私の哲学よりも面白くするのが優先（たむらぱん）

──今回のアルバムに収録されている「しんぱい」と「白い息」のPVは島田さんの制作ですよね。

たむらぱん　「しんぱい」はリリースが世の中の出来事的にも難しい時期だったし、内容がストレートだったから結構悩んだんです。もちろん考え抜いた結果あの曲になったんだけど、曲調はウキウキした感じだったので、能天気な曲だと思われるのも嫌で。だからPVは暗めなイメージにしたいなと思っていたら、「この楽しさを生かしたほうがいい」と提案していただいて。自分の意識になかったきっかけをもらえたことは大きかったですね。それならあまり重くなりすぎないように、映像を見たときに歌詞のストレートさがいい意味で中和されるようにとお願いしました。

──詞は確かにストレートですけど、PVを観てイメージが変わりました。「こんなに楽しい曲なんだ！」って。

島田　そう言っていただけるとうれしいです。しんみりするより、女の子たちが踊ってるのを観て楽しくなるほうが曲に合っている気がしたんですよ。本番の2日前くらいにダンスの内容が決まったんですが、彼女もちゃんと覚えてきてくださって。

たむらぱん　でも現場では風がすごかったんですよね。

島田　大変でしたね。風が止むちょっとの間しか撮れなかったから、ミスなしで踊ってくれて助かりました。

──「白い息」では謎の動物が出てきますよね。あれはラクダですか？

たむらぱん　ラクダです！ 思いを寄せる誰かがいてほしいけど、その顔や容姿は明確にしたくなかったから、あのお面で。島田さんの事務所の方の手作りなんですよ。

島田　外国人なのか日本人なのか、年齢は何歳くらいかという余計な情報が極力付かないようにしたんです。でも抽象的なイメージではなく「誰か」がいることは明確にしたほうが、曲のイメージがより伝わるんじゃないかなと思って。だったら顔を動物にしちゃえばいいんだと。

たむらぱん　分析したんですけど、「白い息」って寒いイメージだから、あえて暑い地域にいるラクダを登場させることで温度差を表現したんですか？

島田　ああ……なるほど。

たむらぱん　考え過ぎですか（笑）。でもそういう突っ込みどころや考える余白が多いもののほうが面白いですよね。小ネタであったりいろいろな解釈ができる部分があるほうが、ずっと触れて楽しめるのかなって思うんです。私は曲もPVも純粋に楽しめるようにしたいっていうのが大前提なんです。世の中に面白いことが増えたら楽しいよねって思うから、私の哲学を前面に出すよりも面白くするのが優先ですね。

いつも新しいイメージの湧く言葉をくれるんです（島田）

──「ラフ」のPVでも不思議な生き物がたくさん出てきますよね。

たむらぱん　あのときは不思議な世界を表現したくて、リアルな人間は登場させたくなかったんです。現実にはありえないけど、あったらうれしい世界。ちょっと惹かれる、そう遠くない夢の世界。そういうイメージを表現したいなって。

島田　腕が足で、足が腕の人を出したいって言ってましたよね。そう言われたときの僕の気持ちがね、また「うーん」って（笑）。

たむらぱん　言葉って限りがあるし、もっとふさわしい表現で伝えられればいいなあと思うんですけど……。

──でもそのやり取りで満足いくPVができるというのは、ちゃんとわかり合えてるからこそですよね。

島田　そうそう、彼女は具体的に指示することがなくて、いつも新しいイメージの湧く言葉をくれるんです。それはやっていて毎回新鮮ですよ。逆に僕のほうがちゃんと伝えられてないかもしれない。絵コンテも描かないし、言葉で伝えることが多いし、現場で決めることが多いから。

たむらぱん　いえいえ、ちゃんと伝わってますよ。逆に撮影前に全部決められちゃうほうが私は怖いんです。撮影は現場によって違うし、臨機応変に対応していかないといけないから。

島田　そうですね、業界の状況的にも年々そうなってますし。スタジオに入れないことも多くて、外で撮ると天気にも左右される。だからコンテをしっかり切ると後々困ることもあるんです。アーティストが何か疑問を持ったまま撮影に入ってしまうことが一番怖いと僕は思っているんだけど、その辺りはちゃんとわかり合えてますよね。