(sic)boy「HOLLOW」特集 | ソロインタビュー&アーティスト7名からのコメント (2/3)

SEVENTEENのVERNONやタイプの異なるラッパーとのコラボ

──ラップについても伺いたいのですが、Only Uさんとの「Resonance」やDaichi Yamamotoさんとの「幽霊船」は、実はすごく攻めた曲なんじゃないかと感じました。というのも、Only Uさんの場合すごく声を張り上げて感情をあらわにした歌い方をするし、Daichi Yamamotoさんも独特の流れるようなフロウがあると思うんです。お二人とも(sic)boyさんとはまったく違うタイプのラッパーであって、かなり個性的なので、想像が付かなかったです。結果、対照的なカラーが出ていてカッコいいですね。

確かに実際一緒にやってみると、ラップはもちろんのこと作曲スタイルもお互いまったく違っていて。でも、基本的にはそういった個性をリスペクトしているからこそコラボをお願いしているし、逆にそれを狙っている部分もある。僕がどうがんばってもできないことをやってくれる、そこに対する信頼感ですね。いろいろなジャンルの人と作る分、そういった点はすごく勉強になるんですよ。だから変な話、自分が個性の強い客演の人に食われてしまうことがあったとしても、それはネガティブなことじゃないと思っています。むしろ、たまに「食われた、やっべー!」となるのが楽しい。皆すごいから、だいたいはこちらが想定していたもの以上のヴァースやリリックを表現してくるんですよね。毎回「はあー、これが聴きたかったんですよね……」となる(笑)。

──怖さや不安よりもそういったポジティブな気持ちのほうが勝つというのはすごいですね。その点、SEVENTEENのVERNONさんとコラボされた「Miss You」も注目を浴びています。

VERNONとは同い年で、もともと彼が僕の音源を聴いてくれてたらしくて。逆に自分もK-POPは以前から好きで聴いているので、Instagramでやりとりしていたら「今度東京ドームでライブするから来てよ」って誘われました。スターでしたね(笑)。そのあとに韓国に行って今回の曲を一緒に作ったんですけど、VERNONは日本のメロコアとかもたくさん聴いてて面白いんですよ。そういった話でもすごく盛り上がって、打ち解けるのに全然時間がかからなかった。

「ミクスチャー」というキーワードでどれだけ盛り上がれるか

──本当にコラボしたい人としているというのが伝わってきますね。コラボしたい人という点では、触れないわけにはいかないのがRIZE、The BONEZのメンバーであるJESSEさんとの「Dark Horse」です。これは念願だったんじゃないでしょうか。RIZEは以前から好きでしたよね?

(間髪いれず)好きですね! 自分は五反田出身なんですがJESSEさんは戸越で、地元が近いのもあって。もう昔からフッドスターなんですよ。この曲では「ミクスチャー」というキーワードをもとに、世代を超えてお互いにカマし合いました。JESSEさんはバンドでずっと活動されてきて、自分は1人でラッパーとしてやってきたんだけど、そういうまったく別の両者がコラボできるミクスチャーという音楽ってすごいなと思うんです。最後の「we are we are 搔っ攫う暴れ馬」というラインは僕がスタジオで書いて、JESSEさんに一緒に歌ってくださいってお願いしたら歌ってくださったんですよ!

──誰もが待っていたコラボですよね。RIZEがやっていた当時のミクスチャーと比べて、「Dark Horse」ではどういった点がアップデートされたと感じますか?

TR-808が鳴っていたりトラップを通った音であったりという点では確かに違うんでしょうけど、そこまで差は感じないんですよね。JESSEさんのヴァースが入ることで、やっぱり20~25年前のRIZEのミクスチャー感が戻ってくる。進化も退化も変化もなく、僕もKMさんも当時のミクスチャーが大好きでリスペクトがあるからこそ「ミクスチャー」というキーワードでどれだけ盛り上がれるかという戦いをしていたように思います。

──なるほど。RIZE以外で、当時のミクスチャーシーンでリスペクトしている人たちは誰がいますか?

もちろんDragon Ashは大好きですし、あとAIRもカッコよくて大好きです。KoЯnやLimp Bizkitといったバンドとはまた別の、日本固有のミクスチャーをやっていると思うんです。そういった文化が日本にあるのって素晴らしいじゃないですか。何より、JUBEEくんという現代におけるミクスチャーを追求している人が近い距離にいるのは大きい。彼と会った時はやっぱりそういった話になるし。JUBEEくんも、CreativeDrugStoreとして活動する中で、上の世代のラッパーたちと話していると、ミクスチャーに影響を受けてきたって言う人にたくさん出会うらしいんですよ。hideへの愛だったり、2000年前後の音楽やファッション、カルチャーをどれだけリスペクトしているかという話をけっこうするらしくて。

──(sic)boyさんとJUBEEさんのミクスチャー談議はとても面白そうです。例えば、どんな話をされるのでしょうか。

JUBEEくんは新譜も旧譜もめちゃくちゃ詳しいんです。だから、「このバンドオススメだよ」っていつも教えてくれる。ライブの打ち上げでカラオケに行って、2人でDragon Ashも歌いました(笑)。そういえば、「LIVE AZUMA 2022」(2022年10月に福島で開催されたフェス)でJUBEEくんがDragon Ashと共演して話題になったじゃないですか。僕、JUBEEくんがKjさんに誘われる瞬間を見てたんですよ。Kjさんが「『Fantasista』一緒に歌わない?」って。「Fantasista」とかバイブル中のバイブルでさんざん歌ってきたのに、JUBEEくんは緊張して「ちゃんと歌えるかな!?」って言ってて、そりゃそうなるよなって思いました。でも、すごくカッコよくカマしてましたよね。世代を超えてそうやってコラボしているのが本当にいい。

(sic)boy

──Kj×JUBEEにしてもJESSE×(sic)boyにしても、下の世代からの熱いリスペクトに応えて上の世代もちゃんと降りてきてくれているのがいいですよね。

そうなんですよ! 自分たちがやっていることに興味を持ってくれるだけでもうれしいのに。自分は……うーん、なんて言えばいいんだろう……KjさんやJESSEさんから発せられる「作ってきたカルチャーをずっと残していきたい」という振る舞いに、温かさを感じています。カッコいい先輩が現役でやっているからこそ、自分たちの世代も触発される。

──どのジャンルにも「好きです、聴いてました」という下の世代の人たちはいますけど、(sic)boyさんやJUBEEさんの場合は、その解像度が異様に高いというのもあると思いますよ。「あ、この人たち本当に好きで聴いてくれてるんだ」というのが伝わってくるというか(笑)。

だから、もう単純にファンなんですよ(笑)。自分が今ヒップホップとロックの融合をやっているからこそ、そこから議論を始める人が多いんだけど、僕はそもそもロックキッズだった分ミクスチャーはずっと変わらない音楽としてあるし、当たり前のものなんです。それに、今でもまだまだ当時のミクスチャーを聴いていて。「ただ若いときに聴いていた音楽」ということでは済まされないくらい重要なものになっている。

──30年近い時を超えて聴かれているわけですもんね。(sic)boyさんの音楽が2050年に聴かれているのと同じ。

それは本当にすごいし、もしそうなったらめちゃくちゃうれしいですよね。

──そのJUBEEさんとは、「君がいない世界」でコラボされています。このトラックはChaki ZuluさんとKMさんの共作ということで、何がどうなったらそんな組み合わせになるのか、どうやって制作を進めていったのかもはや意味がわからないです(笑)。

スタジオに行ったらもうトラックはできていて2人がスタンバっていたから、どうやってできたかはわからないんですよね。激ヤバいトラックとともに2人が待ってたという(笑)。JUBEEくんとはこれまでもコラボはしていて、そこではいわゆるミクスチャー的な曲も作ってきたので、今回はChakiさんのエレクトロな要素も入ってくるし、ちょっと違う方向性でもやってみようと話していたんです。

勢いだけではないクオリティを追求していきたい

──ほかにもnothing,nowhere.を客演に迎えた「Afraid??」は2000年代のエモを彷彿とさせるようなニュアンスを感じました。

この曲はAG Clubのセント・パトリックと一緒に作ったんですけど、「どんなトラックにする?」と聞かれて「とりあえずロックやりたいです」と伝えてできた曲です。なので、これもただただ自分がやりたい曲をやった感じです。

──クレジットだけ見るとすごくバラエティ豊かな人たちの名前が並んでいますよね。うがった見方をすれば、もしかしてメジャーデビュー作ということで戦略的にやっているのかなと思う人もいるかもしれないですけど、聴いてみるとただただ好きでやりたいことをやっているということが伝わってきます。

そうなんですよ。あまりにもランダムにいろいろなジャンルの人が並んでいるので、そういうことを思う人もいるかもしれないですけどね。でも、事務所の戦略だろうがなんだろうが、聴いてもらえれば、僕のやろうとしていることは伝わると思います。

──思っていた以上に、これまでの(sic)boyの延長線上にありますよね。通常、メジャーに移ってガラッと変わるケースもあるわけで。

そうですよね。今まで聴いてくれていたリスナーが離れていくということはあまりないんじゃないかなと思います。ロックフェスとかに出させてもらう中で思うんですけど、もう新人枠という感じではなくなってきたんですよ。もっと曲においてもライブにおいても、勢いだけではなくクオリティを追求していかないといけないと思っています。それに、リスペクトに値しないヘタなものは出さないよねっていう共通認識が自分とKMさんにあるし。(sic)boyとして常に新しくて実験的なフロウをしていかないといけないというのは、かなりプレッシャーでもありますけど。

──KMさんとの協業も長くなってきました。作品を重ねてきて、(sic)boyさんから見るKMさんのすごさはどういう点にあると思いますか?

特にビートメイカーの方々って、海外の流行りに引っ張られがちだと思うんです。でも、KMさんの場合は海外のよさも取り入れながら最終的に“Made In Tokyo”のテイストに着地させるのが本当にうまい。そして、やっぱり容赦ない低音ですよね。トラップのTR-808を使った、計算された破壊行為。(sic)boyもKMさんもヒップホップもロックも好きだよねっていうところから音楽を始めたんですけど、ここまで来たら、もうお互い振り切って変なことやっちゃおうっていうプロジェクトになってきている気がします。