音楽ナタリー PowerPush - 植田真梨恵

闇を歌って光を照らす「ザクロの実」

光だけじゃなく影も歌いたかった

──曲の入りもすごくキャッチーですよね。そしてAメロ、Bメロ、サビとあって、Aメロ、サビ、Bメロ、サビと続く構成もテンポがいいなと思いました。

植田真梨恵

その通り!(笑) 私、この曲に限らずAメロというものがすごく好きなんですよ。サビがいいのは当然で、曲の入りがいいと、何かがカチッと決まった感じがするんですよね。この曲を書いたのは、子供の頃に聴いたことのあるような呼吸感のあるメロディを作りたいと思っていた時期なんですけど、ちょうどNHKの「みんなのうた」で、大貫妙子さんの「メトロポリタン美術館」を聴いたんです。あの曲みたいな懐かしさのあるような、ノスタルジックな感じでAメロを書き始めました。曲の構成も、シンプルだけどドラマチックさを求めたというか。1つの物語を書くようなイメージで、無駄なく、劇的になるように心がけました。

──「10のこと」のときは「私がんばります!」っていうオーラが全身から伝わってくる感じだったんですけど、「ザクロの実」はいい意味で肩の力が抜けている印象を受けました。歌い方で意識した部分はあるんですか?

うんうん。実は私、あんまり「ぎゃーぎゃー」歌うのが好きじゃなくって(笑)。

──え? 「10のこと」は声張ってるし、この間のライブでもすごく「ぎゃーぎゃー」歌ってましたけど(笑)。

そうそう、ライブではめっちゃがなってるんですけど(笑)。でもあとになってみると、あんまりそういう音楽は好きじゃないんですよ。本当は繰り返し聴いても疲れないような音楽が好きで、特にこの「ザクロの実」の場合は、頭の中で思い巡らせていることを口ずさんでいるくらいの声量でいいかなと思っていて。ずっと地声で歌っているんだけど最後のサビで“ガン!”ってアガって、気持ちの盛り上がりを表現できればいいかなと。

──植田さんの特徴でもあるファルセットを多用していないというか、だからリラックスしている印象があるんでしょうね。

そうですね。この曲はある程度違う側面から歌いたかったんですよね。

──違う側面?

植田真梨恵

「10のこと」では“100%光”を表現したと思っているんです。でも、私はポップさも持っているけど影みたいなものも歌えるアーティストでありたいと思っているので、そういうバランスをみたときにちょうどいい感じのボーカルを意識したというか。

──「10のこと」が100%光だとしたら、この曲はどのくらいの割合なんでしょう?

うーん……いろいろ考えたら、気持ち的には100%影といって大丈夫なんですけど、希望を持たせた歌を歌いたいとは思ってるので、悲しい歌っていうだけではないんです。明日からのことを考えていける歌だとは思っていて。歌詞ではすごく切ないことを歌ってるんですけど、自分1人が悲しくても、世間の日常は淡々とすぎていくじゃないですか? その淡々とした風景とか、それ以上に何かにきらめいている部分とか、そういうものをサウンド面で表現したくて、それを含めると……65%影かな。

──確かに、全体の雰囲気はモヤモヤ感があるんだけど、曲がキャッチーだからそれが薄まっている感じはします。この曲を2ndシングルにしようと思った理由は?

デモのときからシングル候補として作っていたので、いつかシングルとして出せたらと思っていて。私は「10のこと」ですごく希望ばかり歌っていて、それこそ「こんなことあるわけないじゃん」とか「きれいごとだよ」っていう反対意見も多かったんですね。それに対して私も同調する部分があるんです。ただ私は希望だけじゃなくて影の部分もインディーズで歌ってきたと自分では思っているので、ちゃんと闇の部分を歌ってあげることで、「10のこと」で歌ってる世界を信じられないような女の子たちの心にも私の声が届くのかなって。

──より説得力が増すというか。100%光を歌った「10のこと」と影にフォーカスを当てた「ザクロの実」では、「ザクロの実」のほうがより植田さんが歌いたい曲に近いということなんでしょうか?

そういうわけではないですね。影っていうものも光っていうものも同じように存在しているから、どちらかが歌いたい曲ということは全然なくて、両方歌うべきだし。まだほかに歌わなければいけないこともあると思うんですけど、今回のシングルにおいては影の部分が必要だったんだと思います。

──「10のこと」のような希望だけではない曲が。

はい。私は否定的な気持ちがあることもひっくるめて、それでも信じようっていう気持ちをメジャーでは歌っていきたいと思っているので。そういう意味で、これを2ndとして出せてすごくよかったと思っています。ゴーサインを出してくれた会社の人たちに感謝です(笑)。

シングルではバランスを取りたい

──「朝焼けの番人」もこの間のワンマンでやっていましたよね。すごくエネルギッシュな歌がある一方、こういうじっくり聴かせるバラードがコントラストになっていて印象的でした。

植田真梨恵

これは3曲の中で一番古い歌なんですけど、普遍的なことを言っているというか、ずっと歌える歌だと思っていて。自分の中で大事にしてきた曲ですね。

──この曲も「ザクロの実」同様にギターレスですが、これも最初からそのつもりで?

いや、書いたときは全然そんなことなかったです。ただピアノでやってみたときに、これが一番しっくりきたというか。

──なるほど。

シングルとして買っていただいたときに、いろいろな曲が入っていたほうがバランスがいいかなと思っているんですね。生っぽい「ザクロの実」があって、打ち込みの「ハイリゲンシュタットの遺書」があって、弾き語りというか楽器1本でやってる曲……前のシングルだったら「ダラダラ - demo -」がそうなんですけど、今回で言うとこの「朝焼けの番人」があるとバランスがいいなと思って入れました。この曲を録音したのはかなり前なんですが、グランドピアノで録音した空気感がいい感じだったのでそのまま収録して。

ニューシングル「ザクロの実」/ 2014年11月19日発売 / 1296円 / GIZA studio / GZCA-4141
収録曲
  1. ザクロの実
  2. ハイリゲンシュタットの遺書
  3. 朝焼けの番人
  4. ザクロの実 -off vo.-
  5. ハイリゲンシュタットの遺書 -off vo.-
植田真梨恵(ウエダマリエ)

1990年生まれ、福岡県出身のシンガーソングライター。中学卒業を機に単身大阪へ移住し音楽活動をスタートさせる。2008年に1stミニアルバム「退屈なコッペリア」をリリースし、以降コンスタントに作品を発表しながらライブ活動を続ける。2012年に初のフルアルバム「センチメンタルなリズム」をリリースし、東京と大阪でワンマンライブを開催。2014年1月には東阪のCLUB QUATTROにてワンマンライブを実施した。2014年8月6日にシングル「彼に守ってほしい10のこと」でメジャーデビューを果たす。11月19日に2ndシングル「ザクロの実」をリリース。2015年1月に大阪と東京でピアノワンマンツアー「植田真梨恵LIVE OF LAZWARD PIANO -青い廃墟-」を実施する。