THE PINBALLS|今日が終わって美しい明日へ

新しい朝が始まる

──続く4曲目「失われた宇宙」では“新しい朝”が“美しい世界”として歌われます。

古川 はい、夜が明けてくる時間で、希望が見えてきます。

──時間で言うと早朝くらい?

古川 そう。ちょっと空が青白くなってきて、終盤のギターソロあたりから日の出が始まるイメージです。この曲の中で青からオレンジに移り変わっていく。

──1番と2番のサビの歌詞は「だけど次の日も 次の日も」ですが、最後の大サビでは「そして次の日も 次の日も」になり、どんどん気持ちが明るくなっていくさまを感じます。「悲しいことがあっても明日は来る」というメッセージが込められているのかなと思いました。

古川 まさにそうです。実際にまだ空が青白い時間帯から仕事に向かうときに、毎朝雲が違う形をしてることに気付いて「毎日休まずに違う形を見せてくれて、“雲ちゃん”はすごいな」と思ったんです。前の日にいいライブができて幸せな日もあれば、人とケンカしたり悲しいことがあったりしますけど、「空が毎日働いてるんだから俺もがんばろう」と思えた。そういう気持ちを歌詞にしました。

森下拓貴(B)

森下 朝って前の日の嫌なこととかを振り切って前に進める感じがするので、僕は朝が好きで。そのせいか、この曲がアルバムの中で一番好きです。

古川 そうだったんだ。

森下 うん。初め12曲が出そろったときはこの曲が好きじゃなかったんですよ。歌詞とか内容とかは置いておいて、プレイするという点でどういう曲になるのかあんまり想像ができなかった。でも歌詞を読んだら、自分の気持ちに置き換えられるような気がしてきて、実際すごく素直なプレイができた。ありのままの自分が出せた気がします。

──5曲目の「BEAUTIFUL DAY」は英語詞がミディアムテンポに乗せて歌われる曲で、これまでの4曲とは趣が違います。

古川 この時間はまだ起きたばかりでぼーっとしている人もいる時間かなと。だから眠さを表現しました。

──ひさしぶりの英語詞ですが、英語詞にしたのはどうしてですか?

古川 フルアルバムだからいろんな曲が入れられる、という単純な理由です。僕自身は英語詞の曲が好きだし、歌いたいなと思っているので。

──歌詞ではどのようなことが歌われているんですか?

古川 「weather vane」は風見鶏のこと。さっき、全体で左右対称になってると言ったんですが、この曲は8曲目「風見鶏の髪飾り」と対になっていて。

石原天(Dr)

──この曲で歌われる風見鶏と「風見鶏の髪飾り」で出てくる風見鶏は同じものなんですね。

古川 この曲の主人公も「風見鶏の髪飾り」に出てくる女の子で、その子が起きて「今日はいい日になるな」と思ってるときのことを書いています。

石原 この曲はこの曲順に置いてあることがすごくいいなと思ってるんです。「CRACK」の前、つまり労働の前ってことだよね?

古川 うん。

石原 労働前に「今日は美しい日だ」と歌うのがすごくいいなと思いました。あと僕は何よりこの曲のベースが好きなんですよ。すごく心地よくて、それに引っ張られて自分もいいドラムが叩けてる気がするんです。そこにフル(古川)の優しい声が乗って。

森下 この曲は寝起きくらいの時間帯かなと思ったので、寝ぼけてるような、少しモヤがかかったようなベースラインにしようと思ったので、確かにいつもとはちょっと違うかも。今作は曲ごとに表現する時間が違うので、自分なりにその時間帯の風景や感情を音で表現したいなと思っていて。だから今までだったら弾かないようなフレーズや音色を試していった感じはあります。

穏やかな午後へ

──そして前半最後を飾る曲は「CRACK」。眠たげな「BEAUTIFUL DAY」から一転、激しくて疾走感のある1曲です。

古川 この曲は仕事が始まる時間帯のイメージなので「行くぞー!」というテンションで。マンガで言う、パンをくわえて走っている感じです。

──聴いているだけで仕事がはかどりそうです。

古川貴之(Vo)

古川 でしょ?(笑) あと冒頭に「Get back to Cretaceous radio」という歌詞があるんですが、直訳すると「白亜紀のラジオに戻ろう」という意味で。昔作った「アンテナ」(2011年3月発売の1stシングルの表題曲)という曲に出てくる「白亜紀のラジオ」とかけています。「初心を忘れてないから」という意味を込めて、THE PINBALLSらしい激しいサウンドにしています。

──7曲目はその「CRACK」と対になっているという「ヤンシュヴァイクマイエルの午後」。タイトル通り、昼下がりののんびりした雰囲気をまとっています。

古川 「ちょっともう気楽にいこうよ」「“take it easy”でいこうよ」みたいなことを歌いたくて。実際に芸術家でヤン・シュヴァンクマイエルさんという方がいらっしゃるんですが、僕はずっと「ヤン・シュヴァイクマイエル」さんだと思い違いをしていて。

──ヤン・シュヴァンクマイエルさんはシュールな作風で知られるアニメーション作家ですよね。

古川 そうなんですけど、僕はなぜかかわいいものを作っている方かと思っていて。そこから“自分のイメージと現実が全然違ったとしても気楽にいこうよ”という歌詞になりました。そういうことを午後っぽい、ゆったりした曲にはめたらすごくいいなと。