菅田将暉|憧れだった正義のヒーロー

秋田ひろむの言葉は難しいけど気持ちよさがある

菅田将暉
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──「ロングホープ・フィリア」はデクの歌であると同時に菅田さん自身の姿も反映されていると思います。最初に聴いたときはどんな印象でした?

やっぱり歌詞の内容が印象に残りましたね。まず読めない漢字があるんですよ(笑)。「遍く」は普段使わない漢字なので「なんて読むんですか?」って感じだったし。秋田さんの歌詞には難しい言葉が羅列されているんですけど、主人公が置かれている状況がすごく想像できるし、強いメッセージも込められていて。今回の曲も「秋田ひろむ節だな」というワクワクがありました。歌うのはめっちゃ難しいですけどね。

──感情の込め方、起伏の付け方がすごくいいなと思いました。

秋田さんが曲自体をそういふうに作ってくださってるんですよね、たぶん。イントロ、Aメロ、サビの流れの中で、どんどん立ち上がっていく雰囲気があると言うのかな。スタート地点ではコケているのかケガしているのか……とにかくよくない状態で始まって、途中でガッ!と上がっていく。特にサビは一歩前に出るときの気持ちがすごく出てると思います。その冒頭が“遍く”なんですけど。

──「遍く挫折に光あれ」と言う歌詞ですね。

すごいですよね。サビはもっとわかりやすい言葉にしがちだけど、秋田さんはそうじゃなくて。でもすごくキャッチーだし、意味も強い。そこは好きな部分ですね。

──強い日本語の歌が似合いますよね、菅田さんは。

ほかの言語がわからないですからね(笑)。意味がわかれば英語でもラテン語でもギリシャ語でもいいんだろうけど、僕はそうじゃないので。なんて言うか“普段使ってるもの”が好きなんですよ。だからいつも使ってるもので表現したいんですよね、たぶん。

──最後の「友よ、末永い希望を ロングホープ・フィリア」というフレーズも印象的でした。

“末永い希望”ってあまり聞きなじみがない言葉かもしれないけど、いいですよね。レコーディングのときにも考えていたんですけど、希望って長続きしないし、なんなら一瞬で消えちゃうことも多いと思うんです。希望をずっと持ち続けることができれば、それが自信にもつながるんだろうけど、現実はヘコむことのほうが多いし。そう言う意味で“末永い希望”というのは理想なんじゃないかなと。

──なるほど。

まあ、それができないから苦しいんですけどね。例えば希望にあふれた状況でも1つでも引っかかることがあると、そっちに流されるじゃないですか。90%の楽しさよりも10%の悲しさのほうが気になって、そのまま1週間くらい引きずっちゃうように。そうじゃなくて「できるだけ前向きな気持ちを持ち続けたほうがいい」っていうのは、歌ってるときも感じましたね。あとはもう歌詞の通りです。「笑う為に僕らは泣いた それを敗北とは言わない」もそうだし。感覚的にわかっていることをはっきりと言葉にしてくれる気持ちよさがあるんですよね。

自分を絶対的正義と言えなくなった

菅田将暉
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──カップリング曲の「ソフトビニールフィギア」は菅田さんの作詞作曲によるナンバーです。この曲を作ったのはいつ頃なんですか?

わりと最近ですね。作曲にクレジットされているKNEEKIDSはバックバンドのメンバーで、彼らと共作しました。以前から「一緒に1から曲を作ってみたいね」って話してたんですよ。シングルのカップリングだから「最悪、失敗してもいい」くらいの感じでスタジオに入って(笑)。さすがに何もない状態から作るのは大変だから、テーマだけ持っていったんですよね。「ヒロアカ」主題歌のカップリング曲なので「自分の中のヒーローって何だろう?」と考えて。そのときに浮かんできたのが子供の頃に遊んでたソフトビニールの人形だったんです。あの頃って、すごくよく言えば自分には絶対的な正義があったんですよね。なんの疑問もなく「パパ、怪獣やって!」って(笑)。

──確かに(笑)。

あのときの傲慢さって、けっこう重要だと思うんです。大人になるにつれて罪の意識みたいなものが出てきて、「自分は決して正義とは言えない」「こういう場合は一概に悪いこととは言えないな……」となってくるのが当たり前じゃないですか。でもそれは考えられる力が付いたから出てくる発想だなみたいなことをグルグル考えてるうちに、それをテーマにした歌を作ってみたいなと思ったんです。僕の中にそういうショートストーリーがあって、そこから歌詞を書いた感じですね。

──「大怪獣が街を襲ってる」という歌い出し、すごいですよね。

(笑)。そこは「ロングホープ・フィリア」との対比でもあるんですけど、ちょっと幼稚な言葉で書きたかったんですよ。できるだけシンプルでわかりやすく、難しい言葉は使わないようにして。サウンドに関しては、ライブをやってみてメンバーと「暗い曲が多いね」と言う話をしていたんです(笑)。それで「みんなで手を振りながら楽しめる曲を作ろう!」と意気込んで、テンポから決めていったんですよね。

──ライブで盛り上がれるような軽快で明るい曲にしよう、と。

そうですね。音楽的なところはわからないから、まずはギターを弾きながら歌って、ドラムとベースに入ってきてもらって。そういう自由な時間を過ごせるのは音楽だけかもしれないと思っています。気が合う仲間たちとシンプルにモノ作りを楽しんだと言うか。デモ音源のボーカルは自宅で録ったんですよ。メンバーにマイクや機材を持ってきてもらって、部屋をスタジオみたいにして。僕が歌ってる間、暇なメンバーはそうめんを食べてました(笑)。

──アマチュアバンドの雰囲気ですね(笑)。

そうですよね? そういう世界に憧れがあったから楽しかったです。学生時代はまったく興味がなかった自由な時間を仲間たちと楽しんでいるのは“遅れてきた反抗期”みたいな感じなのかな(笑)。