スカート×Kaede(Negicco)|似たもの作品を語る

「トワイライト」は派手さを排したソフトロック

──「あの娘が暮らす街(まであとどれくらい?) 」のセルフカバーは、スカートのニューアルバム「トワイライト」で1曲目に収録されています。この曲を冒頭に置いた意図はなんでしょう?

澤部 曲順はけっこう迷ったんです。初めは1曲目に置くつもりはなくて、後半にひっそり入っていたほうがアルバムがうまくまとまるかなとか、真ん中に置いてB面にうまくつながるみたいな形がいいかなと考えていたんですよ。全部の曲が出そろった段階で、「そうか、この曲はセルフカバーだけど『20/20』(2017年10月に発売されたスカートのメジャーデビューアルバム)の先にあったものか」という気持ちがあって。これが1曲目にあることは、実はこのアルバムにとってすごくいいことなんじゃないかと思って1曲目になりましたね。あと、スカートのアルバムはギター1本で始まるというのがあるあるなので。まあ、それは半分冗談ですけど(笑)。

──前作「20/20」のリリースから1年8カ月が経過しました。メジャーアーティストとしてのさまざまな活動を経て初めて制作した作品が「トワイライト」ということになりますが、そこに対するとまどいはありましたか?

澤部 次にアルバムを出すならシングルがうまく生きるようにしなくちゃいけないという思いがありました。提供曲や、tofubeatsくんとコラボした曲もそうなんですけど、外に向いたことが美徳となるアルバムじゃない見せ方をどうにかできないかとはずっと考えてましたね。ただ単に「メジャーだから外向きなアルバム」というのはすごく嫌だったんですよ。

──タイアップ付きの既発曲を軸にしつつ、アルバムの全体像をどう構成するかというところですね。

澤部 そこはかなりがんばりました。

──今年1月発売のシングル「君がいるなら」のカップリングに収められていた「花束にかえて」は、映画「そらのレストラン」の挿入歌というタイアップありきの曲ながら、なんてスカートらしい曲なんだろうと思いました。

澤部 この曲は自分の中でめちゃくちゃマンガっぽい描写というか、構図の変え方ができたんです。鈴木翁二さんのマンガを読んでいた頃のモヤっとした感じが曲に出た感じがしたんですよね。そういうことができた手応えが一番大きかったのが「花束にかえて」かな。今まで影響を受けてきたものたちの影の部分がちゃんと入っているし。この曲が一番暗く聴こえるようなアルバムにしなければならないと思って作りました。

──全体を通して、派手できらびやかな部分を排したソフトロック、という印象を受けました。ソフトロックの名盤の中でも地味なほうの作品、みたいな(笑)。

澤部 そうそう、そうなんです! The Kinksの「The Kinks Are the Village Green Preservation Society」とか、The Youngbloodsの「Ride the Wind」のライブ盤を聴いて、やっぱりソフトロックだなという気持ちがここ1年くらいあって。なんとかそういうものにしたいと思っていたので、そう言ってもらえてめちゃくちゃうれしいです。

左から澤部渡(スカート)、Kaede(Negicco)。

──Kaedeさんはスカートの新作を聴いて、気になった曲はありましたか?

Kaede 私は「沈黙」と「それぞれの悪路」がいいなあと思いました。ほかにもこんなにたくさんいい曲が続くとほんとどうしようって思う(笑)。噛みしめながらずっと聴き続けてました。

澤部 うれしい!

Kaede 提供曲がポンと浮くわけじゃないのがすごいと思います。まとまっているというか。あとは山崎ゆかりさんのコーラスがいいですよね。

──10曲目の「トワイライト」ですね。

澤部 いいですよねー。最高なんですよ。今回、アルバムの7曲目からだんだん暗くなっていくという演出にしているんですが、山崎さんのコーラスがそれを押し進めるようにも、光が差すようにも聞こえて。さすが山崎さんだなと思いました。

──コーラスに山崎さんを加えた理由はなんですか?

澤部 コーラスは毎回迷うんですよ。今回もマネージャーとエンジニアと3人でどうしようかと話し合っていたら、誰ともなく「山崎さんでしょう」という話になって。最初はこういうシンコペーションっぽいものを山崎さんがやってくれるのかなと不安だったんですけど、いざやってもらったらめちゃくちゃハマって安心しました。で、ここにもまた因果があって、「遠い春」でコーラスをやってもらったAchicoさんは、前に空気公団でコーラスをやられていたんですよ。「ずっとつづく」でラップスティールを弾いてくれた矢部浩志さんも空気公団でドラムを叩いていて。そのことに山崎さんのコーラスを録っているときに気付いて、そしたらKaedeさんの作品にも山崎さんがクレジットされていたので……なんか釈迦の手のひらで踊らされている気持ちになりましたね。

Kaede (笑)。それからストリングスがとてもきれいだなと思いました。

澤部 佐藤優介のアレンジが素晴らしいんですよ。何度も言ってるんですけど、優介は天才ですね。その音楽に何を添えたらどこがどうなるっていうことが、たぶんわかっているんです。弦を入れると派手な印象になってしまうことも多いんですけど、そうじゃない生かし方というか。それをギリギリのところできれいに聴かせてくれる最高のスコアを書いてくれましたね。

──佐藤優介さんはKaedeさんの作品にも参加されています。Kaedeさんから見て佐藤さんはどんな方ですか?

Kaede ぽやーっとしてる感じです(笑)。すごく独特な雰囲気のある方だなっていつも思いますね。優介さんから話しかけてくれるので、けっこう会話はしているんですけど、私から話しかけたことはないかもしれない(笑)。今作で「クラウドナイン」をいただいたときはスタートにふさわしい楽曲ができたなと思いました。

澤部 さっきKaedeさんが気になった曲に挙げてくれた「それぞれの悪路」は、ほとんど自分の多重録音なんですよ。ドラムとベースとギターは自分でやって、パーカッションだけシマダボーイにやってもらった曲で。アルバムの中で「花束にかえて」が一番暗くなるように作っているんですけど、「それぞれの悪路」はその前段階にある曲なので、かなり低空な曲なんですよね。これを選ぶKaedeさんならそりゃこのパッケージになるわ、と合点がいきました。T-Palette Recordsのロゴまでモノクロですからね。

──ジャケットがモノクロだったり、髪が乱れていたり、帯で顔が隠れたりと、アイドルのアートワークでは禁則と言えるような要素ばかりですよね。

Kaede 裏ジャケットは帯で隠れるんですけど、帯を外すと頭に風船玉が乗ってるんですよ。

澤部 へえー! これは気付かなかった。

Kaede こんなに太い帯も初めてです。

澤部 あんまりないですよね。太い帯カッコいい!

深夜ラジオの2人

──ソロ作品が暗さ、寂しさを打ち出したものになったのはKaedeさんの性格の表れなのでしょうか。

Kaede そうですね……。(Negiccoの)ほかの2人と一緒にいると温度差を感じるときはあります。

澤部 (笑)。

Kaede すごい元気なんですよ、あの2人。年を重ねるごとにキャピキャピさが増して。私は年齢が上がれば歳相応に大人っぽく落ち着いて見られたいと思ったりするんですけど、2人はどんどん子供みたいになっていく(笑)。

澤部 Kaedeさんのそういうムードは初めてNegiccoのライブを見せてもらったときからずっと感じていました。Kaedeさんだけ自己紹介が「Kaedeです」のみだったんですよ。場に屈しない感じがすごいカッコよくて印象に残っています。

Kaede 無理をすることがあまり好きじゃないので、アイドルだからといって「Negiccoの〇〇、Kaedeでーす!」みたいなことをやりたくなくて。でもテレビ出演となるとそういう自己紹介をちゃんと付けてくださいと言われることもあって。自分らしくいるためにどうしたらいいか考えますね。

澤部 戦っていたんですね。

左からKaede(Negicco)、澤部渡(スカート)。

──澤部さんも性格的には恐らく陰なほうだと思うんですけど、意図的に陽なキャラクターを表に出している感じがありますよね。

澤部 僕も気持ちとしては「澤部です」で済ませたいですよ。でも自分のキャラクターのことを考えると、どうしても「澤部でーす! どうもー!」みたいな感じになりますね。だからあれはうらやましいと思って見てました。それとKaedeさんも深夜ラジオを聴くじゃないですか。

Kaede 昨日も澤部さんの曲かかってましたよ。「うしろシティ 星のギガボディ」(TBSラジオ)で。

澤部 うれしいことにTBSラジオは6月たくさんかけてくれています。僕、Kaedeさんが聴いているから「アルコ&ピース D.C.GARAGE」(TBSラジオ)を聴き始めたんですよ。

Kaede ひたすら嘘をついてる嘘ラジオですよね(笑)。

澤部 そうそう(笑)。

Kaede 自分ではよくわからないですけど、会話をしていると「深夜ラジオを聴いている人のしゃべり方だね」って言われることがたまにあります。

澤部 うちのバンドのMCは完全にAMラジオのしゃべりなので(笑)。

Kaede FMとはちょっと違いますよね(笑)。

──Kaedeさんは今後ソロでこういうふうになっていきたいという展望はありますか?

Kaede そうだなあ。ちっちゃいカフェとかでライブをやって、お客さんの生の声が聞こえてくるみたいなことをやってみたいなと思っていたんですけど、6月から小規模のツアーが始まるのでそれを楽しみにしています。そういうことを積み重ねていって、求めてくれるファンの人がいるのであればソロを続けていきたいと思います。Negiccoもやりつつですけど。

──自分で曲を書いてみたいという願望は?

Kaede 今はまだないですね。難しそうで……。

──澤部さんは同じソロアーティストという立場から、新人ソロアーティスト・Kaedeさんにどんな期待を寄せていますか?

澤部 とにかく趣味のいいアルバムを作りまくってほしいですね。ファンの方もめちゃくちゃ喜ぶでしょう、こんなミニアルバムを出したら。望まれている環境でガンガンやってほしいです。我々ポップス好きからしたら、こういうアルバムは夢ですよ。夢を託します!

左から澤部渡(スカート)、Kaede(Negicco)。

ライブ情報

スカート Major 2nd Albumリリースツアー “トワイライト”(※終了分は割愛)
  • 2019年7月5日(金)愛知県 名古屋CLUB QUATTRO
    <出演者> スカート / グッドラックヘイワ
  • 2019年7月6日(土)大阪府 梅田CLUB QUATTRO
    <出演者> スカート / グッドラックヘイワ
  • 2019年7月19日(金)東京都 渋谷CLUB QUATTRO
    <出演者> スカート / Helsinki Lambda Club
Kaede「深夜。あなたは今日を振り返り、また新しい朝だね。」
リリース記念アコースティックミニツアー(※終了分は割愛)
  • 2019年7月6日(土)新潟県 高田世界館
Kaede「over the moon」
  • 2019年9月15日(日)東京都 神田明神ホール
    <出演者> Kaede(Negicco) / スカート