ナタリー PowerPush - 冨田ラボ×さかいゆう
高純度ポップを生む2人の気まま音楽談義
この人はきっと僕の好きなものを好きに違いない
──話を少し戻して、今度は冨田さんからさかいさんの印象をお願いします。
冨田 初めて会ったイベントでは、キーボードとループマシンを使って、自分で打ち込んだプログラミングの音で歌ってたんだよね。
さかい はい。
冨田 そのときは、声よりも「なんか打ち込みのオケで、1人ですごい盛り上がって歌ってる人がいる」って思ったの。
さかい はははは(笑)。間違ってないですね。
冨田 それもバンドサウンド的なアレンジの代用っぽい打ち込みだったのね。そういう曲だと“カラオケと歌”みたいに聞こえちゃいがちだから、自分を高揚させるのがなかなか難しくて。でもさかいさんのパフォーマンスを耳にしたとき、打ち込みとともに自分がすごい盛り上がってる感じに聞こえたんですよね。だからちょっと珍しくて。それからピアノソロもけっこう弾いてたので、「この人は絶対ピアノを長くやっているんだろう」と思ったら、けっこう遅くなってから始めたという話を聞いて(※さかいゆうは20歳からピアノの習得を始めた / 参照:さかいゆう「Yes!!」インタビュー)「才能のある人なんだな」と。それが最初の印象です。
──さかいさんといえば“シルキーボイス”と呼ばれるボーカルも魅力的ですが。
冨田 今回、冨田ラボのアルバムのボーカルをどんな人にお願いしようかなって考えたとき、さかいさんの出された音源をいろいろと聴いて、やっぱりまずは唯一無二な歌声に注目しました。それから、趣味性をどれぐらい出すかバランスをいろいろ考えてやってらっしゃるのかな……勝手にですけどそう思って。
──どういうことですか?
冨田 「こういうのが好き」って言っても、作るものにまったく反映させない人もいるじゃない? 家ではクラシックしか聴かないけど、やるのは別っていう人とか。
さかい あー、いるかも。
冨田 で、複数の音源を聴くと「自分が好きで聴いてるものを、バランスを考えながら反映させてる人だなあ」と思ったし、「この人はきっと僕の好きなものを好きに違いない」と思いました。
16ビート要員・さかいゆう
──じゃあ、自分との共通性を感じて、さかいさんにアルバム参加を依頼したと。
冨田 そう。共通性はもちろんで、僕がさかいさんを選んだ一番の理由は、簡単に言うと「16ビートの人を入れよう」っていう気持ちがあったから。ほかのメンバーを見ていただけるとわかると思うんですが、剣さんはソウル好きだし16ビートをたくさんやられているけど、アクセント的にはオンビートの人じゃない? そこがカッコよさなんだけど。 林檎さんもさかいさんと同じぐらいの世代だから、16ビートもうまいし、今までの作品には16分音符の曲もたくさんあるんだけど、やっぱり基本は8の人と言っていいとは思うんですよね。原さんも然りで。
さかい そうですね。
冨田 僕自身は完全に16ビートの人なんです。だから、そういった人たちと自分がやることの面白さっていうのを考えて彼らにはお願いをしたんですけど、その中に1人、もっと16に寄った人を入れるとバランスがよくなるかな、と思ったんです。さかいさんには言ってなかったけど、“16ビート要員”というようなことを考えてましたね(笑)。
さかい ああ、なるほど。でもなんとなくそうかなあって思ってましたね。というのは、僕が歌った曲はアルバムの中で一番16が強いというか、跳ねてない感じのいつもの“冨田節”がかなり出てる曲だと思うんで。
冨田 そうだね。まあもちろん、ほかの方も歌えるんだけど、やっぱりもともと16を中心にやってる人とそうじゃないって違うからね、表現の種類が。結果的に出てくる肌触りっていうか。そこが変わってくるので、16が染み付いてるさかいさんには今回はぜひ入ってほしいなと思いました。
男女2人ずつ、4人みんなで歌う曲も。そう最初に決めました
──そもそも今回の冨田ラボのアルバムは、初めから4人のボーカルを入れようと考えていたんですか? 1曲に1人ボーカリストを迎えた“Shipシリーズ”とは形を変えるという時点で、もうそのコンセプトがあった?
冨田 そうです。“Shipシリーズ”は毎回「どんなゲストが来るんだろう」って、それ自体がコンセプトみたいになってしまったのでフォーマットから刷新したいなという気持ちがあって。アルバム単位で見てもらえる、普通のアーティストがやるような制作の仕方をしたかったんです。今回に関しては、アルバムを通して男女2人ずつに決めて、4人みんなで歌う曲もやろう。そういうことを最初に決めましたね。
──その4人の名前をナタリーでニュースとして出したら(参照:冨田ラボ最新作に原 由子、横山剣、椎名林檎、さかいゆう)、やはり大きな反響がありまして。私も「これはすごいことにならないわけがない」と思いました。
冨田 はは、そうですか(笑)。4人全員、バーンと歌ってくれれば何があっても大丈夫ということは、自分の中で無意識にあったかもしれないですね。皆さん、キャリアもあるしミュージシャンシップもあるので、みんな声質が違うからといって「大丈夫かなあ」という心配はありませんでした。
──4人がコラボレーションした「都会の夜 わたしの街」と「この世は不思議」は、別々にボーカル録りを行ったんですか?
冨田 はい。ただ、1人ずつ録っていても、みんなで歌うであろうとそれぞれ想像して歌ってる感じはありましたね。たぶん順番も大きくて、最後に歌う人は3人の歌を聴きながら歌えるわけですよ。だけど最初の人は1人で歌わなきゃいけない。それはあまりにもかわいそうなので、一応僕が歌ったボーカルを入れておいて、みんなと歌う感じをやりやすいようにはしといたんですけど。さかいさんは何番目でした?
さかい 僕、最初じゃなかったでしたっけ、2曲とも。だから冨田さんのボーカルどおりに歌いましたね。
──さかいさんは、ファンでもあった冨田さんの曲世界に入ってみていかがでしたか?
さかい うれしかったです。でも入ったらその中でベストを尽くすしかないですから。冨田さんには本当にフランクに接していただきましたね。終始やりやすかったです。
冨田 さかいさんはインプロヴィゼーションの部分でもすごく長けているので、フェイク的なことも僕はやってほしくて「そのへんにも入れてみよう」とか「そこは伸ばしてそうやってみよう」とかいろいろ相談しました。そうするとさかいさんからもまたひねったものが出てきて……みたいなやり取りがすごく楽しかったなあ。それが曲をすごく生き生きとさせたし、僕の中でも印象に残りました。だから、さかいさんに歌っていただいてる時間は短かったとしても、すごく濃密な時間だったと思います。
- 冨田ラボ ニューアルバム「Joyous」 / 2013/10/23発売 SPEEDSTAR RECORDS
- 初回限定盤 [CD2枚組] 3600円 VIZL-534
- 初回限定盤 [CD2枚組] 3600円 VIZL-534
- 通常盤 [CD] 3000円 VICL-63997
収録曲
- やさしい哲学 feat. 椎名林檎
[作詞:椎名林檎] - 僕の足跡~I follow the sun~ feat. さかいゆう
[作詞:高橋幸宏] - 都会の夜 わたしの街 feat. 原 由子, 横山剣, 椎名林檎, さかいゆう
[作詞:坂本慎太郎] - false dichotomy (Instrumental)
- on you surround feat. 横山剣
[作詞:中納良恵] - いつもどこでも feat. さかいゆう
[作詞:堀込高樹] - Don't throw it away(Instrumental)
- 私の夢の夢 feat. 原 由子
[作詞:青山陽一] - この世は不思議 feat. 原 由子, 横山剣, 椎名林檎, さかいゆう
[作詞:坂本慎太郎] - trichotomy (Instrumental)
初回限定盤Bonus Disc収録曲
- いつもどこでも feat. 児玉奈央
[作詞:堀込高樹] - やさしい哲学 -Instrumental-
- 僕の足跡~I follow the sun~ -Instrumental-
- 都会の夜 わたしの街 -Instrumental-
- on you surround -Instrumental-
- いつもどこでも -Instrumental-
- 私の夢の夢 -Instrumental-
- この世は不思議 -Instrumental-
- さかいゆう ニューシングル「薔薇とローズ」 / 2013/10/23発売 アリオラジャパン
- 初回限定盤 [CD+DVD] 1890円 AUCL-143~4
- 初回限定盤 [CD+DVD] 1890円 AUCL-143~4
- 通常盤 [CD] 1223円 AUCL-145
CD収録曲
- 薔薇とローズ
[作詞・作曲・編曲:さかいゆう] - ピエロチック feat. 秦 基博
[作詞:さかいゆう、秦 基博 / 作・編曲:さかいゆう] - The Closer I Get To You
[Written by James Mtume / Reggie Lucas] - 薔薇とローズ(backing track)
- ピエロチック feat. 秦 基博(backing track)
初回限定盤DVD収録内容
-Music Video-
- 薔薇とローズ
- ピエロチック feat. 秦 基博(Shooting the Recording Session on 2013.8.19)
-Live Selection-
- ストーリー(From「TOUR 2010 "YES!!"」2010.9.22)
- AHEAD(From「TOUR "ONLY YU" #1」2011.4.26)
- 夏のラフマニノフ(From「“さかいの湯” Vol.1」2011.8.6)
- ペテン師と臆病者(From「TOUR 2012 "How's it going?"」2012.6.3)
冨田ラボ / 冨田恵一
(とみたらぼ / とみたけいいち)
1962年6月1日生まれ。北海道旭川市出身。大学在学中にギタリストとしてミュージシャン活動を開始し、1988年にはユニット「KEDGE」でアルバム「COMPLETE SAMPLES」を発表。1990年代後半にはプロデューサーとしてのキャリアをスタートさせ、最初に手がけたキリンジが圧倒的な支持を得る。2000年にはMISIA「Everything」がダブルミリオンセラーを記録。2003年からはソロプロジェクト「冨田ラボ」の活動も並行して行い、「Shipbuilding」「Shiplaunching」「Shipahead」と3枚のアルバムを発表した。2011年3月2日には、プロデューサーとしてのキャリアをまとめた初のワークスベストアルバム「冨田恵一 WORKS BEST ~beautiful songs to remember~」をリリース。2013年10月には原由子、横山剣、椎名林檎、さかいゆうをボーカルとして迎え、4thアルバム「Joyous」をリリース。また2003年に発売された冨田ラボの1stアルバム「Shipbuilding」のリマスタリングBlu-spec CD2盤も同時発売となる。
さかいゆう
高知県出身の男性シンガーソングライター。20歳で上京し、独学で音楽を始める。2001年に単身渡米しロサンゼルスでストリートパフォーマンスを行いながら、ピアノを習得。帰国後の2004年頃よりソロ活動を本格化。2009年10月にシングル「ストーリー」でメジャーデビュー。胸を打つ歌詞、透明感あるハイトーンボイスが年齢や性別を超え厚く支持されている。また客演も多く、これまでにマボロシ、KREVA、RHYMESTERなどさまざまなアーティストとコラボレーションを行っている。2012年5月にメジャー通算2枚目となるフルアルバム「How's it going?」を発表。2013年4月には1年ぶりのシングル「僕たちの不確かな前途」、同年10月には続くシングル「薔薇とローズ」をリリース。11月からは全国ツアー「さかいゆう TOUR "ONLY YU" #3 」が開催される。