SWALLOW「温室育ち」インタビュー|“温室”を出て、外の世界へ──未来への覚悟あふれる1stアルバム完成

青森県三沢市出身の3ピースバンド・SWALLOWの1stアルバム「温室育ち」が完成。3月26日にLINE MUSICより配信され、4月26日にCDでリリースされる。

2016年、3人は中学校の文化祭をきっかけにバンド・No titleを結成。その1年後には「LINEオーディション2017」で総合グランプリを獲得してデビューを果たした。その後も楽曲のリリースを重ね、2020年に大学進学のため上京。同年6月にはバンド名をSWALLOWに改名し、東京と青森の2カ所を拠点に音楽活動を行ってきた。

デビューから5年を経て、満を持してリリースされるアルバムには、改名前のNo title時代からこれまでの楽曲に、新曲2曲を加えた14曲を収録。SWALLOWは本作で、自分たちが育ってきた環境を“温室”と例えている。温室を出て、SWALLOWはどこへ向かおうとしているのか? 今春には大学4年生となる3人の、ミュージシャンとしての覚悟と決意に迫った。

取材・文 / 中川麻梨花撮影 / 星野耕作

やりたいことをやって、「楽しい」という気持ちだけでは音楽を続けていけない

──「アルバムを作りたい」と以前からインタビューなどでおっしゃっていましたが、改名前のNo title時代からこれまでの12曲に新曲を加えた、全14曲入りのアルバムがついに完成しました。まずは今の率直な心境から聞かせてください。

安部遥音(G) 以前からアルバムを出したいという気持ちはあったんですけど、曲数が足りていないのもあって、具体的に進めることができなかったんです。新曲も入れて、ようやく1枚のアルバムができたことをうれしく感じています。

種市悠人(Key) 結成から6年、デビューから5年にして、やっと1枚のアルバムができるくらい曲数が増えました。

工藤帆乃佳(Vo, G) 「アルバムが作れて楽しい、うれしい」だけじゃなくて、「売らないといけない」というプレッシャーもありますけどね。そういう目標ができたことで、今までとは違う覚悟が決まりました。自分がこれから音楽とどう関わっていきたいのか、仕事にしていきたいのかどうか……自分がちゃんとプロのミュージシャンであることを自覚する、1つのターニングポイントになったのかなと感じます。1stアルバムには、流行っている音楽を意識する、というよりは、自分たちが今しか書けないこと、やりたいことをすべてつぎ込んだ楽曲が収録されています。でも、これから大学を卒業して、本格的に音楽が仕事になると、今後はそういうやり方ができなくなってくるかもしれない。そういう意味で、今しかできないやり方で作った楽曲たちだと思います。

──これまで帆乃佳さんは「商品ではなく作品を作りたい」ということをおっしゃってきたと思います(参照:SWALLOW「ULTRA MARINE」インタビュー)。このアルバムは、そういうふうに歩んできたSWALLOWの道のりと意思が刻まれた、ある意味“ベストアルバム”とも言える作品だと感じました。

工藤 「商品ではなく作品を」という気持ちは、これからももちろん変わらないです。でも、「やりたいことをやって、『楽しい』という気持ちだけでは音楽を続けていけない」という気持ちもあって。お金がないと作品を作れないから。音楽が作品であることと、音楽がビジネスであることが両立している世界に対してずっと違和感はあるけど、そこにひとつ折り合いをつける1枚になりそうです。

──これまでNo title時代から配信リリースを重ねてきましたが、今回はCDも発売するんですよね。配信レーベルであるLINE RECORDSからCDをリリースするのは、SWALLOWが初めてなのでは?

工藤 初めてですね。

──CDで作品を残したい気持ちが強かった?

工藤 そうですね。もしかしたら今の中学生や高校生は配信でしか音楽を聴かないのかもしれないけど、私たちはCDを全然聴かずに育ったわけではない。ギリギリCD世代なんです。物質として手元に残る音楽と、サブスクで聴いている音楽は芸術作品としての価値が全然違うと思っています。自分たちが1曲1曲、心身削って大事に作ってきて、それを愛してくれる人がいるなら、CDとして手元に残るのが妥当なんじゃないかなって。コストはかかるんですけど、今回覚悟を持ってCDを出すことにしました。CDに付くブックレットの写真にもかなりこだわりましたね。どうしても地元の青森県三沢市で撮りたくて、自分の足で市内をロケハンして。表紙の衣装はスタイリストさんに組んでもらったんですけど、ほかの衣装は自分で用意して、今日着ている軍服の衣装も三沢市の米軍基地で買いました。

SWALLOW

SWALLOW

世の中は意外と汚いことがわかった

──2021年にSWALLOWは8カ月間にわたって活動を休止したあと、2022年1月に配信シングル「常葉」で活動を再開しました。その後も「嵐の女王」「AUREOLIN」「田舎者」とどんどん楽曲をリリースしていましたが、この頃の曲から、前提として“東京にいる人が作った”という感じが強くなった気がしていて。「AUREOLIN」のように地元のことを歌った曲も、あくまでも東京から思いを馳せているというか。

工藤 「嵐の女王」だけは高校生のときにデモを作ったんですけど、そのときは1番しかできていなかったので、2番以降には上京後の自分の思いが投影されているかなと思います。「常葉」「嵐の女王」「AUREOLIN」「田舎者」は、全部東京に来てから書いた曲です。

──「常葉」をリリースした際に「活動休止中に精神的にしんどい時期も過ごした」というコメントを出されていましたが、この曲に至るまではどういう思いがあったんでしょうか?

工藤 その頃は、今まで自分が人間関係において、いかに恵まれていたかを痛感した時期でした。青森にいる間は、どこまでいっても内輪だったんですよね。知り合いとしか会わないから。でも、東京で知らない人と出会って、その人の裏側や、どんな生活をしているのかを聞いたときに軽く絶望したというか。世の中は意外と汚いし、人間って思ったよりも嘘つきだし、簡単に人を裏切れることがわかった。「常葉」は昔書いていた前向きな楽曲を全否定するようなところもあるんですけど……。

──出だしの歌詞が「勘違いもいいところ」ですからね。

工藤 そうですね(笑)。友達だと思っていた人が実はとんでもない人だったり……「常葉」を書いていた頃は、そういうのを目の当たりにして心がぐちゃぐちゃでした。

工藤帆乃佳(Vo, G)

工藤帆乃佳(Vo, G)

──「常葉」はSWALLOWにとって初のセルフプロデュース作品でした。その点においてもバンドのターニングポイントになる曲だったと思うのですが、当時メンバー間ではどういう話し合いが行われていたんですか?

工藤 私たちは技術がないままデビューしたから、自分たちの作りたいものを作るためには、人からやり方を教えてもらわないとできなくて。でも、教えてもらっているうちに大人にプロデュースされるような立場になってしまったんですよね。それで、作品の作り方を見直すために少し活動を休止して。「1回人に頼らないで、自分たちでできるところまでやってみよう」ということで、今までとはちょっと違う気持ちで曲を作りました。今までみたいに「ここのコードがわからないから、大人に聞いてみよう」と頼ることも一切せずに、とりあえずデモを仕上げましたね。そのデモを最終的に一緒に作品にしてくださる方は必要だったので、新しく編曲を手伝ってくれる方にも会いに行きました。

安部 当時の帆乃佳の精神状況も相まって、活動を休止するまでは3人ともあんまり前に向かっている感覚がなかったというか。「常葉」をリリースするまでの間が、バンドとして一番苦しかった時期でした。でも、そこで吹っ切れて「常葉」以降は、自分たちなりに「こうすればいいんだ」という正解みたいなものが見えてきたので。そういう意味では、アルバムの中でも「常葉」はすごく大事な曲だと思います。

種市 セルフプロデュースという環境に置かれたことで、自分のスキルを磨けた部分もありましたね。編曲において、自分でできることもかなり増えました。

「やりたいことは変わっていないよ」という意思表示

──そして11月には、アルバムのタイトル「温室育ち」ともリンクする楽曲「THE ORCHID GREENHOUSE」がリリースされました。“温室”を出て、これまでの自分に別れを告げて歩いていくような楽曲になっていますが、アルバムタイトルとこの曲はどちらが先にあったんでしょうか?

工藤 曲が先にありました。「THE ORCHID GREENHOUSE」は高校生のときに書いていたデモを、3年を経て完成させた曲なんです。歌詞もそのとき書いたものから、そんなに変わってないですね。「あの頃からやりたいことは変わっていないよ」という意思表示とも言える曲です。

──編曲は種市さんが手がけていますね。

種市 はい。でも、僕はこの曲で4、5回くらい帆乃佳にボツを食らってるんですよ(笑)。

工藤 それはポチ(種市)が悪いんです! 「THE ORCHID GREENHOUSE」は高校生のときにデモを作った時点で、完成形のイメージができていたんです。「ここはこういうアレンジで、こういう歌詞が乗って、間奏はこれくらいで入って、MVはこんな感じで撮ろう」と……それで「こういうアレンジにしてほしい」と伝えたのに、ポチが完全に無視して、全然違う編曲をして送ってきたんですよ。「なんじゃこりゃ」って(笑)。

種市 帆乃佳が作りたいものと、「この曲はこういうふうにしたい」という僕の思いがけっこう乖離していた曲でしたね。せっかく間奏に7拍子を入れたのに。

種市悠人(Key)

種市悠人(Key)

工藤 私だって最初は歩み寄ったんですよ。AメロとBメロの間奏に7拍子を入れてきたから、「開始早々これは聴いてる人がわけがわからなくなるから、それをやるならあとの間奏にして」と具体的に投げたんです。そしたら「じゃあいいわ、全部消してやり直す」と全然違うアレンジがきて(笑)。

──そういうふうに音楽的なところでぶつかり合うことは多々あるんですか?

種市 僕と帆乃佳はわりとありますね。

工藤 遥音はけっこう素直なんですけど、ポチは1回でもちょっとボツを食らっただけで全部データ消してやり直しちゃうんですよ。

安部 2人ともこだわりが強いから……。

──そんな2人を安部さんは眺めてるわけですね。

安部 「またやってるな」という感じです(笑)。でも、セルフプロデュースになるまでは、そういうぶつかり合いもあんまりなかったかもしれません。大人に言われた通りにやっていたし、メンバー間で音楽的な会話ができるようになったのはいいことかなと思います。曲に対してそれぞれ思いがあるということなので。もうちょっと効率よく話し合ってほしいなという気持ちはありますけどね。

工藤種市 (笑)。