The fin.|“より自由に より柔軟に”変化し続けるバンドの在り方

The fin.が9月13日に新作音源「Wash Away」を配信リリースした。

日本のみならず、イギリス、中国など海外でも活躍するThe fin.の新作には、前作アルバム「There」でもタッグを組んだブラッドリー・スペンスとの共同プロデュース楽曲「Gravity」など全6曲を収録。メンバー脱退を経て、柔軟な編成でライブ活動を行うThe fin.の多彩な音楽性が詰まった内容に仕上がっている。

音楽ナタリーでは、Yuto Uchino(Vo, G, Syn)、Kaoru Nakazawa(B)にインタビューを行い、結成9年を迎えるThe fin.を取り巻く生活環境の変化、海外の音楽シーンをリアルに感じてきた中で徐々に薄れていったというバンド編成への執着など、2人の音楽制作における今の心境や今後の展望について話を聞いた。

取材・文 / 西澤裕郎(SW) 撮影 / 宇佐美亮

The fin.の住宅事情

──2人は今もイギリスに住んでいるんですか?

Yuto Uchino(Vo, G, Syn)

Yuto Uchino(Vo, G, Syn) 今は日本に帰ってきているんですけど、定住している家があるわけではなくて、Airbnbを駆使していろいろなところに泊まっています(笑)。東京の宿に数週間泊まったり、ツアーで海外に行って帰ってきたら、また違うところに泊まったり。ほんまにスーツケース1つでどこででも生きていけるような感じになっている。大阪に6週間ぐらい部屋を借りていたときは、マンションにドラムキットを持ち込んでレコーディングしていましたね(笑)。

──日本でもメンバー一緒の住まいを借りようとは思わなかったんですか?

Yuto 3人おったときはそうしていたんです。もともと大学を卒業して東京に来るときの条件が部屋で作業できることやったので。俺が防音マンションを借りて、そこでレコーディングもしていた。イギリス行きを決めたときにはメンバーが4人いたので、お金を持ち寄って大きい家を借りてスタジオにしていました。向こうの住宅事情って間貸しが多いし、防音環境を作るのは難しいから。メンバーが1人抜けて、日本に帰ってきてからも、3カ月くらいは3人で茨城に住んでいたことあったよね?

Kaoru Nakazawa(B) 茨城はちょっと長めやったね。狭山(埼玉)にも2週間ぐらい住んでいたし。

Yuto メンバーがもう1人抜けることになって、1人あたりで負担する家賃が高くなったからという現実的な理由で今の状態になっているんです。なので、次のツアーが終わったら、自分でスタジオを作ろうかなと思っています。

2人体制になって強まったもの

──今年3月に東京・UNITで行われた自主企画をもって、先ほどおっしゃったようにギターのRyosuke Odagakiさんが脱退されました。どういった理由があったんでしょうか。

Yuto 流れを話すと、4人でやっていたときは楽しくやっていればいいくらいの感覚だったんです。でも最初のアメリカツアーで、それやとダメやなと気付いて。もっと音楽的に成長させていきたいと思うようになってから、ちょっとずつメンバーとのズレが出てきた。それでベースが海外での生活になじめないのもあって精神的にきつくなっちゃったので抜けて、ドラムやったNakazawaがベースに変わったんです。そしたらすごくよくなってきたんですよね。ドラムはイギリスの第一線でやっているスタジオドラマーをサポートに迎えたらめちゃくちゃうまくて、バンドのレベルがグッと上がって。そしたら、今度はギターがついてこれなくなっちゃったんです。俺らもよくしたいがゆえにプレッシャーを与えていたと思うし、一緒に住んでいたから逃げ場がない状態になっちゃって。それで今、メインは俺とNakazawaの2人で、ほかのメンバーに入ってもらいながらやっているんです。

──音楽にストイックになった結果、今の編成になっていったわけなんですね。音楽に対する気持ちはNakazawaさんも同じなんでしょうか。

Kaoru Nakazawa(B)

Nakazawa まあ、そうですね。

Yuto 軽いな(笑)。彼がドラムをやっていたときも、わりと同じ状況やったんですよ。彼のドラムやったらできないなというところまでいっていたけど、もともと彼はベースをやっていたので、それがうまくハマって今まで越えられなかった壁みたいなところが越えられるようになっていった。The fin.はバンドからだんだんチームになってきて、今すごくいい感じに機能し始めたところなんです。

──今、バンドをやっているという感覚は?

Yuto ないよね。

Nakazawa うーん……もしかしたら俺はYutoに比べたらあるかもしれへんけど。

Yuto それはNakazawaがバンマスやからかもね。俺はほんまにプロジェクトっぽいなと思ってます。音楽面は俺が全部やって、Nakazawaはほかのサポートメンバーとのやり取りとかリハーサル、ライブの内容とか全部やっていて、俺がプロダクションしたものを解釈してマネジメントしてくれている。そこから一歩離れてマネージャーがいるみたいな感じ。最近ほんまに、Nakazawaがいなくなったら、ライブできひんなって思う(笑)。

Nakazawa 俺はそんなにいろいろ考えられるタイプじゃないので、できることをやっていたらこの形に収まったみたいな感じですね。逆にこの人(Yuto)は、いっぱい考えているんで。