フルート奏者・SUAIインタビュー|ファンクを味方に付けた1stアルバム「Funky Kitty Cat」を語る

多彩な活動を行う“ポップフルート奏者”SUAI(スアイ)が、9月25日に1stアルバム「Funky Kitty Cat」をリリースした。

クラシックコンサートで見かける従来のフルート演奏の殻を破り、聴いて楽しい、観て楽しい、一緒に参加して楽しいパフォーマンスを目指しているというSUAI。ライブではミニドレス姿で軽やかにダンスをしながら演奏し、オーディエンスを魅了している。

そんなSUAIが今回、音楽プロデューサーのシライシ紗トリとタッグを組み、初のソロアルバムを完成させた。シライシの薦めでファンクミュージックと出会ったという彼女だが、聴きながら思わず踊ってしまうほど「とても性に合っていた」と話す。ジャズファンクを軸にした表題曲のほかアシッドジャズやラテンなどバラエティ豊かな楽曲が詰まった今作について、どのような感想を抱いているのか、同席したシライシを交えてSUAIにインタビューを行った。

取材・文 / 宮内健撮影 / はぎひさこ

始まりは「ミルモでポン!」

──SUAIさんが、フルートという楽器と出会ったきっかけは?

SUAI 小学生の頃なんですが、「わがまま☆フェアリー ミルモでポン!」(テレビ東京系で放送)というアニメ番組があったんです。そのアニメのキャラクターに沙織ちゃんという天才フルート奏者がいて。その子を見て「この楽器やってみたい!」と思ったのがきっかけで、10歳からフルートを習い始めました。

SUAI

──学校のクラブ活動などではなく、アニメがきっかけだったんですね。

SUAI そうなんです。でも、最近になってアニメを観返してみたら、沙織ちゃんが吹いていたフルートの音が、生の音色ではなくて機械の音だったんですよ(笑)。それでも当時はすごくかわいらしくて、雰囲気がよくて。たぶん「この楽器をやったら、かわいい女の子になれるのかな?」みたいな感じで始めたんだと思います。

──10歳からフルートを習い始めて、わりとスムーズに習得できましたか?

SUAI いやあ……もう、今でも難しいです! 毎日が勉強という感じなんですけど、特に小さい頃はなかなかうまく吹けなくて、音を出すのも大変でした。子供にとってはフルートって重くて、長時間持つだけでもつらいんです。イライラして、「もうやりたくない!」と投げ出したことは何度もありました。それでも中学1年生頃には、「私はこれで生きていく」と決めていて。根拠はまったくなかったけれど、そういうものだという考えが自分の中でありました。それで音楽の学校に進学したんです。

──東京音楽大学付属高等学校に入学し、その後、東京音楽大学に進んで器楽学科でフルートを専攻されたんですね。ちなみにSUAIさんご自身がリスナーとして聴いてきた音楽の遍歴はどんな感じなんでしょう?

SUAI 高校生の頃はちょっとギャルだったので、ルーズソックスを履いて、スカートをすっごく短くして、お化粧もバッチリして学校へ通ってたんですけど……そういう見た目でベートーヴェンを聴いてました(笑)。

SUAI

──ギャップがすごい(笑)。

SUAI クラシックはすごく好きで、今でもよく聴いてます。洋楽もよく聴いていて、Coldplayやエド・シーラン、アヴィーチーあたりがすごく好きで、コンサートにも行っています! ほかにもいろいろな音楽を幅広く聴きますけど、自分のルーティーンがあって。朝はチル系を聴いて、昼はクラシック、夕方は洋楽、夜はジャズという感じで、1日の中で聴く音楽を決めていることが多いですね。

──その聴き方はちょっと独特ですね。SUAIさんは大学卒業後にプロの道へと進んだわけですが、ステージに立って演奏することの楽しさに気付いたのは、どんなところから?

SUAI 高校から大学とクラシックを勉強してきて、学生時代から演奏活動はしていましたが、卒業してから、ちょっとポップなフィールドでフルート奏者として活動するようになったんです。そこですごく楽しかったのが、コール&レスポンス。クラシックのフルート演奏だと普通はないのですが、コール&レスポンスを取り入れて、その場にいる皆さんと一緒に楽しい場を共有する体験がすごく新鮮で。やっぱり日本だとフルートの演奏を聴くのって、ちょっと敷居が高いイメージがあると思うんです。

──オーケストラのコンサートに行く方も一般的に多くはないでしょうから、フルートの音色に触れる機会は少ないかもしれないですね。

SUAI だから、そのイメージの殻をちょっと破って、フルートの音色の美しさや素敵なところを、この先も皆さんに伝えられたらなって思っています。例えば、私が演奏するうえで意識しているのは、聴いて楽しいというだけじゃなく、観て楽しい、一緒に参加して楽しいということ。それは常に心がけています。だから、やっぱりかわいい衣装を着て、皆さんにも「わあ、かわいい!」と喜んでもらいたいし、ダンスをしながら演奏したりもします。そこを入口にして「フルートってノレる!」という感じで、トータルで楽しいものを作っていきたいと考えているんです。

SUAI

ファンクでフェスに出たい!

──このたびリリースされる1stアルバム「Funky Kitty Cat」は、まさにSUAIさんが目指そうとしているスタイルが詰まった作品に仕上がっていると思います。今回ファンクを主軸にしたサウンドとなったのは、どんないきさつがあったんでしょうか?

SUAI ファンクはこれまで通っていなかったジャンルで、プロデューサーのシライシ紗トリさんと話している中で教えてもらったんです。「こんな音楽があるんだ! 楽しい!」って大好きになっちゃって。ライブでやったら絶対楽しい!と思ったし、このサウンドでフェスに出たいという目標もできたんです。フルート奏者がソロでフェスに出演することって、あまり多くはないと思うし。

──このインタビューにはプロデューサーのシライシ紗トリさんも同席されているので、ぜひお話を伺わせてください。SUAIさんにファンクというサウンドを当てたのは、どんな発想からだったのでしょう?

シライシ紗トリ 僕らの世代だと、アシッドジャズのムーブメントに影響を受けたり、ジャズやファンクをクラブミュージックの文脈から聴いていて。その中でも1970年代のジャズには、ボビー・ハンフリーやジェレミー・スタイグ、ヒューバート・ロウズといった名フルート奏者がいたんです。だからファンクやジャズにフルートの音色が入るというのは、ある意味普通の感覚なんですよね。そんな中で彼女は、演奏はもちろんパフォーマンスもしっかりやりたいという意識もあったし、実際のキャラクターとしてもノリノリなところもある。彼女の好きなものが、とってもファンクに近い場所にいるんじゃないかって考えたんです。試しにプリプロしてみたら、思いのほかハジけたという(笑)。

──シライシさんは、SUAIさんが2023年に発表した楽曲「Polka dot」や「CIRCUS」のプロデュースも担当されていますよね。

シライシ はい。それこそ「CIRCUS」のように、彼女がもともと持っているクラシック音楽の軸はそのまま育てていけばいいと思うんですけど、さらに新機軸を打ち出したいと考えたときに、潜在能力としてすでにファンクがあるじゃん!と。そこから今回の方向性を決めていきました。

──確かにファンクのように跳ねた音楽は、潜在的な要素がないとなかなかノリ切れない部分もあると思うんです。だけど「Funky Kitty Cat」を聴くと、ファンクのビートとフルートの演奏がすごく自然にフィットしているし、なおかつSUAIさんらしいエレガントさもちゃんと生かされていて。アルバムを1枚通して楽しく聴かせてもらいました。

SUAI ありがとうございます!

──SUAIさんご自身は、ファンクサウンドに乗せてフルートを吹いてみていかがでしたか?

SUAI 最高に楽しいですね。自分の楽曲なんですけど、「Funky Kitty Cat」を家で聴いていると、つい1人で踊っちゃうんです(笑)。今まで触れる機会はなかったけど、ファンクはとても性に合っていたんだと思います。