ライブを楽しめるようになったのは3日前から
──先日のライブ(8月29日に神奈川・パシフィコ横浜 国立大ホールで行われた「MIKA NAKASHIMA CONCERT TOUR 2021 JOKER」ツアー最終公演)で、この「SYMPHONIA」を初披露されたそうですが。
はい、歌いました。本番だけめちゃくちゃ楽しかったです。
──本番だけ?
リハまでは緊張しっぱなしで。息継ぎのタイミングが少しでもズレたら、どんどんズレてしまう曲なんですよ。「ここで1個失敗したら、もう次の部分が歌えない」くらいの感じで。ずっと心配しながら、私にしては何度も練習し続けていたんですけど……最終的には「もういい! 楽しく歌えばいい!」って(笑)。そう割り切った瞬間に楽しくなりました。
──反復練習で歌を体に染み付かせたからこそ、そういうふうに割り切れたわけですよね。
自然とやれるようになるまで歌い込んだ、というのは確かにあるんですけど。本来の私はあがり症なので、本番が一番緊張するタイプなんですよ。初披露の曲をあそこまで楽しく歌えたのは……緊張が全部飛んで「楽しい」に変わったのは初めての経験です。
──そうできたのはなぜですか? これまでのキャリアがそうさせたんでしょうか。
キャリアは関係なくて、オケの音が本当にカッコよくて。それで自分が盛り上がっちゃったという部分はあると思います。
──「楽しい」に全振りすることで、例えば歌詞を間違えちゃったりはしないものですか?
間違えはしなかったですね。(マネージャーに)私、間違えなかったよね?
(マネージャー) 大丈夫でした。
たまに記憶が飛ぶんですよ(笑)。だから覚えていないこともあって。今回のライブは特に「楽しい」という気持ちがあふれ出した1日でした。
──ライブはいつもそうやって「100%楽しい」でやれているんですか?
ここ最近です。本当につい最近、今回のライブからですね。
──今回! じゃあ、「最近」というか本当にここ数日のお話?(取材はツアーファイナルの3日後に実施)
そうですね。たぶん、コロナ禍での開催だったことで「それでもお客さんが来てくれるんだ」という驚きと感謝が、パワーに変換されたんだと思います(笑)。「せっかく来てくれたんだから、この人たちの“今日”を最高のものにしたい」という思いが、“恐怖”を超えて“楽しみ”になっていった感じですかね。
作品の楽しみ方は絶対的に自由
──この曲を歌うときに、「これは『takt op.』の曲だ」という意識はどれくらいあるものなんですか?
歌っているときは、正直そこまでないんです。「それぞれの曲の完成度をどこまで上げるか」が私の仕事ですから。それを繰り返すことで、ありがたいことにいろんなお話につながってきたんだと思っています。
──作品の訴えている内容と、自分の中にある“表現したいこと”との共通点を探っていくような作業は特にしない?
そうですね。その曲自体を表現するうえでは、歌詞で「自分の気持ちをどこに持っていくか」という作業は必ずやりますけど。例えば何かの主題歌や挿入歌などを歌う場合だと、もちろんその作品のことについての話は聞きますけど、歌っているときはあまり意識していないです。
──そのやり方で、なぜここまで親和性の高いものが作れるんですか?
……知らない。
──「知らない」って(笑)。
あははは(笑)。そうなっていたらうれしいですけど……。
──中島さんはデビュー以来、とにかくタイアップ曲を大量に歌われてきましたよね。実際どのくらいあるのか気になったので、個人的にリストアップしてみたんですよ。そうしたら、この約20年間でざっと60曲以上やられていました。
すごい!めちゃくちゃありますね(笑)。
──めちゃくちゃあるんですよ。内容的にも映画、ドラマ、各種CMなど多岐にわたっていて。言うなれば、それだけいろいろな方面から求められ続けているということですよね。
だとしたらありがたいです。
──個人的な印象としては、中島美嘉というアーティストは“大衆受け”みたいなことをあまり意識されていない感じがするんですけど……。
ずいぶんハッキリ言いますね(笑)。
──すみません(笑)。「誰がなんと言おうと中島美嘉はこうなんです」を貫いてきた方だと思うので、それでこれだけ多種多様な作品や商品の制作サイドから「ぜひ使いたい」と思われるのって、普通に考えたらあり得ないことのように思えるんです。
そうですね……。これまでにも「あれ、なんでみんなこの曲を知ってるんだろう?」と思ったら「そうだそうだ、あのタイアップだったんだ」ということがあったりもしたんですよ。自分でもあとから知るっていう。
──そこに邪念がないことが逆に功を奏しているんですかね?
うふふふ(笑)。そうなんでしょうね、きっと。
──そんな中島さんに対してはちょっと的外れな質問になるかもしれませんが、「takt op.」という作品をどんな人に届けたいですか?
ありきたりですけど、本当に幅広く受け入れてもらえるだろうなと思っていて。音楽が好きで入る人もいれば、ゲームが好きで入る人、絵が好きで入る人もいるでしょうし。きっと年代も好きなジャンルも問わず好きになれるコンテンツだろうなと思います。
──なるほど。「どんなふうに楽しんでほしい」はありますか?
そこは絶対的に自由だと思います。私の場合、自分の曲に関しても「どんなふうに聴いてほしいですか?」と聞かれることは多いんですけど、ないんです。とにかく好きなときに、好きなように聴いてもらえればいい。寝る前に聴きたい人もいれば、「中島美嘉なんか聴いたら眠れなくなっちゃうよ」って人もいるだろうし(笑)。
──あははは(笑)。
「takt op.」もきっと、そこからクラシック音楽が大好きになる人もいるでしょうし、もともとクラシック好きの人がゲームやアニメを好きになるパターンもあるでしょうから、自由に楽しんでもらうのが一番だと思っています。
──中島さんはこの20年間、そういう橋渡しの役目をたくさん担ってきましたよね。ただ、それを目的に歌っているというよりは、「結果的にそうなったらみんなが幸せだよね」というスタンスに見えます。
そうなったらうれしい、という気持ちはもちろんありますね。
──「これを歌ったらこういう波及効果があるだろうから、それを狙ってやろう」みたいな打算がまったく感じられないのがすごいなと思うんですけども。
ああ……それはね、ただできないだけ(笑)。狙ってやれるタイプだったらやってるかもしれないですけど、正直そういうのは考えたことがないですね。
- 中島美嘉(ナカシマミカ)
- 1983年鹿児島県生まれ。2001年にドラマ「傷だらけのラブソング」のヒロインに抜擢され、シングル「STARS」で歌手デビュー。2002年リリースの1stアルバム「TRUE」はミリオンセラーを記録した。以降も「雪の華」「愛してる」「桜色舞うころ」などヒット曲を連発。女優としても活躍し、2005年公開の映画「NANA」では主役のナナ役を熱演した。2010年に両側耳管開放症の悪化により音楽活動を休止するも、2011年に活動を再開し、2013年1月には7thアルバム「REAL」をリリース。2015年に土屋公平(G)らと新プロジェクト「MIKA RANMARU」を始動させ、2016年1月にMIKA RANMARUの初作品としてライブアルバム「OFFICIAL BOOTLEG LIVE at SHINJUKU LOFT」をリリースした。2019年1月に代表曲「雪の華」のリリース15周年を記念したベストアルバム「雪の華15周年記念ベスト盤 BIBLE」を発表。同年2月には「雪の華」をモチーフにした同名の映画が公開された。近年ではアコースティックライブや海外での単独ライブを開催するなど精力的な活動を展開している。2021年10月にテレビアニメ「takt op.Destiny」のエンディングテーマ「SYMPHONIA」とテレビ朝日系ドラマ「漂着者」の挿入歌「知りたいこと、知りたくないこと」を収録したシングル「SYMPHONIA / 知りたいこと、知りたくないこと」をリリースする。