音楽ナタリー Power Push - シシド・カフカ×KenKen

個性派リズム隊が生み出したグルーヴ

リズム隊ならではの楽曲

──この曲も含め、シシドさんがコラボレーションをする上で何か具体的に意識したことはありましたか?

シシド 今回はまず「委ねる」っていうのをけっこう大きなテーマとして持っていました。例えばこの曲を作ってきてくれたKenKenが何を私に求めているのかっていうのをその場の空気や言葉で知ろうとして、いかに汲み取れるかが大切だなって思ったので。

KenKen

KenKen この曲はカフカちゃんの新しい部分を引き出すっていう目的だけじゃなくて、1990年代のLAあたりのカッコいいブレイクビーツの匂いを出したいっていうのもあって。その当時の音楽の影響をモロに受けまくり世代同士としてもね。最近誰もこのあたりの音をやってないなって気もしたし。それで同世代のカフカちゃんとオレが一番好きだった頃の空気を録りたいって伝えたんだよね。

──それをシシドさんが汲み取ったと。

KenKen 最初「私こんなの絶対できません!」て言われたけどね(笑)。

シシド あはははは(笑)。私はこういう音楽を聴いてはいたけど、自分で叩くものとしては聴いてなかったんですよ。だから「すごいのきちゃった! どうしよう!」って思って。結果としてちゃんと叩けた、こういったジャンルに触れられたっていうのは自分にとってすごく大きいですね。これからは聴き方も変わってくるでしょうし。

KenKen これ、オレたちの知らないところで誰かが聴いて、ラップとか入れてほしいね。それができるくらいのトラックにできたと思う。

シシド うんうん。

KenKen こういう曲、リズム隊だからこそやりたかったし、できたものでもあるよね。これが助走っていうか、カフカちゃんが作る新しい音楽につながる道になったらいいなって思う。この経験はきっと次の作品にも出てくるんだろうなあ。次回作で満を持して「ワシやー!カフカやー!」って堂々と作品を作ってほしいよ。

今作が分岐点になる

シシド・カフカ

KenKen カフカちゃんはほかの楽器やんないの?

シシド 弾けないんですよ。やりたいんですけどね。

KenKen じゃあ今度ベース教室やろう。

シシド わあ、やった!

KenKen カフカちゃんから出てくるフレーズとかリフを聴いてみたいなあ。どういうの考えるんだろうって気になるんだよね、リズム的なんだろうなあとかさ。ずっとソロでやるの大変だから、そこをみんなで協力し合って次のアルバムとかで。

シシド がんばります。私は今まで作ってきたものとはまったく違う経験をさせてもらっていろいろ学べたので、いつか自分のやってきたことを振り返ったときに今作を見て「ここが分岐点だったんだな」って思うことになる気がしています。

KenKen 発売されたあとの周りのリアクションも楽しみだよね。これぐらいのことってバンドじゃなかなかできないじゃん。ここまでいろんな曲やっていいのってソロアーティストならではだと思うし。バンドって1人だけの話じゃないし、どうしても多数決になるときがあるし。ソロは自分本位で100%やっていいってところがあるからね。

同世代アーティストの邂逅

──今回はリズム隊、同世代と共通点の多い対談になりました。ソロアーティストとして名を馳せる者同士でもありますし。

KenKen まあバンドかソロか、もちろん何が幸せかって人それぞれだけどね。オレは1人でも多くの人とやりたいっていうタイプで、1日でも多くライブしたいって思ってる。10代のときは大人に対して「下克上じゃー!」ってことばかり思ってたことも関係してるね。1個でも多くバンドやって、その中でどう大人を負かせるかってことばかり考えてた。

左からシシド・カフカ、KenKen。

シシド 私も10代のときは負けん気で叩いてた時期がありました。とりあえず場数だなって思って。「勉強させてください!」って思いつつ、でも負けたくないっていうところもあるっていう。

KenKen そう思ってた同世代の人とこうやって高みで会えるようになってきたってのはいいことだよね。がんばってきた甲斐があるなって思う。乗り越えた人はそれゆえの強さってのも持ってるしね。

シシド そうですね。最近思うんですけど、「K5」を作りながら感じたものと10代のときに抱いた「負けたくない」っていう気持ちがちょっと似ていて。それとシシド・カフカとしてデビューしてからの3年間で培ったものは2刀流といってもおかしくないくらい違う感じなんですよね。

KenKen へえ、いいねそれ。今の時代にそういう気持ちを持てるのって素敵なことだと思う。今は素人っぽいものがウケてるけど、音楽家が胸を張って生きてかないといけないっていう時代がまた来てると思うんだよ。こないだもオレがアイドルグループと仕事をしたときに楽器を触っての現場だったんだけど、1人だけすごく気合い入ってる子がいてさ。「楽器好きなの?」って聴いたら「シシド・カフカさん! 超ファンです」って言ってた。同性から憧れられるってカッコいいと思う。

シシド えー! うれしいですね。

──シシドさんはこんな人になりたい、みたいな理想像って持っていますか?

シシド 理想の人みたいな存在はいませんね。ほかのドラマーさんにも憧れてないし。皆さんのいいとこどりなんですかね? 「あっそれカッコいい」って思ったものをもらって、合わせ技みたいなところでやってるっていうか。

KenKen ミュージシャンはそんなもんだよ。誰かの素晴らしいものをどんどんいただいて。かといって誰かになろうとしてるわけではない。それが大事だよね。オレも憧れてる人はいたけど、それはどう超えていけるかっていう見方でね。レッチリ好きだけどフリーになりたいわけじゃない。フリーになりたいと思っても「フリー観りゃいいじゃん」ってことになるからね。

アイコンになってほしい

──KenKenさんは今後シシド・カフカというアーティストがどんなふうに成長していってほしいと思っていますか?

左からシシド・カフカ、KenKen。

KenKen アイコンになってほしいな。オレがベース界で一番目指していたものがそれだったし、「ベースといえばKenKen」みたいに「女ドラマーといえばカフカちゃん」って感じで即答されるような時代が来てほしい。この作品から始まるストーリーもいっぱいあると思うし、楽しみだな。

シシド ありがとうございます。そのときそのときにベストだってものを作ってきてはいますが、まだ人間として、アーティストとしての答えを出せてない状態なのでこれからも探し続けたいと思います。

KenKen うん。音楽って正解がないもんね。勝ち負けがあるわけでもないし、ずっと追求だと思う。わかっちゃってたら辞めてるけど、死ぬまでわかんないよね。死ぬ瞬間に何を思うか、それを残してから死にたいな。バババババッてメモ書いてピタッ!と死ぬ(笑)。

シシド ふふふ(笑)。

KenKen 今回「Trans fatty acid」以外にも2パターンのデモを作ってたんだよね。ギターロックっぽいのとめっちゃ速いの。だから続編だって作れるんだけど、まだ当分使わないで取っておくよ。それでまたやろう。カフカちゃんには一生ドラムを叩いてほしいからね。

シシド はい。私は今のところ辞めるつもりないですから(笑)。がんばりますよ。

シシド・カフカ ミニアルバム「K5(Kの累乗)」 / 2015年6月17日発売 / avex trax
CD+DVD 3024円 / AVCD-93151/B
CD 1944円 / AVCD-93152
CD収録曲
  1. theme - performed by シシド・カフカ
  2. バネのうた - feat.甲本ヒロト(ザ・クロマニヨンズ)
  3. Don't be love - feat.斉藤和義
  4. Trans fatty acid - feat.KenKen(LIFE IS GROOVE)
  5. くだらない世の中で - feat.常磐道ズ(渡辺俊美[TOKYO No.1 SOUL SET]、Guest:TOSHI-LOW[BRAHMAN、OVERGROUND ACOUSTIC UNDERGROUND]
  6. あの夏、君が見てたモノ - feat.YO-KING(真心ブラザーズ)
  7. Don't be love(Piano Ver.) - arranged by 大橋トリオ ※CD盤のみ収録
CD+DVD盤 DVD収録内容
  1. Don't be love - feat.斉藤和義(Video Clip)
  2. バネのうた - feat.甲本ヒロト(ザ・クロマニヨンズ)(Video Clip)
シシド・カフカ
シシド・カフカ

メキシコ生まれ。中学生時代にアルゼンチンでドラムを叩き始め、数々のバンドに在籍したのちにドラムボーカルのスタイルで2012年5月に配信曲「デイドリームライダー」でデビュー。9月に1stシングル「愛する覚悟」でCDデビューした。以後もドラムを叩いて歌うスタイルで注目を集め、2013年9月には1stフルアルバム「カフカナイズ」をリリース。一方でモデルとしての活動や女優としてドラマ「ファーストクラス」出演、さらに「新堂本兄弟」にレギュラー参加など多彩な活動を展開する。2014年9月にはエイベックスへの移籍を発表し、4月には配信シングル「Don't be love feat. 斉藤和義」をリリース。そして6月には「Trans fatty acid feat.KenKen(from LIFE IS GROOVE)」など多様なコラボレーションナンバーを収録したセッションミニアルバム「K5(Kの累乗)」を発売した。

KenKen(ケンケン)
KenKen

1985年東京都生まれ。LIFE IS GROOVE、RIZE、Dragon Ash、WAGDUG FUTURISTIC UNITY、the day、獄門島一家といった数々のロックバンドに参加し、そのカリスマ的な存在感と抜群のベースプレイは、音楽シーンの中で一目置かれている。そのほかベース教則アプリ「KenKenが教えるベースギター #1」をリリースし、資生堂unoやNTT docomoのCM音楽も担当。ライブ以外での音楽活動も多く、ゲーマーとして「週刊 ファミ通」で連載コラムページを6年間にわたって務めるなど、音楽業界のみならず多彩なセンスで幅広く活躍している。また2014年1月から放送のアニメ「スペース☆ダンディ」のサウンドトラックに参加し、3月からはムッシュかまやつと山岸竜之介とのバンド・LIFE IS GROOVEも始動。2015年にはさくら学院のDVDシングル「仰げば尊し ~from さくら学院 2014~」、や五五七二三二〇「半世紀優等生」でサウンドプロデュースや楽曲提供を行う。6月にシシド・カフカのセッションミニアルバム「K5(Kの累乗)」にゲスト参加し、シシドとアルバム収録曲「Trans fatty acid」で共演した。