TOMOO「TWO MOON」特集|進化と変化を詰め込んだ初のフルアルバム完成

TOMOOがキャリア初となるフルアルバム「TWO MOON」をリリースした。

「TWO MOON」には、インディーズ時代の楽曲「HONEY BOY」「Ginger」「酔ひもせす」や、昨年8月にIRORI Recordsからリリースされたメジャーデビュー曲「オセロ」、すでにライブでは披露されファンから音源化が望まれていた未発表曲など全13曲を収録。2020年8月リリースのミニアルバム「TOPAZ」を経て、そこからの約3年の軌跡の中で育まれたシンガーソングライターとしての進化を感じさせる1枚となっている。

音楽ナタリーは、充実の仕上がりとなった本作についてTOMOOにインタビュー。印象的なアルバムタイトル「TWO MOON」の由来や、各収録曲の制作エピソード、11月にスタートする全国ツアー「TOMOO LIVE TOUR 2023-2024 "TWO MOON"」への思いをじっくりと聞いた。

取材・文 / もりひでゆき撮影 / kokoroヘアメイク / Chika Uenoスタイリング / Minoru Sugahara

お待たせしました!

──TOMOOさんにとってキャリア初となるフルアルバム「TWO MOON」が完成しました。アルバムをリリースできることに対する感慨みたいなものはありますか?

もちろんあります。音楽は曲単体で聴くのと、アルバムとして1つにまとまった形で聴くのとでは意味合いが違ってくると思うんですよ。自分としては、曲ごとに次々と新しいドアを開けて違った景色が楽しめる、アルバムならではの奥行きにすごくワクワクするんです。しかもCDで出せば、紙の歌詞カードを見ながら音楽を聴く楽しみもありますしね。なので、フィジカルでアルバムを出せることはすごくうれしいし、「やっとだ!」という思いが強いかな。ファンの方に「いつアルバムが出るんですか?」って何年も言われ続けていたので、「お待たせしました!」という感じです。

TOMOO

──ジャケットもかなり面白いデザインになってますね。

「TWO MOON」というタイトルから浮かんだイメージやアイデアを、デザイナーの佐藤奈穂子(yot)さんにお伝えして。何度かやりとりしたうえで、最終的にあのインパクトの強いアートワークになりました。いわゆる顔ジャケではあるけど、あえて私の顔じゃないっていう(笑)。

「TWO MOON」ジャケット

「TWO MOON」ジャケット

「TWO MOON」に込めた思い

──「TWO MOON」というタイトルはどんな発想から思い浮かんだんでしょうか?

収録されている13曲は、これまでにシングルとしてリリースしてきたものと最新の書き下ろし曲、ライブではすでに披露していた曲がミックスされているので、それらの楽曲をパッと眺めたときにけっこうバラバラな印象があったんです。そこで各曲の共通項を探してみたところ、それぞれシチュエーションやテーマは違うんだけど、どの曲にも本当のこと、真実を見ようとしている心持ちが含まれているような気がして。でも、「TRUE」というタイトルだとあまりに直接的すぎるから、ちょっとひねってみたというか。振り返れば、ここ1年くらい私は相反することを同居させたい気持ちが強くなっている気がするんです。

TOMOO

──なるほど。メジャーデビュー曲「オセロ」もそういったことがテーマになっていましたもんね。

そうそう。物事を突き詰めていくと、単純に二者択一では割り切れないことって多いじゃないですか。そんなことを考えていたときに、ときとして願いの象徴みたいなイメージを持たれる月という存在に、そのニュアンスを託してみようと思ったんですね。実際、月は1つしかないんだけど、あえてそれを2つにすることで、「真実が2つある。願いが2つある」というイメージを表現できるんじゃないかなって。もう1つ付け加えるなら、最近“丸”に興味があって、その要素も月を連想させたのかも。

──アルバムのリード曲となる「Super Ball」も“丸”がテーマになっていますね。

はい。自分の名前にも“O”がいっぱい入ってるし(笑)。私は多角形の果てが丸だと思っているんです。そう考えると自分の中には絞り切れない物事のいろんな真実が角のようにいくつもあって、その状態は丸に近付いているってことでもあるのかなと思うんです。同時に、どっしりと安定した四角とは違って、自由に動きうる丸い形状にはいろんな可能性や強さがある気がする。「TWO MOON」というタイトルにはそんな思いも込めているんです。

TOMOO

──なかなか深い意味が込められているんですね。

でも、本当のことを言うと「Grapefruit Moon」を録ったスタジオにあった黒いスピーカーに、白くて丸いウーファーが付いていて。それを見たときに「あ、2つの月に見える!」と思ったことが大本のきっかけなんですけどね(笑)。そこから連想して、あとからいろんな意味付けをしたところもあります。

経験の中で自然と手にした変化

──アルバムには2020年8月リリースの3rdミニアルバム「TOPAZ」以降に発表された配信シングル曲がたっぷり収録されています。これらの楽曲について改めて振り返ると、どんな思いが浮かびますか?

一番古いのは「HONEY BOY」(2021年3月リリース)で、あの曲はボーカルを自宅で録ったんですよ。すごく華やかな曲だけど、歌は押入れで録ったという(笑)。そう考えると、今に至るまでの変化はかなり大きいですね。過去曲を聴いていると、レコーディング環境はもちろん、自分の技術面での変化もすごく感じます。「HONEY BOY」は当時の自分にとってはかなりチャレンジングな曲だったんですよ。で、最新の似たようなテンションの曲が「Super Ball」になるんですけど、その2曲を聴き比べると、歌い方の吹っ切れ具合がかなり変わったように思います。自分の歌声から感じる自信のニュアンスもだいぶ違っている気がする。もちろん当時の曲には今とは違った純真さがあって、それもいいなって思うんですけど。

──そういった変化は、活動を重ねる中で自然と生まれていったものなんですかね?

そうですね。管楽器がワーッと鳴って、ビートが前に出ている「HONEY BOY」のような曲って、当時はまったくやったことがなかったんですよ。ライブに関してもバンドで表現する機会がほとんどなかったですし、レコーディングでは本当に借りてきた猫状態だったというか(笑)。でも、活動を重ねることで、バンド編成でのライブや、ハンドマイクでのパフォーマンスをする機会がどんどん増えていって。そういう中で自然と感覚をつかんでいったところが大きいと思います。もちろん豪華なサウンドの中で躍動感のある歌を歌いたいという欲求はずっとあったけど、そのために意識的に何か努力をしたというより、経験の中で自然と手にした変化だったように感じます。

──今ではホーンが鳴ったリッチなサウンドの上で弾けた歌声を響かせる姿は、TOMOOさんの大きな魅力の1つになっていますよね。

ありがとうございます。ライブのスタイルの1つとして最近は定着してきた感じがあるので、それはすごくうれしいです。

TOMOOの歌声を確立できた「Ginger」

──TOMOOさんの存在が世間に広く知られるきっかけとなり、さまざまなアーティストからも高い評価を受けた「Ginger」(2021年8月リリース)や、メジャーデビュー曲「オセロ」に関しては?

今「Ginger」を聴くと、「ああ、のびのび歌ってるなあ」って思います(笑)。あの曲は今回のアルバムに入っているほかのバンド曲と比べて、必要最低限のサウンドになっていて。アレンジもミュージシャンの方々と「せーのっ!」で録ったものなので、だからこそ楽器も声も伸び伸びしている。でも、私らしい歌声を確立できて、表現的に1つ開けたきっかけになったのも「Ginger」だった気がしますね。そこで得たものは今もずっと大切にしています。

──「オセロ」はどうですか?

「オセロ」は楽曲うんぬんの前に「よし、ここから行くぞ!」と気合いを入れてくれていた周囲のスタッフのことや、リリースしたタイミングの夏のいろんな思い出が最初に思い浮かぶかな(笑)。いろんな方のおかげで、さまざまな場所でたくさん曲を流してもらえたのもうれしかったですね。

──メジャー1発目ながらも変に気負うことなく、それまでに培ってきた個性を大切にしながら、あのタイミングで最高の楽曲を手札として切ってきた印象がすごくあったんですよね。そういう意味では文句ナシのデビュー曲だったと思います。

リリースから1年経ったことで、自分としてもようやくデビュー曲として実感できるようになったのかもしれない。TOMOOのメジャーデビュー曲として、今はすごくしっくり来ている感覚が確かにありますね。

次のページ »
“丸”の持つ強さ