三浦しをんが語る「雪の華」|今すぐもう1回観たい!名曲「雪の華」を新しい解釈で実写化した王道ラブストーリー

登坂広臣(三代目 J SOUL BROTHERS from EXILE TRIBE)と中条あやみの共演作「雪の華」が、2月1日に公開される。中島美嘉の冬の名曲を「orange-オレンジ-」の橋本光二郎が映画化した本作では、ガラス工芸家志望のぶっきらぼうな青年・綿引悠輔と、余命宣告を受けた女性・平井美雪の期間限定の恋が描かれる。

映画ナタリーでは、本作の公開を記念した特集を2回にわたり展開。第1弾では「舟を編む」「まほろ駅前多田便利軒」などで知られる作家の三浦しをんに、本作を鑑賞してもらった。「王道な恋愛映画を観たいと思っていた」という三浦は、“大人のラブストーリー”とうたわれる本作をどう観たのか? なお特集第2弾として、中島と橋本の対談を近日公開予定だ。

取材・文 / 浅見みなほ 撮影 / 佐藤類

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新しい曲として聞こえてくる「雪の華」

──中島美嘉さんの楽曲をもとにした映画だと聞いて、どんな印象を抱きましたか?

前から観たいと思っていたんです。歌が原作の映画って珍しいですよね。すごくいい曲であるがゆえに、劇中でずっと流れているようなことがあったら嫌だなと思っていたんですが(笑)、全然そんな扱いではなくて。肝心なところで流れますし、葉加瀬太郎さんがアレンジした「雪の華」も素敵でした。原曲が好きな人はうっとりできるはず。逆に、この曲をあまり知らない方がいたとしても、映画の世界を堪能したあとに聴くと「ああ、本当にいい曲だな」と感じると思います。

「雪の華」より。左から登坂広臣演じる綿引悠輔、中条あやみ演じる平井美雪。

──そんな楽曲の「誰かのために何かをしたいと思えるのが愛ということを知った」といった歌詞からインスパイアされた本作では、ぶっきらぼうな青年・悠輔と余命宣告された女性・美雪の、期間限定の恋が描かれています。

中島美嘉さんの声が、中条あやみさん演じる美雪の声に聞こえてくるくらいぴったりな物語ですよね。歌と映画が世界観を深め合っていました。この映画を通して、「この歌はこんな解釈もできるんだな」と、曲がまた新しく聞こえてきた気がします。

──前半は、美雪が悠輔に「100万円で1カ月間、恋人になってください」と勢いで持ちかける場面など、コミカルなシーンも交えつつ物語が展開していきました。橋本光二郎監督は、前半の軽快なタッチから後半の切ない展開に持っていくバランスに苦労したと話していましたが、そのグラデーションについてはどう感じましたか?

前半はコミカルな中にちょっと切なさがあり、後半は切なさの中に健気な明るさがあるという、その配合がすごくよかったです。1本の映画の流れとして観ても、美雪の感情の変化に違和感がなかった。序盤の「この子、大丈夫!?」って心配になっちゃうくらいのすっとんきょうな言動も、美雪がそれくらい勇気を出して、一生懸命になっているんだということが伝わってくるんですよね。そして後半は美雪がどんどん追い詰められて、切ない表情になっていく。きっとあんばいをいろいろ考えて演じられたのだと思いますが、スクリーンに映っている中条さんの演技はすごく自然ですよね。美雪を心から応援したくなりました。

母娘のシーンでは泣いてしまいました

「雪の華」より。左から中条あやみ演じる平井美雪、登坂広臣演じる綿引悠輔。

──本作のどんなところに感情移入しましたか?

最初は「100万円で恋人になってください」と言う美雪を観て、私たち観客も悠輔と思いをひとつにして「なんだかおかしな女の子が出てきたぞ!?」と感じるわけです。でも後半、悠輔が美雪のために全力疾走するシーンでは、悠輔より先にこっちが(心の中で)走り出している。この映画は、自分が美雪になったつもりで悠輔との恋愛を楽しむというより、美雪と悠輔のどちらにも感情移入できる気がしました。悠輔になったつもりで「美雪かわいいー!」と思うこともできるし、美雪になったつもりで悠輔を完璧な恋人に育てることもできる(笑)。最初のデートで、美雪が悠輔に(恋人らしい挨拶の仕方について)演技をつけるあたり、すごく好きでした。それから悠輔も学習して、帰り道でもちゃんとお見送りするようになる。2人の距離感がどんどん変化していく様子が、デートの帰り道で表現されていて、ドキドキしながら観ました。

──美雪の指導によって、悠輔がどんどん恋人らしくなっていく描写ですね。

はい。それに家族のシーンでは、2人の恋愛とはまた別に、共感できるところがたくさんありました。この映画は人間ドラマとしても見ごたえがあって、全方向から楽しめると思います。私、普段あまり恋愛映画を観ないんですが、普通こういうものなんですかね?

三浦しをん

──学園ものなどでは、観客が“壁ドン”されている気分になれるようヒロインの主観ショットで撮られているものもありますが、この映画はそういった作りではないので、撮り方のうえでもいろいろな登場人物に感情移入できるようになっていると思います。予告編では「大人のラブストーリー」とうたっていますが、そういう意味では大人が観るとより楽しめるかもしれませんね。

そう、美雪のお母さんの気持ちにもなれますしね。全体を通して2人とその周囲の人たちの気持ちの変遷を繊細かつ丁寧に描いている。だから私はより世界に入り込んで、これからいったいどうなるのかなって……はあ、気を揉んだわ……。2人の心配をしてしまって(笑)。

──特に魅力的だったシーンはどこでしょう?

お母さんと美雪のやりとりに泣いてしまいましたね。総じて家族とのシーンがすごくいいんですよ。

「雪の華」より。奥から高岡早紀演じる平井礼子、中条あやみ演じる平井美雪。

──決して尺が長いわけではないのですが、小さい頃から体が弱かった美雪と母親や、両親のいない悠輔と妹弟の会話は印象的でしたね。

これまでどういう親子だったのか、兄妹でどう支え合って生きてきたのかが伝わってきました。終盤、美雪がお母さんに電話をかけるシーンで、私また泣いちゃったし……。悠輔は、妹弟と一緒にいるシーンがすごく好きでした。お兄ちゃんとして妹や弟とけんかしたり、絶妙な生活感が感じられて。妹が美雪に嫉妬するシーンは、「そりゃあ、お兄ちゃんがあの登坂広臣で、急に彼女ができたらプンプンしたくなるよね」と思いましたし(笑)。

王道の恋愛映画を観たいとずっと思っていた

「雪の華」より、中条あやみ演じる平井美雪。

──この映画は余命1年の美雪という女性を主人公にしていますが、病気に関する詳しい描写はあまり出てきませんでした。

「美雪はなんの病気なの?」とツッコミが入るであろうことは、作り手側は百も承知じゃないですか? そこであえて病名をはっきり出さなかったのは、それ相応の理由があるはずで。たぶんこの映画は、「美雪が今ピンチです!」という前提さえはっきりわかればよくて、詳しい病状については「みなまで聞くな!」ということなんだと思うんです。そういう作りにすることで、2人の心がどう揺れ動いて、どんな関係になっていくのかを、より集中して観られるところがいい。もし詳しい病名や病状が出てきて、もっと具体的な治療シーンがあったりすると、「手術はしなくていいの!?」「フィンランドに行けるの!?」っていろいろ気を揉む部分が増えてしまうので。

──いわゆる“難病もの”映画とは一線を画していると言いますか。

“余命もの”と言えばそうなのかもしれませんが、ラブストーリーのほうが主軸ですよね。それに加えて、2人の周りにいる人々の話でもあると思う。そこで具体的な病名を出して、その病気がストーリーを作るための“ネタ”のような扱いになってしまうと、むしろ誠実ではないと思いますし。

三浦しをん

──橋本監督は「2時間近くメインの2人をずっと追いかけている。1作の中でこんなに2人ばかり出てくる映画は、これまで撮ったことがない」と話していました。それだけメインの2人にしっかりと焦点を当てながら、ピュアな恋模様を描いている本作は、ラブストーリーの“王道”と言えるのかなと思います。

王道の恋愛映画が観たいなと思っていたので、この映画のことを知って「来たー!」と感じましたね。私、こういう作品が観たかったんですよ。近頃はどうしても、2人の恋愛面での心の変化を丁寧に紡いでいく物語に対して「ベタすぎる」っていう批判やツッコミが来てしまいがちで、だから余計なエピソードや味付けを加えて、話がとっ散らかってしまう傾向にあるのかなと思っていて。でも、自分の身には到底起き得ない、素敵な美男美女の恋愛にうっとりしたいときって、誰しもあるんじゃないのかなあ? そういう意味でも、この映画はちゃんとしたおいしいお料理を食べたときのような満足感がありました。

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今すぐもう1回観たい

「雪の華」
2019年2月1日(金)全国公開
ストーリー

幼い頃から病気がちで、ついに余命1年を宣告された美雪。彼女の夢は2つ──1つは両親が出会った“約束の地”フィンランドでオーロラを見ること。そしてもう1つは、最初で最後の恋をすること。ある日ひったくりにあった美雪は、ガラス工芸家をめざす悠輔に助けられる。悠輔が男手ひとつで妹弟を育てていること、そして働く店が危機になっていると知った美雪は、「私が出します、100万円。その代わり1カ月、私の恋人になってください」と持ちかける。何も知らないまま“期間限定”の恋に応じる悠輔だったが……。かけがえのない出会いが、美雪に一生分の勇気をあたえて、悠輔の人生を鮮やかに彩っていく。舞台は東京とフィンランド。切ない想いに涙が溢れる、初雪の日に出会った2人の、1年のラブストーリー。

スタッフ / キャスト

監督:橋本光二郎

主題歌:中島美嘉「雪の華」(ソニー・ミュージックレーベルズ)

脚本:岡田惠和

音楽:葉加瀬太郎

出演:登坂広臣、中条あやみ、高岡早紀、浜野謙太、箭内夢菜 / 田辺誠一ほか

中島美嘉×橋本光二郎対談はこちら

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三浦しをん(ミウラシヲン)
1976年生まれ、東京都出身。2000年、長編小説「格闘する者に◯」でデビュー。2006年「まほろ駅前多田便利軒」で直木賞、2012年「舟を編む」で本屋大賞、2015年「あの家に暮らす四人の女」で織田作之助賞を受賞。「舟を編む」は石井裕也により映画化され、第37回日本アカデミー賞で最優秀作品賞などに輝いた。ほか「風が強く吹いている」「光」「神去なあなあ日常」「まほろ駅前狂騒曲」といった作品も映画化されている。

2019年2月8日更新