The Poguesのカバーで大編成ならではの魅力を表現
──4曲目の「Bring it on」は織田さん、関谷さん、伊藤さんの3人が作曲しています。
伊藤 去年のマイナビBLITZ赤坂でのライブでも新曲として披露していたんですが、さらによくしようと寝かせておいたら、そのまま死にそうになって(笑)。
関谷 それを墓から掘り起こして。
織田 ほかにも墓に埋まったままの曲はかなりあるんだけど(笑)。
竹内 もともと歌モノっぽい曲として作っていたんですけど、「For The Loser」ができあがるに従って「こっちは歌いらないかな」みたいな感じになったんです。
伊藤 よりシャウトの方向に特化させてね。
関谷 俺が持ってきた別の曲のサックスのフレーズを引用して。しかも歌詞は「かかってこい!(=Bring it on!)」と「Rock & Roll!!!」しか言ってないという(笑)。
──このサックスのリフはTRI4THの代表曲「Guns of Saxophone」に匹敵するインパクトで耳に残りますね。
伊藤 「藤田さん、吹くのしんどそうだけどこっちがいいよね」って話したよね。
藤田 もはや全身の筋肉が喜んでますよ(笑)。
──サックスからトランペットに行ってまたサックスに戻る、というつなぎによるカラフルな表情の付け方も、TRI4THの1つのカラーというか、大きな武器として確立されてきましたね。
藤田 苦労はしますが、自分たちらしさとして認知されるのは本当にうれしい。ライブでも盛り上がる曲になると思います。
──竹内さんの中盤のピアノはジェリー・リー・ルイスを彷彿とさせます。
伊藤 リファレンスはまさにジェリー・リー・ルイスでした。
竹内 コード進行がけっこうシンプルなので、テクニカルというよりはロケンローな印象のフレーズを重層的に弾きましたね。
──5曲目の「Fiesta」はThe Poguesのカバーですね。
伊藤 前作でも「Sing Along Tonight」でアイリッシュテイストを披露しましたが、僕らのルーツを改めて皆さんに提示した曲ですね。スカもそうですが、アイリッシュにも笛やらアコーディオンやら、たくさんの打楽器も酔いどれのコーラスもフィドルもいるような、大編成ならではのよさと酒場音楽みたいな面白さがあるじゃないですか。それをいかにこの5人だけで表現するかという挑戦にもなりました。
──ルーツだから当たり前なのかもしれませんが、TRI4THとケルトのメロディってとても相性がいいですね。
伊藤 うれしいです。前作から自分たちのルーツをたどって、今作でようやく花開かせることができた気がします。
──イントロの雰囲気も含めて、ちょっと井上堯之バンドの「傷だらけの天使」みたいな男臭さもあって。意外とこれまでのTRI4THになかったカラーのイントロでもあるし、このあたりのサウンドはまだまだ掘れる鉱脈があるのではないでしょうか。
伊藤 そうですね。実際、僕らも「傷天」の男臭さは好物なので(笑)。
途中で心が折れたら14回も直せなかった
──6曲目の「Moanin'」は、序盤は王道のアレンジと見せかけて、途中から「こう来る!?」というアプローチでカバーされています。
伊藤 序盤のいかにもジャズっぽい部分はある種の遊び(笑)。アート・ブレイキーに怒られそうだけど、ジャズになじみの薄いリスナーがジャズに入るきっかけになってくれたらと思ってチョイスしました。
織田 ジャズとスカを融合させるというよりは、オマージュ的にちょっとクスっと笑える感じを出せたらいいなと。エンジニアの渡辺省二郎さんがこのアイデアに付き合ってくれたおかげで、かなり面白く仕上がりました。
──7曲目の「Corridor in Blue」は竹内さん作曲ならではの美しいメロディですね。重奏的なアレンジも相まって、メロウな印象からじわじわと温度が上がっていくようなアレンジも印象的です。
竹内 バラードはTRI4THの切り口の1つとして、アルバムに必ず1曲は入れたくて。かなりシンプルなイメージから作り始めましたが、進めていくうちに、インストバンドらしい側面をテクニカルに描き出そうという方向を思い付いて。そこからアレンジを徐々に組み立てたので、そこが豊かな温度につながったのかもしれません。
──8曲目の「River Side」は織田さんの作曲ですが、リフの入り方がちょっとユニークなスカですね。
織田 これは“裏切り”をやってみたかったというか。TRI4THで初めてスカをやった「FULL DRIVE」(2016年発表のアルバム「Defying」収録曲)から4年を経て、ようやくこういう余裕のある楽しみ方もできるようになってきました。
伊藤 この曲でようやくTRI4THなりの“ジャズバンドがやるスカ”にたどり着けた気がします。スカという音楽はすごく特別なもので、単に裏を打てばスカになるわけじゃない。裏拍の長さやベースのニュアンスに尽きる音楽なんです。“スカっぽいもの”は世の中にいくらでもあるけど、僕はミュージシャンがやるからこそスカだと思うし、そこにプライドもある。特にドラムは、スカのリズムがちゃんと叩ける日本人って、実は少ないと思うんです。何より、スカを好きにならなきゃスカは演奏できない。誰でもできそうな音楽性だからこそ、強く魅力を感じて突き詰めないとうまくできない。そこをみんなで向き合って、好きになってハマっていけたからこそ「River Side」に到達できたという自負があります。
──9曲目の「Fineday」はすごくさわやかでポジティブな雰囲気ですね。
織田 主なメロディは僕の一筆描きです。テーマを立ててニーズに合わせた曲を作るのも好きなんですが、これは鼻歌のように自然と出てきた曲でした。
伊藤 イントロはルンバ調でちょっと外しつつも、中身はもろなスカらしさ。悩まずに仕上がりましたね。
──一方、14回も直したという10曲目の「Sailing day」は関谷さんと織田さんの曲です。
関谷 サビは自分が作って、そこからみんなでもみくちゃにして(笑)、Aメロを織ちゃんが作ってくれました。
竹内 サビのメロディが核になったんだけど、「もっとうまくアレンジしたいね」ということで10回目ぐらいで一旦寝かせて。
関谷 で、墓に入れて(笑)。
織田 緊急事態宣言とSTAY HOME期間を経て(笑)。
伊藤 その甲斐もあって、いい曲に生まれ変わりました。
関谷 途中で心が折れたら14回も直せなかった。毎回くじけずに持ってきた自分を褒めてあげたい(笑)。
伊藤 途中、ほとんど折れてたじゃん(笑)。でも最大の功労者は織田さんですよ。14回中10回ぐらいは織田さんが直してくれたんだから(笑)。多くの人たちのいろいろな新しい一歩にふさわしい曲に仕上がったと思うので、こういう時期だから、何かを新しく始めるようなシチュエーションで聴いてもらえたらうれしいです。
僕の中での正解は「ライブをすること」
──駆け足ながら全曲についてお話しいただきました。最後に、まだまだ不透明な世相ですが、改めて今後の活動についての気持ちを聞かせてください。
伊藤 誰もが経験したことのない毎日を過ごしています。もちろん、そこではもしかしたら「ライブをやらない」という選択が正解だという意見も理解しています。制約があるからこそ、今どんな行動をするのか、ミュージシャンそれぞれが問われている時期だとも思います。でも、こうして話している間にも大切な場所がどんどんなくなっていく。配信ライブをやらせてもらった下北沢GARDENも閉店という発表があり(参照:下北沢GARDENが10月で閉店)、ずっとお世話になっていた名古屋ブルーノートもなくなりました。今現在の僕の中での正解は「ライブをすること」。感染予防対策の徹底は大前提として、一歩ずつ、腹を決めて、そのときできることに全力を尽くしてやっていきたい。またライブハウスで会える日を楽しみにしています。
竹内 今回の自粛期間を経て、5人でひさびさにスタジオに集まったとき、写真を撮ってSNSに投稿したらすごく反響があって。多くは「5人が集まった姿に勇気がもらえた」というリアクションでした。自分の好きなバンドがなんらかの形で動いている姿って、僕も勇気付けられるし、それを見せ続けることってすごく大事なのだと学ばされました。このアルバムもその一端として届いてくれたらうれしいです。
藤田 ともかく音楽を届け続けられるようにがんばるしかない。ここでくじけじゃダメだと思うし。ライブをやるとお客さんから「すごく元気が出た」という声をもらえるし、音楽の力の見せどころは、むしろこれからなのかもしれない。くじけず作り続けて皆さんとつながっていけたらと思います。
関谷 当たり前じゃなくなったことに対する新しいアイデアがこれからの“当たり前”になるのかもしれない。そういう可能性を探していくのも、ジャズをフォーマットにしながらエンタテインしていくこのバンドの使命だと思っています。これからもアイデアを出し続けて、カッコいい音を出していきたいです。
織田 タイトル通り、1枚全体で1つの応援歌のようなアルバムになりました。最初に「動け!(「Move On」)」、最後に「出口(「EXIT」)」という曲を置いたのも、このアルバムが1人でも多くの皆さんの希望になって欲しいという願いでした。今できること、やるべきことを、5人で1つずつ、丁寧にお届けしていこうと思います。