ナタリー PowerPush - 手嶌葵

ニューアルバムに詰め込んだ“初めての手嶌葵”

手嶌葵がニューアルバム「Ren'dez-vous」を完成させた。アルバムのテーマは「Cinematic(映画的な)」。ジャズ、フレンチポップス、ブルース、ワルツなどのサウンドを軸にしながら、彼女が愛してやまない映画の世界を想起させるオリジナル楽曲が収録されている。

作家陣には大貫妙子、杉真理、いしわたり淳治が参加。手嶌が初めて作詞を手がけるなど、新しい挑戦が感じられるのも本作の魅力だろう。映画「ゲド戦記」の挿入歌「テルーの唄」でデビューしてから8年。27歳になった彼女は今、シンガーとして、アーティストとしてさらなる充実期を迎えつつあるようだ。

取材・文 / 森朋之 撮影 / 上山陽介 ヘアメイク / 吉田友美(ant.)

テーマは「初めての手嶌葵」

──ニューアルバム「Ren'dez-vous」が完成しました。制作をスタートさせたときはどんなアルバムにしようと考えていましたか?

手嶌葵

まず「初めての手嶌葵」というテーマを最初に決めさせていただいたんです。今までとは違う部分を含めて、いろんなものを引き出していきたいなと。もう1つは曲を聴いたとき、映画みたいな映像が浮かぶような音楽を作りたいなというのもありましたね。

──それが「Cinematic」というコンセプトにつながった、と。これまでも「The Rose」(映画「ローズ」主題歌)や「Moon River」(映画「ティファニーで朝食を」主題歌)など、映画に関連する楽曲を数多く歌っていますからね。

はい。小さい頃から親しみがあって、ずっと歌い続けていたのが映画の音楽だったので。オードリー・ヘプバーンさん、グレース・ケリーさん、マリリン・モンローさん──あの時代のロマンティックコメディが特に好きですね。楽曲で言えばやっぱり「Moon River」。「ティファニーで朝食を」の中でオードリーが歌っているシーンを観てすごく素敵だなって思ったんです。その後、ラジオで聴いたルイ・アームストロングさんのバージョンも素晴らしくて。大人になってからヘンリー・マンシーニさんという方が作曲したことを知って、サントラを聴いてみたらほかの曲も本当によかったんです。

──1960年代あたりの映画音楽がルーツなんですね。新しい映画はどうですか?

新作も観に行きますよ(笑)。映画館に行くのが大好きなんです。ちゃんとパンフレットも買いますし。今は福岡に住んでいるので、仕事で東京に来るときはいつも「今回はアレを観よう」って思ったりします。

──手嶌さんの映画の好みも、このアルバムに反映されてる?

めちゃめちゃ出てますね、はい(笑)。まず、プロデューサーさんが「葵ちゃんの好きな映画は?」と聞いてくださったんですね。そのときに挙げたのは「ショコラ」「アメリ」などで。

──お、わりと最近の映画ですね。

そうですね。今までカバーしていたのは、モノクロの古い映画の曲が多かったんです。今回、日本語(の歌詞)のオリジナル曲を作ることになったとき、私と同じ世代の方にも身近に感じてもらえるようなものにしたい、と思ったんですね。私が10代の頃に観ていた映画に寄り添って作れば、同世代の子たちにも興味を持っていただけるのかなって。

歌うことでさらに歌詞の意味がわかる

──アルバムにはまさに「ショコラ」というタイトルの曲が収録されています。作詞のいしわたり淳治さんとは、どんなやり取りがあったんですか?

いしわたりさんとは直接「こんなふうな歌詞をお願いします」ということではなくて、“設定”をお話したんですよね。「ショコラ」の場合は、フラれた女の人が主人公なんです。“船乗りに恋をするんだけど、結局フラれてしまう”という雰囲気がいいねって、みんなで話しながら。

手嶌葵

──映画の設定とプロットを決めていくような感じで?

そうですね。映像が見えると言いますか、映画のサントラのような作り方をしたかったので。「こういう映像が見える曲にしたいんですよね」という説明をさせてもらって……。いしわたりさんの歌詞は本当に素晴らしいなと思いました。拙い私のイメージをこんなにも膨らませてくれて、美しい歌詞を書いてくださって。

──いしわたりさんは、フレンチポップ風の「Voyage a Paris~風に吹かれて~」、ジプシージャズをモチーフにした「NOMAD」でも歌詞を担当していますね。

どちらの曲も「ショコラ」と同じように、私のイメージをものすごく汲んでいただいて。歌詞をいただくたびに「すごい、すごい!」って言ってましたね。同時に歌を「がんばらないといけないな」と思いましたし。

──実際にレコーディングで歌ってみてどうでした?

“歌うことでさらに歌詞の意味がわかる”ということが何度もありましたね。メロディに乗せたときに、言葉の深いところがもっと理解できるというか。例えば「ショコラ」に関して言えば、歌詞を読んだときに「私には少し大人っぽいかもしれないな」と思ったんです。自分よりもかなり年上の女の人のイメージだなって。でも、歌に乗せて歌ってみると、女の人の気持ち、切なさがグッと近付いてくる感じがあったんです。それはすごくビックリしましたね。

──歌になったときに、どんなふうに響くか?ということを想定して書かれているんでしょうね。

はい。そのことをものすごく考えていらっしゃるんだなって。だから、このアルバムを聴いてくださる皆さんにも、ぜひ歌詞を読みながら口ずさんでほしいなと思いますね。

──口ずさみやすい曲が多いですからね。テンポも全体的にゆったりしてるし。

実は私にとってはテンポが速いのもあって。例えば映画の「アメリ」も私にとっては“速いテンポ”だったりするので(笑)。今回はそれが難しいところだったんです。何度か「もうちょっとテンポを落としたい」と言ったんですが、プロデューサーさんに「大丈夫、がんばれって」と言われまして(笑)。

──やはり、ゆったりしたリズムのほうが歌いやすい?

そうですね。息をいっぱい使う歌い方なので、たぶん人の2倍くらい息を吸ってると思います(笑)。テンポが速い曲だと息継ぎが大変で。自分のリズムをつかむまでにかなり時間がかかりましたね。

ニューアルバム「Ren'dez-vous」 / 2014年7月23日発売 / 3240円 / Victor Entertainment / VICL-64074
「Ren'dez-vous」

iTunes Storeにて配信中!

収録曲
  1. いつもはじめて~Every Time Is The First Time!~
    [作詞:北村岳士 / 作曲:田上陽一 / 編曲:田上陽一]
  2. ショコラ
    [作詞:いしわたり淳治 / 作曲:兼松衆 / 編曲:兼松衆]
    ※ゲストミュージシャン : coba
  3. ちょっとしたもの
    [作詞:手嶌葵 / 作曲:大貫妙子 / 編曲:TATOO]
  4. Voyage a Paris~風に吹かれて~
    [作詞:いしわたり淳治 / 作曲:兼松衆 / 編曲:兼松衆]
  5. 1000の国を旅した少年
    [作詞:いしわたり淳治 / 作曲:内山肇 / 編曲:内山肇]
  6. NOMAD
    [作詞:いしわたり淳治 / 作曲:内山肇・北村岳士 / 編曲:内山肇]
  7. 丘の上のブルース
    [作詞:北村岳士 / 作曲:北村岳士・田上陽一 / 編曲:田上陽一]
  8. Baritone
    [作詞:手嶌葵 / 作曲:田上陽一 / 編曲:田上陽一]
  9. 明日への手紙
    [作詞:池田綾子 / 作曲:池田綾子 / 編曲:TATOO]
  10. Home My Home
    [作詞:杉真理 / 作曲:杉真理 / 編曲:杉真理]
  11. あなたのぬくもりをおぼえてる
    [作詞:Komei Kobayashi / 作曲:兼松衆 / 編曲:兼松衆]
手嶌葵コンサート2014

2014年11月23日(日・祝)
東京都 日本橋三井ホール

「Ren'dez-vous」発売記念 ミニライブ&サイン会

2014年7月23日(水)
東京都 蔦屋書店3号館 2階 音楽フロア
START 20:00

2014年8月9日(土)
大阪府 NU茶屋町 1Fコリドールプラザ特設会場
START 14:00

手嶌葵(テシマアオイ)
手嶌葵

1987年、福岡県生まれの女性シンガー。2003年と2004年に出身地の福岡県で行われた「TEENS' MUSIC FESTIVAL」協賛のイベント「DIVA」に出場し、その個性的な声で観客を魅了した。その頃に彼女が歌ったベット・ミドラーのカバー「The Rose」のデモを耳にした宮崎吾朗とスタジオジブリのプロデューサー鈴木敏夫が、2006年公開の映画「ゲド戦記」の主題歌の歌唱を依頼。さらに劇中ヒロイン・テルーの声優も担当し華々しいデビューを飾った。2007年2月には2ndアルバム「春の歌集」をリリースし、同時期にライブ活動を開始。並行して精力的な制作活動も続け、オリジナル曲のみならず洋楽カバーアルバムなども発表する。2011年6月には、スタジオジブリとの2度目のタッグとなる映画「コクリコ坂から」の主題歌「さよならの夏~コクリコ坂から~」を、映画公開直前の7月にはスタジオジブリ・プロデュースのアルバム「コクリコ坂から歌集」をリリース。2012年にビクターエンタテインメントに移籍し、カバーアルバム「Miss AOI - Bonjour,Paris!」を発表する。2014年7月にニューアルバム「Ren'dez-vous」をリリースした。