11牧野アンナイズム
振付師のアンナ先生はSKE48を語るときに外せない存在だと思います。相当しごかれました。アンナ先生がいるだけで、その場の空気がピリッと締まるんですよ。1人ずつ呼び出されて、「はい、ここで踊って」と言われるときの緊張感といったら……。「あなた、ダメ」「ダメな子は出さないよ」みたいなことを容赦なく言われ、しまいには「これは連帯責任だから。この子を出すか出さないかは全員で話し合って決めて」という流れになるんです。「マジか……」って思いますよね(苦笑)。
だけど、それは初期SKE48の話。最近はアンナ先生も丸くなったなと感じます。お子さんができた影響とかもあるのかな。とは言え、根底にある“熱さ”みたいな部分は変わっていない気もするんです。コンサート終了後に「どうでした?」って聞くと、めちゃくちゃ細かくアドバイスをくれますし。やっぱり1人でも厳しく鍛えてくれる人がいないと、チームってダメになると思うんです。結局、アンナ先生は3期くらいまで見てくれたのかな。それ以降は私がアンナ先生役というわけじゃないけど、新しい子が入るとレッスンを見に行って「こうしたほうがいいんじゃない?」とアドバイスを送る立場になりました。もちろんアンナ先生みたいに厳しいやり方はできないですけどね。でも、誰かしら体育会系の精神を教える人は必要ですから。
12家族
私にとって家族は、なくてはならないもの。うちの母は若い頃、歌手になりたかったらしいんです。だから私がくじけそうになったときも、「自分が叶えられなかった夢を娘が現実のものにしてくれて、お母さんはすごくうれしい。だから珠理奈ももう少しがんばってみて」って励ましてくれるんですよ。人間って自分のためだけじゃなく、誰かほかの人のためにがんばろうと思うとパワーが出るじゃないですか。一番近くにそういう存在がいることで、私はここまでがんばることができたのかもしれないです。
おばあちゃんもテレビをよく観る人なので、私がドラマとかに出るとものすごく喜んでくれるんです。バラエティも本当は苦手なんですけど、おばあちゃんの笑顔を思い浮かべると「もっとうまくできるようにがんばらなきゃ」って思います。根本的な話になるんですけど、私は人を喜ばせることが大好きなんですね。だからこそ、このお仕事を続けているわけで。その原点が私にとっては家族であり、家族の笑顔を見るためにがんばっているという部分はすごく大きいです。
13SKE48らしさとは
ファンの方がよく言ってくださるSKE48の特徴は「何事にも一生懸命に取り組む集団」。確かにその通りだなと思います。それに加えて個人的に感じるのは、「メリハリがあるのがSKE48らしさ」ということ。真面目なときは真剣にやるけど、ふざけるときは全力ではしゃいでいる。極端なんですよね。でも、その落差が私は大好きです。AKB48でしばらく活動していてSKE48に戻ってくると、ダンスの激しさに私もビックリしちゃう。本当に全然違いますから。なんというか……AKB48で踊っていても体が痛くならないんですよ。だけど私はAKB48の曲でもSKE48のノリで踊るから、それで結果的に浮いちゃうんです。もう染みついちゃっているから、手を抜くことができなくて(笑)。なんでも本気だし、どこまでいっても熱い集団。それがSKE48らしさだと思います。
14ライバル・松井玲奈
同じグループに同じ苗字のメンバーがいるということもあって、玲奈ちゃんとは比較されることがけっこうありました。ライバルと言われることも多かったです。私からすると、玲奈ちゃんは「もう1人の私」というイメージなんです。全然タイプが違う2人だけど、だからこそ足りないものを補い合う関係というか……2人で1つという感じかもしれないな。SKE48を一緒に引っ張っているような感覚があったし、自分がいないときも玲奈ちゃんがいれば大丈夫だろうという安心感がありました。だから玲奈ちゃんが卒業したときは、自分が半分なくなったような感覚でした。率直に言って寂しかったですね。心にぽっかり穴が開いたような気持ち。玲奈ちゃん、私にひと言の相談もなく卒業を決めたんです。たぶん1期生の誰にも相談していないんじゃないかな。「なんで私に話してくれなかったのよ」と当時は落ち込みました。私にもそういう“女子”な部分があるんです(笑)。
15選抜総選挙
総選挙というのはAKB48グループのメンバーにとって通知表みたいな存在。だけど通知表と違うのは、がんばるのが自分じゃなくてファンの方ということなんです。自分だけの力じゃどうすることもできない。ファンの方との団結力や一体感を改めて確認できる場なんですよね。
そもそも誰だって順位を付けられるのは嫌ですよ。当たり前じゃないですか。何位であろうとも私は私だし、自分のファンの方は変わらずに応援してくれる。私が結果的に何位になろうとも、ファンの方は「俺たちにとっては1位だよ」と伝えてくれるんです。では、なぜ私は「1位になりたい」って言い続けていたのか? ここは本当に複雑なところで、矛盾する話ではあるんですけど、やっぱりこれもファンの方のためなんです。1位になってセンターで歌う私を見て喜んでくれますから。結局、自分のことって二の次なんです。総選挙では特にそうですね。SKE48のメンバーが1人でも多く上位に入ってもらいたいと思っていたし、自分の順位以上にそっちのほうが私にとっては大事でした。とにかくSKE48を第1党にするというのが昔からの悲願でしたから。総選挙で結果を出したとき、初めて胸を張れると思ったんです。
16コンプレックス
ずっとSKE48でやってきたから、アイドル以外の世界を知らないというのが私のコンプレックスなんです。普通だったら知っていて当然という社会常識が抜け落ちているんですよね。例えば最近だとETCの存在を知らなくて、スタッフさんに驚かれたんです。それで急にETCを知らない自分が恥ずかしくなっちゃった(笑)。自分で車に乗らないのでピンと来なかったんです。そのほかにも私が知らないことが世の中にはたくさんあるから、卒業したらいろんな面で社会勉強していきたいです。大人の女性として、社会人として、今後はもうちょっとちゃんとしていかなくちゃって考えています。
17アイドルとして絶対に忘れちゃいけないこと
アイドルをやるうえで、絶対に忘れちゃいけないなと肝に銘じていることがあるんです。それは自分の活動が誰かの生きる源になっているという事実。というのも、ファンの方からいただいたお手紙に、こんなことが書かれていたんですね。「ずっと僕は引きこもりでした。だけど珠理奈ちゃんの握手会に参加したくて、外に出られるようになりました」って。癌に罹った方から「珠理奈ちゃんの姿を見て勇気をもらっている」と言われたこともあります。ハッとしますよね。まさか自分のアイドル活動がそこまで他人の人生に影響を及ぼすなんて想像もしないじゃないですか。だけど、これは大袈裟な話では決してないんですよ。アイドルの基本は見ている人に勇気や元気を与えるということなので。1人でもファンがいるということは、そのアイドルは他人の人生に影響を与えているということ。そこは後輩たちにも理解してもらいたいなと考えています。
18ファンの存在、アンチの存在
ファンとアンチ……これは本当のコインの表と裏のような存在だと思うんです。裏を返せば、どっちもファンとも言えるでしょうね。私のYouTubeにもアンチの方がコメントを書き込むことがあるんですよ。だけど私のところに来て書き込んでいる時点で、私に興味を持っているということじゃないですか。わざわざ自分の時間を割いている。もはやそれって好きってことですよね。握手会でも、ファンのふりをしてひどいことを言ってくる人っているんです。だけど、その人ってそのためにお金を出して握手会に来てくれているんですよ? 交通費だってかかるだろうし、自分の貴重な時間も費やしているわけじゃないですか。だから、考えがひっくり返って本当のファンになってくれる可能性もあるんじゃないかと思うんです。人前に立つお仕事である以上、興味を持たれないよりはいいですよね。
19本当の強さとは?
私はプロレスや格闘技が大好きなんですけど、たまに考えることがあるんです。「本当の強さってなんだろう?」って。腕力があることだけが人間としての強さとは決して思えないんですよね。本当の強さとは自分の弱さを知ること、最近はそう感じるようになりました。人生すべて何もかもうまくいっている人なんて世の中にいないと思うんです。多かれ少なかれ、挫折や絶望、打ちひしがれるようなことは誰の身にも降りかかってくるけど、大事なのはそこでもう一度這い上がろうと立ち上がる姿勢ですよね。でも、そのためには強がるだけじゃなく、自分が一度倒れているということを認める必要がある。私はそう考えているんです。
ご存知かもしれませんが、私は総選挙のあとに体調を崩して休養しました。休養前の私は虚勢を張って強がっていただけなんです。強い自分を演じていただけ。実際は全然強くはなかった。休養中はやっぱりいろんなことが頭に浮かんできました。「私、このあと戻ることができるのかな?」「戻るにしても、どんな感じで戻ればいいの?」とか。それでたどり着いた考えが「もっと気楽に考えよう」というものでした。自分は強くないんだから、わざわざ自分で自分を追い込むような真似はよくないなと思って。それで一気に楽になったんです。だから今の私は精神的に強くなったと思います。
この記事を読んでいる人の中にも、今実際にいじめとかで悩んでいる人がいるかもしれませんが、そういう方には自分にとって大切な人のことを考えてほしいです。それは友達でもいいし、家族でもいいし、恋人でもいい。とにかく自分には味方がいることを忘れないでほしい。1人でもいいから自分のことを理解してくれる人がいるんだったら、いじめてくる人に何を言われようが知ったことじゃないですよ。その人が自分の何を理解しているんだっていう話で、要するに自分の人生に関係ないんです。自分の好きな人との時間を大切にしたほうが絶対プラスになると思います。
20卒業後に抱いている夢
今回リリースするシングルには、カップリングでBlack Pearlという私がプロデュースしたユニットの曲が入るんです。歌詞も書いたし、振り付けも担当したし、衣装やメイクにも私のアイデアを取り入れてもらいました。今はプロデュースすることが楽しくて仕方ないんです。卒業してからも、なんらかの形でSKE48と関わっていけるといいなと思っています。12年間で培ってきたものを何かしら伝えていきたいですしね。
とにかく、ここから新しい私が始まるかと思うとワクワクします。今は未来に対する希望しかないです。これからは今以上に私らしくやっていきたいと思いますし、私がいなくなったSKE48も変わらず応援していただけたらなと思います。皆さん、これまで本当に応援ありがとうございました! 以上、SKE48の松井珠理奈でした!
2021年2月10日更新