1970年代からDJ文化を支え続けてきたTechnicsのターンテーブル「SL-1200MK」シリーズより、約8年ぶりの新作「SL-1200MK7」が5月24日発売される。カスタマイズ機能が搭載され、DJの多彩なプレイが可能になったこの商品。音楽ナタリーでは4月13日に行われる企画「RECORD STORE DAY JAPAN 2019」のアンバサダーに就任した高橋幸宏、ミューズとしてイベントを盛り上げる水原佑果に新作をいち早く試してもらい、その操作性や機能、そしてレコードの魅力や思い出についてたっぷりと語り合ってもらった。
取材・文 / 森朋之 撮影 / 須田卓馬
Technics「SL-1200MK7」
長年DJに支持され続けてきたSL-1200MKシリーズの約8年ぶりの新商品。高度なデジタルモーター制御技術によってブレーキスピードの4段階調整機能が搭載されており、ユーザーそれぞれのベストなスタート / ストップのタイミングに微調整することができる。逆回転再生や78回転再生、±16%のピッチ調整にも対応しており、バリエーション豊かなDJプレイが可能となった。DJターンテーブルの核となるダイレクトドライブモーターは、SL-1200GRに使用されていたものをベースにチューニング。ダイレクトドライブ方式の音質的な弱点であったコギングが解消され、より安定した高音質なサウンドが楽しめる。またAC入力とPHONO端子のケーブルが着脱可能になったのもこれまでのSL-1200MKシリーズとは異なるポイントで、DJ現場での持ち運び、セッティングがグッと便利になった。シャーシやアームなどの各パーツをアップデートしながらも、外観寸法やボタン配置などは従来通り。最新の技術を惜しみなく投入し、伝統と進化を見事に同居させた1台だ。
RECORD STORE DAY JAPAN
毎年4月の第3土曜日に世界で同時開催されるアナログレコードの祭典。2008年にアメリカでスタートし、現在世界23カ国で数百を数えるレコードショップが参加を表明している。日本での運営は東洋化成が担当。レコードショップでは数多くのアーティストのアナログレコードの限定盤やグッズなどを販売。世界各地でさまざまなイベントも行われ、毎年大きな盛り上がりを見せている。
ハワイのレコード屋で見つけた1枚
──「RECORD STORE DAY JAPAN 2019」が今年も開催されます。まずは昨今のレコード文化の盛り上がりについて聞かせていただけますか?
高橋幸宏 ここ数年は日本でもアナログレコードに改めて興味を持つ人が増えていて、素晴らしいなと思いますね。僕がレコードの盛り上がりを実感し始めたのは、2012年にロンドンにしばらく滞在したときなんです。その頃すでにビッグアーティストでもCDの売れ方は落ちてきていて。代わりとして出てきたのが、配信、そしてアナログレコードだったんですよね。アメリカでは若い人の間で「カセットテープっていいよね」という動きもあったりして。レコードもそうだけど、音のよさもさることながら、見た目のかわいさだったり、ターンテーブルの上で回っているのもよかったりするみたいだけどね。
水原佑果 そうですね。
高橋 スマホとBluetoothで音楽を聴く人が増えているし、すごく便利なんだけど、やっぱり音が違うんですよ。DJの中にはUSBのデータでプレイする人もいるでしょ? テイ(TOWA TEI)くんも「あれはダメですね」って言ってましたから(笑)。
水原 私もレコードでプレイするのが大好きです! 針から生まれる音の世界に魅力を感じます。あとレコードのジャケットってとってもかわいいので、現場に持って行って、人に見せるのも楽しいです。Captain VinylのDJを観に行ったりするとすべてオールバイナルプレイをされていていつも刺激されます。7inchシングルをもっと集めたいな!
高橋 若いからレコードを持ち歩く体力もあるしね(笑)。いろいろな聴き方がありますけど、今後はハイレゾ配信とレコードが中心になっていきそうな気がします。
水原 ダウンロードコードが付いているレコードも多いですよね。
──水原さんがレコードに興味を持ったきっかけは?
水原 もともと小さな頃から両親が音楽が大好きで、日々ソウルやロックな音楽たちに囲まれていました。ちなみにQueenとMarvin Gayeはアンセムです! レコードを集めるようになったのは、テイさんに「レコードはいいよ」と勧めてもらったのがきっかけですね。
高橋 ちょうど我々がMETAFIVEをやり始めた頃だよね。レコードが好きなのは知ってたけど、いつの間にか、佑果ちゃんがいろんなパーティでDJをやるようになってて。すごいよね。
水原 ありがとうございます。テイさんは素敵なレコードをたくさんお持ちで、一緒にDJイベントをするときにいろんなレコードを紹介してもらえるので、いつもとっても刺激を受けています! いつかご自宅のコレクションも見てみたいです。
高橋 行ったほうがいいよ。スピーカーもどんどんよくなってるから。僕の家でもレコードは聴けるんだけど、今度引っ越すので、そのタイミングで新しい音響システムをそろえようと思ってます。
水原 私も家でレコードを聴くことが多いですね。最近、マーティン・デニーの「Quiet Village」のアナログを買ったんですよ。
高橋 最高の1枚だよね。
水原 素晴らしいですよね! 日本で買うとかなり高いと思うんですけど、私はハワイのレコード屋さんで見つけて。
高橋 あのレコードはハワイが似合いそうだよね、トロピカルで(笑)。いくらだった?
水原 8ドルでした。しかも盤の状態もすごくきれいで。
高橋 それは安いかも。そう言えば、家にヴァン・ダイク・パークスの「Discover America」のアナログが4枚あって、なぜか全部サイン入りなんだよね。
水原 すごい! 私も1枚欲しいです(笑)。
高橋 ジャケットもいいんだよね。“Trinidad(トリニダード)”“Hollywood(ハリウッド)”と描かれていて、コンセプトが明確で。余談になっちゃうけど、YMOの頃、細野(晴臣)さんから「ヴァン・ダイク・パークスはすごく変わった人だよ」と聞かされていて。でも、細野さんが60歳になったときのイベント(2007年7月に東京・日比谷野外大音楽堂で開催された「細野晴臣と地球の仲間たち~空飛ぶ円盤飛来60周年・夏の音楽祭~」)のときに会ったら、すごくいい人だったな。細野さんのイベントなのに、(ヴァン・ダイク・パークスが)YMOを紹介してくれて、僕と教授(坂本龍一)も呼ばれて。
アメリカの若いリスナーにYMOを
──昨年、YMOの40周年を記念して、オリジナルアルバムのアナログリイシューがスタートしました。セレクトアルバム「NEUE TANZ」もCDとアナログでリリースされましたね。
高橋 そのきっかけもテイくんなんですよ。テイくんは画家の五木田智央くん(「NEUE TANZ」のアートワークを担当)のファンで、個展には必ず行っていて。ニューヨークで五木田くんの個展が開かれたときに、レコード屋で「YMOのレコードはある?」と聞いたら、「なかなか入らない。よく若い人たちが探しているんだけど」と言われたみたいで。
水原 そうなんですね!
高橋 YMOのアナログリイシューと「NEUE TANZ」に関しては、テイくんの「アメリカの若いリスナーにYMOを聴いてほしい」というところから始まっているんです。細野さんも、教授も「テイくんが監修するんだったらOKだよ」ということで、リリースに至ったということですね。「NEUE TANZ」はCDも出ているので、あとは買い手に選んでもらえたらと。そう言えば、小山田圭吾(Cornelius)くんも「幸宏さんの『NEUROMANTIC』のレコード、ロンドンでもベルギーでも高いんですよ」と言ってましたね……。
──「RECORD STORE DAY」に合わせて、高橋さんの7inchシングル「C'est si bon / Back Street Midnight Queen」(1978年リリースの1stソロアルバム「Saravah!」のボーカルを新録したニューアルバム「Saravah Saravah!」からのリカット)もリリースされます。
高橋 当時のシングルのこと、全然覚えてなかったんですけど(笑)、「C’est si bon」「Back Street Midnight Queen」の2曲でシングルを出していたらしいんですよ。今回の新録の音源をライブ(2018年11月24日に東京国際フォーラムで開催されたソロ活動40周年記念ライブ)のパンフレットに同梱したんですけど、すぐに売り切れてしまって。いいチャンスなので、RECORD STORE DAY限定盤として出させてもらうことになりました。「何枚くらい出ますか?」と僕に聞いてくる方がいるんですけど、わかりません(笑)。
水原 それは私も気になります(笑)。
次のページ »
レコードを購入するまで