NegiccoのKaedeが6月18日にソロ初となるミニアルバム「深夜。あなたは今日を振り返り、また新しい朝だね。」を、翌19日にスカートがメジャー2ndアルバム「トワイライト」をそれぞれリリースした。
これまで澤部渡がKaedeに楽曲を提供したり、Kaede生誕ライブで共演したりと親交の深い2人が奇しくも1日違いで作品を発表するという機会に、音楽ナタリーで対談をセッティング。互いの作品に対する感想や、共通点などを語ってもらった。
取材 / 臼杵成晃 文 / 鈴木身和 撮影 / 南阿沙美
よってたかっていい曲を書いてくる
──同じ名前がクレジットされていたり、澤部さんがKaedeさんに提供した楽曲のセルフカバーが収録されていたりと、まるで血を分けた兄妹のような2枚が1日違いでリリースされました。
澤部渡 僕以外のスカートのアルバム参加メンバーがほとんどそっちでも演奏していますよ(笑)。僕も一度Kaedeさんの「クラウドナイン」のレコーディングを見に行って、ピザだけ食べて帰ってきました。
──Negiccoの中でもどちらかと言うと引っ込みがちな性格のKaedeさんが本格的にソロで活動を始めると聞いたときは意外に感じました。そもそもソロを始めようと思ったきっかけはなんだったんですか?
Kaede ソロをやりたいなと思ったのは、毎年やらせてもらっている生誕ライブがあったからですね。なんとなく自分に自信が付いてきて、ファンの人からも「もっとソロライブが観たい」「オリジナル曲をもっと作ってほしい」と声をかけてもらえるようになったので、やりたいなと思い始めました。
──今年4月にはソロ活動を本格的にスタートさせるライブを東京キネマ倶楽部で行いました(参照:Negicco Kaede「ソロ始めます。」春のワンマンで新たな一歩)。これまでの生誕ライブではバンドメンバーとして支えてきた澤部さんは、今回それを外側から見てどう思いました?
澤部 すごく不思議な感覚でしたよ。「知らない曲をやってる!」って思いました。でも、やっぱりいいんですよ。Kaedeさんにはみんなよってたかっていい曲を書いてくる。ライブでもわかっていましたけど、こうして盤になるとそれがさらによく見えましたね。
──澤部さんがKaedeさんの新作を聴いてどう感じたか、まず率直な感想を聞かせてもらえますか?
澤部 まずパッケージを見てビックリしたんですけど、ブックレットが右綴じなんですよ。「その手があったか!」と、まずそれが悔しい。それと、いろんな人が曲を持ち寄っている分、曲ごとに世界観が違うんだけれども、それをミニアルバムというサイズにまとめるのはさすがだなと。フルアルバムだったらちょっと疲れちゃうような振り幅かもしれないけど、ミニアルバムだと気分よく聴けちゃいますね。そしてなんと言っても皆さんちょうどいい温度の楽曲を書いていらっしゃる!
こんな素敵な曲を手放すわけにはいかない
──Kaedeさんが持っているどこかぽつねんとした雰囲気や、地元・新潟のイメージ……東京とは距離のある都市での暮らしを想像させる部分は、ソロシンガーとしてすごくキャッチーで個性的な武器になっている気がします。楽曲提供者は皆、そのイメージを楽しくふくらませながら曲を書いていそうだなと。
澤部 染谷(大陽)さんと曽我部(恵一)さんは特にそれが曲にめちゃくちゃ出ている気がしますね。
──Kaedeさん自身から「こういう作品にしたい」という提案はあったのでしょうか?
Kaede 具体的なテーマは特になくて。ただ「どんなアーティストさんに曲を書いてほしい?」と聞かれたので、希望する方を伝えました。
──歌詞やサウンドのイメージもお任せで?
Kaede 佐藤優介(カメラ=万年筆)さんと曽我部さん以外は完全にお任せしました。
──曽我部さんの提供曲「カエデの遠距離恋愛」には提案があったんですね(笑)。タイトルからかなりインパクトの強い曲ですが。
Kaede この曲はタイトルが世に出た段階でファンの方がざわつきましたね。「曽我部さんはKaedeの何を知っているんだ?」って(笑)。デモに入っていた曽我部さんのセリフパートがめちゃめちゃ上手で。
澤部 聴きてえー!
Kaede それにいかに寄せるかというのをけっこう時間をかけてやりました。
澤部 作家の皆さんがそれぞれの個性をガッチリ出しているのに、Kaedeさんの歌がブレないというか、完全にKaedeさんの世界で表現されているというのはすごいことだと思うんです。「キラキラ」なんてイントロを聴いた段階で、録音の感じから何から「これ完全にadvantage Lucyじゃん!」って思ったんですけど、歌が入ればちゃんとKaedeさんの曲になっている。ちゃんと自分のものにしてる、って言うと上から物を言うみたいで申し訳ないんですけど、そういう感じはしますよね。「飛花落葉」もそうでしたけど。
Kaede 「飛花落葉」は難しかったですね……。
澤部 これは大変な曲ですよ。
Kaede 詞が本当に素晴らしくて。最初にこの曲のデモをいただいたときは歌詞カードがない状態だったんですけど、自分でノートに書き起こしてみたら「……うわあ、どうしよう! すごいよすぎる!」ってなりました。connieさんにも「これ歌える? 大丈夫?」って心配されたんですけど、こんな素敵な曲を手放すわけにはいかないので「歌わせてください」って言いました。
澤部 この曲は本当にすごいですよ。聴いたときに鳥肌が立ちましたもん。いい曲すぎる。(ブックレットを確認して)しかも録音が葛西(敏彦)さんだ! 僕のアルバムを録ってもらったのも葛西さんなんですよ。ここにもつながりが!
──「飛花落葉」のほかに苦労したところはありましたか?
Kaede 「あなたは遠く」はキーがギリギリで、レコーディングにすごく時間がかかりましたね。染谷さんと一緒にレコーディングしていたんですけど、うまくいかないなっていうところで「僕はここをやり直したほうがいいと思うけど、どうかな?」って聞いてくれて。「私も納得いかなかったので、やり直したいです」というところが何カ所かあって。今までのレコーディングの中で最長だったかもしれないです。
──さらっと聴けるけれど、難解な曲が多いですよね。
澤部 「あたらしい歌」もヤバいアレンジだと思ったら吉田一郎不可触世界さんだったんですね。一見無害なんだけど、よくよく聴いてみるとすごくいびつというか。ビックリしました。
Kaede 櫛引彩香さんは、澤部さんが書いてくれた「あの娘が暮らす街(まであとどれくらい?) 」がすごくよかったと言って、去年ライブに呼んでくださったんです(参照:櫛引彩香スペシャル企画第3弾はリクエストライブ、ゲストにNegicco Kaede)。一緒にこの曲を歌ったときに「次は一緒に作品を作れたらいいですね」とお話しした経緯もあって、今回オファーさせていただきました。
──澤部さんが「あの娘が暮らす街(まであとどれくらい?) 」を書いたときは、サウンドや歌詞についてどんなオーダーがあったんですか?
澤部 「明るいか暗いかのどちらかに振り切ってほしい」というお話でした。じゃあ暗いほうが得意なんでって作り始めたんですけど、いくつかスケッチを作ったところで手が止まってしまったんです。そのときに「そうか、暗い曲を書くときは歌詞から書けばいいんだ」と思い立って、詞を先にわーっと書いたんです。そしたら先に作っていたスケッチにぴったり合う部分が1カ所くらいあって、それをとっかかりに書き上げました。
──詞先は珍しいことなんですか?
澤部 昔はよくあったんですけど、ここ3、4年は詞先で書くことは減ってましたね。アルバム1枚に1曲あるかないかぐらいです。この曲はとにかく暗い歌詞なんだけど、ちゃんと希望があるものにしたいなと思って。
──Kaedeさんはこの曲をもらったときどう思ったのか、改めて本人を目の前にして言ってみてください。
澤部 恥ずかしいな(笑)。
Kaede 最初は歌詞がどういう意味なのかわからなかったんです。でもスカートさんの歌詞のよさって、そういう“わかるようなわからないような”ところだと思うので。スカートさんのセルフカバーでは私たちのときとバンドメンバーがちょっと変わってますよね?
澤部 そうですね。ベーシストが変わっています。
Kaede よく聴いていたKaedeバージョンとはまた違う雰囲気でいいなあ、と思いました。
澤部 うれしいなあ。ありがとうございます。
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「トワイライト」は派手さを排したソフトロック