HIP LAND MUSICが運営するデジタルディストリビューションサービス・FRIENDSHIP.。このサービスでは、さまざまなジャンルのキュレーター計14名が選抜した音楽が世界187の国と地域に向けて配信されている。音楽ナタリーは今年3月にFRIENDSHIP.の特集を展開し、キュレーター7名へのインタビューで、サービス自体の広がりや、それぞれがどのような目線からアーティストをピックアップしているのか話を聞いた(参照:FRIENDSHIP.特集|ローンチから約2年、FRIENDSHIP.の広がりと新たな可能性)。
今回の特集では、今年4月に行われたFRIENDSHIP.の楽曲試聴会の模様をレポートする。この企画ではFRIENDSHIP.のレギュラーキュレーターであるタイラダイスケ(FREE THROW)、井澤惇(LITE)、Yuto Uchino(The fin.)、金子厚武(音楽ライター)、奥冨直人(ビンテージセレクトショップ「BOY」オーナー)、片山翔太(下北沢BASEMENTBAR ブッキングスタッフ)の6名に、プロデューサーとしても活躍するドラマーmabanua(Ovall)をゲストに迎えて楽曲試聴会を実施。選出された楽曲は後日FRIENDSHIP.を通じて配信リリースされ、プロモーション面でもFRIENDSHIP.がバックアップすることが決定している。また特集の後半には、楽曲試聴会を終えたmabanuaとタイラのインタビュー、レギュラーキュレーター陣のコメントを掲載する。
取材・文 / 下原研二 撮影 / トヤマタクロウ
FRIENDSHIP.の楽曲試聴会は毎月1回のペースで行われており、アーティストから届いた音源を、ミュージックビデオやプロフィールなどをプロジェクターで映しながら1曲ずつ選定していく。この日の試聴会では総勢25組のアーティストの音源をチェック。今回の応募者の活動形態はバンドとシンガーソングライターがメインで、バンドサウンドの作品が多い印象だったが、タイラ曰く「送られてくる音源のジャンルはバラバラで、テクノやヒップホップの作品も多い」とのことだ。音源の試聴中は、各キュレーターがざっくばらんに意見を交換し合う様子や、mabanuaが1曲1曲に真剣に耳を傾けながらメモを取る姿なども見られた。
約1時間ですべてのアーティストの楽曲試聴が終了。通常はこの後、どの作品をFRIENDSHIP.からリリースするかをジャッジする投票タイムに移るが、この日はmabanuaの提案により再度1組ずつ音源の聴き直しが行われた。投票方法は、キュレーターそれぞれが各アーティストの作品に「◯=通過」「△=保留」「該当なし」の3択で票を入れていくというもの。投票前のディスカッションでは、FRIENDSHIP.に届く楽曲のクオリティが回を重ねるごとに上がってきているとしつつも、「◯◯っぽくてオリジナリティを感じない」「平均点は取れているけど決め手に欠ける」といった厳しい意見も挙がった。
投票の結果は、「通過」が「保留」を上回ったのは25組のうち3組のみという内容に。ここからは「保留」でも投票数の多かった作品を再度チェックし、保留の理由を並べてリリースするに値するかの話し合いが行われたが、残念ながら対象作品なしという結果となった。最終的に「通過」候補3組の中で最も投票数の多かった3ピースバンド・Pablo Haikuと、次点のシンガーソングライター・スウが今回の試聴会を通過。この2組の楽曲は、後日FRIENDSHIP.を通じて配信リリースされる。
FRIENDSHIP.楽曲試聴会 選出作品
- Pablo Haiku「park」
- スウ「手を繋げないままさようなら」
楽曲試聴会を終えて
──楽曲試聴会、お疲れ様でした。mabanuaさんはゲストキュレーターとして参加してみていかがでしたか?
mabanua キュレーターの皆さんからパッと出てくる意見が熟考したものと言うより、音を聴いて反射的に出たもののような気がしました。それは膨大な音楽知識と、これまで育んできた感受性から出てきたものだと思うし、いろんな意見を聞けたのは面白かったですね。あと不思議に思ったのは、今回応募してくれた皆さんはプロフィール文もしっかり書いてくださっていたんですけど、プロフィールの情報と実際のサウンドが全然違うみたいなのが多かった(笑)。
タイラダイスケ(FREE THROW) プロフィールにオルタナって書いてる人の音源が全然オルタナじゃないみたいな(笑)。
mabanua そうそう(笑)。
──FRIENDSHIP.の楽曲試聴会にゲストキュレーターが参加するのは今回が初ですよね。タイラさんは今日の試聴会いかがでしたか?
タイラ FRIENDSHIP.はいろんなジャンルのキュレーターが集まっているから、1つの作品に対しても「そこが輝いて見えるのか」「それは気付かなかった」みたいな発見があるんです。例えば片山翔太くんはライブハウスで働いているから「実際のライブはこんな雰囲気ですよ」と、現場の人ならではの情報を持っていたりして。プラスな意見とマイナスな意見、どちらもあって然るべきだと思うから、立ち位置の異なる人間がそろっているのはFRIENDSHIP.というサービスの魅力だと考えています。なので今回、mabanuaさんというまた違った価値観を持った人に参加していただけたのはシンプルにうれしかったです。
──mabanuaさんはプロデューサーとしても活躍されていますが、普段はどういう視点からほかのアーティストの音源をチェックしているんですか?
mabanua 例えば僕がそのアーティストをプロデュースすると考えて、「バックのオケがどういうバランスで作られているか」「その中に対しての歌がどういう位置にあるか」「ミックスがどういうふうにされているか」みたいに全体を聴くようにしています。日本だと歌詞とメロディに重点を置く人が多いんですけど、僕はバックのほうから探っていって、だんだんとフロントに目線をずらしていくような聴き方をしているかもしれません。
──それで言うと、今回の試聴会でチェックしていただいた音源はどうでしたか?
mabanua ジャンルのバリエーションがもっとあるかなと思ったんですけど、今回はバンドサウンドのものが多かったですよね。あと音が長めというか、空間表現重視な作品が多かった。音の減衰していくカーブ、ディケイみたいなものをうまく調整している作品がよくも悪くもなかったなと。基本的に音がバーッと伸びていって、その中で歌詞を乗せるスタイルが多かったというか。世界的なトレンドとは異なる楽曲が多くて、それは逆に面白かったです。
タイラ 確かに今回はバンドサウンドの作品が多かったですよね。いつもは打ち込み系のアーティストがいたり、トラップ系のラッパーがいたりで毎回ジャンルはバラバラなんですよ。FRIENDSHIP.の場合、普段アーティスト活動をしている人や、ライブハウスで働いている人などがキュレーターとして音源を聴くっていう前提があるので、LITEの井澤くんに聴いてもらいたくて音源を送ってくるバンドや、The fin.のサウンドを目指して曲作りをしているんだろうなっていうバンドもいます。
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可能性を感じた2組