でも、昔はヘリコプターを飛ばして撮らなきゃいけなかった映像が今はドローンで撮れるわけじゃないですか。数千万円かかったものが数万円で撮れるように時代が変わったわけだから。
浜崎 比べても仕方ない部分が明確にあって、CDが100万枚売れるのが当たり前だった時代とは違うから、そこに幻想を抱いちゃいけないっていう気持ちで「別に売れなくてもいい」って考え方なんですよ。
松永 よくなった部分とか便利になった部分も当然あるわけで、そこにもっと目を向けたほうがいいと思います。自分は音楽を別にドル箱のビジネスだからやってるわけじゃないし、ただやりたいことをやってて結果的に聴いてくれる人がそれに対してお金を払ってくれて、それだけなんですよ。
浜崎 それだけでめちゃめちゃありがたいことだから、「認められなくて悔しい!」みたいな考え方がだんだん減ってきた感じですね。
松永 我々が作ってるのは鏡なんですよ。
──CDという名の。
松永 もはやCDという名前の、丸い手鏡を作って売ってるだけ。カラス除けに使ってくれてもかまわない。だけどiPhoneをいじりながらの片手間ではなくプレーヤーに入れてじっくり向き合えるという意味では、自分の内面を覗き込めるような代えのきかない鏡じゃないかなと思っていますよ。これから音楽はCDの形じゃなくなっていくかもしれない。それでも自分たちはバンドを続けていくし、業界が元気がないとかはもういいかなって最近は思うようになりました。
──新しい企画で、鏡としての完成度を高めたCDとか出してほしいぐらいですね(笑)。
松永 ホントにそっちのほうがいいと思う。余談ですが、僕は最近路上でMV撮影をしてたら「YouTuberの方ですか?」って聞かれたことがすごく衝撃で、時代が変わったんだなーと思いました。今はミュージシャンよりYouTuber、そんな時代ですよ。だけどそうだとしても、自分のやりたいことはまったく変わらない。
無駄だったことは何もない
──今回のMVはCDを大量に使った作品になってましたね。
松永 ある意味「CDよさらば!」って言う追悼の意を込めて作りましたけど、ファンの子たちはアーバンギャルドの歌詞を読んで自分を見つめ直すので、実際に鏡以外の何物でもないんですよ。たまたまデータが入ってるだけ。CDやレコードに対してコレクターは愛着を持ってるかもしれないけど、「それただのイタだからね」って気持ちで作っていこうという感じでしょうか。
浜崎 いや、そんなことないです(笑)。
松永 ……あれ?
──今日はすれ違いが目立つなあ(笑)。
松永 すれ違いはいつもなんですけど(笑)。そんなことないと言いますと?
浜崎 コレクターの方にとっては宝物なので、私は否定したくない(笑)。
松永 ああ、なるほど。こうやって僕は今の時代に適応してるみたいな言い方してるけど、やっぱり古い人間の側面もあるんですよ。「クラウドファンディングはちょっと……」とかいろいろ。
浜崎 でも私、天馬さんはそのうちクラウドファンディングもやるんじゃないかなって思ってます。
松永 まあ言いかねないよね(笑)。
浜崎 うん、言いかねないから、あんまりそういう発言はやめたほうがいいんじゃないでしょうかって常々思いながら聞いてます(笑)。
松永 感覚が古いのかなとも思うんだけど、数十万くらいの予算で「CDを作るお金がありません」ってクラウドファンディングやるんだったら、バイトでもすればどうにかできるじゃんって……こういうことをネット上に書いたら炎上するかもしれないですけど、自分は若い頃、普通に私財を投じてCDを作った日々があったから余計にそう思う。
浜崎 ブッキングライブのたびにみんな“血税”を払ってたもんね(笑)。
松永 でも、そういう辛酸を舐めてきたことによって自分の洞察眼がよくなったんです。ほかの人気のある人たちはどういうライブをしてるのかを超ちっちゃい規模の会場でも観るわけですよ。「池袋手刀に出てるこのハードコアノイズバンドは自分はまったくいいと思わないけど、どうやら20人ファンがいるらしい。これのどこがいいんだろう?」って。そこにいろんな表現をしていくうえでのヒントがあるんです。自分のやりたい音楽を「伝える」というヒント。そういう意味で、私財を投じ続けた(笑)ブッキングライブはすごく身になった。
浜崎 身になってるんですよね。
松永 ああいう経験なしで売れてく人もいるかもしれないけど、僕らは荒れ地に花を咲かせようとしてきた人間だから。
浜崎 無駄だったと思うことってあんまりないって言うか、全部勉強になったなっていう気持ちです。今は損得で考えすぎな人が多いのかなって思いますね。
生きるのがつらい子へ、大人になったら超楽しいよ
──よく続きましたよね、この2人が10年。
松永 ホントだよ!
浜崎 いや、続いてないですよ(笑)。
松永 実際に続いてるじゃないですか!(笑) 僕はこの先も続けたいし、アーバンギャルドのファンの子たちに、1人の女性として、浜崎さんの今後の人生を見ていってほしいですよね。
浜崎 それは思います。こういうことを10年続けちゃったから普通の生活に戻れないんですよ。たぶん普通に就職することも不可能だろうから、後戻りできないし。前髪ぱっつんをいつやめたらいいんだとか、水玉の服を一生着ないといけないのかなとか、そういうのもあるし(笑)。なんか、いろんなものを抱えすぎてしまったな。
松永 大丈夫。水玉も前髪ぱっつんも、草間彌生さんぐらいのお歳になってもまだやってるから(笑)。
浜崎 なんかこう「よこたんがまだやってるからセーフ」みたいな考え方を持ってもらいたいなって最近は思ってますね。おこがましい発言ですけど、「この人がまだこんなイタイことやってるから、私はまだ大丈夫!」とか思ってくれる存在になれたらいいなって思いますね。
松永 そうだよね、一緒に歳を重ねていけたらいい。
──死にそうな子たちが、ちゃんと生きてくれれば。
松永 「ファンの子たちがちゃんと生きられてよかった」って思いたい。
浜崎 「アーバンギャルドのファンは十代の女子が多い」って思われてて、10年前は実際にそうだったけど、10年経ってその子たちが二十代半ばとか三十代になろうとしていて。きっとその子たちも感じてると思うけど、十代より二十代のほうが楽しいし、二十代より三十代のほうが楽しいし、きっと三十代より四十代のほうが楽しいんですよ。
──大人はクソだ、大人になりたくないって思っちゃうだろうけど。
浜崎 でも自分が実際そういう年齢になってしまったときに、「えっ、楽しい!」って思いました。自分が十代の頃に抱えていた悩みが、今思うと笑い飛ばせるようなことだったりするから、生きるのがつらいなって今思ってる若い子がいたら、「大人になったら超楽しいよ」っていうのを見てもらいたいなって思います。
松永 自意識も宝物になるんですよ。ややこしい部分も含めてあなたです。
浜崎 ただ、ややこしい人は一生ややこしいので、そこは覚悟して生きていってくださいね。
- アーバンギャルド「少女フィクション」
- 2018年4月4日発売 / 前衛都市
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初回限定盤 [CD+DVD]
4104円 / FBAC-050 -
通常盤 [CD]
3024円 / FBAC-051
- CD収録曲
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- あたしフィクション
- あくまで悪魔
- ふぁむふぁたファンタジー
- トーキョー・キッド
- ビデオのように
- 大人病
- インターネット葬
- 鉄屑鉄男
- キスについて
- 少女にしやがれ
- 大破壊交響楽
- 初回限定盤DVD収録内容
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- あたしフィクション(PROPAGANDA VIDEO)
- あくまで悪魔(PROPAGANDA VIDEO)
- ふぁむふぁたファンタジー(PROPAGANDA VIDEO)
- 大破壊交響楽(MEMORIAL VIDEO)
公演情報
- アーバンギャルド「アーバンギャルドのディストピア2018『KEKKON SHIKI』」
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2018年4月8日(日)東京都 中野サンプラザホール
OPEN 16:00 / START 17:00
- アーバンギャルドの公開処刑13(トークライブ & サイン会)
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2018年4月3日(火)埼玉県 ヴィレッジヴァンガードPLUS イオン越谷レイクタウン店
START 18:002018年4月4日(水)大阪府 タワーレコード梅田NU茶屋町店
START 19:302018年4月5日(木)愛知県 HMV栄
START 19:302018年4月6日(金)東京都 タワーレコード新宿店
START 21:00
- アーバンギャルド
- 「トラウマテクノポップ」をコンセプトに掲げる4人組バンド。詩や演劇などの活動をしていた松永天馬(Vo)を中心に結成され、2007年にシャンソン歌手だった浜崎容子(Vo)が加入した。2009年3月に初の全国流通アルバム「少女は二度死ぬ」を発表。ガーリーかつ病的な世界観を徹底的に貫き、多くのリスナーから共感を集める。2011年7月にはシングル「スカート革命」でメジャーデビューし、2012年には東京・SHIBUYA-AXでワンマンライブを敢行。2014年から東京・TSUTAYA O-EASTを舞台にした主催イベント「鬱フェス」を毎年開催している。松永は2015年から2017年にかけてNHK Eテレの子供向け番組「Let's天才てれびくん」にレギュラー出演し、2016年にはNHK BSプレミアム「シリーズ・江戸川乱歩短編集 1925年の明智小五郎」でドラマ初出演も果たしている。2018年4月にはCDデビュー10周年を記念したアルバム「少女フィクション」をリリースし、同月に東京・中野サンプラザホールでデビュー10周年記念ライブ「アーバンギャルドのディストピア2018『KEKKON SHIKI』」を開催する。