「takt op.」特集 中島美嘉|「takt op.」テーマ曲から紐解く、“寄り添わずとも求められる”シンガーの秘訣

中島美嘉がニューシングル「SYMPHONIA / 知りたいこと、知りたくないこと」を10月27日にリリースする。

表題曲のうち「SYMPHONIA」は、スマートフォン用アプリゲーム「takt op. 運命は真紅き旋律の街を」の主題歌およびテレビアニメ「takt op.Destiny」のエンディングテーマで、クラシック音楽をモチーフとしたファンタジー作品を彩るシンフォニックなナンバー。オーケストラサウンドをバックに、中島の透明感と芯の強さを併せ持つ独特なボーカルを堪能できる壮大な1曲に仕上がっている。

音楽ナタリーではアニメの放送に合わせて中島にインタビュー。この難曲をどのように歌いこなしていったのかを聞くとともに、アニメやゲームに限らず膨大な数のタイアップ曲を歌ってきた彼女ならではの“テーマ曲”への向き合い方も探った。

取材・文 / ナカニシキュウ撮影 / 星野耕作

なんてことをさせるんだ

──新曲「SYMPHONIA」は、アプリゲーム「takt op. 運命は真紅き旋律の街を」の主題歌およびアニメ「takt op.Destiny」のエンディングテーマとなっています。そもそも中島さん、アニメやゲームはお好きなんですか?

詳しいかと言われるとそうでもないですけど、やり出したり観出したりすると止まらないタイプではあります。

──「このアニメを観て育ちました」みたいなものは何かあります?

私たちの世代でアニメと言ったら、やっぱり「美少女戦士セーラームーン」とか「ドラゴンボール」とかですね。

──個人的にハマっていたというよりは、世代的にみんなが観ていたものに自然に触れていたという感じ?

そうですね。みんなが好きなものに同じように触れていた感じ。最近だとまとまった時間がなかなか取れないので、気になっているけどまだ手を付けていないものがけっこうあって。この間は姪っ子から「まだ『鬼滅の刃』観てないの?」と言われちゃいました(笑)。

中島美嘉

──となると、ゲームに関してもあまり熱中する時間は取れなさそうですね。

熱中してゲームをやったことは正直あまりなくて、寝る前にちょっとやったりする程度ですね。なぞって消していくパズルのような、シンプルなゲームがスマホにいくつか入っています。間違い探しみたいな、頭が鍛えられそうなやつとか。

──そんな中島さんのところに「takt op.」の話が来て、どんなふうに感じました?

最初にお話をいただいたのはかなり前なので、まだどんな作品か決まりきっていないことが多かったんですよ。なので、予測がつかなかったですね。「クラシック音楽をモチーフにしている」ということだけは聞いていたので、そういう作品に関われることはうれしかったです。クラシックは好きなので。

──テーマ曲である「SYMPHONIA」のデモを受け取ったときの第一印象も教えてください。

「難しい」のひと言ですね。もう「なんてことをさせるんだ!」と最初は言っていました(笑)。

──具体的には、どういうところが難しいと感じたんですか?

今まで歌ったことないようなメロディで、音程の上がり下がりがあまりにも急激だったので。「この速さで今回のような歌を歌ったこと、あったかな?」と思うくらい、けっこう大変でしたね。

──楽曲で魅力に感じた部分はどんなところでしたか?

とにかく音が壮大なところ。私は高い声で歌うのがすごく得意だと自分では思っていて、好きなんですよ。なので、高音域を効果的に使えるところが好きです。

──レコーディングも楽しくできましたか?

自分で世界観を作ってレコーディングに臨めたので、「ここはこういう歌詞だから優しく歌おう」とか、そういう部分はすごく楽しかったです。最初に言ったようにメロディラインを追うのは大変でしたし、息継ぎをする場所もあまりないので、そこは苦戦しましたけど。

──「どこで息継ぎするんだろう?」というタイプの曲は近年のトレンドでもありますしね。

そうなんですよ。最近そういう曲が増えていますよね。ブレスの位置を見つけるのが大変です。

中島美嘉

“音楽”というひとつの括りでしかない

──これは単なる個人的な感想なんですけど、「美しい音楽」というフレーズが特に刺さりました。「takt op.」という作品をひと言で見事に表現しているフレーズだと思いますし……。

うんうん、そうですね。

──であると同時に、中島美嘉というアーティストを端的に象徴する言葉でもあるなと思いまして。中島さんが歌うことでしか生まれない何かが確実にあるフレーズだと感じます。

ありがとうございます。

──さらにすごいのが譜割で。「美しい音楽に」「なって」と区切るのが普通だと思うんですけど、「美しい音楽」「になって」と、ある種不自然なところで切られていますよね。

本当ですね! 気付かなかったです(笑)。

──あえてそうすることで「美しい音楽」と言い切るニュアンスになって、より強く伝わるものになっている印象を受けました。

確かにそうですね……。さっきも言ったように高音域で歌うのが好きだというのもありますし、「美しい」という言葉が入るからにはきれいな声で歌いたいから、レコーディングでもすごく気を遣った部分でした。メロディ自体も独特ですし。

──おそらくかなり意識的にそういう切り方をしたんだろうなと思ったんですけど、中島さんの意思というよりは、完全に作詞作曲されたrionosさんの仕事ということなんですね?

そうですね。実はrionosさんにはお会いできてもいないので、すべてが謎に包まれているんですけど(笑)。

──この曲は“音楽”について歌っている曲ですよね。恋愛や人生を歌うものとは意識が違ったりしますか?

それ、リハをやっているときに思いました。それこそ「美しい音楽」というフレーズもあるので。音楽にはいろいろなジャンルがありますけど、「突き詰めれば“音楽”という1つの括りでしかないんだな」ということが込められた曲だと感じています。私はずっと音楽ジャンルを意識せずに「自分が好きと感じるかどうか」「歌っていて気持ちいいかどうか」で歌う曲を選んできて、だからたくさんのジャンルを歌うタイプのシンガーになっているんだと思っています。

──“バラードシンガー”というイメージを持っている人は多いと思いますが、バラード以外の曲もたくさん歌われていますからね。そもそも“バラード”ってジャンル分けの用語ではないですし。

例えば「今回の曲はクラシックですよ」ってなると私もすごく緊張しちゃうけど、「そういうことじゃないんだ」と思えたから楽しく歌えたのかもしれないです。

──今回、ベートーヴェンの交響曲第5番「運命」のフレーズが引用されているということなんですけど、正直どこがそれなのか、最初まったくわからなかったんですよ(笑)。

はい、私もです(笑)。これは聴いていても気付かない人が多いと思います。マニアックな部分を使っているので。

──そこもまた中島さんが歌う曲としてふさわしい感じがしました。それこそ「ジャジャジャジャーン」という有名なフレーズを使えば誰もが「『運命』だ!」とわかるわけですけど、その分どうしても作為的な印象になりやすいですし。

そうですね。

──「これを使うセンス、面白いでしょ?」ではなく、あくまで「音楽的に美しいものとして引用しているだけ」というストイックさが、実に“中島美嘉の楽曲”だなあと感じます。

ありがとうございます。

──作詞家としての目線ではどうですか? “音楽”をテーマにしたような曲は、一般的にあまりポップミュージックで歌われることの多くないと思うので「SYMPHONIA」は珍しいタイプの歌詞だと思いますが……。

私はけっこう大きなテーマをモチーフとした歌詞が好きなのでこの曲の歌詞も気に入っていますね。自分でも大きいテーマで歌詞を書くことがありますし。普段は「大人の恋愛にしてね」とか細かなテーマを与えてもらって書くことが多いんですけど、それはそれで楽しんで書いていますから、どちらのパターンも好きなんだと思います。若い頃と少し変わってきたところで言うと、「どこかリアルなものがあったらいいな」という思いが最近はあります。自分の経験だったり周りの人から聞いた話だったりの具体的な要素を少し入れることで、歌の世界がより鮮明になるんですよね。