新しい音楽の才能を世界187の国と地域に配信することを可能にした、HIP LAND MUSICによるデジタルディストリビューションサービス・FRIENDSHIP.。このサービスではさまざまなジャンルのキュレーター計14人が選抜した音楽が世界に向けて配信されるだけでなく、新規リスナーの開拓を目指したプロモーションのサポート、出版管理や海外プロモーション、CDやマーチャンダイズの製造など多岐にわたってバックアップを行っている。
音楽ナタリーでは、キュレーターであるタイラダイスケ(FREE THROW)、井澤惇(LITE)、Yuto Uchino(The fin.)、沙田瑞紀(miida)、金子厚武(音楽ライター)、奥冨直人(ビンテージセレクトショップ「BOY」オーナー)、片山翔太(下北沢BASEMENTBAR ブッキングスタッフ)の7名にインタビュー。2019年5月のサービス開始から約2年でFRIENDSHIP.がどのように音楽ファンに広がってきているのか、キュレーターたちはどのような目線からアーティストをピックアップしているのかをざっくばらんに語ってもらった。
取材・文 / 西澤裕郎(SW) 撮影 / 池野詩織
新しい音楽や才能をフィーチャーし、日本から世界を繋ぐ海を船(FRIENDSHIP.)に乗せてワールドワイドに広げるデジタルディストリビューションサービス。
キュレーターによってフィーチャーされた音楽を世界187カ国の音楽配信サービスにて配信。固定費用は発生せず、売上金額の85%バックが保証される。
Webメディアへの情報発信やストリーミングサービスのプレイリストへのアプローチといったデジタルプロモーションや、雑誌やラジオといったマスメディアへの個別プロモーション(オプション)を展開。アーティストと楽曲をより露出させ、新規ファン・リスナーを開拓する。
パブリッシング(配信楽曲の出版管理)、海外でのプロモーションおよびライブブッキング、CDやマーチャンダイズの製造サポートなど、アーティストのニーズに合わせてさまざまなバックアップオプションを用意。音楽活動をサポートする体制が整っている。
タイラダイスケ(ロックDJパーティ「FREE THROW」DJ) / 井澤惇(LITE、FULLARMOR) / 青木ロビン(downy、zezeco) / 金子厚武(音楽ライター) / 片山翔太(下北沢BASEMENTBAR ブッキングスタッフ、「BYE CHOOSE」DJ) / Lu Jin(BYNOW) / 沙田瑞紀(miida) / JE Cheng & Keitei Yang(東京兜圈Megurin' Tokyo) / Yuto Uchino(The fin.) / 奥冨直人(ビンテージセレクトショップ「BOY」オーナー) / MONJOE(DATS) / 亀井達也(レコードレーベル「Hot Buttered Record」主宰) / 溝口和紀(「New Audiogram」主宰)
FRIENDSHIP.は昨年10月、ライブストリーミングや映像収録などを行うことができるフラッグシップスペース・FS.をオープン。カメラや配信機器、音響、録音機器、楽器、照明などライブ配信や映像収録に必要な設備が常設されている。なおFS.は、FRIENDSHIP.のリリースアーティストが低価格で利用することができる。
FRIENDSHIP.と音楽ナタリーによるコラボレーション企画が決定した。コラボにあたり、まずは4月下旬にゲストキュレーターを迎えてFRIENDSHIP.の楽曲試聴会を実施。選出された作品は後日FRIENDSHIP.を通じて配信リリースされ、プロモーション面でもFRIENDSHIP.がバックアップする。今回ゲストキュレーターとして参加するのは、Ovallのメンバーであり、さまざまなアーティストのプロデュースも手がけるmabanuaだ。
参加資格は特になく、ジャンル、年齢、国籍なども不問。応募フォームの各項目を入力し、プロフィール欄に「FRIENDSHIP.✕音楽ナタリー」と記載することでエントリーは完了となる。
応募期間:2021年3月23日(火)19:00~4月16日(金)23:59
- mabanua(マバヌア)
- ドラマー、プロデューサー、シンガー。ブラックミュージックのフィルターを通しながらもジャンルに捉われないアプローチですべての楽器を自ら演奏し、国内外のアーティストとコラボして作り上げたアルバム「Blurred」が各国で話題を集める。Chara、Gotch(ASIAN KUNG-FU GENERATION)、米津玄師、矢野顕子、ゆず、くるり、RHYMESTER、藤原さくら、Daichi Yamamoto、向井太一などのプロデューサー、ドラマー、リミキサーとして100曲以上の楽曲を手がけながらCM楽曲や映画、ドラマ、アニメの劇伴も担当。またトロ・イ・モワ、チェット・フェイカー、マッドリブ、サンダーキャットなど海外アーティストとも多数共演している。Shingo Suzuki、関口シンゴとのバンド Ovallのメンバーとしても活動中。
ローンチから約2年、FRIENDSHIP.の変化
──FRIENDSHIP.がローンチされてから約2年が経ちました。キュレーターの皆さんは、アーティストから届く音源を選定する楽曲試聴会を毎月1回行っているそうですが、手応えはいかがでしょうか。
井澤惇(LITE) 今日ちょうど試聴会をやったんですけど、そこで進化したばかりだよね(笑)。
──どういうことですか?
井澤 今までは、音源を聴いたあとに匿名で◯×の評価を付けて投票するという流れだったんです。でも前回の会議で「◯と×だと両極端すぎるよね」という話になって、今回は◯と△にしたんですよ。そしたら結果的に△の票が増えて、その理由をみんなで話し合うことができて。
タイラダイスケ(FREE THROW) △を取り入れたことによって、これまで×を付けてそれで終わりだったものが「今はまだ○のレベルに達していないんじゃないのか」と話し合ったり、みんなの意見がより前に出てきた気がします。それにFRIENDSHIP.がスタートしてから、キュレーターの人数も増やしたんですよ。中国のLu Jinさんだったり、台湾のミュージックイベントプロダクションチーム・東京兜圈だったり、国境も越えて、いろいろな立ち位置の人の視点が加わった。それによって新しい価値観が生まれたし、アーティストの見え方も変わってきたんです。スタート時点に足りなかったものを逆算して、金子(厚武)さんと(沙田)瑞紀さんにも声をかけてキュレーターに加わってもらって。
──金子さんは音楽ライターとして、洋邦問わずさまざまな媒体で記事を書かれています。FRIENDSHIP.には2020年の春から参加していますが、約1年キュレーターをしてみていかがですか?
金子厚武 音楽業界が窮屈になってきた中でデジタルを使ってつながり直すみたいな環境は絶対に必要だと思っていたし、そこに参加してみたい気持ちはあったんです。それに、ライターとして批評することの重要性は認識しつつ、シンプルに「この音楽がすごくいいから聴いてみてよ!」と紹介する感覚も大事にしたくて。なのでFRIENDSHIP.でキュレーターをやらせてもらうのはいうれしいですし、いい1年を過ごさせていただいています。
──沙田さんはどういうきっかけでキュレーターになられたんでしょう?
沙田瑞紀(miida) 去年の秋頃にお話をいただいて初めて試聴会に参加したんです。どんな感じかなと思っていたんですけど、届いた音源はワンコーラス聴くんですよ。最初はFRIENDSHIP.っぽい基準があるのかなと思ったんですけど、意外とみんな自分の主観を大事にしていて、それが共有できてる感じがして。それがいろんなアーティストの音源が集まる理由の1つなのかなと思いましたね。
井澤 どこかで“FRIENDSHIP.らしさ”を考えるのを止めたタイミングがあったんです。最初の頃は少し気を遣っていたというか、キュレーターみんながいいと言っているけど俺はちょっとわからないなってこともあって。「FRIENDSHIP.で出すとしたら、これはありかな」とか考えていたけど、最近はみんながそういう考え方をしなくなってきた感じがあります。ただ、それだけだと今度はなかなか意見が一致しないことも増えたから、それを今日みんなで一歩踏み込んで話すことができたのは進化かなと思いましたね。
──奥冨さんはスタート時から参加されていますけど、この2年間はいかがでしたか?
奥冨直人(BOY) 毎月試聴会に参加して音源を聴いているんですけど、世の中でどういう音楽を作っている人が多いかみたいな傾向がわかるようになってきました。ローンチしたばかりの頃はバンドの音源が多かったんですけど、最近は1人で作る方が増えている印象があります。そういうのってキュレーターをやっているからこその発見なので面白いですね。
自分の要望が形になりやすい
──前回の座談会では、Yutoさんの基準が高くて審査を通過する音源が出てくるのか、冗談まじりに心配していましたけど、基準を越える音源はありましたか?(参照:「FRIENDSHIP.」特集|タイラダイスケ(FREE THROW)×井澤惇(LITE)×MONJOE(DATS)×Yuto Uchino(The fin.)×奥冨直人(BOY)座談会)
Yuto Uchino(The fin.) 最初のうちは「日の目を見る前のアーティストの音源を聴けて楽しいな」と思っていたんですけど、2年ぐらいやっているとだんだん引いて見れるようになったというか。最近は「こういうアーティストがリリースすることで音楽シーンがどう変わるだろう?」「こういうサウンドが増えることでどうなっていくんだろう?」という目線で音源をチェックするようになりました。ただ結果的に言うと、俺はあまりOKしてないです(笑)。
一同 (笑)。
Yuto サブスクリプションサービスって、よくも悪くもいろんな音楽が平らになっちゃうじゃないですか。例えば1000万円かけて作ったレコードと、10万円で作ったレコードが同じプレイヤーに入ってるようなもので、1000万の音がいいわけじゃないし、10万円の音楽が悪いかと言われるとそうでもない。実際、今までの自分たちがいいよねと思っていたものとは違うへんてこな音楽もいっぱいあるんですよ。80点は取れているけど絶対にこれはダメやなっていう音楽もあれば、5点しか取れてないけどなんか面白い音楽もあったりして。さっき井澤くんが言っていたみたいに、◯×じゃなく、深く話し合うことによって、もうちょっと広がりが出ていくんじゃないかと感じているところです。
──ちなみに、キュレーターの○が一致したら、その後はどうなっていくんですか?
タイラ 自分とFRIENDSHIP.のアーティスト担当が直接連絡をして1回ミーティングをします。サービスの説明とデジタルリリース時のルールみたいなものを共有して、どういうふうにリリースしてくか流れを話し合います。それこそ瑞紀さんは、もともとmiidaの作品をリリースさせていただいた流れがあるんです
──沙田さんはFRIENDSHIP.を利用するうえで、どんなところが魅力的だったんでしょう?
沙田 基本的にはリリースが軸になっているんですけど、そこに自分のやりたいことと紐付けてFRIENDSHIP.を利用できるので、自分の要望が形になりやすいんです。やりたいことが具体的にある人は、利用する価値がすごくあるんじゃないかなと思います。
タイラ 1つ例に出すと、「この日にリリースするとプレイリスト的に入れるのが難しくなっちゃうのでもうちょっと伸ばしましょう」と提案したり。miidaのリリース記念のオフィシャルサイト用のインタビューを金子さんにやってもらったりもしました。それにmiidaの場合は、FRIENDSHIP.のリリースアーティストであるThe Departmentとコラボをしたりもしていて。キュレーターとリリースアーティストの両方の視点も持ちながらやってもらっているのもいいなと思っています。
──それこそ、片山さんが働いてらっしゃるライブハウス・下北沢BASEMENTBARでイベントをしたり、奥冨さんのお店・BOYとコラボだったり連動できる可能性もあるわけですよね。
片山翔太(下北沢BASEMENTBAR) 実際、コロナ禍前はFRIENDSHIP.で取り扱ったアーティストをイベントに呼んだりすることも多かったですね。逆に僕がリアルで知っていていいなと思うアーティストをFRIENDSHIP.に持っていったりということもありますし。
奥冨 うちの場合はお客さんの声が直接聞けるので、そのリアクションをFRIENDSHIP.側にフィードバックしていけたりもするんじゃないかと思います。
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広がるFRIENDSHIP.の輪