TOMOOインタビュー|新曲「エンドレス」で向き合った“2つの問い” (2/2)

自分が考え続けていたことを歌ってもいいのかも

──楽曲について「長らく自分の中にあった問いと、今回ドラマに出会ったことで、あらためて向き合うことができ、形になっていきました」とコメントされていましたよね。その問いとは、どのようなものでしょう?

「自分以外の人のことを自分以上に思えたら、人は幸せなんじゃないか」「物事が完結しないこと、答えが出ないことは必ずしも悲しいことではないんじゃないか」という2つの問いです。その2つは自分にとっての“I wonder”で、中学生の頃からずっと考えていたんですよ。愛おしく思う存在が生まれると、それに付随して自分から願いや欲望が湧いてくるじゃないですか。「この人との関係性が自分の願い通りに進んでほしい」というような。人間なので、そういう気持ちが湧いてこないようにするのは絶対に無理。それなのに願いや欲望を前面に出してはいけないなんて、愛することって難しいなと思ったんです。それに、もしも自分と大事な人が願い通りの形になれたとしてもそこがゴールではないし、今この瞬間の願いが叶うことが、自分や相手にとっていいことかどうかもわからない。だったら「相手の幸せ=自分の幸せ」と思えたら一番いいんだろうなと思いつつ、「そんなこと言ってもきれいごとになっちゃうよね」という気持ちもあって……みたいなことをずっと考えていて。

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──TOMOOさんの考える愛の形を真正面から表現した曲だと感じました。アレンジもピアノ弾き語りを主体とした、非常にシンプルなものです。

「愛とは」と正面から表明する資格など自分にはないと思いつつも、やっぱりそういうことを歌いたいと思っているんですよね。例えば年明けにリリースした「Present」も、矢印が自分ではなく相手に向くことについて歌った曲ですし。「プレゼントなんてね」と言いつつ、最後には「愛なんて」と言っている。

──そうですね。

言葉が強くなってしまいますが、「相手の幸せ=自分の幸せ」という考え方はある意味禁欲的じゃないですか。自分はいろいろないきさつがあってそう思うようになっていったけど、普段の生活で人が置かれている状況や、実際の人間模様を踏まえると、「自分に素直に、願いに即して行動して生きたほうがいいんじゃない?」という考え方のほうがマジョリティなのかなと。それで「愛を歌ってもあんまり共感を呼ばないだろう」「だったら、あえて歌にする必要はないかもしれない」と長いこと思っていたんですけど、今回書き下ろしのお話をいただいたことで「一度形にしてみようかな」と思い始めて。ドラマの中にも「自分の願いよりも、相手の幸せを」みたいな瞬間がけっこうあるんですよね。「もしかしたらこのドラマを受けてだったら、自分が考え続けていたことを歌ってもいいのかも」と思えたので、この曲を書くに至りました。

──「全領域異常解決室」は、「不可解な異常事件を解決する」というストーリーに沿って、生身の人間の愛の物語を描いているドラマですからね。しかも愛を無垢で整ったものとして扱っていない。過剰な献身が描かれていた回もありました。

私怨などのドロドロとした感情、地を這うような葛藤も描かれているけど、俗世間よりも高次の、空から見ているような視点が感じられるドラマだと思うんです。そこに私自身共感したところもあって。私も自分の人生を通して、誰かとの摩擦や孤独、いろいろなことを経験してきました。そうやって地上で埋もれている感覚と、そんな自分自身や他の人たちのことを空から見ている感覚、両方を行き来している気がしていて。どちらかにどっぷり浸かっているわけではなく、曖昧なところに立っていて、両方を見ているような。

──地上で埋もれている感覚を歌った曲といえば、例えば2016年リリースの「I hope」(1stミニアルバム「Wanna V」収録曲)がそうでしょうか。「愛されたいよ だけど それじゃだめなんだ 僕が君にほんとに望んでることじゃないから 離さないで 君の優しいあの人を 目も当てられないほど 幸せを見せつけてほしいよ」と主人公が葛藤を吐き出しているような曲でした。

そうですね。「I hope」はサビの最初で「愛されたいよ」と言っているけど、その先が味噌なので、もしかしたら書いているときの心境は今とあんまり変わらないのかも。この曲の主人公も「自分以外の人のことを自分以上に思えたら、人は幸せなんじゃないか」とどこかで気付いているので。

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世界が話を聞きたがっている

──一方「エンドレス」では、「愛しさの陰に隠れた痛みと我儘を 全部飲み込んでも まだ優しい気持ちになれる」と歌っています。人間臭い葛藤などを全部踏まえたうえで1つの境地に達しているというか、まさに人々の営みを空から見ているような曲だなと。

今までは空から見るような視点で歌ったところで、「ん? どうした?」と思われてしまうんじゃないかと危惧していたんですよ。だけどさっき言ったように、「全領域異常解決室」は空から人間を見ているようなドラマだった。このドラマに携わっている人たちは「きっと誰かに届くはず」と思いながら作っているだろうから、そう考えたら、私が本当は歌いたかったことに目を向けている人、耳を傾けてくれる人もいるかもと思えたんです。ドラマとの出会いによって、「受け取ってもらえるかもしれない」という予感や希望が以前よりもさらに増したというか。

──先ほどおっしゃっていた「そんなこと言ってもきれいごとになっちゃうよね」という気持ちとは、どう折り合いをつけたんですか?

私の感覚では、世界が話を聞きたがっている気がするんです。いつの時代も人間は「結局は自分でしょ」「きれいごとはいいから、自分のやりたいようにやろう」という気持ちと「いや、助け合おう」「手を取り合えば世界平和を目指せるはず」という気持ちの両方を持っていると思っていて。そういう気持ちが積み重なって、ミルフィーユ状になって、時代や歴史が生まれていく。「歴史は繰り返す」と言いますけど、私は時間って積み重なっていくものだと思うし、記録が残り、人々の記憶がつながっている限り、同じところに留まっているように見えても実は止まっているわけではないと思っています。砂利や泥の層を通過した水って、濾過されて純度が高くなるじゃないですか。同じように、ここまで積み重なってきた人々の思想や願いを踏まえたうえでの愛の話を世界が聞きたがっている気がする。手垢の付いていないきれいなものの話ではなく、本当にきれいなものの話を。

──なるほど。

だからラブソングって大昔からあるんじゃないか、と思ったりもします。今回はドラマにきっかけをいただきつつ、自分がずっと考えていたことの“チリツモ”が「エンドレス」という曲になりました。だけど、一旦形にしたからといって「答えがわかった」「すべてを知りきった」とはまったく思っていなくて。一時的に知った気になったとしてもすべてを理解するなんてまず不可能だし、今は信じているものがあってものちのち疑問が湧くことだってある。ドラマでも言っているじゃないですか。「すべてを知ろうとするなんて人間の傲慢です」って。あのセリフにもシンパシーを感じたんですよね。歌詞にある「描きかけの絵」「塗られない色」という言葉は、“現在”を1人の人間の人生=最大100年のスパンで捉えるのではなく、もっと長期的な目線で捉えるドラマのマインドに影響を受けながら出てきた言葉でした。私の心の中にたまった腐葉土みたいなものを、これからも音楽として形にしていきたいです。

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公演情報

TOMOO one-man live "Anchor" at PACIFICO YOKOHAMA

  • 2024年12月13日(金)神奈川県 パシフィコ横浜 国立大ホール

プロフィール

TOMOO(トモオ)

1995年生まれ、東京都出身のシンガーソングライター。6歳の頃にピアノを弾き始め、高校時代にYAMAHA主催のコンテスト「The 6th Music Revolution」ジャパンファイナルに進出した。大学進学後に本格的に音楽活動をスタートさせ、2016年8月に1stミニアルバム「Wanna V」を発表。2021年8月に発表したシングル「Ginger」がさまざまなアーティストから注目された。2022年8月にポニーキャニオン内のIRORI Recordsより配信シングル「オセロ」でメジャーデビューし、2023年9月にメジャー1stアルバム「TWO MOON」を発表した。2024年10月にドラマ「全領域異常解決室」のエンディングテーマ「エンドレス」をリリース。12月には神奈川・パシフィコ横浜 国立大ホールにてワンマンライブを行う。