音楽ナタリー Power Push - シシド・カフカ×KenKen

個性派リズム隊が生み出したグルーヴ

「Trans fatty acid」の成り立ち

──この振り切った方向性の曲が作られた過程を教えてください。

KenKen 勢いのあることはライブでやればいいとして、音源を録るとなったら全然みんなが想像していない方向の曲を作りたいなと思ったんだよね。カフカちゃんといえばロックぽいものがイメージとして根付いているから、そこじゃない一面を考えて。レコーディング作品じゃないとできないことをしようってね。

シシド 作り方としては、ベーシックなトラックをまず録って、「じゃあここからどうする?」って言いながら音を足していきました。KenKenが「とりあえずこういうの面白いと思うんだ」って用意してくれていた材料を聴きながら、その場でそれらをどう料理してトラックに乗せるかを判断するっていう。

──YouTubeのセッション映像を観ると、iPadアプリの音なども入れているのがわかります。

シシド そうなんです。2人の好奇心の赴くままに音を入れて。

KenKen 「わーいわーい! イエー楽しーっ!」て言いながら効果音やボイスサンプルを入れたり、あとシェイカーの音をカフカちゃんに選んでもらったりして。2人の会話も入れたね(笑)。

シシド あとジャンベも叩きました。

シシド・カフカ

KenKen あれいいよね。そのとき「どういう音作りにしますか」って話をしていて、カフカちゃんが面白いこと言ってたんだよな。なんだっけ……壮大な草原?みたいな。

シシド ああ。ジャンベの音を曲の中にどう置くかっていう話ですね。最初は細い通路で鳴らしてるイメージだったので、もっと広々とした道を使ったほうが楽しいんじゃないかって。

KenKen それだ。改めて思うけど、こういうトラックって音を加えすぎると急に面白くなくなっちゃう難しさがあるのに、そのへんのさじ加減をギリギリのところで設定できたよね。お互いのいいところが最大限に引き出せるところで止めたというか、すごくちょうどいい感じにできた。

レコーディングで生まれた2人のグルーヴ

──楽曲制作にはどれぐらいの時間がかかりましたか?

KenKen 自分が稼働したデモ制作とレコーディングはそれぞれ1日ずつ。すぐ作れたね。

シシド レコーディング当日も午後からゆっくり始めて、終わってから晩ごはん食べましたね。

KenKen カレー屋に行ったね、「シシドカバブ」なんつってさ(笑)。最終的に作品録りとジャムの一番いいところを合わせた感じになった。楽しかったなあ。

シシド 私は最初にデモを聴いたとき正直「どうしよう?」って思いましたけどね、できるかなって。

KenKen

KenKen カフカちゃんはジャズみたいにハネたリズムの曲をやったことがないって言ってた。でもオレはそこに不安とかは感じてなかったし、実際すごくいい感じで一発録りできたなあ。やっぱり音楽にはズレがないといけないって思っててさ。ズレてるからこそカッコいいっていうか、演奏中にそうなったら「やべっ!」ってどちらかがすくい上げる。そうすることで生まれるグルーヴもあるしね。

シシド ああ、確かにそれはあるかも。

KenKen 最近の音楽ってそういうの減っちゃったような気がしない? 全部クリックに合わせて作っちゃうみたいな。それってなんか一番いいところだけ失ってしまってる気がして。だから今回は一発で録って、その場の空気を一瞬に詰め込むってことを意識したかも。

シシド 私は……自分のことに精一杯すぎて(笑)。演奏中にKenKenのほうを見ると、すごい目つきで私のことをすくい上げようとして見てくれてて。今回は本当に助けられたって思いました。

KenKen いやカフカちゃんもすごかったよ。お互い普段はケラケラ笑ってるけど、演奏し始めると一気に顔が変わって。オレはそういう切り替えができるの大事だと思うし、そういうカッコいいことができるミュージシャンが好きでさ。カフカちゃんもそれができるからうれしかった。

共演で開示させたシシド・カフカの新たな一面

──セッション動画では2人の真剣な表情が印象的でした。

左からシシド・カフカ、KenKen。

KenKen まあ曲調が曲調なだけにそうなるよね、あれぐらいのテンポの曲だと間違えたらすぐバレるし(笑)。ひさびさに集中してレコーディングした気がするなあ。今回はまずカフカちゃんの音楽性を広げていくことが重要だと思ってたし。本当にこのアルバムのコンセプトっていうか、今までを捨てるんじゃなくて肉付けして彼女を強くしていく感じ、すごくいいよね。

シシド ありがとうございます。

──KenKenさんも含め、「K5」には多数のゲストアーティストが携わり、1人ひとりがシシドさんの新しい一面を引き出していくという楽曲集になっていますよね。

シシド はい。KenKenをはじめ皆さんが思うシシド・カフカのイメージをきちんと持ってくださって、そこから生まれた楽曲によって引き出せたものだと思っています。自分の背中が自分には見えないっていうのと同じで、自分が見えてないところにあるシシド・カフカを皆さんが見てくださって、楽曲という形で見せてくれたのがうれしかった。

KenKen オレの場合は方向性を用意して、カフカちゃんに好きに叩いてもらえばいいと思ってた。最初はわりとオレの録ったデモっぽく叩いてくれてたんだけど、「もっと普通にやってみたら?」ってプロデューサーの方も言ってくれて。そしたらすごくいいテイクが録れたよね。その結果、まさかの「アメリカ西海岸系のブレイクビーツを叩くカフカちゃん」が誕生した。

シシド ありがとうございます。

シシド・カフカ ミニアルバム「K5(Kの累乗)」 / 2015年6月17日発売 / avex trax
CD+DVD 3024円 / AVCD-93151/B
CD 1944円 / AVCD-93152
CD収録曲
  1. theme - performed by シシド・カフカ
  2. バネのうた - feat.甲本ヒロト(ザ・クロマニヨンズ)
  3. Don't be love - feat.斉藤和義
  4. Trans fatty acid - feat.KenKen(LIFE IS GROOVE)
  5. くだらない世の中で - feat.常磐道ズ(渡辺俊美[TOKYO No.1 SOUL SET]、Guest:TOSHI-LOW[BRAHMAN、OVERGROUND ACOUSTIC UNDERGROUND]
  6. あの夏、君が見てたモノ - feat.YO-KING(真心ブラザーズ)
  7. Don't be love(Piano Ver.) - arranged by 大橋トリオ ※CD盤のみ収録
CD+DVD盤 DVD収録内容
  1. Don't be love - feat.斉藤和義(Video Clip)
  2. バネのうた - feat.甲本ヒロト(ザ・クロマニヨンズ)(Video Clip)
シシド・カフカ
シシド・カフカ

メキシコ生まれ。中学生時代にアルゼンチンでドラムを叩き始め、数々のバンドに在籍したのちにドラムボーカルのスタイルで2012年5月に配信曲「デイドリームライダー」でデビュー。9月に1stシングル「愛する覚悟」でCDデビューした。以後もドラムを叩いて歌うスタイルで注目を集め、2013年9月には1stフルアルバム「カフカナイズ」をリリース。一方でモデルとしての活動や女優としてドラマ「ファーストクラス」出演、さらに「新堂本兄弟」にレギュラー参加など多彩な活動を展開する。2014年9月にはエイベックスへの移籍を発表し、4月には配信シングル「Don't be love feat. 斉藤和義」をリリース。そして6月には「Trans fatty acid feat.KenKen(from LIFE IS GROOVE)」など多様なコラボレーションナンバーを収録したセッションミニアルバム「K5(Kの累乗)」を発売した。

KenKen(ケンケン)
KenKen

1985年東京都生まれ。LIFE IS GROOVE、RIZE、Dragon Ash、WAGDUG FUTURISTIC UNITY、the day、獄門島一家といった数々のロックバンドに参加し、そのカリスマ的な存在感と抜群のベースプレイは、音楽シーンの中で一目置かれている。そのほかベース教則アプリ「KenKenが教えるベースギター #1」をリリースし、資生堂unoやNTT docomoのCM音楽も担当。ライブ以外での音楽活動も多く、ゲーマーとして「週刊 ファミ通」で連載コラムページを6年間にわたって務めるなど、音楽業界のみならず多彩なセンスで幅広く活躍している。また2014年1月から放送のアニメ「スペース☆ダンディ」のサウンドトラックに参加し、3月からはムッシュかまやつと山岸竜之介とのバンド・LIFE IS GROOVEも始動。2015年にはさくら学院のDVDシングル「仰げば尊し ~from さくら学院 2014~」、や五五七二三二〇「半世紀優等生」でサウンドプロデュースや楽曲提供を行う。6月にシシド・カフカのセッションミニアルバム「K5(Kの累乗)」にゲスト参加し、シシドとアルバム収録曲「Trans fatty acid」で共演した。