ナタリー PowerPush - 手嶌葵
ニューアルバムに詰め込んだ“初めての手嶌葵”
27歳なので色っぽいところを……
──大貫妙子さんの作曲による「ちょっとしたもの」についても聞かせてください。この曲の作詞は手嶌さん。歌詞を手がけるのはこれが初めてということですが。
最初は抵抗したんですが(笑)、「大貫さんが『ぜひ(歌詞を)書いてみてください』とおっしゃってます」ということだったので。大貫さんに見ていただいて、OKが出れば採用するということで書いてみることにしました。結局、2曲で作詞することになって(「ちょっとしたもの」「Baritone」)、いろいろと巻き込まれたなって(笑)。
──今まで「自分の気持ちや考えていることを歌詞にしてみよう」と思ったことはなかった?
なかったですね。歌うだけで十分に“自分”を出していると思っていたし、これ以上はいいかなって。だから歌詞を書くっていう発想はなかったんです。でも大貫さんに声をかけていただいたことはすごくうれしかったし、「ここは先輩の肩を借りてみよう」と思えたので。
──「ちょっとしたもの」に関して言えば、メロディもヨーロッパ的な雰囲気だし、手嶌さんのセンスともすごく合うと思いますけどね。この歌詞はどんなテーマで書いたんですか?
まず大貫さんがラララで歌っているデモを聴いたときに「まさに大貫さんの世界だ」と思ったんですね。こんなに素晴らしい曲に詞を書くんだ、というものすごい恐怖があって……。テーマというか、曲を聴いて「これは部屋の中だな」と思ったから「部屋の中で何をするだろう?」と考えて、それをノートに書いていったんです。その中からメロディに合う言葉を選んで……。でも、言葉を選ぶのはすごく大変なことなんだなって改めて思いました。私、作文はそれなりにうまかったんですけど(笑)、わかりやすい言葉を使ってイメージしている感情、場所を表すというのは本当に難しいことだな、と。プロデューサーさんとやり取りしながら、何度も何度も書き換えました。
──自分で作詞した曲を歌うのはどんな気分でした?
恥ずかしかったです、すごく(笑)。最初は全然うまく歌えなかった気がします。短編映画を観ているような感じにしたかったんですよね。作詞の段階から「自分で映画を作るなら?」という気持ちだったし、歌うときもそのことを意識していて。
──そして「Baritone」はセクシーな雰囲気の曲ですね。
「ちょっと色っぽく」と言われたので(笑)。自分なりに「色っぽいってなんだろう?」と考えたみたときに、バリトンサックスの音を思い描いたんですよ。あとはジャズバーで歌っている女の人のイメージだったり……。
──まさに映画のワンシーンのような。
はい。歌詞を書くときもマリリン・モンローさんを思い描いたりしてたので。「オードリーにも色っぽいイメージがあるな」とかミュージカル「オペラ座の怪人」の雰囲気とか、いろいろと連想しながらパズルを組み立てていくようにして書いてみたんです。
──当然、歌でも色っぽさを出して。
それも“初めての手嶌葵”ですよね(笑)。今まではコンサートに来てくださるお客様に「癒される」とか「純粋ですね」と言っていただくことが多かったんですけど、私も27歳なので色っぽいところを見せてもいいんじゃないかなって思って。
すごく味わい深い曲が集まった
──手嶌さんと交流のあるシンガーソングライター池田綾子さんが書き下ろした「明日への手紙」も印象的でした。この曲は“等身大の手嶌葵”が感じられる曲ですよね。
はい。ちょっとだけ前に進むための曲だと思うんですよね、この曲は。バラードなんですけど、すごく前向きで力強いイメージがあって、背中を押してくれるような曲になったんじゃないかなって。池田さんがこの曲を書いてくださったとき、「大丈夫かな?」って言われたんですけどね。
──どういうことですか?
「もがきながら」という歌詞があったりするので、「葵ちゃんにはちょっと言葉がキツいかな?」って心配してくれたんです。私としては「全然大丈夫です」という感じだったんですけどね。「今までとは違う部分を見せていきたい」という気持ちもあったし、こういう言葉を歌えれば“静かな人”というイメージも変わってくるんじゃないかなって……。おとなしいと思われがちですけど、そんなことはないですから。
──「癒される」「おとなしい」というイメージについて、「実像とは少し違うんだけど」と感じることもあった?
そうですね。普段はバリバリの博多弁だし(笑)、決しておしとやかではないです。
──確かにアルバムの話を聞いていても、「自分はこうしたい」という強い意志がはっきり伝わってきますからね。もしかしてガンコですか?
その通りです。博多っ子なので(笑)。だから「明日への手紙」は歌っていてすごくすがすがしかったんです。自分の気持ちをすごく汲み取っていただいてるなと思ったし、「こんなに思ってくださってるんだな」って。
──「迷いながら揺れながら / 歩いてゆく」というフレーズもありますが、これまでの音楽活動の中で、こういう気持ちになったこともありますか?
ありますね。8年も活動させていただいてると、「このままでいいのかしら?」と思うこともあったので。
──そういう壁はどうやって乗り越えてきたんでしょう?
うーん……。例えばファンレターをいただいたり、CMで自分の声が流れてきたり、ライブのときに温かい拍手をいただいたり。そういうときは「続けてもいいのかな」と思いますね。そのぶん、「もっと上手にならないと申し訳ない」と思いますけどね。もっといい歌を歌って、応援してくれる皆さんに喜んでいただきたいなって……。負けず嫌いなところもあるので、「もっとできるはず」って思ってしまうんですよね、どうしても。こうやって歌い続けることで、味わい深くなるんじゃないかっていう期待もあるし。
──歌に対する責任感も強くなってる?
はい。なので、コンサートですごく緊張するようになりました。お客さんに対して「いいものを見せたい」と思ってしまうので。実際に歌い出すとラクになるんですけど……。
──デビュー当初の緊張感とは違うんでしょうね、きっと。
最初の頃はほぼ記憶がないんですよ。自分がどこで何をしていたかも全然覚えてないっていう。覚えてるのは「周りに大人がいっぱいいるな」っていうことくらいかな(笑)。今は自分も大人になりましたし、後輩もいるので「しっかりしなくちゃいけないな」って思っています。
──“初めての手嶌葵”をテーマにした「Ren'dez-vous」も大きなきっかけになりそうですね。音楽の幅もさらに広がりそうだし。
そうですね。「こんなに大人っぽい曲が歌えるのかな?」「こんなに楽しい歌を歌えるんだろうか?」とか思ったりもしましたけど、できあがってみるとすごく味わい深い曲が集まったなって。新しいこともたくさんできたし、本当に楽しかったです。
──最後にこの先のビジョンについても聞かせてもらえますか?
映画には関わっていきたいですね。自分の歌がエンディングで流れるのはやっぱりうれしいですし、最初にとても素晴らしいこと(映画「ゲド戦記」の主題歌「テルーの唄」)を経験しているので。あとはいい意味でハメを外すといいますか、自分らしく歌いながら少しずついろんなことに挑戦していけたらいいなと思っています。そんな挑戦も皆さんに聴いていただきたいですね。
手嶌葵 - Voyage a Paris ~風に吹かれて~ 【Music Video】(short ver.)
手嶌葵 - ニューアルバム『Ren'dez-vous』トレーラー映像
iTunes Storeにて配信中!
収録曲
- いつもはじめて~Every Time Is The First Time!~
[作詞:北村岳士 / 作曲:田上陽一 / 編曲:田上陽一] - ショコラ
[作詞:いしわたり淳治 / 作曲:兼松衆 / 編曲:兼松衆]
※ゲストミュージシャン : coba - ちょっとしたもの
[作詞:手嶌葵 / 作曲:大貫妙子 / 編曲:TATOO] - Voyage a Paris~風に吹かれて~
[作詞:いしわたり淳治 / 作曲:兼松衆 / 編曲:兼松衆] - 1000の国を旅した少年
[作詞:いしわたり淳治 / 作曲:内山肇 / 編曲:内山肇] - NOMAD
[作詞:いしわたり淳治 / 作曲:内山肇・北村岳士 / 編曲:内山肇] - 丘の上のブルース
[作詞:北村岳士 / 作曲:北村岳士・田上陽一 / 編曲:田上陽一] - Baritone
[作詞:手嶌葵 / 作曲:田上陽一 / 編曲:田上陽一] - 明日への手紙
[作詞:池田綾子 / 作曲:池田綾子 / 編曲:TATOO] - Home My Home
[作詞:杉真理 / 作曲:杉真理 / 編曲:杉真理] - あなたのぬくもりをおぼえてる
[作詞:Komei Kobayashi / 作曲:兼松衆 / 編曲:兼松衆]
手嶌葵コンサート2014
2014年11月23日(日・祝)
東京都 日本橋三井ホール
「Ren'dez-vous」発売記念 ミニライブ&サイン会
2014年7月23日(水)
東京都 蔦屋書店3号館 2階 音楽フロア
START 20:00
2014年8月9日(土)
大阪府 NU茶屋町 1Fコリドールプラザ特設会場
START 14:00
手嶌葵(テシマアオイ)
1987年、福岡県生まれの女性シンガー。2003年と2004年に出身地の福岡県で行われた「TEENS' MUSIC FESTIVAL」協賛のイベント「DIVA」に出場し、その個性的な声で観客を魅了した。その頃に彼女が歌ったベット・ミドラーのカバー「The Rose」のデモを耳にした宮崎吾朗とスタジオジブリのプロデューサー鈴木敏夫が、2006年公開の映画「ゲド戦記」の主題歌の歌唱を依頼。さらに劇中ヒロイン・テルーの声優も担当し華々しいデビューを飾った。2007年2月には2ndアルバム「春の歌集」をリリースし、同時期にライブ活動を開始。並行して精力的な制作活動も続け、オリジナル曲のみならず洋楽カバーアルバムなども発表する。2011年6月には、スタジオジブリとの2度目のタッグとなる映画「コクリコ坂から」の主題歌「さよならの夏~コクリコ坂から~」を、映画公開直前の7月にはスタジオジブリ・プロデュースのアルバム「コクリコ坂から歌集」をリリース。2012年にビクターエンタテインメントに移籍し、カバーアルバム「Miss AOI - Bonjour,Paris!」を発表する。2014年7月にニューアルバム「Ren'dez-vous」をリリースした。