ファンクと味覚って相性がいい
──「universe」は「聴覚」がテーマの曲で、ジャズにルーツを持つ工藤拓人さんの実験精神やミュージシャンシップが出ていますね。
もう出まくっていますよね。工藤拓人が何曲かデモを送ってくれたうちの1つが原型でした。デモの時点で展開が読めなくて面白かったです。今まで聴いたことないような音楽だったけれど、自分も歌いたくなるような感じがありました。ミュージシャン、特にキーボーディストにとっての繊細な聴覚の機微が伝わってきました。
──楽曲自体もフレーズがパズルのようにぴったりと組み合わさっている感じがありますし、メロディもテクニカルですよね。ボーカリストとしてはどうでしたか?
技術的な意味で高いハードルを用意された感覚がありました。自分の声が楽器として試されるヒリヒリ感もありました。でも歌いこなせるようになると、歌っていてすごく楽しい曲です。
──歌詞を書くにあたってはどんなイメージがありましたか?
工藤さんみたいな耳がいい人って、よすぎるがゆえの苦悩がたくさんあると思うんです。自分が好きだった声が、ある日突然すごくツンツンと聞こえて嫌いになっても、それを求めている自分は変えられないとか。そのジレンマにぐるぐるしていることだったり、好みを人に伝えられないということだったり、自問自答している瞬間のようなイメージがありました。あとは、サウンドを聴いているときに梅雨のような感じがしたんです。最初のピアノのリフも、雨のようにも聞こえるけれど、体に刺さった針の音のようにも聞こえた。そこから言葉を書き始めました。
──「I'm in shock!!」は味覚がテーマで、ニューウェイブファンクな曲調にスポークンワード風の歌という新境地の曲調ですが、これはどのように?
ベースの越智(俊介)がファンクの人なので、「小気味いい曲を作りたいね」と提案してくれて。越智の家に行ったときに、サムゲタンをご馳走になり、それがすごくおいしかったんです。で、「サムゲタンうまかったな」って言いながら小気味いい曲を作ったらこうなりました。ファンクと味覚って相性がいい気がしたんです。だから、力の抜けた、どうでもいいけど、どうでもよくないことをやりたいなと。もともと味覚にそういう印象があったんです。体は食べるものでできているし、体の状態によって心の健康状態も変わる。好きなものだけ食べていても体によくないし、体が健康じゃないと心もつらくなってくるじゃないですか。越智自身もヘルシーな人で、体にすごく気を遣っているし、鍛えたりもしている。そういう「食と人生」みたいなことを、深いところから浅いところまでいろいろ話したんです。「I'm in shock!!」はその上澄みだけをすくった感じです。
──ファンクと食が近いというのは、すごく納得するところがありました。視覚や聴覚から入る情報がストーリー的なものになるのと違って、味覚は毎朝同じものを食べたりするし、淡々としている。ファンクってリフが主体なので、ストーリーにならないんですよね。そのリズム感が通じ合っているなと思います。
そう考えると面白いですね。あと、いろいろしんどいときにひさびさに映画館に行って観たかった映画を観るときに食べるポップコーンって、世界一うまいという持論があって。塩とキャラメルの2つの味を1人で頬張るあの瞬間が本当に幸せなんです。この曲はそれを言いたいだけで作った、みたいなところもあります(笑)。
ヒントはヒエロニムス・ボスの「快楽の園」
──「骸骨は踊る」は嗅覚がテーマのディープな曲ですね。
「嗅覚」をテーマにした曲は僕が作ると決めたものの、時間との戦いでもあったので、この曲なしでパッケージするという案もあったんです。でも僕としては、死後の世界というか、感覚がなくなった世界まで描いてこそ、五感は完結するんじゃないかなと思って、なんとか作り上げました。骨だけになって、感覚がなくなった骸骨が、ただ踊る。見えないし、味覚もないし、匂わないし、触っても何も感じない。そこには“動き”しかないんです。それなら動きは楽しそうなほうがいいな、というのがスタートでした。
──死のイメージがあったんですね。
五感を描くというのは、欲を描くということじゃないですか。で、その先にあるものというのがこの曲のテーマだったので、死を描くことになりました。僕は「快楽の園」という祭壇画がすごく好きで。レオナルド・ダ・ヴィンチと同時代の画家のヒエロニムス・ボスの作品なんですけど、三面鏡のようになっていて、地球みたいなものが描かれた絵を開くとエデンと現世と地獄が描かれている。それがすごく変な絵で、普通なら地獄にいる人は罰せられてしんどそうなものなのに、そうでもなかったりする。それが好きなんですよね。だから死後の世界の骸骨も踊っていたらいいなと。そういうイメージでした。
──1曲目の「Water」は「第六感」がテーマで、EPの総括のようなイメージを感じます。
そうですね。これはほかの5曲ができたあとに、西田修大が「ごめん! これだけやっていい?」って、本当に最後の滑り込みで作ってくれた曲です。ライブで1曲目にやることを想定したプロローグ的な曲というか、「こちらです」と扉を開けて案内するような曲です。歌詞は全曲の中で一番しっくりきていますね。ほぼアドリブで書いたにしては、いい出来だと思っています。このEPのすべてを内包するような曲になりました。
絵を送れないならアートワークに
──ジャケットのアートワークについても教えてください。このイラストはコペンハーゲンの現代アート画家・Mathias Offerlin Herupの作品で、菅田さんが見つけたということですが。
そうなんです。「Telephone」というタイトルの絵なんですけれど、最初はただ単にこの絵が好きで、買おうとしていて。それが「五感」というコンセプトを決めたのと同じくらいの時期だったので、届いたらバンドメンバーに見せようというくらいの気持ちでいたんです。直接マティアスにメッセージを送って、やりとりもしていたんですけど、「コペンハーゲンから日本に絵を配送することができない」と言われてしまって。あきらめることができず……ソニーの力と言えばいいんですかね(笑)、「これ、アートワークに使えないかな」って提案させてもらって。Sonic Youthの「Sonic Nurse」とか、歴代の名盤でも、その時代の現代アーティストの作品をジャケットに使ったものがあるじゃないですか。そこにも憧れがあったので、レーベルのスタッフさんにお願いをしたら快くオーケーしてくださった。それでなんとか実現したという感じです。
──アートワークは「SENSATION CIRCLE」というタイトルにも、EPの内容にもすごくフィットしていると思います。
フィットしているというか、僕の中で最初にあったイメージはこのアートワークだったんです。バンドメンバーにも見せて、そこから制作に入っていったので。
──この絵に受けたインスピレーションというのは、どういうものでしたか?
このタッチが好きで、直感的に惹かれました。クレヨンで描いているらしいんですけど、小学校とか幼稚園でも使うような画材で、おじさんを描いていて。不気味なんだけど、洒落た雰囲気もある。このちょっと気持ち悪い感じが今っぽいというか。それが好きでした。
──配送することはできないと言われたこの絵ですけど、菅田さんの手元に届いたのでしょうか?
はい。なんとクリエイティブチームの方がコペンハーゲンまで受け取りに行ってくださったんです。マティアスとそのご家族にもお会いすることになり、僕は動画を撮って「これを見せてくれ」とスタッフに託して。ちょうどそんなやりとりをしているときに僕、時代劇の侍の格好をしていたので「マティアス殿~!」なんて言いながら挨拶した動画を撮りました。現地ではマティアスとその家族、マティアスの彼女とその家族までみんな集まってその映像を観てくれたんです。その風景を収めた動画を見せてもらいましたが、なんかすごくよかったです。
──ライブに向けてのお話も聞かせてください。1月24、25日に東京ガーデンシアターでのワンマンライブが決まっています。ここに向けてはどんなことを考えていますか?
今のバンドメンバーとはまだ5、6回しかライブができていないので、またライブを一緒にできることがシンプルにうれしいです。より多くの数を重ねていきたいなと思っているので、楽しみです。前回のライブも本当に楽しかったし、自分が俳優であることを忘れられるような瞬間がいっぱいあった。自分が好きなミュージシャンのライブに、一歩一歩ゆっくり近付けている感覚があったんです。次のライブもそんなものになればいいなと思っています。
公演情報
菅田将暉 LIVE 2026
- 2026年1月24日(土)東京都 東京ガーデンシアター
- 2026年1月25日(日)東京都 東京ガーデンシアター
プロフィール
菅田将暉(スダマサキ)
1993年2月21日生まれ、大阪府出身。2009年に「仮面ライダーW」で俳優デビュー。2017年公開作「あゝ、荒野」では「第41回日本アカデミー賞」最優秀主演男優賞をはじめとする数々の映画賞に輝いた。近年の映画出演作は「Cloud クラウド」「サンセット・サンライズ」「ミーツ・ザ・ワールド」(※声の出演)など。NHK大河ドラマ「豊臣兄弟!」にも出演、公開待機作に映画「人はなぜラブレターを書くのか」(4月17日公開)がある。2017年6月に「見たこともない景色」でCDデビュー。2018年3月に1stアルバム「PLAY」、2019年7月に2ndアルバム「LOVE」、2024年7月に3rdアルバム「SPIN」をリリースした。2026年1月14日にEP「SENSATION CIRCLE」をリリース。同月24、25日にワンマンライブ「菅田将暉 LIVE 2026」を東京・東京ガーデンシアターで開催する。
菅田将暉|SUDA MASAKI MUSIC OFFICIAL




