マーシーがクロマニヨンズで初めて歌った理由
──アルバムを順に聴き進めていく中で一番驚いたのが、やっぱり4曲目の「チャンバラ」です。
マーシー歌ってる!(笑)
──そうです! マーシーさんが歌うことは、皆さんで相談して決めたんですか?
いや、単純にマーシーが「チャンバラ」と「神様シクヨロ」は自分で歌うって言ったんです。それはみんなで話し合うことではない。
──マーシーさんがご自分で歌うことを想定してこの2曲を作られたのでしょうか?
マーシーに聞いてみないとわかんない。クロマニヨンズのレコーディングはメンバー4人の一発録りで、そのときマーシーはギターを弾いていて。だから2曲とも最初は僕が歌ったんだよ。その後の作業の中でマーシーが「自分で歌う」って言ってきたから別録りで歌ってもらった。
──マーシーさんのボーカル曲はザ・クロマニヨンズでは初で、前回はザ・ハイロウズ時代までさかのぼり、おそらく「荒野はるかに / ズートロ(69バージョン)」に収録された「64,928-キャサディ・キャサディ-」で2004年以来。2010年代にはましまろ(真島昌利がヒックスヴィルの真城めぐみ、中森泰弘とともに結成したバンド)で歌われることはありましたが、かなりひさしぶりですね。
こんなに歌ってなかったのは確かに珍しいね。何か心境の変化があったのかな。
──そこについてヒロトさんからマーシーさんにオーダーすることはなかったんですか?
ずっと歌ってほしかったし、どうして歌わないんだろうと思っていた。でも僕から「歌いなよ」って言うのは変なんですよ。僕らは周りから促されてやっているんじゃなくて、自分がやりたいことをやってるだけ。今回、マーシーが歌いたくなった。だったら歌ったほうがいい。それだけのことです。
──では「自分が歌う」とおっしゃったことで、ヒロトさんはどう思いましたか?
うれしかったよ。「マーシーが歌ってくれる!」って思った。いきなり2曲やるって言うからびっくりしたけど(笑)。
──ひさしぶりにマーシーさんの歌を聴いてどう思われましたか?
ああ、マーシーだなと思ったよ。上手も下手もない、唯一無二。今回の曲を並べてみたとき、マーシーが歌う曲があるとやっぱりいいアクセントになってるね。でも僕の中で彼が歌うことはそこまで特別なことでもなくて。もともと僕はマーシーがボーカルをやっているバンドのライブを観に行っていたし、そもそも歌う人だと思っている。僕と一緒にやるようになってギターに専念するようになったから、そっちの腕前もどんどん上がってきたんだよね。だから今はギターソロももっと聴きたいんです。
──今回ギターソロは「キャブレターにひとしずく」で聴けますが、それもヒロトさんのブルースハープに引っ張り出されるように出てくるのがマーシーさんらしいです。
ギターソロの場合は「弾きなよ」とお願いするんじゃないんだよね。ただ、僕が作った曲に「このパートはギターソロです」ってところを入れとくの。そしたら「じゃあ」ってやってくれる。逆に、マーシーの曲にハーモニカのパートが用意してあったら、「じゃあ」って吹く。
僕が過ごしていた時代の下北沢みたいな街って、ほかにないんです
──あと私が「JAMBO JAPAN」で特に印象的だったのが、ラストの「ひどい目にあいながら下北沢」なんです。
キラーチューン?
──まさしくです!東京の地名が入っているのも珍しく感じましたが、ヒロトさんにとって下北沢はどういう街ですか?
ずいぶん変わりましたが、好きな街です。僕が過ごしていた時代の下北沢みたいな街って、ほかにないんです。なんか街全体が劇場みたいなんですよ。
──それはいわゆる「演劇の街」とはまた別の意味で?
そうそう。あの頃、下北沢にいる連中ってそれぞれが自分の役をこなしているように過ごしていて。まるで演劇の中で起こるような面白い出来事が事実として目の前に訪れる。だからなんか自分もそのストーリーの中に引きずり込まれるような感覚。今思えば、些細でくだらない出来事ばっかだったかもしれないけど。もしかしたら当時の年齢とかもあって、たまたま僕がそんな気分で過ごしていただけかもしれない。でも全部演劇的に見えたんです。
──ヒロトさんが岡山から上京して下北沢に住み始めたのは、まだザ・ブルーハーツを結成する前の80年代前半ですよね。当時はどういう気持ちで過ごしていたんですか?
「バンドやろうぜ!」とは思っていたけど、たいしてがんばっていないんですよね。「ひどい目にあいながら」とか言ってるけど、なんとかなるわって気楽なもんです。周りにいた連中もまだなにがなんだかで、一緒に楽しく過ごせたし、「珉亭」にいた(松重)豊も、実際今になってみたらみんなちゃんとやってて、「ほら見ろなんとかなっただろう」って言えちゃう。自分たちは今でもホント呑気ですけど(笑)。
──クロマニヨンズが松重豊さん監督の「劇映画 孤独のグルメ」に提供した主題歌「空腹と俺」も今回のアルバムに収録されています。松重さんとヒロトさんがアルバイトをされていた「珉亭」の前で撮影されたツーショット写真も印象的でした。「ひどい目にあいながら下北沢」が生まれたのは、松重さんと長い時間を経てコラボレーションできたことに触発されたのかなとも想像していました。
いや、「ひどい目にあいながら下北沢」という曲自体はずいぶん昔からあったんです。なんとなく、ずっと出していなかった。でもおっしゃる通りかも。今回あんな形で豊と一緒に何かやれたことで気分が高揚したのは確かです。まず俺に声をかけてくれたことがうれしかったし、その期待に100%以上で返したいと思った。はるか昔の下北沢の風景が自分の中でまたちょっとリアルになった。だからこの曲を今やってみようと思えたんだと思う。すごくいい気分だったからフィットしたね。
ライブは練習の成果を見せる発表会じゃない
──11月にはこのアルバムのツアーが始まりますが、その頃にはすっかり足も直った新しいヒロトさんの姿を観れそうですね。
そうだね、今度は竹馬で。
──さらにおもちゃ感が増して(笑)。
ライブは本当に出たとこ勝負だけど一生懸命やります。しくじったとしても“一生懸命のしくじり”なんで、みんなが許さなくても僕が許します(笑)。
──そもそも普段のコンディションや体調がライブに影響することはありますか?
例えばダンサーのように具体的に決まった振り付けとかあったら、キツいかも。でも僕らがやっていることに元々決まった形なんてない。だからその日にできることをやるしかないんですよ。いつも同じことはできないけど、そのときにしかできないこともある。
──では体調を整えたり、体力の衰えに抗うこともあまりされない?
そんな無駄なことはしない。逆らってもしょうがない。成り行きです。ジョギングするとかジムに行って鍛える時間があったら、レコード聴いていたほうがいいじゃん。
──その日にできるパフォーマンスを最大限にすると。
うん。ほとんど言い訳ですけど(笑)。怠けるためにうまいことカッコつけて、そういうことばかり言ってる。ライブは発表会じゃないんだぜ、とか。
どんなに無様な姿でも一生懸命やる
──40年ほどバンドをやり続けている中で、ご自身の変化は感じますか? 声の出し方がザ・ブルーハーツ時代とは違う、ステージでの動き方が変わってきたなど。
毎日違うと思う。でも変化を感じるためには、以前の自分がどんなだったか覚えてなきゃいけない。それがまったく覚えてないんですよ(笑)。だからわからない。
──なるほど。では、ずっとツアーを回られてる中でこの公演はよかったなという感覚はありますか?
ある!
──逆に今回はあんまりだったなということは?
あんまりだったなと感じても、「今日の会場やりにくかったなあ」とか人のせいにしちゃうんだけど(笑)、そういうのはたまにある。でもライブ中は絶対にあきらめないよ。どんなに無様な姿でも一生懸命やる。そうするとね、自分は今日やりにくかったなって思っていても、お客さんが「今日最高でした!」って言ってくれることがあるんです。そういうときは「わかってねえな」と思いながら、「すごくありがたい」。
──なるほど。
逆に「俺たちめっちゃよかったじゃん今日」ってメンバー全員が感じてても、「今日ちょっと調子悪かった? 風邪引いてた?」って言われることもある。よくあることです。そもそもいろんな人がいるんだから、しょうがないよ。 だから、もう考えない。反省もしない。とにかく毎日一生懸命やるだけです。
──そこは全然怠け者じゃないですよね。
そうなんだよね。ライブやってるときだけは一生懸命。ステージに立った瞬間になんかがあるんですよ。みんなの演奏も普段の練習と違うんだけどそれがいいんです。練習も楽しいけどライブは桁外れです。
──必死のライブを観に行くのが楽しみになりました。
ありがとう。今度、高円寺で会ったら今日の思い出を話そう! 「あの日ナタリーにしゃべったことは全部でたらめなんだぜ」って言ってやる。
公演情報
ザ・クロマニヨンズ ツアー JAMBO JAPAN 2025-2026
- 2025年11月13日(木)鹿児島県 CAPARVO HALL
- 2025年11月15日(土)熊本県 熊本B.9 V1
- 2025年11月16日(日)福岡県 Zepp Fukuoka
- 2025年11月20日(木)神奈川県 CLUB CITTA’
- 2025年11月23日(日・祝)秋田県 Club SWINDLE
- 2025年11月24日(月・振休)青森県 青森Quarter
- 2025年11月26日(水)北海道 小樽GOLDSTONE
- 2025年11月27日(木)北海道 CASINO DRIVE
- 2025年12月3日(水)島根県 アポロ
- 2025年12月5日(金)広島県 LIVE VANQUISH
- 2025年12月6日(土)山口県 周南RISING HALL
- 2025年12月8日(月)奈良県 EVANS CASTLE HALL
- 2025年12月9日(火)和歌山県 SHELTER
- 2025年12月12日(金)山梨県 甲府Conviction
- 2025年12月16日(火)東京都 Spotify O-EAST
- 2025年12月18日(木)石川県 金沢EIGHT HALL
- 2025年12月20日(土)長野県 NAGANO CLUB JUNK BOX
- 2025年12月21日(日)長野県 NAGANO CLUB JUNK BOX
- 2025年12月25日(木)大阪府 GORILLA HALL OSAKA
- 2025年12月27日(土)岐阜県 岐阜club-G
- 2025年12月28日(日)愛知県 DIAMOND HALL
- 2026年1月9日(金)福島県 郡山HIP SHOT JAPAN
- 2026年1月10日(土)宮城県 SENDAI GIGS
- 2026年1月13日(火)静岡県 LiveHouse 浜松 窓枠
- 2026年1月17日(土)愛媛県 WstudioRED
- 2026年1月18日(日)高知県 X-pt.
- 2026年1月22日(木)茨城県 mito LIGHT HOUSE
- 2026年1月28日(水)千葉県 千葉市民会館
- 2026年2月1日(日)群馬県 昌賢学園まえばしホール(前橋市民文化会館)大ホール
- 2026年2月7日(土)三重県 シンフォニアテクノロジー響ホール伊勢
- 2026年2月8日(日)愛知県 岡谷鋼機名古屋公会堂 大ホール
- 2026年2月14日(土)埼玉県 さいたま市文化センター 大ホール
- 2026年2月15日(日)栃木県 栃木県教育会館
- 2026年2月21日(土)大分県 中津文化会館 大ホール
- 2026年2月23日(月・祝)宮崎県 都城市総合文化ホールMJ 大ホール
- 2026年3月1日(日)静岡県 静岡市清水文化会館(マリナート)大ホール
- 2026年3月7日(土)徳島県 あわぎんホール
- 2026年3月8日(日)香川県 綾歌総合文化会館アイレックス
- 2026年3月10日(火)神奈川県 茅ヶ崎市民文化会館 大ホール
- 2026年3月14日(土)富山県 高周波文化ホール(新湊中央文化会館)
- 2026年3月15日(日)福井県 鯖江市文化センター
- 2026年3月17日(火)東京都 LINE CUBE SHIBUYA(渋谷公会堂)
- 2026年3月20日(金・祝)岡山県 岡山芸術創造劇場ハレノワ 大劇場
- 2026年3月22日(日)鳥取県 鳥取市民会館 大ホール
- 2026年3月27日(金)京都府 ロームシアター京都 メインホール
- 2026年3月29日(日)兵庫県 神戸国際会館 こくさいホール
- 2026年4月1日(水)東京都 府中の森芸術劇場 どりーむホール
- 2026年4月4日(土)山形県 天童市市民文化会館
- 2026年4月5日(日)岩手県 花巻市文化会館 大ホール
- 2026年4月11日(土)佐賀県 佐賀市文化会館 中ホール
- 2026年4月12日(日)長崎県 諫早文化会館 大ホール
- 2026年4月18日(土)北海道 カナモトホール(札幌市民ホール)
- 2026年4月24日(金)大阪府 フェスティバルホール
- 2026年4月25日(土)滋賀県 大津市民会館 大ホール
- 2026年4月29日(水・祝)新潟県 長岡市立劇場 大ホール
- 2026年5月10日(日)沖縄県 ミュージックタウン音市場
プロフィール
ザ・クロマニヨンズ
1980年代からザ・ブルーハーツとザ・ハイロウズで活動をともにしてきた甲本ヒロト(Vo)と真島昌利(G)に、小林勝(B)と桐田勝治(Dr)を加えた4人組ロックバンド。2006年7月の“出現”以来、毎年コンスタントにリリースを重ねており、2025年10月に18枚目のアルバム「JAMBO JAPAN」をリリースした。ライブ活動も精力的に続けており、2025年11月から2026年5月にかけてライブツアー「ザ・クロマニヨンズ ツアー JAMBO JAPAN 2025-2026」を開催する。
ザ・クロマニヨンズ (@TheCro_Magnons) | X





