シンガーソングライター澤部渡によるソロプロジェクト・スカートが、6月19日にメジャー2ndアルバム「トワイライト」をリリースした。ジャケットを飾るマンガの1コマは、宝島社刊「このマンガがすごい!2019」のオンナ編第1位を獲得した「メタモルフォーゼの縁側」で知られる鶴谷香央理が、本作のために描き下ろしたものだ。
スカートの作品ではこれまでにも見富拓哉、久野遥子、町田洋、西村ツチカといった数多くのマンガ家がジャケットイラストを手がけているほか、澤部はミュージシャンでありながら創作マンガの即売会・コミティアに出展し“壁サークル”も経験、さらに真造圭伍、宮崎夏次系、谷口菜津子らが寄稿する自主制作マンガ誌「ユースカ」に参加。カルチャー誌・フリースタイルの「このマンガを読め!」企画で選者を務めるなど、自他ともに認める大のマンガ好きだ。コミックナタリーでは「トワイライト」のリリースを記念して、ジャケットの制作過程や互いの作品の魅力のみならず、2人のコミティア愛やマンガ遍歴までたっぷりと語り合ってもらった。
取材・文 / 松永良平 撮影 / 石橋雅人
コミティアに行くと「その他」を端から端まで見て回る
──まずはおふたりの出会いから話を始めたいんですが、最初は作品を通じて、ですよね?
澤部渡 そうです。鶴谷さんがウラモトユウコさん、オカヤイズミさんと出された「しりとりコ」という同人作品をウラモトさん経由で知って、読んで「すごっ!」となったんです。それから2013年くらいかな、コミティアにも出てらっしゃることを知り、「吹奏楽部の白井くん」という短編を買ったり、モーニング(講談社)に読み切りで掲載された「ル・ネ」を読んで、「ああ、最高!」って思ってました。
──僕が編集した「音楽マンガガイドブック」(参考:NANAに俺節も!音楽マンガガイド本で360作を徹底紹介)の発売記念で野中モモさん、澤部くん、僕で鼎談をやったときに、本には載せられなかったけど好きな作品として澤部くんは「吹奏楽部の白井くん」を挙げてましたね。
鶴谷香央理 わー、そうだったんですか! ありがとうございます。私はスカートは、ミニアルバムの「ストーリー」が出たときに知って、「すごくカッコいいな」って思ってました。
──「ストーリー」のジャケットを描かれていたのはマンガ家の見富拓哉さんでしたね。マンガ家同士のつながりで知った感じなんでしょうか?
鶴谷 いえ、最初は音楽好きの友達に「好きだと思うよ」と薦められて聴いたのがきっかけだったんです。で、その後にコミティアでお客さんとして私のブースに来てくださって、びっくりしたという感じです。あとからウラモトさんたちに「今のってミュージシャンのスカートの方だよね?」と確認しました(笑)。
──そうなんですね。澤部くんのほうから自己紹介したのかと思ってました。
鶴谷 お互いに知っていたから、あんまり自己紹介とかし合ってないですよね。
澤部 してないですね!
──ちょうど2012年から14年くらいまでは、澤部くんは単にコミティアにお客として行っていただけではなく、マンガ家ではないのにブースも出していたんですよね。そこはスカートの音楽がインディーポップ好きの音楽ファン以外の層にもどんどん浸透していく、初期のヒストリーでもかなり重要なトピックでした。
澤部 最初は「(コミティアでは)何かとても面白そうなことが起きているぞ」みたいな感じで見に行って、やがて自分も定期的に参加するようになりましたね。マンガ家の人は音楽が好きな人が多くて、僕の場合だと活動の最初期の段階でTAGROさんや青木俊直さんが聴いてくださってたということもあったので、コミティアというのは自分としても近い気分がする場所だったんです。僕はマンガ家の西村ツチカさんやデザイナーの森敬太さんとトーベヤンソン・ニューヨークというバンドもやってるんですけど、バンドのリハが終わったときに「今日、コミティアやってるから行ってみようよ」って流れになったのが、初めてのコミティアだったんですよ。「コミティア96」だったかな。そのときに「すごっ!」と思ったのが、自分の中でのひとつの転換期でした。
──鶴谷さんは、どういうきっかけでコミティアに出展されたんですか?
鶴谷 商業誌に出すネームが通らなくてけっこうぐったりしていた時期に、ウラモトさん、オカヤさんに誘ってもらって、Webで3人でリレーしながら描いていた「しりとりコ」を同人誌としてまとめて出したんです。私もコミティアは衝撃でしたね。「なんだ、ここは」って感じで、めちゃくちゃ楽しかったです。
澤部 あと、コミティアって「その他」っていうジャンルがあるんですよ。それがデカかった。
──単に「その他ジャンルのマンガ」ってことだけじゃなく、マンガじゃなくてもいいんですか?
澤部 そうなんです。マンガは例えば「少女まんが」「青年まんが」「SF・ファンタジー」ってジャンルが分かれてて、さらに音楽サークルが出る「音楽・映像」というジャンルもある。だけど、それ以外に「その他」があって、そこが変な場所なんですよ(笑)。僕がそこを知ったきっかけは、「良識派」っていうマンガのサークルをやっていた大野冷さんにカーネーションのライブでたまたま会ったときに「コミティアに参加しようと思ってるんですけど」って相談をしたら、「『その他』って場所があるから、そこだったらきっといいよ」って言われたことなんです。
──「音楽・映像」っていうジャンルがちゃんとあるのに、なぜ「その他」を?
澤部 そこがまた雑多な雰囲気でよかったんですよ。panpanyaさんがずっと出展していたのも「その他」でしたね。いまだに僕はコミティアに行くと「その他」は端から端まで見て回ります。
鶴谷 そうなんですね。今度回ってみます。
澤部さんはコミティアにすごくなじんでる
──そして「その他」ジャンルでコミティアに出ることを決意した澤部くんは、マンガは描けないので、自分の曲のデモ録音を入れたCD-Rを売ったという。それが許される場だという面白さもコミティアならではですよね。
澤部 我ながら「これはいいぞ」と思ったんですよね(笑)。
──しかも、人気サークルやマンガ家さんが与えられる場所である“壁”になったこともありましたよね。
澤部 いつものビッグサイトの東館ではなく西館で開催されたとき“壁”になったことが一度ありました。あのときはびっくりしましたね。
──マンガ好きの人たちに澤部くんが受け入れられていった理由を、鶴谷さんはなんだったと思います?
鶴谷 えー、なんだろう? でも、澤部さんはコミティアにすごくなじんでる感じはありました。
澤部 ははははははは(笑)。
鶴谷 私たちがブースにいて澤部さんが向こうから歩いて来ると「あ、澤部さん来た!」って感じになるんですよね。音楽が素晴らしいのはもちろんなんですけど、買ってもらえたらすごくうれしいし、澤部さんの存在に親しみを感じてる人は多いんじゃないかな。(スカートの曲の)コードブックも売ってましたよね? 私はコードブックを買ってもよくわからないけど、あれが置いてあることってなんかいいな、みたいな感じはありました。
澤部 さすがにコミティアで本を出さないのはどうしたものかと思って出したんですけど、意外とあれは好評でしたね。いつかあれのまとめ本作って、またコミティア出たいですけどね。
鶴谷 私もまた出たい。出るのが楽しいんですよ。
澤部 そうなんですよ! 客で行くのも楽しいんですけど、やっぱ出てるときに1時間くらいふらっとほかのブースに買い物に行くことの気持ちよさって、あれはなんなんだろう?
鶴谷 何物にも代えがたいですよね。
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ジャケットのオーダーは「架空のマンガの1コマ」
2019年7月4日更新