sumika|最高も最悪も味わった2020年を経て伝えたいこと

sumikaが1月6日に両A面シングル「本音 / Late Show」をリリースする。

表題曲の1つ「本音」は「第99回全国高校サッカー選手権大会」の応援歌として書き下ろされたバラードナンバー。sumikaがこれまで経験してきたことや、2020年の世界の状況とも重なる1曲で、すでに先行配信されている。一方、「Late Show」は打って変わって豪快なロックチューン。対照的な2曲には、2020年にsumikaが伝えたかったこと、表現したかったサウンドが詰め込まれている。

新型コロナウイルス感染症拡大の影響で春に予定されていたアリーナツアーが開催見合わせとなり、9月に行われたオンラインライブでは「正直僕らは暗くなってました。あんまりいろんなことに前向きになれなくて」と胸中を明かしていたsumika。困難な時期を乗り越えたからこその4人の思いや前向きなメッセージを聞いてほしい。

取材・文 / 宮本英夫 撮影 / 後藤壮太郎

終わりよければすべてよし

──sumikaにとっての2020年は、どんな1年でしたか?

片岡健太(Vo, G)

片岡健太(Vo, G) 今年は最悪なことも最高なことも両方あったと思います。天国と地獄を味わったなという感じはありますね。

──悪いことで言うと、やっぱり今春に予定されていたアリーナツアーが開催見合わせになってしまったことですかね。

片岡 それはすごく大きいですね。ツアー以外のライブイベントも当然できなかったし。お客さんから「それでも待っています」と言ってもらえるのはめちゃくちゃうれしいし、力になってはいるんですけど、今年あるはずだった楽しみを先延ばしさせちゃったなと思うし、とても心苦しかったです。ここ数年は基本的に人と会い続けていたので、ここまで人に会わないというのも心にこたえました。でも、最悪なことを一緒に味わったからこそチームが一丸となれた部分もあって、メンバー、スタッフ間の絆はすごく深まったと思います。普段言えないことも言い合えるような関係性ができて、それが2020年の下半期の制作には顕著に出ていたような気がしますね。そう考えると、春にすごい暗い気持ちになったけど、そのあと明るい気持ちになっていって2020年を終われるというのは、“終わりよければすべてよし”という感じがします。

──それでは、さっそく新曲「本音」の話をお伺いさせてください。「第99回全国高校サッカー選手権大会」の応援歌ということで、最初に話をもらったのはいつぐらい?

片岡 夏の終わりだったと思います。まず番組の制作チームの方と打ち合わせをしたんですけど、そこで熱い思いをぶつけられて……すごかったです。

黒田隼之介(G, Cho)

黒田隼之介(G, Cho) むちゃくちゃ熱かった。

片岡 僕たちの活動経歴を見てくれていたんですよ。2013年に結成して、2015年に小川が加入して、その数カ月後に僕の声が出なくなって、活動が7カ月止まって、復帰して今がある……ということを踏まえたうえで、2020年という年に「暗闇やどん底を知っている人のメッセージを届けてほしい」とお話をいただいたんです。最初は“「高校サッカー選手権」の応援歌”というテーマが大きすぎてびっくりして、「僕らに何ができるんだろう?」と無力感いっぱいで打ち合わせに行ったんですけど(笑)。そういう話であれば、素直に自分たちのことを振り返って、どん底の状況からどう立ち直って、どう前を向いていくのか、過去の経験を武器にして歌が作れるのかなと思いました。

──高校サッカーの中継って、負けた側にスポットを当てることが多いですよね。そういう文脈の中に、この曲もある気がします。

片岡 そうですね。選手権で言ったら、完全勝者は1チームだけで、ほかのチームは負けていくじゃないですか。だから、負けたほうに寄り添おうと考えるのは自然なことだと思うし、事前に見せていただいた資料の中でも、勝ったチームのロッカールームよりも、負けたほうのロッカールームの映像のほうが記憶に残っているんです。監督の方がどういう言葉を伝えて、選手はどう受け止めたのか……負けたからこそわかることもあると思うんですよ。そう考えると、そもそも「高校サッカー選手権のテーマ」と、今年世界中で起きたことはリンクしている部分があると思います。今年はみんな、負けた気がしていると思うので。

──確かにそうかもしれないです。

片岡 例えるなら、全員でコロナを倒そう、ということかもしれない。日本も海外も関係なく、いろんなエンタテインメントもスポーツも含めて「みんなであいつを倒そう」と一丸になっていく空気感を2020年の下半期は感じています。

遠くまで届くように

──「本音」の作曲は小川さんが手がけています。ピアノとストリングスを大きくフィーチャーした、堂々たるバラードになっていますね。

小川貴之(Key, Cho)
荒井智之(Dr, Cho)

小川貴之(Key, Cho) いわゆる王道の、きれいなメロディに挑戦したかったんです。当事者の選手はもちろん、彼らを支える関係者の方、家族の方、あるいは違う部活をやっている人でも何かしら思うことがあるだろうし、限定的な内容の歌にするんじゃなくて、しっかりと遠くまで届くような曲を作りたいなと思いました。僕もロッカールームの映像を見せてもらって、思わず涙が出てしまって。「高校サッカー選手権」はとても大切な大会だと思うし、ましてや今年は、いろんな大会が中止になる中やっと開催が決定したこともあって、しっかりいろんな人の記憶にこの曲が残るように思いを込めて作りました。

──ギターに関してはいかがですか?

黒田 まず、おがりん(小川)の作る曲のよさがすごく詰まっているなと思いました。歪んだギターの音で力強さを出したいけど、やりすぎるとうるさくなっちゃうので、いいバランスでできたらいいなと考えていましたね。今回、田中ユウスケさんにプロデューサーに入っていただいて、そのあたりをよく相談しながら、「このフレーズは音色が邪魔にならないようにしたいんです」「だったらこうしよう」というやりとりをしていました。

──ドラムに関してはどのような心構えで挑みましたか?

荒井智之(Dr, Cho) こういう王道のバラードって、sumikaの中でもあまり多くはないのですごく新鮮でしたね。メロディが立つように、なるべく大きくほかの楽器の音を包み込めるように叩きました。エンジニアの渡辺省二郎さんが1音1音しっかり聴こえるように音を作ってくれて、本当にすごいなと思いました。耳触りがいいというか、出したい音がちゃんと聴こえてくるんですよ。ドラムの音がよくないと、上に乗っている音が気持ちよく聴こえてこないであろうテンポの曲だと思うので、そこはしっかりと土台を作れたかなと思っています。

音楽を通して伝える“本音”

──歌詞はどのようなイメージで書きましたか?

片岡 この曲に関しては、「本音」というタイトルが早い段階で出てきました。2020年は僕もみんなも伝えられなかった思いがたくさんあるような気がしていて。そこをきちんと振り返って「『こんなはずじゃなかった』という未来にしないためにはどうしたらいいんだろう?」と思ったときに、やっぱりちゃんと本音を言おうと。普段照れくさかったりめんどくさかったりして言えなかったことも、今年は言ってもいいと思うんですよね。友達や家族に対して、サッカーで言ったらチームメイトに対してもそう。支えてくれる人たちに本音を伝えるような歌詞にしようと思ったんです。例えば、1行目の歌詞のようなこともあると思うんですよ。

──「ああ 辞めちまおうかな」ですね。

片岡 好きなことで壁にぶつかったとき、そう思うのはけっこう当たり前というか。むしろ、好きだからこそこういうふうに思ってしまうんですよね。

──そうかもしれないです。好きなものを突き詰めるには、常にそれぐらいの覚悟が要りますよね。

片岡 そういうふうにいつも感じていたことを、今年だったら全部言えるんじゃないかなと。そして来年も、もっと言えば一生聴いてもらえるような曲になったらいいなと思いながら作りました。

sumika

──先ほど本音を言う対象に友達、家族、チームメイトを挙げていましたが、片岡さんにとってはバンドメンバーもそこに入るんじゃないですか?

片岡 そうですね。照れくさい部分もありますけど、音楽を通したら本音を言えるというのは、すごい力だなと思います。普段は口に出せないようなことも、メロディが肯定してくれるような感じがして、音に乗せれば伝えられる……それは音楽だからこそできることですよね。

──「大丈夫」「ありがとう」「出会えてよかった」と、まさしくちょっと照れくさいほどの、まっすぐな言葉が並んでいます。

片岡 実は「大丈夫」という言葉は、これまで歌詞に使うのをなるべく避けてきていたんですよ。そもそも無責任に人に「大丈夫」と言いたくない気持ちがあって。僕が受け取る側の立場としても「それ本当?」って疑ってしまうことがあるから、あまり使わないようにしていたんです。でも今年、「Dress farm 2020」(今年5月にsumikaが設立した医療従事者とエンタテインメント業界の活動支援のための基金。参照:Dress farm 2020)で隼ちゃん(黒田)が作った「憧憬」という曲に「全部『大丈夫だよ』と言い切るよ」という歌詞があって、「大丈夫じゃなくても『大丈夫』って言わなきゃいけないときがくる。それが今なんじゃないか?」と思ったんですね。例えば自分の親も、いつも「大丈夫」と言っていたけど、絶対あのとき大丈夫じゃなかっただろうなとか、大人になってから思うんですよ。「あのときはつらかっただろうな」みたいな時期でも、親は「大丈夫。任せとけ」と言っていた。それってカッコいいことだなと思ったし、僕らも正直、今年は120%大丈夫な状況ではないですけど、「全然大丈夫」と言える。そういう気持ちの大事さを知れたので、この曲には「大丈夫」というワードを入れたいなと思いました。

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「本音」のライバル