「Turkey!」特集 第1回|北澤ゆうほ(Q.I.S.)×菱川花菜 対談 (2/2)

150%ぐらいを出してやっと80、90%ぐらいが届く

北澤 アニメに携わらせていただいていつも思うのが、自分では意図していなかった方向に曲の世界観が広がっていくことが楽しいなっていうことで。もともと想定していた“真実”はもちろんあるけど、曲の解釈がそれだけに収まってほしくないという思いがあるので、今回もまさしくそれが感じられてうれしかったです。自分ではコントロールしきれない領域でしか生まれないものが生まれる瞬間がすごく好きで。

菱川 それは役者にもありますね。もちろん人によって考え方やアプローチは違うと思うんですけど、私の場合は完全にそういう、自然発生する爆発的なエネルギーみたいなものに頼ってしまうタイプで。だから取材などで「ここの演技はどういうことを考えて臨みましたか?」と聞かれても、「その場で出たものです」としか答えられなくて……もっと考えてお芝居しろよ自分!って思うんですけど(笑)。

北澤 でも、先日ラジオに呼んでいただいたときにも話したんですけど、4話で麻衣ちゃんが炎の中で利奈ちゃんを呼ぶ声に私は本当にハッとさせられて。

菱川 めっちゃうれしい……!

左から北澤ゆうほ(Q.I.S.)、菱川花菜。

左から北澤ゆうほ(Q.I.S.)、菱川花菜。

北澤 これはたぶんどんな表現においても当てはまることなんじゃないかと思うんですけど、人に何かを伝えるのって、自分が思っている150%ぐらいを出して、やっと80、90%ぐらいが届くものだと思うんですね。それを考えると、あの叫び声はすでに150ぐらいで伝わってくるものがあったから、やってるときはもう計り知れないエネルギーで演技していらっしゃったんだろうなって。というのも、以前……ほんの一瞬だけなんですけど、オープニング曲を担当したアニメのサブコンテンツに、本人役で少しだけ出演したことがあって。

菱川 えー! すごい!

北澤 そのときはすごく大変で、声で演技をして伝えることの難しさを痛感しました。それと比べるのは失礼ですけど、声優さんって本当にすごいなといつも思ってます。

菱川 いやいやいや……でも、大げさにやって初めてちょうどよくなるというのは確かにあります。あの炎のシーンもそうですね。

北澤 もちろん前後のお芝居の中でどんどん気持ちが入って、自然にボルテージが上がっていったりもするんでしょうけど。

菱川 そうですね。あのシーンは、本番前のテストのときの私のお芝居がひどくて(笑)。利奈が全力でぶつかってきてくれているのに、私はそれに全然応えられてなくてどうしようって思ったんです。そのあと本番前の待ち時間に「今はリラックスしちゃダメな時間だ」と1回外に出て、1人で「どうしよう、どうしよう」って考え込んでいました。

菱川花菜

菱川花菜

北澤 そういうときって、何かをして気持ちを作ったりするんですか?

菱川 あんまりいいやり方ではないと思うんですけど(笑)、過去の嫌だったことを思い出したりしてわざと自分を緊張させたりしますね。そういう状況に追い込むことで、ぐわっとパワーが出るような気がして……でも、テストでの失敗があったから「本番はビシッとやんなきゃ!」という気持ちになれたのかなとも思います。だからあそこのお芝居をほめていただけるのはすごくうれしいです。ありがとうございます!

北澤 視聴者の皆さんにも、今のお話を踏まえてあのシーンを観返してもらいたい(笑)。本当にすごいです、声優さんは。

音無麻衣。テレビアニメ「Turkey!」第4話より。
音無麻衣。テレビアニメ「Turkey!」第4話より。

音無麻衣。テレビアニメ「Turkey!」第4話より。

がんばりたいことがあるときに聴きたい曲

北澤 「フラッシュバック」のレコーディングは、自分でも歌うのが大変すぎて(笑)。「これを菱川さんも歌うことになるんだよな、大変な思いをさせちゃわないかな」と思いました。普通に楽曲提供をするときは歌う方の声や雰囲気に合わせて作ったりもするんですけど、今回はとにかく自分が自然に思いついたものを素直に曲にしようということしか考えていなかったので……。

菱川 そうだったんですね。ご自身のレコーディングで、何か「うわあ」ってなる瞬間があったってことですか?

北澤 サビがずっとフルパワーみたいな感じだから、頭の血管が切れそうになりました。

北澤ゆうほ(Q.I.S.)

北澤ゆうほ(Q.I.S.)

菱川 ううー、すごい……! 私、北澤さんの歌われた「フラッシュバック」もすごく好きで。疾走感と言いますか、「このまま突っ走ってやる!」という感じがすごく伝わってきて、声質にも合っていて。Q.I.S.さんの曲って、かわいい曲も多かったりするじゃないですか。そのイメージが強かったこともあったので、意外性もあってすごくよかったです。

北澤 ありがとうございます。菱川さんのバージョンもめっちゃいいですよ。麻衣の声で聴くとより“麻衣の歌”に聞こえてくるし。

菱川 (胸をなで下ろしながら)よかった……!

北澤 これはあれですか? 演技のときの声とはけっこう変える感じで歌ったんですか?

菱川 なんか、関係者上映会で完成映像を観たときに「麻衣ってシリアスなことを考えているときはちょっと低めの声になるんだな」と感じたので……演じたのは自分なんですけど(笑)。なので、この曲を歌うときはその要素があったらいいなと思って、ちょっと声色を変えましたね。

北澤 歌声としゃべり声って、みんなけっこう違うものじゃないですか。だからこそ、本当に麻衣が歌っているようなリアルさがあるなと思って。麻衣の切実な気持ちが声に詰まっている感じがして、めっちゃよかった。

菱川 うれしいですー!

北澤 歌うのは大変な曲だったと思うんですけど……。

菱川 いやいや、素敵な楽曲の力をお借りして臨めたので、感謝しかないです。

北澤 Dメロの「あの時失望されたことや」というパートで、私はけっこう2番の勢いそのままにガツガツとした感情的な歌い方をしているんですけど、菱川さんは全然違うアプローチをされていますよね。ちょっと落ち着いたトーンで歌ってらっしゃって、「あ、確かにそうやって歌うのもめっちゃ素敵だな」と思いました。それでいてサビとかの突き抜ける声も本当に素敵ですし、私が自分で歌うのとはまったく違うこの曲の魅力を引き出してくださっていて。

菱川 うれしい! ありがとうございます。北澤さんの歌われる「フラッシュバック」はロックバンド感と言いますか、声のかすれさせ具合などが私たち声優の歌唱とはまったく違う発声で、すごく印象的でした。「葬ったはずの痛みが」のところとか、私もこの感じを出せないものかと思ってけっこうマネしちゃったんですけど(笑)。

北澤 (笑)。

菱川 あとはやっぱりサビがもう! ガッと前に出ていく感じが、北澤さんのお声とも相まってすごく素敵で、何かがんばりたいことがあるときに聴きたい曲になりました。「私も同じくらいの熱量で行くぞー!」という気持ちになれると思うので、皆さんにもそういうときに聴いてもらえたらいいなと思います。

左から北澤ゆうほ(Q.I.S.)、菱川花菜。

左から北澤ゆうほ(Q.I.S.)、菱川花菜。

プロフィール

Q.I.S.(クイス)

the peggiesの北澤ゆうほによるソロプロジェクト。2023年8月発表の「TEDDY」を皮切りに、4カ月連続で配信シングルをリリース。2025年放送のテレビアニメ「Turkey!」で劇中キャラクターが歌うオープニングテーマ「ヒャクニチソウ」を手がけ、7月には同アニメの第4話のエンディングテーマ「フラッシュバック」を配信リリースした。

菱川花菜(ヒシカワヒナ)

東京都出身、ラクーンドッグ所属の声優。これまでに「デリシャスパーティ♡プリキュア」「さよならララ」「真・侍伝 YAIBA」「姫騎士は蛮族の嫁」「紫雲寺家の子供たち」「機動戦士Gundam GQuuuuuuX」などのアニメ作品に出演してきた。2025年放送のテレビアニメ「Turkey!」では、主人公・音無麻衣を演じている。