音楽ナタリー Power Push - 植田真梨恵
寂しい夜のおまじない
家族の景色をずっと夢見てる
──今お話を聞いた曲以外で、植田さんにとってこのアルバムでの核になる曲というのは?
やっぱり「ダイニング」ですかね。
──アルバムのリード曲ですね。これを作ったときの思いはどういうものだったんでしょう?
「スペクタクル」をリリースしたときに落ち込んで暗い曲しかできなかったっていう話をさせていただいたと思うんですけど、「ダイニング」がその曲なんです(参照:植田真梨恵「スペクタクル」インタビュー)。
──あ、そうなんですね。
「もう曲なんかできない」と思ってる状態からなんとか感情を歌にした曲なんですけど、子供の頃から見てきた景色、不安、こうなったらいいのにっていう夢、家族の姿、そういったものが1つの曲になっていて。うん、このアルバムの大切な1曲ですね。
──子供の頃の不安っていうのは、具体的にどういうことを不安として覚えてるんですか?
今となったらなんでそんなこと思ったんだろっていうくらい漠然としてるんですけど、例えばお母さんが明日死んだらどうしようって思ってたり。
──あ、思ってたかも。
思ってたでしょ? お母さんが病気になったらどうしようとか、保育園に迎えに来なかったらどうしようとか。突然そんな不安にかられて泣いたりしてたなと思って。漠然とした不安だとそういうところで、具体的なところでは両親がケンカをしているとか、そういう家族間の切ないことを強く覚えてますね。
──なるほど。「家族で食事をするダイニングテーブルがずっと使われていないイメージがあった」と資料に書かれてましたが、両親のケンカの話を聞くとそういうイメージとつながってきますね。
家族としてつながっていても他人なわけで、一緒に生活をしていくのは大変なことだなって幼いながらに感じていたのかもしれないです。私はその頃の気持ちを抱えたまま大きくなっていて、メジャーデビュー曲「彼に守ってほしい10のこと」のときに言っていた「私は永遠に続く愛を見たことがないから見てみたい」とか「自分がそれを叶えることで『叶った例もあるよ』って言いたい」っていうのと密接につながってくるんですけど。「ダイニング」と対象的なのが「パエリア」で、ダイニングという1つの空間で家族で食事を取るというのは当たり前のように思えるかもしれないけど、実はすごく素敵なことだと思うんですよね。私はその家族の景色をずっと夢見てるというか。
──そこでも夢というテーマがつながってくるわけですね。「パエリア」は切ないバラードの「ダイニング」と対照的でとても賑やかな楽曲ですけど、そこは対として考えていた?
はい、どちらも切り離せない曲ですね。私自身はこのアルバムで一番切なくなるのは実は「パエリア」を聴いてるときなんですよ。幸せな生活を一点の曇りなく信じてる感じというか。結婚式で歌えるようなワードしか登場しないくらい前向きな歌詞なんですけど、それがずっと続いていくのだろうかっていうことを考えると逆に切なく感じてしまって。
音楽は不思議な力を持った魔法
──「ダイニング」の話に戻すと、「小さなころに覚えた魔法の呪文 ただの言葉に変わってた」という一節が印象に残ったんですが、これはもしかして植田さんにとって音楽がまさにそういう魔法の呪文だったということでしょうか?
まさにそうですね。私が歌を歌うことで両親がケンカをやめたり、2人がつながっていると感じていたので。歌は魔法の呪文というかおまじないというか、そういう部分が大きいと思いますね。
──もちろん歌うことが好きというのはあると思うんですけど、植田さんは8年以上メジャーデビューできなくても音楽をやめなかったり、今も「ずっと歌い続けてることが夢」と語っていたりしますよね。植田真梨恵というアーティストがそこまで歌にこだわる理由って、そういう原体験がもとになっている?
とても、核心を突いていると思います。
──植田さんは大人になった今でも、音楽の魔法のような力を信じているわけですよね?
もちろんです。大きくなってからも何度も音楽に助けられているし、本当に不思議な力を持った魔法だなって常々思いますね。
──だからこそいろんな人にもその力を感じてもらいたい?
そうですね、はい。今回の「ロンリーナイト マジックスペル」というタイトルは、寂しい夜に曲を聴くことで楽しくなったり、逆に寂しさに浸れたりするおまじないのようになればいいなと思って付けたんです。誰にも言えないことを抱えているときや、何かを信じられないときにこのアルバムが皆さんの心にちょっとでも届いて前向きな気持ちになってくれるかもしれないし、もしかしたらその人のことを救うということにもなるかもしれない。そうなってくれたらいいなと思いますね。
──年明けの1月13日の東京・TSUTAYA O-EASTから2月18日の大阪・ユニバースまで、その魔法を直接届けるツアーが行われますね。
今年7月に赤坂BLITZで開催した、“夢”をキーワードにしたワンマンのDVDがツアーの直前に発売されるんですね。このライブのときからシングル「夢のパレード」と今回のアルバムまでずっと“夢”つながりで来ているんですけど、ツアーがどんな内容になるかは私にもまだ全然全貌が見えてません(笑)。でも、私自身このアルバムができあがってすごくうれしいと思える作品なので、それを皆さんに届けられるのが楽しみですね。
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- 2ndアルバム「ロンリーナイト マジックスペル」 / 2016年12月14日発売 / GIZA Studio
- 初回限定盤[CD+DVD] / 3996円 / GZCA-5278
- 通常盤[CD] / 3240円 / GZCA-5279
CD収録曲
- Intro
- わかんないのはいやだ
- WHO R U ?
- 悪い夢
- ダイニング
- I was Dreamin' C U Darlin'
- パエリア
- 夢のパレード
- 僕の夢
- ふれたら消えてしまう
- スペクタクル
- JOURNEY
- 犬は犬小屋に帰る
初回限定盤DVD収録内容
植田真梨恵 PV collection - 2015 / 2016 -
- 「FRIDAY」<1st album>
- 「hanamoge」<1st album>
- 「さよならのかわりに記憶を消した」<1st album>
- 「クリア」<from "CLEAR" Web CM>
- 「わかんないのはいやだ」<3rd single>
- 「スペクタクル」<4th single>
- 「ふれたら消えてしまう」<5th single>
- 「まわりくるもの」<5th single c/w>
- 「夢のパレード」<6th single>
- ライブDVD「PALPABLE! BUBBLE! LIVE! -SUMMER 2016-」 / 2017年1月11日発売 / 4320円 / GIZA Studio / GZBA-8030
- 「PALPABLE! BUBBLE! LIVE! -SUMMER 2016-」
収録内容
- 旋回呪文
- ハルシネーション
- メリーゴーランド
- G
- 壊して
- kitsch
- 未完成品
- hanamoge
- アリス
- まわりくるもの
- 吠える虎
- スペクタクル
- 泣いてない
- S・O・S
- ルーキー
- センチメンタリズム
- サファイア!
- 夢のパレード
- ふれたら消えてしまう
- OMAKE MOVIE
植田真梨恵(ウエダマリエ)
1990年生まれ、福岡県出身のシンガーソングライター。中学卒業を機に単身大阪へ移住し音楽活動をスタートさせる。2008年に1stミニアルバム「退屈なコッペリア」をリリースし、以降コンスタントに作品を発表しながらライブ活動を続ける。2012年に初のフルアルバム「センチメンタルなリズム」発売後、東京と大阪でワンマンライブを開催。2014年1月には東阪のCLUB QUATTROでワンマンライブを成功させ、同年8月にシングル「彼に守ってほしい10のこと」でメジャーデビューを果たす。2015年2月にメジャー1stアルバム「はなしはそれからだ」を発表し、東名阪と地元・福岡を回るツアーを実施した。2016年12月に2ndアルバム「ロンリーナイト マジックスペル」をリリース。