菅田将暉「SENSATION CIRCLE」インタビュー|俳優・菅田将暉はなぜ歌うのか?音楽活動の根源にたどり着いた最新EP

菅田将暉が1月14日にEP「SENSATION CIRCLE」をリリースした。

前作「SPIN」から約1年半ぶりとなる本作は、コンセプトに「五感」を掲げた意欲作だ。ライブバンドのメンバーであるタイヘイ(Dr)、越智俊介(B)、西田修大(G)、工藤拓人(Key)とともにオールセルフプロデュースで制作された作品で、菅田自身の感覚と内面性が深く掘り下げられている。

ドラマ「もしもこの世が舞台なら、楽屋はどこにあるのだろう」や「火星の女王」に出演するなど、俳優としても多忙を極める彼が、なぜ今、これほどまでに純度の高い音楽表現に向かったのか。バンドメンバーとの信頼関係、制作の裏側、そして収録曲に込めた思いを語ってもらった。

取材・文 / 柴那典撮影 / 葛川栄蔵

すべての表現は五感に行き着く

──「SENSATION CIRCLE」は、「五感」をコンセプトにしたコンセプチュアルな作品でありながら、同時にとてもパーソナルで、かつ深みのある作品だと感じました。

ありがとうございます。

──五感を軸にEPを作るという発想は、どこから生まれたのでしょうか?

きっかけ……確かに「テーマは五感だな」とは言っていたんですけど、なんでそうなったのかはっきりとは覚えていなくて。実際に制作に手をつけたのは秋頃なのですが、春前からバンドメンバーには「五感というテーマでやりたい」と話をしていました。

菅田将暉

──かなり早い段階から構想があったんですね。

時期としては、NHKの「火星の女王」の撮影が終わったくらいのタイミング(2025年3月頃)でした。そのドラマがSF的な作品だったことや、プライベートなことも含めて自分自身にいろいろな変化があったりする中で、改めて「手触り」や「匂い」といったものを感じる人間の機能が面白いし、大事だなと感じたんです。それで、バンドメンバーが僕を含めて5人いるので「五感」だな、と。そこからそれぞれにムチャぶりをして作っていきました。

──コンセプトを決める前からバンドメンバーと一緒に作ると決めていたんですか?

そうですね。もともとみんなで「次は何をしようか」という話をしていました。その中で、僕が当時よく使っていた「今力(いまりょく)」という言葉があって。

──「今力」というと?

例えば「おいしい」とか「楽しい」とか「なんだかすごく柔らかい」とか、そういう、ある意味で稚拙な感覚って、大人になり仕事をするにつれて、だんだん薄れていってしまいますよね。だから、特に表現の場においては、そういうものを大事にしたい。「今、何に感動しているか」「今、何が嫌だと思ったか」とか、自分が「今、何を感じているか」に向き合うことが、僕の中でのブームだったんです。

──クリエイティブな現場、特に俳優のお仕事は、1年先に公開される作品を撮るなど、計画が先行しがちですよね。「今」を感じることは、意識しないとおろそかになってしまうのかもしれません。

まさにそれが言いたかったです。突き詰めていくと、過去も未来もなくて、結局は常に「今」という連続の中にいるだけなんです。哲学めいてしまいますけど、じゃあその「今」ってなんだろうと考えたときに、今という瞬間、人間は「感じる」ことしかできない。だから「感じる」ということをテーマに作品を作れるんじゃないかと。ただ、作り始めてみるとテーマが広すぎて、「もっと絞ってもよかったな」とは思いました(笑)。「五感」というだけで何枚もアルバムが作れそうだし、ある意味、すべての表現は五感に行き着くんだなと。作りながらその事実にぶち当たりました。

──以前のインタビューで「お芝居ばっかりやってると、そもそもの自分の好みや感覚がわからなくなる」という話をしていましたよね。でも、音楽活動の中でならそれを確かめることができるし、それを表現に結び付けることができる、と。そういう意味でも、今回の作品のコンセプトは一時的なマイブームというよりも「なぜ菅田将暉が音楽をやるのか」という根源に結び付いたテーマだと思います。

本当にその通りで、もはやそれでしかないのかもしれません。僕が音楽業をやる理由はこれからもずっとそういうものなんだと思います。

菅田将暉

“最高の瞬間”に焦がれる人が集まっている

──前作のアルバム「SPIN」から約1年半が経ちました。この期間、音楽活動に対してどんな意識を持って過ごされていましたか?

気付いたら社会的には1年半経っていたという感覚で、体感としてはずっと地続きで音楽を作っていました。俳優業で不規則な生活を送る中でも、バンドメンバーとはずっと連絡を取り合っていたし、できる限りのアイデア出しや作業を続けていました。それをやっと形にできたのが「SENSATION CIRCLE」なんです。「SPIN」のライブのときにバンドメンバーが少し変わって、まだ彼らとは5本くらいしかライブをできていないんです。全員と一緒に制作するのも今回が初めてでした。

──今のバンドメンバーは、菅田さんにとってどのような存在ですか?

感覚が近い人というか。好きなもの、表現において大事にしているものが似ている人を探して、出会った人たちです。

──表現において大事にしているものというと?

ライブ後に僕が「あそこを間違えた、ごめん!」という話をしたら、ドラムのタイヘイが「その前にこういう最高の瞬間があったから、それは全然いいんだ」と言ってくれて、もちろんその言葉に甘んじてはいけないなと思いつつ、そういう発想がすごく好きだなあと思ったんです。自分の俳優業では針の穴に糸を通すような完璧なもの作りをするほうなんですが、人のお芝居を観たり、現場に居合わせたりしたときに、もう二度とできないような表現の爆発に出会える瞬間があると感激するんです。あの瞬間のために全部があると考えたら、ほかが多少拙かったりしてもあまり気にならない……自分が好きな音楽はそういうもので、バンドメンバーもみんな同じタイプの人だと思う。もちろんすべてを丁寧にやるんですけど、それを超えた、言語化できない、数式にできない素晴らしい瞬間がある。菅田将暉バンドにはそれに焦がれている人が集まっています。

──今回の制作体制は、外部のクリエイターを迎えた前作「SPIN」とは異なり、菅田さんとバンドメンバーだけという体制で作られています。そしてドラマや映画の主題歌として書き下ろしたタイアップ曲ではなく、あくまで自分発信の楽曲が並んでいるというのも今作の特徴です。

こういう作品を作ってみたかったんです。本来ミュージシャンが曲を作って作品にするなら、そういう流れが一般的だと思います。ただ、僕みたいな俳優業もしている人間の場合、音楽をやるならばその理由が必要なことが多いんです。タイアップもない状況でこうやって好きに音楽をやらせてもらえるのは、すごくぜいたくなことで、僕としては、周りを撹乱しながらやってきたという感じで(笑)。俳優業は作品やプロジェクトありきで仕事が決まるものですが、音楽業は自分が能動的にやるものじゃないですか。つまり「この曲は歌いたくないな」とか「ステージに行きたくないな」と思ったら終わりで、自分がやりたいと思える状況をどう維持していくかが大事。長く続けていくなら、基本的には好きなことをやるしかないんですよね。これは音楽活動を始めるときにレーベルの方ともじっくり話し合って決めたことです。

菅田将暉

──音楽をやるうえで自分の舵を自分で握るということが何より大事である、と。

そうですね。あくまで僕の場合は、です。そうじゃないと長く続けていけないし、長く続けられないんだったらやる必要はないと思っていて。ただ音楽をやりたいだけだったらプライベートでやればいい。それを表現として外に向けて発信するなら、好きなことでないと続けていけない。もちろんいろんな方に素晴らしい楽曲を作ってもらって、それを歌手として歌っていくという方法も、1つの道としては必要ですが、僕の場合はそれだけだと耐えられないんです。拙くてもいいから自分たちで作りたいと思っています。

「BABY BABY」ってなんなんだろう?

──今作の制作過程はどんな感じでしたか? まず楽曲ができた順番を教えてください。

「universe」が最初に形になりました。次に「Sensation Season」と「I'm in shock!!」と「幸せは悪魔のように」を同時進行で作っていって。その後に「骸骨は踊る」、「Water」の順にできたという流れでした。

──リード曲「Sensation Season」はまっすぐでエモーショナルな、菅田さんの歌のスタイルにすごくフィットした楽曲だと思います。

今作のポイントの1つとして、西田修大が大きく関わってくれたということがあって。彼から「スタジアムのような大きな場所を想像して、たくさんの人の前でやっても恥ずかしくないもの、間口の広い曲をまずは作るべきだ」と言われまして。それで、複雑すぎず、でもよく聴くといろんなことをやっている、いわゆるリード曲的な立ち位置のものを作ろうと考えてできたのが「Sensation Season」です。菅田将暉の音楽活動の未来を見据えて作った曲です。

──「Sensation Season」のミュージックビデオも拝見しましたが、ドラマ仕立ての内容ですごく印象的でした。こちらの撮影はどうでしたか?

面白かったです。監督はaoiくんという25歳の若い監督で。たまたまレコーディングの日に、石崎ひゅーいが近くで飲んでいると聞いて顔を出したら、そこにいたんです。いろいろしゃべっていたら、「菅田さん、『花ざかりの君たちへ~イケメン♂パラダイス~』知ってますよね? あのカット割りがカッコいいんですよ」って言うんです。「イケパラ」をそんなふうに観たことがなかったので驚きました。世代が違うからか、全然僕とは感覚が違うんだなと。それが面白くて、彼にセンスを感じて「Sensation Season」のMVの監督をお願いしました。彼のおかげで、よりこの曲が好きになれた感じがあります。

──「Sensation Season」と最後に入っている「幸せは悪魔のように」の2曲は「五感」というコンセプト先行で作ったというよりも、楽曲にどれだけ感情を込められるかを重視している感じがします。

そうですね。特に「幸せは悪魔のように」は身近なエモーションを込めました。「幸せは悪魔のように」はドラムのタイヘイと一緒に作ったんですが、最初はもっと激しい曲だったんです。タイヘイが突然「銀杏BOYZの『BABY BABY』って何なんだろう?」と言い出したのが始まりでした。「BABY BABY」は僕らの青春の1曲で、カラオケでみんなで歌えるあの曲は本当にすごいよなって。峯田(和伸)さんって、一見、大衆的というよりも危なっかしい感じの方なのに、なんでこんなにみんなに浸透してるんだろう、この爆発力って何なんだろう?って考えたんです。それで、僕らが好きだった銀杏BOYZみたいなバンド感をテーマに作り始めました。

──そうだったんですね。

でもあまりしっくりこなくて、途中でブレーキがかかって。その理由を探ろうと、みんなでスタジオに入って「BABY BABY」を1回演奏してみたら、しんどかったんですよ。無理やりギアを上げて叫んでいるような、フィットしていない感じがあって。タイヘイも父親になったし、結婚している人もいる。そんな僕らが「俺は童貞だ!」みたいに叫ぶのがちょっと嘘臭かったんですよね。それで今の自分たちの生活をベースに、でも熱くなれる気持ちのものを探して「幸せは悪魔のように」が完成しました。