ナタリー PowerPush - 冨田ラボ×さかいゆう
高純度ポップを生む2人の気まま音楽談義
さかいゆうと冨田ラボ。豊富な音楽知識を備え、才能あふれるポップクリエイターである2人の新作が、このたび同じ日にリリースされる。さかいの作品は、三菱自動車「eKワゴン」のCMソングとして話題のナンバーや、秦 基博とのコラボ曲などを収めたシングル「薔薇とローズ」。一方冨田ラボは、原 由子、横山剣、椎名林檎、そしてさかいゆうをボーカルに迎えたアルバム「Joyous」を発表する。
ナタリーでは、この機会に両者の対談を実施した。話題は出会いから、互いの音楽、今回の新作、架空の新プロジェクト考案まで。笑いを交えながら思いのままに語り合ったテキストを楽しんでほしい。
取材・文 / 鳴田麻未 撮影 / 佐藤類
CDの枚数を見て「この人はタダ者じゃないな」と
──お2人の出会いは?
冨田 最初に、2009年の大阪のライブイベントで会ったんだよね。軽い打ち上げというか、顔合わせみたいなときに。
さかい ああ、そうですね。僕は冨田さんのアルバムも持ってるし大ファンだったから、どんな方なんだろうってちょっとドキドキしてたんですけど。やっぱり才能あるミュージシャンの人としゃべるのって緊張するから。自分の好きな人にはできたら好かれたいし(笑)。で、話してみたら……。
冨田 「ハービー・ハンコックの『Good Question』はトニー・ウィリアムスとジャコ・パストリアスのプレイが合ってない。でも途中から合う」とか……そういう話を(笑)。
──もういきなり濃厚な音楽談義になったわけですね(笑)。
さかい 話してて、本当にマニアックなところから超ポップなところまで全部好きな方なんだなと思って。その後、家にお邪魔させていただいたときにCDの枚数とか見て「この人はタダ者じゃないな」と思いました。
──冨田さんのお宅にはどのくらいCDがあるんですか?
さかい えー、1万枚ぐらいあるんじゃないですか? 冨田さん。
冨田 うーんと、たぶん9400枚ぐらいだと思う。今は、それを並べて探すっていう行為に疲れたので全部リッピングしてコンピュータに入れて、そっちを使ってますね。
さかい 僕も1000枚か2000枚だけど驚かれる枚数なんですよ。そこまでいくともう図書館みたいな(笑)。
“ベースプレイヤー”冨田恵一の魅力
──さかいさんから見て、冨田さんはどんな人ですか?
さかい ジェントルだけど、ぶっ飛んだ変態っぽいところもあるし、いろんな知識を持ってるからすっごい面白い。それは冨田さんのベースプレイに表れてると思うんですよね。ハーモニーとか、発想とか、音の組み合わせがクレイジーで、自分のバンドで弾いてもらいたいぐらい(笑)。
冨田 弾かせてください。
さかい (笑)。音がちゃんと長くてグルーヴしていて、遅い曲でもリズムがよくてっていう方はなかなかいないんですよ。音とか楽器にこだわる人はいても、ここまで全方位的にできる人は少ないと思います。安定感もあるし、ファンキーだし……ずっと褒め言葉になっちゃいますよね。
冨田 目の前で言われてちょっと恐縮してしまいますけど(笑)。
さかい 僕の先生みたいに思ってます。心の師匠!(笑)
冨田 ありがとうございます(笑)。
さかい そういうわけで僕は冨田さんのベースが好きだから、ほかの人を使ってライブやられるときはどうやってディレクションしてるのかっていうのが気になるな。ベーシストはそのプレイができないと思うから。どうしてるんですか?
冨田 音価とかタイミング的なこととか、そこは人とやるときにあまり指示することではないね。そこはミュージシャンのプライバシーだから(笑)。
さかい 確かにプライバシーですよね。本人は長く弾いてるかもしれないけど、実際出てる音を聴いてると「もうちょっとレイドバックしてたほうがいいんだよな」っていうこともある。けっこうデリケートな問題ですからね。
冨田 そうなんですよ。例えばアマチュアバンドだとさ、そこを言い合ったりもするじゃない? でも、ミュージシャンはキャリアとともに自分なりの表現っていうのができているんです。その表現は決して間違いではない。さらに、こちらが「この楽器ではそれよりもこうしてほしい」と伝えて彼がその部分に気を遣ってしまうと、それ以外の部分とか全体像に彼は集中できない。例えば音価とか気にしなければ、自由になって派手なフレーズを弾いてくれて、それ自体で場が盛り上がったりするわけだから、そのほうが重要ですね。
さかい 仮にジャコ・パストリアスに「もっとジェームス・ジェマーソンのような感じがいいんだよねえ」って言ったら、「じゃあそっち雇って。プン!」みたいになっちゃいますもんね(笑)。
冨田 そうそう、無理(笑)。だから人とやるときは、その人の一番いい感じのプレイが出て、よりよくなるように進めていくのがいいよね。非常に教科書的な言い方だけども。
さかい そうですね、ほんとに。
冨田 ただそうは言っても、やっぱりさかいさんも僕もさ、ごく細かなところでその音楽が好きになったり嫌いになったりするっていう性分を持ってるから、ベースはもうちょっとだけタメてほしいとか、こだわりはしますよね。僕なんかはそれで結局いろんな楽器を自分でコントロールすることになったわけで。だから人とやるのってなかなか難しいものがあるよね。
さかい 難しいですよね。本当にざっくりとした言葉で言うと、ある部分では割り切ってるけど、別の部分でいくらでもいいところがあるから人とやるんです。だって自分にはできないことをその人はできるから、助けてもらってるってことですよね。
冨田 そうだね。
- さかいゆう ニューシングル「薔薇とローズ」 / 2013/10/23発売 アリオラジャパン
- 初回限定盤 [CD+DVD] 1890円 AUCL-143~4
- 初回限定盤 [CD+DVD] 1890円 AUCL-143~4
- 通常盤 [CD] 1223円 AUCL-145
CD収録曲
- 薔薇とローズ
[作詞・作曲・編曲:さかいゆう] - ピエロチック feat. 秦 基博
[作詞:さかいゆう、秦 基博 / 作・編曲:さかいゆう] - The Closer I Get To You
[Written by James Mtume / Reggie Lucas] - 薔薇とローズ(backing track)
- ピエロチック feat. 秦 基博(backing track)
初回限定盤DVD収録内容
-Music Video-
- 薔薇とローズ
- ピエロチック feat. 秦 基博(Shooting the Recording Session on 2013.8.19)
-Live Selection-
- ストーリー(From「TOUR 2010 "YES!!"」2010.9.22)
- AHEAD(From「TOUR "ONLY YU" #1」2011.4.26)
- 夏のラフマニノフ(From「“さかいの湯” Vol.1」2011.8.6)
- ペテン師と臆病者(From「TOUR 2012 "How's it going?"」2012.6.3)
- 冨田ラボ ニューアルバム「Joyous」 / 2013/10/23発売 SPEEDSTAR RECORDS
- 初回限定盤 [CD2枚組] 3600円 VIZL-534
- 初回限定盤 [CD2枚組] 3600円 VIZL-534
- 通常盤 [CD] 3000円 VICL-63997
収録曲
- やさしい哲学 feat. 椎名林檎
[作詞:椎名林檎] - 僕の足跡~I follow the sun~ feat. さかいゆう
[作詞:高橋幸宏] - 都会の夜 わたしの街 feat. 原 由子, 横山剣, 椎名林檎, さかいゆう
[作詞:坂本慎太郎] - false dichotomy (Instrumental)
- on you surround feat. 横山剣
[作詞:中納良恵] - いつもどこでも feat. さかいゆう
[作詞:堀込高樹] - Don't throw it away(Instrumental)
- 私の夢の夢 feat. 原 由子
[作詞:青山陽一] - この世は不思議 feat. 原 由子, 横山剣, 椎名林檎, さかいゆう
[作詞:坂本慎太郎] - trichotomy (Instrumental)
初回限定盤Bonus Disc収録曲
- いつもどこでも feat. 児玉奈央
[作詞:堀込高樹] - やさしい哲学 -Instrumental-
- 僕の足跡~I follow the sun~ -Instrumental-
- 都会の夜 わたしの街 -Instrumental-
- on you surround -Instrumental-
- いつもどこでも -Instrumental-
- 私の夢の夢 -Instrumental-
- この世は不思議 -Instrumental-
さかいゆう
高知県出身の男性シンガーソングライター。20歳で上京し、独学で音楽を始める。2001年に単身渡米しロサンゼルスでストリートパフォーマンスを行いながら、ピアノを習得。帰国後の2004年頃よりソロ活動を本格化。2009年10月にシングル「ストーリー」でメジャーデビュー。胸を打つ歌詞、透明感あるハイトーンボイスが年齢や性別を超え厚く支持されている。また客演も多く、これまでにマボロシ、KREVA、RHYMESTERなどさまざまなアーティストとコラボレーションを行っている。2012年5月にメジャー通算2枚目となるフルアルバム「How's it going?」を発表。2013年4月には1年ぶりのシングル「僕たちの不確かな前途」、同年10月には続くシングル「薔薇とローズ」をリリース。11月からは全国ツアー「さかいゆう TOUR "ONLY YU" #3 」が開催される。
冨田ラボ / 冨田恵一
(とみたらぼ / とみたけいいち)
1962年6月1日生まれ。北海道旭川市出身。大学在学中にギタリストとしてミュージシャン活動を開始し、1988年にはユニット「KEDGE」でアルバム「COMPLETE SAMPLES」を発表。1990年代後半にはプロデューサーとしてのキャリアをスタートさせ、最初に手がけたキリンジが圧倒的な支持を得る。2000年にはMISIA「Everything」がダブルミリオンセラーを記録。2003年からはソロプロジェクト「冨田ラボ」の活動も並行して行い、「Shipbuilding」「Shiplaunching」「Shipahead」と3枚のアルバムを発表した。2011年3月2日には、プロデューサーとしてのキャリアをまとめた初のワークスベストアルバム「冨田恵一 WORKS BEST ~beautiful songs to remember~」をリリース。2013年10月には原由子、横山剣、椎名林檎、さかいゆうをボーカルとして迎え、4thアルバム「Joyous」をリリース。また2003年に発売された冨田ラボの1stアルバム「Shipbuilding」のリマスタリングBlu-spec CD2盤も同時発売となる。