甲本ヒロト(Vo, Harmonica / ザ・クロマニヨンズ)と内田勘太郎(G / 憂歌団)によるブルースユニット・ブギ連が2ndアルバム「懲役二秒」をCDとアナログでリリースした。
甲本と内田は2019年にブギ連を結成し、1stアルバム「ブギ連」を発表。さらにワンマンライブ「ブギる心」を開催し、歌とハーモニカ、ギターのみの正統派ブルースを真正面から鳴らしてリスナーを熱狂させた。しかしその後、表立った活動は一切なく、新作が届けられたのは約5年ぶりのこと。音楽ナタリーでは甲本と内田にインタビューし、再び動き出した経緯、そして前作に引き続き切れ味鋭い骨太のブルースナンバーが詰め込まれている「懲役二秒」について話を聞いた。
取材・文 / 近藤隼人
今まで聴いてきたものがその場で自然と出てくる
──5年前の1stアルバム「ブギ連」発売時のインタビューで「ザ・クロマニヨンズの邪魔をしないように」「定期的にどれだけのことができるかわからない」とおっしゃっていましたが、再び動き出したきっかけは何かあったんですか?(参照:ブギ連「ブギ連」インタビュー)
甲本ヒロト(Vo, Harmonica) なんとなくですよね、なんとなく。
内田勘太郎(G) そうですね。もうやらないっていう気持ちもなかったですし。
甲本 「できたらいいね」っていう話は日々の会話の中でよく出てましたね。だいたい電話や、会って話をしたときに「またブギ連できたらいいね」と話していました。友達と遊んで帰るときに「またね」って言うじゃないですか。そんな感じです。そして日々の生活の中で時間が許したというか、ブギ連のレコーディングをできる時間が作れた。
内田 自分の気持ちは5年前と変わっていなくて、ずっと続いている感覚があったんです。酔っぱらって電話したりすることがよくあって、そういうときに「またやろうね」じゃなく、「今年ちょっと空いてる時期があるからやりますか」と。
甲本 具体的に見えたんですよね。
内田 1回目のレコーディングは去年だったよね。
甲本 去年の10月ぐらいですかね。ぽっかり2、3日空いてるから、勘太郎さんが沖縄から東京に来れたらやりましょうと。でも勘太郎さんはブギ連のためだけに東京に来たんじゃなくて、前後にライブとかやってましたよね。
内田 そうそう。亜無亜危異の(仲野)茂と2人でライブをやって。手がボロボロになって、ブギ連のレコーディングをするのに申し訳ない日があったよね。
甲本 全然弾けなくて。でも、そのテイクがアルバムに入ってますよ(笑)。「指が痛いんだよねー」とか言ってて、「大丈夫? 勘太郎さん」って。でも録音するときは何回も演奏して、あとで聴いたら「これはこれでいいか」という話になった。
──前作のインタビューでは、その場に現れる泥を練るようにして、セッションのようにレコーディングをされたと話していましたが、今回も同じ形式で?
内田 そうね。「こんな感じで」っていう曲の原型はいくつか持ち寄って。ヒロトさんもせっかくの機会が無駄にならないように、保険はちょっとかけてきたみたいで、数曲用意してきました。
甲本 でも、いざやってみたら準備は特にいらなかったですね。勘太郎さんとは普段からずっと一緒にいて何かを練って作っているわけではないけど、僕はリスナーとしてずっとブルースを聴いているし、ブギ連に関してはある程度そういう蓄積や下敷きがあるから大丈夫なんです。オリジナル曲ではあるけど、曲を作ったというよりかは、今まで聴いてきたものが手癖と一緒にその場で自然と出てくる。だから一生懸命レコーディングに臨む感じではないんです。「ブルースってこんなんだよね」っていう真似事をしたり、ハーモニカも「このフレーズが吹きたい」と練習するくらいで。
──レコーディングは何日くらいやったんですか?
内田 4、5日だったかな……。
甲本 2日間の録音を2回。そんな感じでしたよね。でも1日の作業時間は2時間ぐらい。集中力がそんなに続かないから。
内田 録り終わったら飲みに行っちゃう。まだ明るいうちに(笑)。
ブルースは“型”
──1stアルバム発売時には渋谷CLUB QUATTROや東京キネマ倶楽部で単独公演「ブギる心」が開催されました。どのライブも大盛況でしたが、ご本人たちとしても2人でステージに立って、何かつかんだものがあったのでしょうか?(参照:内田勘太郎×甲本ヒロトのブギ連、その場限りの音を紡いだ迫力のお披露目ライブ / 内田勘太郎×甲本ヒロトによるブギ連、熱狂のブルース鳴らした「ブギる心」ファイナル)
内田 50年以上ステージに立ってるから、そんなに顕著にはないですね。緊張しないようではダメだし、逆に緊張で弾けないようではもっとダメ。ライブでも録音でも、やっぱりその場の空気にテンションがかかるじゃないですか。でもブギ連だとそれが非常に少ない瞬間があって。ヒロトさんと一緒だと「ここはこうしよう」とか「がんばろう」とか、そういう気負いがなく自然に演奏ができる。ブルースという音楽の特性に近いところ、おいしいところだけをいただいてるという感覚で。だからライブは本当楽しかったという印象だけが残っています。「またやりたいな」という気持ちがそのあともずっとあった。
甲本 ブルースって実は“型”なんですよ。勘太郎さんが弾き始めたら「あ、あの型か」とわかる。で、僕はそれに乗っかっていく。その楽しさですね。
──“型”というのは、例えば12小節のスリーコード進行だったり?
甲本 そうですね。そのスリーコードにもいくつかの型があって、「次はどの型でいく?」と確認し合う感じ。だからブギ連では作曲というものはしていなくて、いわばセッションなんです。そしてライブだと、より自由になる。とっ散らかる可能性もあるんですけど、それをなんとかしようとする“Show Must Go On”な現場なんですよ。それをまた楽しみたいと思ってます。
──今回のアルバムも、さまざまなブルースの先人の楽曲が下敷きになっているんでしょうか?
内田 今回に関して言うと、下敷き、元ネタというのはあまりないかも。より開かれた感じがあるというか。ギターを弾くときのタッチとか、そういうところには影響が出てると思うけど、形式からはみ出そうとする気持ちがあるから。2人という少人数だと、小節数とかが適当でもそんな迷惑にならないですし(笑)。バンドの人数が増えるとね、適当にやると迷惑かけちゃうけどね。自分の演奏に責任を感じつつも、そのうえで楽しめる。あらゆる人とセッションをやってきましたけど、そういう場所はブギ連だけです。
甲本 「あの型だな」ってお互いにわかったあと、自分たちで実際に演奏し始めると全然違うものになっていって、それがまた面白いんですよ。うねってうねって、こんなんなっちゃったという。ブルースの型ってものすごくたくさん種類があるんですけど、ブギ連の節操のなさが面白く感じられるアルバムになっていると思います。
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