スカート「海岸線再訪」|澤部渡(Vo, G)×佐久間裕太(Dr)が振り返る、コロナ禍のスカート (3/3)

「遠い春」がバカ売れした世界線

──2曲目「背を撃つ風」は、Paraviオリジナルドラマ「最愛のひと~The other side of 日本沈没~」のイメージソングです。サビで入る女性のコーラスがいいアクセントになっていますよね。

澤部 あれはベースの岩崎(なおみ)さんにお願いしました。自分で歌うとちょっと変なんですよね。ライブで歌うぶんには別にいいのかもしれないけれど、レコードにするときに違う意味合いを出したいなと思って。

──ドラマはタイトルの通り日本で起こる未曾有の危機がテーマになっていますけど、「背を撃つ風」はどのように作っていったんですか?

澤部 「背を撃つ風」は、ドラマの登場人物が作った歌という設定なんですよ。この曲がドラマの最終回に流れるという、最初はそれだけのオーダーだったんです。でも、音源を提出したら気に入ってくださったみたいで「イメージソングにしちゃいましょう」という話になって。設定上だと、日本が沈没して海外に渡った登場人物がその土地で日本語の曲を作って、世界中で聴かれているってコンセプトだったんです。

佐久間 じゃあこの曲がバカ売れしてるってことか。ハードル高いなあ(笑)。

澤部 そうなのよ(笑)。だから自分の頭の中を無理やりいじって、「遠い春」がバカ売れした世界線にいるんだと思って書きました。

佐久間 今だとエド・シーランとかBTSの気持ち?

澤部 そうだね。「背を撃つ風」は俺のBTS。

左から澤部渡(Vo, G)、佐久間裕太(Dr)。

左から澤部渡(Vo, G)、佐久間裕太(Dr)。

──いいの出ましたね(笑)。

澤部 とはいえ、日本ならではのポップソングをイメージして僕にオファーしてくださったんだろうから、全然BTSっぽくはなってないんだけど(笑)。

──最初に提出した時点では、どの程度音源は完成していたんですか?

澤部 1分尺だった気がしますね。

──そこから今の形に広げていったと。その作業は苦ではないものなんですか?

澤部 メロディだけならそんなことないんですけど、歌詞のほうが苦労しますね。1分尺で歌詞を付けて納品しちゃって、そのあとフル尺書くのは大変です。「背を撃つ風」はそのままゴーが出たのでそこまで苦労はしなかったかな。「山田孝之のカンヌ映画祭」というドラマのエンディングテーマに「ランプトン」という曲を書いたんですけど、これが大変だった。1回1分尺で作って提出したらOKが出て、リリースの予定も特にないから放置してたんですよ。そしたら最終回でフル尺を流したいと連絡がきて。一度「終わった」って区切っちゃうとその先を作るのは難しいですね。

こんなに合うものなのか

──3曲目の「この夜に向け」は「大きいサイズの店フォーエル」のテレビCMソングとして書き下ろされた1曲で、なんと言いますか、ぴったりなコラボですよね。

澤部 ありがとうございます(笑)。これ、もともとは先方に明確なビジョンがあって、「大きい男の人が着る服がなくて困っている」みたいな歌詞も用意されていたんです。でもそれだと直接的すぎてスカートのテイストには合わないので、正直にお伝えして今の形に一から作っていきました。

佐久間 僕は元の歌詞も好きでしたけどね。レゲトンっぽくアレンジしたらいいじゃんってドラムも考えてたのに。

澤部 いや、この人何かあるたび僕にレゲトンをやらせようとするんですよ。

佐久間 (笑)。この曲の制作は本当に切羽詰まってたよね。

澤部 そうそう、それこそレコーディングの1週間前とかにようやくメンバーにデモを送れたくらいで……。

佐久間 バンドだとありえないことだよ。ミツメみたいにすごく作り込んでいそうなバンドだとそんなことしないでしょ?

澤部 絶対しないだろうね。スタジオにみんなで集まって磨き上げてから録るだろうから。

佐久間 まあ、こっちとしてはそういう作業がないのは楽だけどね。

──スカートの制作スケジュールとしては、レコーディング1週間前にデモを送るのは普通なんですか?

澤部 1カ月でも1週間でも仕上がりは変わらないですよね?

佐久間 結局、彼は締め切りがないと曲を書かないんですよ。ここ3作くらいは締め切りギリギリに曲が上がって、レコーディングは1週間後くらいに決まっているから「じゃあやりましょうか」って感じだから。

澤部 みんながうまいからね。

佐久間 スカートの音楽性が一貫してるから、このスケジュール感でも回せてるんだと思います。さすがにレゲトンを取り入れるとなると、みんなで集まって擦り合わせなきゃだから(笑)。

──澤部さんが持ってきたデモに対して、佐久間さんはどの程度アレンジを入れるんですか?

佐久間 どちらかというと整理整頓するって感じですかね。

澤部 僕は感覚で叩いちゃうので、キックが入る位置とか毎回適当なんですよ。そういうのを佐久間さんがうまく慣らしてくれてます。

佐久間 付き合いも長いので「こうしたいんだろうな」というのがだいたいわかるんですよね。

──バンドメンバー全員でのレコーディングはひさしぶりだったんじゃないですか?

佐久間 僕は最近スカートくらいでしか叩いてないので、レコーディングはひさびさでした。でも周りのスタッフやスタジオが変わらないからか、変にかしこまる感じでもなく、いつも通り演奏できましたね。

──澤部さんはどうでした?

澤部 レコーディングの情報量が多すぎて、何がOKテイクなのかわからなくなっちゃったんですよ。最初に「背を撃つ風」を録ったんですけど、自分のギターのタイム感とかも忘れちゃっていて。だからギターだけ早くて、何回か聴いていくうちに冷静になったんですけど、それがすごくショックでした。でも戸惑ってたのは初めの2時間くらいで、あっという間にいつものスカートに戻ってたので不思議でしたよ。「この夜に向けて」なんてリハもできてないのに「こんなに合うものなのか」というくらいのが録れて。

傷を負ったスカートを見てほしい

──シングルの初回限定盤DVDにはスタジオライブ「The Coastline Revisited Session」が収録されます。今回のシングル曲以外に「おばけのピアノ」「ともす灯 やどす灯」といった初期のナンバーも演奏してますけど、セットリストはどういうイメージで組んだんですか?

澤部 シングルの初回盤は僕らのことを好きな人しか買わないだろうから、あんまりライブでやれてなかった曲を多めに入れようというのがコンセプトですね。

佐久間 見どころは薄暗いところ。照明がいい雰囲気にしてくれてるんですよ。

澤部 ライブバンドとしては、コロナ禍で一度御破算になってるわけじゃないですか。「それをもう1回ここから立て直すんだ」という意思を汲み取ってもらえたらうれしいです。

佐久間 そうだね。だからまずは買ってほしいよね。買わないとその意気込みも伝わらないからね。

澤部 うん、傷を負ったスカートが見れると思いますよ。

円陣は組まないタイプの同志へ

──来年以降のスケジュールはもう決まってるんですか?

澤部 来年はさすがにアルバムを出したいんですよ。

佐久間 アルバム出すの?

──そんな大事なこと聞かされてないんですか?

佐久間 いつもね、CDが出ることすら知らなかったりするんですよ。

澤部 (笑)。

佐久間 本当にそうで、なんならナタリーの記事で知ることのほうが多いかも。

澤部 昔はまめに連絡をしてたんですけどね。でもメンバーの誰からも返信来ないから……。

──それもスカートならではというか、バンドだとあまりないことですよね。

澤部 そうですね。それが新しい概念ってことなのかな。

佐久間 それくらいの距離感がいいって人が集まってるんだろうね。

澤部 助かります(笑)。

佐久間 全員がそこまで興味ないんですよ。

──そんなことはないでしょう(笑)。

佐久間 いや、それくらいじゃないと続かないんですよ。

澤部 そうそう、スカートの場合はそれくらいがちょうどいいんです。

佐久間 だって歌詞を読み込んできて、リハのときにああだこうだ言われても嫌でしょ? やかましいわって感じですよ。

澤部 スカートはそういう瞬間が今まで一度もないよね。

佐久間 そのほうが熱量持って創作できるんだとは思うんだけどね(笑)。

澤部 そういう人たちはライブの前に円陣組んだりするんでしょ? それはダメだよ。

佐久間 組むタイプ、組まないタイプがあるからね。

澤部 組まないタイプのバンドがどうやってカッコいいレコードを作っていくかってことなんですよ。スカートは世の中の円陣を組みたくない人たちに向けて音楽を作ってますから。「組まない派は任せてくれ。俺たちについてこいよ」ってことで。

──なるほど(笑)。話を戻しますけど、澤部さんの中では来年のビジョンはあるんですか?

澤部 いや、ないです(笑)。アルバムを出したいという願望だけですね。本当だったら今回のシングルの曲作りが落ち着いて、アルバムの制作に取りかかろうかってところなんですけど、また新しい仕事のお話をいただいていて……。

佐久間 へー、また曲ができるじゃん。

澤部 やった!

左から澤部渡(Vo, G)、佐久間裕太(Dr)。

左から澤部渡(Vo, G)、佐久間裕太(Dr)。

プロフィール

スカート

シンガーソングライター澤部渡によるソロプロジェクト。2010年にスカート名義での音楽活動を始め、同年に自主制作による1stアルバム「エス・オー・エス」をリリースした。以降もセルフプロデュースによる作品をコンスタントに制作し、2014年にはアナログ12inchシングル「シリウス」をカクバリズムより発表。2016年にはオリジナルアルバム「CALL」を発売した。2017年にポニーキャニオンよりメジャーデビューアルバム「20/20」、2018年に表題曲が映画「高崎グラフィティ。」の主題歌に使用されたメジャー第1弾シングル「遠い春」をリリース。2019年6月にメジャー2ndアルバム「トワイライト」、2020年12月にカクバリズム所属前に自主レーベルで発表した楽曲を再録したアルバム「アナザー・ストーリー」を発表した。最新作は2021年12月リリースのシングル「海岸線再訪」。またスカート名義での活動のほか、澤部はギター、ベース、ドラム、サックス、タンバリンなど多彩な楽器を演奏するマルチプレイヤーとしても活躍しており、yes, mama ok?、川本真琴ほか多数のアーティストのライブでサポートを務めるほかスピッツや鈴木慶一のレコーディングに参加。これまでに藤井隆、Kaede(Neggico)、三浦透子、adieu(上白石萌歌)ら他アーティストへの楽曲提供およびドラマや映画の劇伴制作にも携わっている。またトーベヤンソン・ニューヨーク、川本真琴withゴロニャンずには正式メンバーとして所属している。