ナタリー PowerPush - 高橋幸宏
「この歳であえて向きあった」アメリカンロック
歳をとるのも悪いことじゃないなって
──これまでの作品で、そうしたアメリカの音楽の要素を出してこなかったのはなぜなのですか?
どこか抑制していたのかもしれないですね。J-POPの中でちゃんと売らなきゃいけないんだって思っていた時期もあったし……いや、今でもそれは言い聞かせていますけども(笑)。でも、例えばミカ・バンドの頃は加工貿易型ロックとか言ってたし、YMOのときは誰もが作ったことのない音楽をやろうってことだったし……って感じでずっとやってきて、それなりに大人になったというか、オジサンになったわけですけど、自分の音楽が少しは進歩してきていることにだんだんと気付いてきたんですね。YMOを3人でまたやるようになったときに「僕らの演奏、前よりうまくなってない?(笑)」って教授(坂本龍一)が言って、この歳でうまくなるのかな?って思ったりもしたんだけど、確かにグルーヴとかは若い頃には出せなかったものがあるんですよね。このアルバムを聴いた兄(音楽プロデューサーの高橋信之)が、「こういう音楽をやりたかったんだよね。でもできなかったよ、あの頃は」って言っていて。確かに体力的にはキツいんですけど、歳をとるのも悪いことじゃないなって思うようになりましたね。そういう気持ちが今回のようなアルバムに素直に向かわせたんじゃないかな。実際、自分でこういう作品を作ってみてよみがえってくるものは新鮮でしたからね。高揚したりしてね(笑)。
──ただ、近年、幸宏さんは昨今のエレクトロニカ系の音楽に親しみ、自分の作品でも北欧のアーティストたちとコラボレートしたりしてきていますよね。その経験が音作りに生かされているような気がするんですよ。決してレイドバックしたものにはなっていないのは、そうした蓄積とキャリアが現れているのではないかと。
そうですね。新しいことをやるのは自分自身にとっては楽しいことですね。例えば堀江くんとかも、こちらがどんな音が欲しいかを察してパッとすぐ出してくれたりするし、それが今の新しい感覚だったりするわけで。海外の音楽に対して想像するしかなかった僕の世代と違って、彼らはネット検索とか動画サイトとかで簡単に調べて理解できる。そうやって得た知識と、リアルタイムで聴いてきた僕の経験とがうまくシンクロしているようにも思えますね。あと、今ってベテランのアーティストがルーツに返るような作品を出してません? ボズ・スキャッグスの新作とか、ビックリしました。
──ああ、ボズの新作(「メンフィス」)はよかったですね。
ねえ。メッチャクチャいいですけど、あれ、スティーヴ・ジョーダンがプロデュースですよね。あんなにアル・ジャクソン(のドラム)が好きだとは思わなかったです(笑)。やっぱりルーツはメンフィスにあるんだなあって。最初ラジオで「雨のジョージア」のカバーを聴いて「この声の渋さはトム・ウェイツ?」って思いましたもん。そのくらいルーツに回帰してる。僕らがやろうとしていることとすごい似てるんだよね。
“何かをしなければならない”というのがいつも歌詞のテーマ
──そうした1960~70年代当時のアメリカンロックには、ヒッピー思想の崩壊が少なからず反映されていて、歌詞にもそのカウンターとしてのパーソナルな目線が表出されていましたが、幸宏さんの今回の歌詞もうっすらとシンプルでパーソナルな表現が見え隠れしているように思えます。ご自身の歌詞の変化についてはどのように捉えていますか?
今までの作品の中でもかなりストレートに聞こえるかもしれないですね。僕自身、ポール・サイモンの初期のソロの歌詞みたいなプライベートな表現とか憧れるんですよ。ただ、僕自身はなかなかああいう歌を歌ってはこなかった。僕は「僕にはわかる」という意味の歌詞をいつも歌ってますけど、実際は何もわかっていない。それはあくまで希望なわけでね。「“わかる”ために今のここから出て、何かをしなければならない」というのが結局いつもの僕の歌詞のテーマなんですよ。
──それでもパーソナルな表現が歌詞に表れた理由は?
確かに本作は少し違うのかも。例えば慶一が書いてくれた「The Old Friends Cottage」の歌詞もそうです。なんかそういう作品であることを慶一も感じてくれたのかもしれないですね。あとほら、今回はラブソングも少ないでしょ。まあラブソングになるとどうしてもロマンティシズムでいっぱいの回顧主義になるんで(笑)。ちょっと男っぽい汗の感じのする作品にしたかったんですよね。今回、アートワークのディレクションも全部僕自身なんですけど、やっぱり60年代のアメリカを想定しましたから。字体とか写真とかイメージするものがあって……実はこのジャケットにも元ネタがあるんですよ。
──元ネタはなんですか?
何かは言いません……秘密です(笑)。
高橋幸宏 with In Phase Live Tour 2013
- 2013年9月16日(月・祝)大阪府 なんばHatch
- 2013年9月18日(水)福岡県 イムズホール
- 2013年9月20日(金)愛知県 名古屋CLUB QUATTRO
- 2013年9月21日(土)東京都 渋谷CLUB QUATTRO(追加公演)
- 2013年9月23日(月・祝)東京都 Bunkamuraオーチャードホール
収録曲
- Looking For Words
- All That We Know
- Time To Go
- Last Summer
- End Of An Error
- The Old Friends Cottage
- Shadow
- Ghost Behind My Back
- That's Alright(It Will Be Alright)
- Signs
- World In A Maze
- Follow You Down
- ライブDVD / Blu-ray「One Fine Night ~60th Anniversary Live~」 / 2013年6月26日発売 / EMI Records Japan
- Blu-ray盤 [Blu-ray Disc2枚組+CD3枚組+フォトブック] 10500円 / TOXF-5776
- DVD盤 [DVD2枚組+CD3枚組+フォトブック] 9450円 / TOBF-5776
収録曲
- 世界中が I love you
- It's Gonna Work Out
- Murdered By The Music
- Radioactivist
- Drip Dry Eyes
- Now And Then
- Stay Close
- Still Walking To The Beat
- My Bright Tomorrow
- Disposable Love
- 前兆(まえぶれ)
- The Price To Pay
- At Dawn
- Laika
- 元気ならうれしいね
- Blue Moon Blue
- The Words
- In This Life
- Chronograph
- Stella
- Ekot
- Inevitable
- Left Bank
- ちょっとツラインダ
- 1%の関係
- X'mas Day In The Next Life
- Glass
- Something In The Air
- 今日の空
<アンコール>
- Set Sail
- Prayer Of Gold
<ダブルアンコール>
- Sunset
- Saravah!
高橋幸宏(たかはしゆきひろ)
1952年生まれ、東京出身の男性アーティスト。高校時代からスタジオミュージシャンとして活躍し、武蔵野美術大学在学中の1972年にサディスティック・ミカ・バンドへドラマーとして加入。その後1978年に細野晴臣、坂本龍一とともにYELLOW MAGIC ORCHESTRA(YMO)を結成し国内外に大きな影響を残こし、1983年に「散開」。その後ソロ活動と併行し鈴木慶一とのユニットTHE BEATNIKSや、原田知世、高野寛らと結成したpupaなどで活躍している。また細野とのユニットSKETCH SHOWや、SKETCH SHOWに坂本が加わったHASYMOやYMOなど、名義を使い分け不定期に活動している。ソロとしては、1978年の「Saravah!」以降コンスタントにアルバムを発表。2012年6月に還暦を迎え、それを記念したトリビュートアルバム「RED DIAMOND ~Tribute to Yukihiro Takahashi~」が8月に発売された。さらに同年12月には還暦記念ライブ「60th Anniversary Live」を実施。この模様を収めた映像作品集「One Fine Night」を2013年6月にDVD / Blu-rayでリリースした。2013年7月には、ジェームス・イハなどを迎えた新バンド「In Phase」とともに、バンドサウンドを展開した23枚目のオリジナルアルバム「LIFE ANEW」を発表した。