TRI4THがニューアルバム「Turn On The Light」を10月7日にリリースした。
メジャー3枚目となる本作には、ゲストとしてKEMURI HORNSやSANABAGUN.の岩間俊樹が参加。スカ、ヒップホップ、ポップス、アイリッシュサウンドなどさまざまな要素が独自のアレンジで昇華され、TRI4THがメジャーデビューから標榜してきた「踊れるジャズ」「叫べるジャズ」が1つの完成形を迎えた。音楽ナタリーではメンバー全員にインタビューを行い、楽曲の制作秘話はもちろん、コロナ禍を挟んで完成した本作に込めたメッセージ、ライブにかける思いを聞いた。
取材・文 / 内田正樹 撮影 / 入江達也
“耳に残るメロディ”と“歌モノ”の追求
──TRI4THは7月26日に初の無観客ライブ「Turn On The LIVE vol.1」を配信し、9月1日にはブルーノート東京で「Turn On The LIVE vol.2」を開催しました。「vol.2」は人数を制限した観覧と配信のハイブリッドでしたが、約半年ぶりの有観客ライブはいかがでしたか?
伊藤隆郎(Dr) ソーシャルディスタンスの確保やオーディエンスの方のマスク着用、歓声の制限といったもどかしさはありましたが、皆さんの前で演奏できることがこんなにも特別だったこと、これまで俺らがお客さんから力を与えてもらっていたことを思い知らされました。今は逆境だけど、大切なものをもう一度思い出し、それを取り返していくためにすべきことが明確になったいい1日でしたね。
竹内大輔(Piano) このコロナ禍にどうすればTRI4THらしいライブができるのか、考えることがたくさんありました。静かめのライブにするという選択肢もあったんですが、それは後退のような気がした。そこで歓声の代わりに掲げてもらえる「ぶちかませ」と書かれたクリアファイルのグッズを作ったり、手探りの部分も大きいけど、僕らから「こういうライブです」と伝えていこうと努力しました。
藤田淳之介(Sax) こんなに何カ月も人前で演奏しないのは、中学のときにサックスを始めて以来、初めての経験でした。演奏できないことがこんなにもストレスになるなんて知らなかった。自分の演奏で目の前の人が笑顔になってくれたり、興奮してくれたり、癒されたりしてくれる表情を見て「ああやっぱり俺はこれが好きなんだ」と実感したし、どんな困難な状況でも音楽を届け続けたいと思いました。
関谷友貴(B) 僕もこんなに長い期間演奏できない経験は初めてだったので、半年分のパワーが爆発しました。ライブハウスで音を届けるときって、ベースやバスドラムの振動が大きな要素になる。でも、そこはどうしても配信のお客さんに届けづらい。生と配信、両方のお客さんにどう最高の音を届けられるのかは模索中ですが、パフォーマンスはこれからさらによくなっていくと思います。
織田祐亮(Tp) “ジャズバンド”と標榜している僕らにとって、ブルーノート東京のライブは特別なこと。しかもこうした状況下で声をかけていただけたのは本当に光栄でした。来てくださったお客さんもブルーノート東京さんも万全の体制で臨んでくださいましたが、もちろん、不安な気持ちも拭えなかったと思います。でも、さっきのクリアファイル然り、逆境をポジティブに捉え、ユーモアに変えて届けることって、どんなときも大事なことだなって。それを改めて学ばせてもらいました。
──今回の「Turn On The Light」の制作はいつ頃から始まったのでしょうか?
伊藤 曲は昨年のツアーの最中から作っていて、レコーディングを始めたのが今年の3月でしたね。でも新型コロナウイルスの流行による緊急事態宣言で、一旦作業を中断せざるを得なくなった。そこからはリモートで曲のアイデアを出し合いました。今まで長いことバンドをやっていますけど、必然的に考える時間も増えたし、結果的にはこれまでで最もじっくりと制作期間を持てました。何度もディスカッションして、アイデアもとことん詰めて、時間を置いたクリアな判断でプリプロダクションをして、アルバムに通底するストーリーを構築できました。こういう時期だからこそ、勢いだけではなくより俯瞰の視点で自分たちの楽曲を捉えることができましたね。
──ちなみに今作で最も時間をかけた曲は?
伊藤 「Sailing day」ですね。
織田 ふふふふふ(笑)。
──なんだか織田さんがすげえ笑っているんですけど。
伊藤 確か14回ぐらいやり直したんだよね?(笑)
関谷 原曲は僕が書いたんですけど、最初はもっとごちゃごちゃしていて、コードもいっぱい使っていたんです。でも最終的には5つまで絞られて。4小節のループのリズムもグルーヴやホーンのラインも、メロディがちょっとずつ変わっていった。土台は一緒だけど色彩がどんどん変わっていくという新しい試みになって。
伊藤 メジャーデビュー以降のTRI4THは、常にどの曲もしっかりと“耳に残るメロディ”を意識してきて。そうすることで、技巧や勢いに走らずともジャズのよさを生かしつつ、ポップスのフィールドの概念とか、ジャズになじみのないリスナーの耳にもスッと届くような心地よさやポップさ、キャッチーさを追求してきた。今回は全体を通して、よりメロディの立つ曲がそろったし、自分たちが思う歌モノの理想も追求することができましたね。
──リリックのある歌モノについては前作「jack-in-the-box」から収録してきましたが、今作ではさらに全体における割合が増していますね。
伊藤 インストバンドの概念をさらに超えていけるよう、シンガロングできる要素を意識して増やした部分もありましたが、ほとんど自然な成り行きだった。気付いたらこれだけの曲が出そろっていたという感じです。
曲の引き立て方も、吹いていないときの存在感もすごいKEMURI HORNS
──では、ここからは各曲について聞かせてください。1曲目の「Move On」は最後の11曲目「EXIT」とループする構造ですね。
伊藤 最初にあったのは「EXIT」のほう。前作の「jack-in-the-box」でも「Sing Along Tonight」と「Wake Up」をつなげていたように、僕らの1つのスタイルみたいなもので。「Move On」は今まで作ってきた曲に近いビート感の曲ですけど、織ちゃん(織田)が作った印象的なフレーズをもとに、激しいジャズだけどポップに聴こえるような尺を全員で共有しながら、いきなりスタジオでセッションするようなノリで作りました。
──終盤、伊藤さんが鬼のようなフレーズを叩いていますね。
伊藤 ボッコボコですね(笑)。こういうフリーキーなプレイもメロディがしっかりしているからこそ成立させられるし、ジャズの1つの面白さが伝わる気がして。2曲目につながっていくだけでなく、アルバム全体へとつながるファンファーレみたいに聴こえたらいいなと。
──その2曲目「For The Loser」はKEMURI HORNSをフィーチャーしたナンバーですが、改めて両者の関係性を教えてください。
伊藤 トロンボーンの増井(朗人)さん、僕、東京スカパラダイスオーケストラの冷牟田(竜之)さんでTHE MANというバンドを一緒にやっていて。僕は増井さんからスカを教えてもらった部分が大きい。増井さんがやっているCodex Barbèsというスカバンドと一緒にツーマンツアーをやったこともあるし、HEY-SMITHとスカパラが開催した「SKAramble Japan」というフェスに僕らもKEMURIも出ていました。この曲が形になってきたとき、「KEMURI HORNSに音を入れてもらったら派手になるよね」という話になって。それこそ僕らはKEMURI世代だし、関谷くんが初めてコピーしたバンドもKEMURIなんだよね?
関谷 コピーしまくっていました。共演できたのは夢のようで。織ちゃんが書いたBメロのホーンラインも、TRI4THが吹いたらTRI4THっぽくなるんだけど、KEMURI HORNSが吹いたらKEMURIのサウンドになるから驚きました。
藤田 曲の引き立て方も、吹いていないときの存在感もすごい。
竹内 ピアノが前に出る機会もけっこうある曲ですが、ホーンのフレーズが決まることで、歌の勢いが徐々にポップスライクに仕上がっていった。いい意味でジャズっぽくない自分たちを見せられたというか。
伊藤 やっぱりKEMURI HORNSは歌モノにおけるホーンセクションのあり方を熟知していた。歌に寄り添ってくれる一方、歌のしゃくり上がるポイントに合わせてニュアンスを変えてくれる場面もあって。僕らも成長することができたし、TRI4THからの応援歌として皆さんに届いたらうれしいですね。
TRI4THのアイデンティティを岩間俊樹が代弁
──3曲目「The Light」でSANABAGUN.の岩間俊樹さんとコラボした経緯も教えてください。
伊藤 メジャー3作目ということで、ある意味、今作は3部作的な集大成にしたかった。そこで、今までトライしなかったこともやろうと考える中で、ボーカリストを迎えてみようという話になって。スタッフチームと相談したら、最初に挙がったのがSANABAGUN.だったんです。彼らとは親交はなかったんですが、もちろん存在は知っていたし、音楽からもルーツにジャズが感じられたので、知れば知るほどどんどん興味が深まって。彼ら、粋でカッコいいじゃないですか。今の時代においてはロックよりも不良な音楽なんじゃないかなと思わせてくれるほど尖っているし、「成り上がるぜ」という姿勢も共感できる。
──リリックはTRI4THのアイデンティティを岩間さんが独自のボキャブラリーで代弁してくれた感じですね。
伊藤 ものすごく細かく僕らにヒアリングをしてくれました。TRI4THは来年で結成15年を迎えるんですが、ある意味そこに向かっていくためのスタートの曲だと思っています。
──アルバムタイトルの「Turn On The Light」は、この曲を元に決まったものですか?
伊藤 はい。コロナ禍という状況下で作ったアルバムだし、皆さんがポジティブになれるようなタイトルがいいなと思って。
──「The Light」のミュージックビデオは電車の車両内や車庫が舞台となっていますが、これはセットを組んで撮影したんでしょうか?
伊藤 本物の車両や車庫を借りて撮りました。
竹内 新京成電鉄ね。
伊藤 ここを触れだすと竹内の鉄ちゃん話が止まらなくなる(笑)。本当は車掌の役もやりたかったんだよね?
竹内 岩間さんにすごく嫉妬しました(笑)。
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