田村ゆかり|会えないけれど、ポジティブに

過去のデモから見つけ出した今の気分

──「Catch me Cats me」からアップテンポなまま突っ走るのではなく、ラスト直前の9曲目にはワルツバラードの「楽園巡礼~Pilgrim of Eden」が配置されています。

曲順は本当に悩んだんですよ。この曲は中盤の流れに混ぜ込んでもよかったかなと思うんですけど……曲にはそれぞれ顔があって、並びによって印象が変わっちゃうんです。どの曲もいい顔で見せたいなと思ったときに、「楽園巡礼~Pilgrim of Eden」はここかなと思って。

──二分するならば“暗い曲”ですけど、「楽園巡礼~Pilgrim of Eden」には大人びた穏やかさ、儚さがあって。終盤にこの曲が来るのはいい雰囲気だなと思いました。

ホントですか? だいぶ怨念もこもってますけど(笑)。歌詞のモチーフは楽園だけど、狭ーいところのイメージなんですよ。めちゃめちゃ狭い世界だけど無限、みたいな……全然イメージが伝えられない(笑)。すごく危うい感じでバランスが取れていて、1つでも崩れると全部が壊れちゃうみたいな。この曲もさっきの「涙のち晴れマーク」と同じ、3年分のデモから発掘した曲ですね。不思議なもので、過去のデモテープを改めて聴いてみても、「いいな」と思ってチェックするのはだいたい同じ曲なんです。自分の好みだからそんなには変わらない。でも、そのとき作っている作品の中でバランスを考えて外しちゃった曲も、しばらく経ってから聴くと新しい発見があったりして。これは今の気分にドンピシャで、「探していたものがあったー!」という感じでしたね。

──そしてラストの「La La Love call」ですが、これは全体にポジティブなムードがある中でもとりわけポジティブで。人に対する信頼や愛で満ちてますよね。

これはもう本当に、ライブのことを考えてのものですね。みんなへのメッセージとしては一番強いかも。ツアーの終盤で歌うところがすごくイメージできたんですよね。だから「また会いましょう」みたいな思いを乗せた曲にできたらいいなって。でもまあ、会えないんですけど(笑)。

粉がないとなると無性にホットケーキ作りたい

──アルバムの全体像としてこちらの印象をかなり押し付けちゃいましたけど、ご自身としてはどうお思いですか?

私自身が特別ポジティブな気持ちでいるわけじゃないんですけど、不思議なもので……ちょっと話は逸れちゃいますけど、私、MCでしゃべるのが全然好きじゃないんです。こんな愚痴とか聞いても楽しくないでしょ?と思っちゃうし(笑)。前に神楽坂ゆかちゃんというキャラクターでワンマンライブをやったとき、彼女の場合はMCも台本で決まっていて、書いてあることをお芝居するような感じだったんですけど、神楽坂さんはポジティブなことばっかり言うんですよ。そのライブが終わったとき、すごく晴れやかな気持ちになったんです。書いてある言葉だったとしても、ポジティブなことばかり言ってると本当に楽しい気分になるんだなって。今回、松井さんに明るい曲の歌詞を発注している中で、だんだん楽しくなってきちゃって。ポジな語彙はないのに(笑)。

──何か大きな心境の変化があったのだとしたら、そこをお聞きしたいと思っていたのですが。

2017年9月に開催された田村ゆかりデビュー20周年公演「20th Anniversary 田村ゆかり LOVE ♡ LIVE2017 *Crescendo ♡ Carol*」の様子。(撮影:荒金大介)

心境の変化は特にないですね。ライブは「やらなきゃな」と思う部分もあるけど、もちろんやりたくてやっていますし、やれないとなったらすごくやりたいんですよ。今、ホットケーキの粉がどこのスーパーも売り切れちゃってるじゃないですか。別にホットケーキ作りたいとも思っていなかったけど、粉がないとなると無性に作りたい(笑)。なんならちょうど今頃ツアーが始まっていたはずで(取材は6月上旬に実施)、「そうか、ホントは今頃旅してたんだな」と思っちゃって。旅ができていないことが悲しくなって「去年は楽しかったな」って漠然と思っちゃったんです。早くライブやりたいなと思ってますね……今は(笑)。

──ここまでライブのない日々が続いてると、元に戻ったときの一発目のライブって泣いちゃうんじゃないかなと思うんですよね。王国民(田村ゆかりファンの呼称)はツアー初日に泣いちゃうと思うんですけど、田村さん自身も泣いちゃうんじゃないかなって。

2017年9月に開催された田村ゆかりデビュー20周年公演「20th Anniversary 田村ゆかり LOVE ♡ LIVE2017 *Crescendo ♡ Carol*」の様子。(撮影:荒金大介)

いや、わかんないですね。キングレコードさんを離れたあと2年ぶりくらいにライブをやったときの皆さんの心境も同じだったんじゃないかなって。

──ああ、確かに。王国民は少し前に同じ気持ちを味わってますね(参照:田村ゆかり2年3カ月ぶりライブ、王国民はピンクの海でデビュー20周年を祝福)。

このとき私はそうでもなかった……というとアレですが(笑)、もちろん思うところはありつつも、「ちゃんとやらなきゃ」という気持ちで冷静になっていたところもあるので。ライブがやれないという制約があるからか、今はライブをやりたい気持ちが強いけど、いざ近付いてくるとどうなるか。とにかくMCが嫌なので、MCさえなくなれば気持ちは全然違うんですけど。

──作品も含めてセルフプロデュースなわけだから、そこはご自身の判断でMCの一切ないライブにしてもいいんじゃないですか?

さすがにお客さんのことを考えちゃうと、ゼロにはできないですね。自分がお客さんとして観に行くと、MCのよさもわかるんですよ。でもしゃべるほうとなると気が重いです。「あー、もうすぐMCが来ちゃうな」と思いながら歌ってるときもありますもん(笑)。

やる気はあるんですよ!

──少しずついろんなことが再開していくとは思いますが、何かすでに予定の立っていることはありますか?

今年はいつになくちゃんと計画を立てていて、本当ならいつも以上にいろんなことをやるはずだったんですよ。まだどうなるかわからないので詳しいことは言えないですけど、ツアーとは別に、いつもと違う形でライブをやろうと計画していて……◯◯◯◯◯◯◯で歌いたいのに! ちょっと今のところはどうなるか、難しいですね。

──うわー、もったいないですね。2020年は王国民にとって最高の1年になるはずだったのに。

超楽しみにしてるのに!

──本来ならばアルバムリリース後のことについて話を聞いてインタビューを締めくくりたいところなんですけど、ツアーもないし、予定もないとなると……ちなみに最近、プライベートではどんな音楽を聴いてますか?

あの……私これまで全然聴いてなかったのでよく知らなかったんですけど……私、Mr.Childrenの桜井(和寿)さんの声が好きみたいです。ミスチルを今、急に(笑)。最近CMでよく流れてる曲ありますよね。あれがめちゃめちゃいい曲だなと思って(「麒麟特製ストロング」CMソング「others」)。もっとアッパーで有名な曲はもちろん聴いたことありましたけど、バラードの桜井さんめちゃくちゃいいじゃん!って今頃。あと……米津玄師くんっていいですね(笑)。

──全国民が知ってます(笑)。

いい声の人いるなーって思って。あとは最近の道重さゆみさんのソロがいいなと思いました。

──最近はライブなど外での活動ができないぶん、配信でいろんなことをやるアーティストも増えてきましたよね。田村さんは以前からときどき生配信番組をやってましたけど、今この機会にやってみたいことなどありますか?

ツアーは先になっちゃうから、今のうちにオンライン練習会とかやれたらいいですね。みんなで新曲のコールの練習。Zoom会議みたいな感じでおじさんたちが集まってみんなで練習するの(笑)。やれないのかなあ。私もマネージャーも、インターネットに何かをアップするというのがめちゃくちゃ苦手で。「サムネイルって自動で出てくるんじゃないの?」「なんか横長になっちゃったんですけど……」みたいな。2人でやってるから組織的に自由度は高いのに、歩みは遅い(笑)。自由になんでもやっていいはずなのに何もできてないから、お客さんもやきもきしてると思う。

──YouTubeの動画もマネージャーさんと2人で、自力で上げてるんですね。

ノロノロしてるけど、やる気がないわけじゃなくて、やり方がわからないだけなんだってことはお客さんにもわかってほしい(笑)。やる気はあるんですよ!