東京スカパラダイスオーケストラ「35」特集|広がり続けるトーキョースカの地平

東京スカパラダイスオーケストラが10月23日にニューアルバム「35」をリリースした。

デビュー35周年の記念作品として制作されたこのアルバムの収録曲は、35周年の“KICK OFFシングル”として発表された「風に戦ぐブルーズ feat.TAKUMA(10-FEET)」、“NO BORDER 3部作”として配信リリースされた「一日花 feat.imase & 習志野高校吹奏楽部」「あの夏のあいまいME feat.SUPER EIGHT」「散りゆく花のせいで feat.菅田将暉」、さらに漏れなく全曲がタイアップソングとなっているインストナンバーと盛りだくさんの内容に。ボーナストラックにはSUPER EIGHTとの「メモリー・バンド」も収められた。

35年という長い歳月を一度も立ち止まらずに走り続け、11月には兵庫・阪神甲子園球場での初のスタジアムワンマンも控えるなど、さらなる挑戦を続けるスカパラ。その勢いをそのままパッケージしたような最新アルバムについて、谷中敦(Baritone Sax)、加藤隆志(G)、茂木欣一(Dr)に話を聞いた。

取材・文 / 大山卓也撮影 / YURIE PEPE

世代も技術も超えた音楽

──35周年にふさわしい華やかなアルバムが完成しました。

谷中敦(Baritone Sax) いつも一生懸命やってるだけなんですけど、やっぱり35周年は特別だなという意識はありましたね。今の自分たちのエネルギーが1つのアルバムになった感じです。

──今回「“NO BORDER”3部作」と銘打って、imaseさん、SUPER EIGHT、菅田将暉さんをフィーチャーした歌モノシングルもリリースされました。意外な人選に驚いたリスナーも多いと思うんですが。

茂木欣一(Dr) そうだよね、みんな歌手なんだけどそれだけじゃないというか。

加藤隆志(G) ノーボーダーという言葉がコラボの幅も広げてくれたんです。彼らが持っている表現のエネルギーは日本でもトップレベルだから、その力をスカパラの音楽に注ぎ込むことですごい作品ができたと思う。

加藤隆志(G)

加藤隆志(G)

──「一日花」でコラボしたimaseさんとは世代もキャリアもずいぶん差がありますが、知り合ったきっかけは?

谷中 今年の3月にとあるイベントで初めて会ったんです。imaseくんが挨拶しに来てくれて「imaseです。いつかスカパラさんとコラボしたいです」って。それで僕、びっくりしちゃって。

──あまりに率直だったから?

谷中 うん。でもそこには自信を感じたし、彼特有の明るさもあったんでうれしかったですね。

加藤 そのときちょうど「ZIP!」(日本テレビ系情報番組)の曲を作り始めたところで、imaseくんの声は朝にも映えるんじゃないか、このちょっとソウルっぽいメロディにハマるんじゃないかってことで声をかけたんです。

谷中 彼に連絡したら「マジすか! スタッフも喜ぶと思います!」って(笑)。

加藤 彼はメロディや歌詞の解釈が面白いんですよね。それに歌い方がかなり独特というかデスクトップミュージック特有の発声で、SNS中心に広がっていく音楽だな、これが今の世の中を動かしてるんだなと思いました。

谷中 ジョアン・ジルベルトが集合住宅に住んでいて、大きい声で歌うと苦情が来るからあの歌い方になったという話があるんですけど(笑)、今の若い子たちも宅録メインで自分の声を聴きながら歌ってるから、ライブ前提の人とは違う歌い方になるんでしょうね。そういうのがすごく面白い。

谷中敦(Baritone Sax)

谷中敦(Baritone Sax)

──この曲には習志野高校吹奏楽部も参加していますね。

加藤 習志野のほうが先に決まってたんです。2019年に「風のプロフィール」という曲を一緒に演奏して、またやりたいと思ってたんで。

茂木 途中で習志野高校のみんなの音が入ってきて、そのあとまたリズムが戻って全員で演奏する。何回聴いても鳥肌が立つんですよね。歌詞は乗ってないけど、言葉をめちゃめちゃ感じる。技術うんぬんを超えた音のピュアさもあるんです。

ずっとSUPER EIGHTとやりたかった

──SUPER EIGHTとは以前から交流があったんですよね。

谷中 2018年に彼らの「無責任ヒーロー」という曲を一緒にレコーディングしたときからの付き合いです。でもコラボはね、でもコラボはこのタイミングじゃないとできなかった。ずっとやりたいと思ってました。

加藤 僕たち実際に会うと和気あいあいとしてて同級生みたいなんですよ、世代は違うんだけど。

──「あの夏のあいまい ME feat.SUPER EIGHT」はスカパラ的にも新鮮なチャレンジという気がします。

加藤 すごくパワーのある曲ですよね。アルバムの中で一番好きかもしれない。この曲はモチーフ自体はだいぶ前からあって何回も選曲会議に出ていたんですけど、どうやってスカパラのサウンドに落とし込めばいいんだろう?とずっと悩んでいて。でもSUPER EIGHTとのコラボが決まったときに「これじゃね?」と。

茂木 めちゃくちゃ覚えてる。加藤くんがミーティングのときにひらめいて「それだ!」って。「そうか、これ5人で歌えばいいんだ」と思った瞬間に曲の構成がバババッと降りてきた。

茂木欣一(Dr)

茂木欣一(Dr)

加藤 このコラボがなかったら世に出ていなかったかもしれない曲ですね。ライブのときはスカパラのメンバーで歌い分けていて、それも面白いんですよ。

──歌詞もはじけてますよね。

谷中 曲名からして普段とは違いますからね(笑)。僕が考えるアイドル感を出したつもりで、あとSUPER EIGHTのファンの皆さんにも一緒に遊んでもらえる曲にしたくて、いろいろツッコミどころも作ってみました。

──そしてSUPER EIGHTが歌う「メモリー・バンド」も今回ボーナストラックとして収録されています。もともと2019年に茂木さんと沖さんがボーカルを担当する形でリリースした曲ですが。

加藤 この曲はテレビ番組やライブでSUPER EIGHTの皆さんとも一緒に歌ったりはしていたんですが、今回はそれを改めて作品に落とし込もうということですね。

谷中 実はこの曲自体、SUPER EIGHTをイメージして作った曲なんです。彼らの大変な時期、メンバーが抜けたりする時期に番組でご一緒させてもらって、俺は渋谷すばるくんの向かいで演奏してたんですけど、歌っている彼の顔が笑顔なのに泣きそうに見えて、そしたらなんだか自分が泣けてきちゃった。自分たちもメンバーが抜けたりいろんなことがあったなって、そういう思いがあって「メモリー・バンド」を書いたんです。でも当時はもちろんそんなことは言わずにリリースして、しばらくしてから大倉(忠義)くんのラジオで話したらびっくりしてましたけどね。すばるくんも「あの曲大好きなんです」と言ってくれました。

菅田将暉の言葉の説得力

──「散りゆく花のせいで feat.菅田将暉」は大人の色気を感じさせるラブソングに仕上がりましたね。

茂木 王道感がありますよね。個人的には「美しく燃える森」を思い浮かべたりもして、35周年だから自分たちへのオマージュみたいなイメージもあったかも。

谷中 確かに「美しく燃える森」もこの曲も、ちょっとラテンっぽさがあるね。

──歌メロはホーンで吹いても似合うメロディだなと感じました。

加藤 なるほど、それピンと来ました。例えば「君と僕」という曲はもともとインストで20周年のときに歌詞を付けて斉藤和義さんに歌っていただいたりしたんですけど、その逆があってもいいかもしれない。これをインストでやってもカッコよさそう。

谷中 やってみたいね。

加藤 「メモリー・バンド」みたいに歌う人が変わることによって違う形になったりとかもあるし、そういうのってスカパラならではですよね。みんなで育てていきたい曲です。

左から谷中敦(Baritone Sax)、加藤隆志(G)、茂木欣一(Dr)。

左から谷中敦(Baritone Sax)、加藤隆志(G)、茂木欣一(Dr)。

左から谷中敦(Baritone Sax)、加藤隆志(G)、茂木欣一(Dr)。

左から谷中敦(Baritone Sax)、加藤隆志(G)、茂木欣一(Dr)。

──「それは歯車のように機能した」みたいな歌詞も菅田さんが歌うと違和感がないですね。

谷中 確かに少し技術が要るというか、歌うときに難しい感じの言葉もあると思うんですけど、それを等身大に聞こえるように歌ってくれる菅田くんはさすがだなって。「回収されない告白はプラスティック」のところとか、特に気に入ってくれていましたね。

茂木 歌の説得力がすごいんだよね。歌手だけやってる人の言葉とはまたちょっと違う届き方で、聴いててドキッとする場面がたくさんある。

加藤 今はカラオケとかでも点数が付いたり、リズムや音程が正確かどうかみたいな視点で歌をとらえるのが流行ってるけど、それだけがうまい歌ってわけじゃないですからね。歌にはいろんな側面があって、菅田さんの歌には俳優さんだからこその説得力がある気がします。

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歌の天才・宮崎朝子