──ここからは「いいくらし」の作・編曲を担当した“テット博士”こと吉田哲人さんも交えてお話を。

咲良　私のヒーローだよ。

吉田哲人　よろしくお願いしまーす。

──せっかくの機会なのでメンバーの皆さんから直接何か聞きたいことがあれば。

咲良　なんであんなにジワジワくるんですか？

吉田　わかんない（笑）。でもジワジワくるってのはアシッドハウスの本質なんだよ。

咲良　そもそもアシッドハウスってなんなんですか？

吉田　1980年代後半にアメリカのシカゴで流行ってた、ディスコの延長みたいな……。

大黒　流行ってたんですか？

吉田　流行ってたんだよ。あのビヨビヨビヨビヨ鳴ってるのが（笑）。「いいくらし」もけったいに聞こえるかもしれないけど、当時のアシッドハウスはもっとヘン。これは歌モノとして一応Cマイナーというキーがあるし、ラップが入ったりする展開があるじゃない。当時のアシッドハウスにはキーも展開もなくて、ウニョウニョしたものを10分以上聴かされるの。それに雷の音がゴローン！とか（笑）。

──そのミニマルな快楽に身を委ねるのがアシッドハウスの本質だとするならば、さっきの咲良さんの「笹みたいなものがゾワゾワーッって出てくる」感じというのはすごく的確に言い当てている気がします。

吉田　うん、すごく正しい捉え方だと思うなあ。

安藤　しゃちほこで6分半の曲って初めてなんですよ。それもアシッドハウスだからですか？

坂本　曲の長さって作曲の方が決めるんですか？

吉田　いや、作曲家だけじゃないね。ほとんどはプロデューサーやディレクターと相談しながら決めていきます。

大黒　あと最後のほうの「EZじゃない」のところの……リスペクト的なのは？

吉田　あー、あれはたまたま（笑）。あの部分は初めはなかったんだよ。もう1つ展開が欲しいねって話になったときに……あまり大きな変化は加えたくなかったけど、Cマイナーから3度下にベースを加えると別のコード（Aフラットメジャーセブンス）に変わるんですよ。そのコードを使ってそれまでに出てきてないコードの動きと別のリズムで刻んでたら……あ、この手があったかと（笑）。

──ちなみに今出たような専門的なコードの話がわかるメンバーは？

伊藤　みんなわからないです。音楽の授業でちょっと聞いた気がするぐらい。

吉田　この曲がヘンな曲に聞こえるのはコードに対するメロディの乗せ方にも理由があって。Cマイナーのキーにはあまり出てこないFシャープの音が多用されてるんですよ。最初に曲を作るとき、妖怪みたいなメロディをつーくろう、って思って……。

秋本　つーくろうっ（笑）。

吉田　それで歌詞が乗って返ってきたら「朝起きたら悪魔が」ってあったので、あー間違ってなかったなと（笑）。マイナーというのはそういう暗ーい感じになる調なんです。

伊藤　作曲ってどうやってやるんですか？ めっちゃ興味あるんです。作曲してみたいと思うけど、どうやって始めればいいのかわかんなくて、こういう機会に聞いてみたかったんですよ。

吉田　僕は芸大でも作曲じゃなく小難しい現代音楽を学んでたので（笑）、ポップスは独学なんですよ。とりあえず何か興味のある楽器を始めてみるのが一番なんじゃないかなあ。

──独学でプロとして活躍している人もたくさんいるし、鼻歌でメロディを作る人だっていますし。近い将来チームしゃちほこの曲で「作曲：伊藤千由李」があっても面白いんじゃないですかね。

伊藤　やってみたい！ ギターは少しやってるんですけど……もう少し練習します！