音楽ナタリー Power Push - 植田真梨恵

切なく弾ける青春の歌

生身の人間が歌ってる感じが届くように

──植田さんはブログで、この曲の歌入れの日に思わず泣きかけたとつづってましたよね。その日はhideさんと忌野清志郎さんの命日である5月2日だったそうで。そのときの心境はどういうものだったんでしょうか?

植田真梨恵

うまく説明するのが難しいんですけど……ずっと音楽を作ってきて亡くなった方は、概念になると思ったんですね。人の形をした容れ物を抜け出して、それこそみんなの心の中に生きるっていう。その人が作った曲を私たちは口に出して歌うことができるし、そこにお金を払う必要もない。それってすごいことだと思うんですよね。なんていうか、本当に存在が歌になるというか。そんなことを思ったら歌いながら胸が熱くなって。

──なるほど。

そんなことを考えながらレコーディングのときは自分の声がそのまま残っていくといいなと思いながら歌いました。歌詞にも「リップノイズすら忘れない」とありますが、そういう荒削りな部分が残っていることがすごく大事な気がするんですよね。消そうと思えば今の時代いくらでも消せるんですけど、なるべく生身の人間が歌ってる感じが届くといいなと思いますね。

──そうやって生身の植田さんが歌った曲がリスナーの心に届いて、いつか植田さんが亡くなったあとも口ずさんでほしい?

そうなればいいと思いますね。それって歌ならではのことで、歌が強烈に進化することだと思うので。

野球といえばピンク・レディーの「サウスポー」

──2曲目は甲子園をテーマにした「ルーキー」です。応援する側じゃなくてマウンドに立ってるルーキー本人の気持ちを代弁しているような視点が印象的でした。トリッキーなハードロックで、聴けば聴くほどクセになる感じで。

ありがとうございます。アルプススタンドから応援するような曲を書きたいんですけどね、本当は。でも「がんばれ」という曲は書けないなと思いまして。

──それはどうして?

植田真梨恵

私はスポーツができるというだけで尊敬してしまうので、「すげーです」ってことしか書けないので(笑)。だとしたらドラマチックな試合展開とか、それをみんなが固唾を飲んで観てる感じがにじみ出る曲にしたいなと思って。私、野球といえばピンク・レディーの「サウスポー」だと思ってるくらいあの曲が好きで。小学生1年生のときに「サウスポー」で地元のお祭りののど自慢に出たことがあるんですよ。

──へえ。

「ルーキー」は“背番号1のすごい奴”が相手なわけではないし、私は女主人公なわけではないですけど、ルーキーが「ここで俺がやらなきゃどうする」ってドキドキしてる感じが出ればいいなと思いながら書きました。

──そのドキドキ感は、例えば転調を繰り返すところからも感じられます。

今回ひさしぶりに転調を解禁したんですよ。インディーズの頃は転調しまくっていたんですけど、メジャーデビュー以降は自分の中で転調をなるべくせずにドラマチックな曲を書こうと思っていたので。今回ひさしぶりに解禁して、転調しまくってメジャーとマイナーを行ったり来たりしたら……すごく楽しかったです(笑)。

──あはは(笑)。あとこの曲もギターが印象的でした。

植田真梨恵

今回のシングルはギターがメインで聞こえてくるシングルにしたいっていうのがあったのでそこは考えました。たぶん年始のピアノツアーが終わって、季節の訪れと共に私の中でピアノモードからギターモードに変化していったんだと思います。これをアレンジしてくださった方もギタリストなんですけど、この方もひさしぶりの懐かしいタッグで。

──「中華街へ行きましょう」や「S・O・S」のアレンジを手がけたBonnさんですよね。ギターが歌と並走するときもあれば、リードするときもあって、かと思えば一歩引いて徐々に歌に追いついてくるときもある。その関係性がとてもいいですね。

やっぱりギターが好きですね、ギタリストさんは。私もメジャーデビュー以降いろいろ試行錯誤しながらギターフレーズを考えたりしていたので、前とは違う感覚でアレンジ作業を進められました。

──そこに性急なビートが絡んできて、かつキメも多いから、この曲もライブ映えしそうですよね。

そうなんですよ。速いし手数も多いしで、ドラマーの車谷啓介さんがレコーディングのときに鬼のような形相になっていて。これは動画を撮ってアップしないと!って思ったくらい(笑)。カッコよかった!

5thシングル「ふれたら消えてしまう」 / 2016年7月6日発売 / GIZA Studio
初回限定盤 [CD+DVD] / 2000円 / GZCA-4146
通常盤 [CD+フォトブック] / 1728円 / GZCA-4147
CD収録曲
  1. ふれたら消えてしまう
  2. ルーキー
  3. まわりくるもの
  4. ふれたら消えてしまう off vo.-
  5. ルーキー off vo.-
初回限定盤DVD収録内容
2015.11.30 shibuya eggman -hiki gatari live-
  • a girl
  • ハイリゲンシュタットの遺書
  • 心と体
  • さよならのかわりに記憶を消した
  • クリア
  • わかんないのはいやだ
植田真梨恵SPECIAL LIVE "PALPABLE! BUBBLE! LIVE! -SUMMER 2016-"
  • 2016年7月23日(土)東京都 赤坂BLITZ
植田真梨恵(ウエダマリエ)
植田真梨恵

1990年生まれ、福岡県出身のシンガーソングライター。中学卒業を機に単身大阪へ移住し音楽活動をスタートさせる。2008年に1stミニアルバム「退屈なコッペリア」をリリースし、以降コンスタントに作品を発表しながらライブ活動を続ける。2012年に初のフルアルバム「センチメンタルなリズム」発売後、東京と大阪でワンマンライブを開催。2014年1月には東阪のCLUB QUATTROでワンマンライブを成功させ、同年8月にシングル「彼に守ってほしい10のこと」でメジャーデビューを果たす。2015年2月にメジャー1stアルバム「はなしはそれからだ」を発表し、東名阪と地元・福岡を回るツアーを実施した。2016年7月にメジャー5枚目となるシングル「ふれたら消えてしまう」をリリース。