ナタリー PowerPush - 冨田ラボ×さかいゆう
高純度ポップを生む2人の気まま音楽談義
「最初からかましてくれ」ってオーダーだったんです
──では、さかいさんのニューシングル「薔薇とローズ」のお話に移りますね。
さかい 「♪いつだってー」ってやつですね。
──CMで流れる、そのサビ頭がすごく耳に残りますよね。前にさかいさんと山崎まさよしさんが対談したとき(参照:さかいゆう×山崎まさよし「僕たちの不確かな前途」対談)、「コマーシャリズム」や「曲の最初でつかむことが肝心」という話が出ましたが、まさに今回の楽曲はCMの尺でしっかり人の心をつかんでいるんじゃないかと。
さかい CMのスタッフさんからオーダーがあったんですよね。「最初からかましてくれ」って。「どんどん盛り上がっていくんじゃなくて、最初にクライマックスがあってそのままずっとクライマックスでいてください」みたいな(笑)。で、15秒という短い中でインパクトあるものってなったら「歌い出しからいきなり高い」っていう発想だったから、僕のピッチのギリギリのB♭かBで勢いよく歌ってやろうと思って。まあ、頭からハイパワーでやるのがすべて正解とは思わないですけどね。
冨田 じゃあ、あれはサビだけ最初にできていて、あとで伸ばして?
さかい そうです。
冨田 あー、そうなんだ。
──15秒、30秒しかないものを1曲のポップスの尺にするとなると、通常と順番が違うために苦労しますか?
さかい CMで依頼を受けて書く、あとからそれを伸ばすっていうのは、そんなに難しくないんですよ。たぶん僕が一番難しいと思うのは、自分のオリジナルアルバムで「なんでも自由にやって」って言われてる状況で、ゼロから構想を練って作っていくことだと思う。クリエイティブなマインドにもならなきゃいけないし、時間もかかるから。今回は先に縛りがあるじゃないですか。オーダーがあって、それに合わせて作る作業って、けっこう楽しくて僕は好きなんですよね。
──また、メジャーデビューしてから今日までのさかいさんのシングル曲を並べてみると、どんどん研ぎ澄まされてポピュラリティが増しているようにも思います。
さかい ホントですか。30万枚ぐらい売れればいいのに(笑)。
冨田 ははは(笑)。
さかい いや、ポピュラリティっていうのがなんなのかは僕もわかんないけど、やっぱりパンチラインはいつも意識しますね。1曲の中に口ずさみたいフレーズが何カ所かはないと、曲の輪郭がなくなっちゃうような気がするんです。「あの曲どんな曲だったっけ?」って思い出そうとしたときに「なんかふわっとしてておしゃれな感じで……」ってならないように。
さかいゆうの声と秦 基博の声
──カップリング曲「ピエロチック feat. 秦 基博」は90年代っぽいソウルナンバーですね。
冨田 これ、出だしで一瞬、秦さんの声かさかいさんの声かわからなかった。
さかい そうかもしれないですね。僕も秦さんも、めちゃくちゃ芯が強い声というよりは、芯の周りにある倍音が多いと思うから。弾き語りで聴きたい声っていうんですかね。バンドだとなんかちょっと難しいんですよね。例えば横山剣さんとか林檎さんは、周りでどんなに楽器が鳴ってても聞こえるんですよ。だけど僕と秦さんの声は、ピアノとかアコギとか柔らかい音を基調にしないと、よさが半減しちゃうような気がして。
冨田 ご自身に厳しいからそうおっしゃってますけど、2人ともバンドの中でも全然いい感じに聞こえますよ。まあ、倍音が多いというのは確かなんです。それのいいところは、ダブルにしたり、コーラスに回ったときにすごく広がりが出るっていうことで。
さかい そうですね。
冨田 ただ、秦さんとさかいさんは、またちょっと違うとは思いますね。
さかい たぶん、僕のほうがコーラス向きの声だと思う。なんだろうな、倍音が丸いっていうか。
冨田 うん。あとは、日本語の歌詞に対するアプローチも少し違うような気がします。やっぱり、さかいさんは洋楽をいっぱい聴いていた人のアプローチ、秦さんは日本語をずっと歌ってきた人のアプローチっていう感じ。その微妙な差異が一緒になってるところが、この曲のまた面白いところで。ところでこれ、秦さんにとっては高くない? 「高いなー」って言ってなかった?
さかい 言ってましたね。「そこがいいんじゃないすか」って返しましたけど(笑)。
冨田 うん、でもそこがいい。
さかい 実はもともと秦さんのためだけに書いた曲なんですよ。僕が歌うつもりなかったんです。
冨田 あっ、そうなの。へえー。
さかい だから最初から、秦さんにとっておいしい曲であってほしいなと思ってたんですよね。秦さんは裏声と地声を行き来するときがすごいエロいから、そこを使おうと。
──確かに“秦 基博”と“ソウル”がこんなにも相性がいいとは、新発見でした。
さかい そうですよね。僕の中では、秦さんの声質って最高にソウルフルなんですよね。いつかソウルとジャズを4、5曲ぐらい書いて、秦さんの歌だけでミニアルバム1枚作りたいくらい。その序章のつもりで書きました。
- さかいゆう ニューシングル「薔薇とローズ」 / 2013/10/23発売 アリオラジャパン
- 初回限定盤 [CD+DVD] 1890円 AUCL-143~4
- 初回限定盤 [CD+DVD] 1890円 AUCL-143~4
- 通常盤 [CD] 1223円 AUCL-145
CD収録曲
- 薔薇とローズ
[作詞・作曲・編曲:さかいゆう] - ピエロチック feat. 秦 基博
[作詞:さかいゆう、秦 基博 / 作・編曲:さかいゆう] - The Closer I Get To You
[Written by James Mtume / Reggie Lucas] - 薔薇とローズ(backing track)
- ピエロチック feat. 秦 基博(backing track)
初回限定盤DVD収録内容
-Music Video-
- 薔薇とローズ
- ピエロチック feat. 秦 基博(Shooting the Recording Session on 2013.8.19)
-Live Selection-
- ストーリー(From「TOUR 2010 "YES!!"」2010.9.22)
- AHEAD(From「TOUR "ONLY YU" #1」2011.4.26)
- 夏のラフマニノフ(From「“さかいの湯” Vol.1」2011.8.6)
- ペテン師と臆病者(From「TOUR 2012 "How's it going?"」2012.6.3)
- 冨田ラボ ニューアルバム「Joyous」 / 2013/10/23発売 SPEEDSTAR RECORDS
- 初回限定盤 [CD2枚組] 3600円 VIZL-534
- 初回限定盤 [CD2枚組] 3600円 VIZL-534
- 通常盤 [CD] 3000円 VICL-63997
収録曲
- やさしい哲学 feat. 椎名林檎
[作詞:椎名林檎] - 僕の足跡~I follow the sun~ feat. さかいゆう
[作詞:高橋幸宏] - 都会の夜 わたしの街 feat. 原 由子, 横山剣, 椎名林檎, さかいゆう
[作詞:坂本慎太郎] - false dichotomy (Instrumental)
- on you surround feat. 横山剣
[作詞:中納良恵] - いつもどこでも feat. さかいゆう
[作詞:堀込高樹] - Don't throw it away(Instrumental)
- 私の夢の夢 feat. 原 由子
[作詞:青山陽一] - この世は不思議 feat. 原 由子, 横山剣, 椎名林檎, さかいゆう
[作詞:坂本慎太郎] - trichotomy (Instrumental)
初回限定盤Bonus Disc収録曲
- いつもどこでも feat. 児玉奈央
[作詞:堀込高樹] - やさしい哲学 -Instrumental-
- 僕の足跡~I follow the sun~ -Instrumental-
- 都会の夜 わたしの街 -Instrumental-
- on you surround -Instrumental-
- いつもどこでも -Instrumental-
- 私の夢の夢 -Instrumental-
- この世は不思議 -Instrumental-
さかいゆう
高知県出身の男性シンガーソングライター。20歳で上京し、独学で音楽を始める。2001年に単身渡米しロサンゼルスでストリートパフォーマンスを行いながら、ピアノを習得。帰国後の2004年頃よりソロ活動を本格化。2009年10月にシングル「ストーリー」でメジャーデビュー。胸を打つ歌詞、透明感あるハイトーンボイスが年齢や性別を超え厚く支持されている。また客演も多く、これまでにマボロシ、KREVA、RHYMESTERなどさまざまなアーティストとコラボレーションを行っている。2012年5月にメジャー通算2枚目となるフルアルバム「How's it going?」を発表。2013年4月には1年ぶりのシングル「僕たちの不確かな前途」、同年10月には続くシングル「薔薇とローズ」をリリース。11月からは全国ツアー「さかいゆう TOUR "ONLY YU" #3 」が開催される。
冨田ラボ / 冨田恵一
(とみたらぼ / とみたけいいち)
1962年6月1日生まれ。北海道旭川市出身。大学在学中にギタリストとしてミュージシャン活動を開始し、1988年にはユニット「KEDGE」でアルバム「COMPLETE SAMPLES」を発表。1990年代後半にはプロデューサーとしてのキャリアをスタートさせ、最初に手がけたキリンジが圧倒的な支持を得る。2000年にはMISIA「Everything」がダブルミリオンセラーを記録。2003年からはソロプロジェクト「冨田ラボ」の活動も並行して行い、「Shipbuilding」「Shiplaunching」「Shipahead」と3枚のアルバムを発表した。2011年3月2日には、プロデューサーとしてのキャリアをまとめた初のワークスベストアルバム「冨田恵一 WORKS BEST ~beautiful songs to remember~」をリリース。2013年10月には原由子、横山剣、椎名林檎、さかいゆうをボーカルとして迎え、4thアルバム「Joyous」をリリース。また2003年に発売された冨田ラボの1stアルバム「Shipbuilding」のリマスタリングBlu-spec CD2盤も同時発売となる。