清水翔太|深い模索の先に見た希望 3年ぶりアルバムが告げる“第3章”の幕開け

誰かを好きになったら、頭の中で何本も映画ができる

──Aimerを迎えた「プロローグ feat. Aimer」は、恋愛に臆病な男の子の片思いを書いています。

男子と限定はしないんですけどね。すごく僕の世界観ですね、これは(笑)。

──青い感じがありますよね。踏み出したいけど、最後は言い出せなくても構わない。引っ込み思案なままで終わってるっていう。

“THE清水翔太”ですね、この歌詞は。

──意図的にそう書いたんですか?

僕は強烈に妄想が好きなので、意識せずともこうなるんですよ。昔はよくそういうことをしてたんですけど、誰かを好きになったら、頭の中で何本も映画ができるくらい妄想してた(笑)。それで満足しちゃうからずっと片思いでよかったんです。そんなことをずっとやってた自分だから、こういう歌詞はすぐできる。

──片思いフェチみたいな(笑)。

そうそう(笑)。

──「僕」という一人称で終始している曲ですが、そこに女性のAimerを迎えた理由を教えて下さい。

Aimerと一緒にやりたいと思って何曲か書いていて。これも元々Aimerと歌うつもりで作曲したんですけど、キー的に1人で歌ったほうがいいかなと思って、1人で歌うつもりで全部リリックを書いたんです。でも、やっぱりAimerとやるのはこの曲がいいかなと思って。なので、彼女にはキーが低いんですけど、歌い分けとかハモを入れてもらう場所を工夫して世界観を作って、2人で歌ってみたという感じですね。

──ラブソングだけど、男女それぞれの目線で歌うデュエット曲ではない。

僕、あまりそういう構造が好きじゃないんですよね。男女のラブソングってすごく難しくて。

──以前、楽曲提供したRIRIさんの「Forever feat. 清水翔太」もそうでした。

あの曲も明確な男女の区分けがないんです。1人で歌っても成り立つ歌詞にしてる。1つのテーマを、異なる声質の2人で歌うっていう方が僕はいいと思っていて。それにAimerは「僕」が合うんで(笑)。全然「僕」でいいと思うから。

清水翔太

自分とのチキンレース

──ゲストが参加した曲以外の作品に話を移すと、「Homie」は30歳を超えた今だから書ける仲間の歌なのかなと思いました。

やっぱ友達って大事だなと思って。年齢的に結婚する友達も出てきて、そういう友達とは徐々に会わなくなる。でも、僕は本当に「おとなこども」なんで、ずっと遊んでいたいし、ずっと友達と一緒にいたいんですよね。それが僕の夢だったというか。友達がいなくて引きこもってた14、15歳の自分の強いコンプレックスで、学生時代に叶えられなかったことなんです。

──憧れだったと。

年を重ねると共に友達が忙しくなったり、結婚して遊べなくなったりするのが寂しくて。とはいえ、いつも遊ぶメンバーには支えられてるし、そういう人たちに向けて1曲書きたいなと思って書いたんです。僕と同じアラサーくらいの人には、この歌詞が沁みると思います。

──あと、「Side Dish」がヤバかったです。今回のアルバムの中で異彩を放ってる。

アルバムでいちばんフザけてると思いますね(笑)。

──どういうきっかけで書いたんですか?

トラック作りに取りかかったときは、いわゆるサッドラップみたいなのを作ろうと思ったんです。

──確かにエモラップみたいなテイストを感じる曲でした。そういう意味では「WHITE」の流れが若干ある。

でも、その世界観で作っていくと「WHITE」と変わらないなと思って。今求めたいものは広がりだから、興味を持ってもらうには何か面白くないとダメだなと思って、最初はフザけてというか、行くところまで行ったれ!くらいの感覚で書き出したんです。普段、清水翔太が言わなそうなことをどこまで言えるかっていう、自分とのチキンレースみたいな。いつもだったら絶対ブレーキ踏んじゃうところをどこまで踏まずに行けるかなと思いながら、おりゃーっと書いて、全部書き終わったときに「TikTokとかでもしかしたら面白がられるんじゃね?」と思って(笑)。

──本作でいちばんヒップホップ的な歌詞だし、「あるある」な内容なんですよね。元カノが知り合いのダメ男とくっつくっていう。

そう。ここで書いた女性は悪すぎるけど、そうじゃないにしても、「なんでアイツに行った?」みたいな。それってすごくあることだから。フラれた人がTikTokでこの曲を使って元カノに対してこっそり中指を立ててもらえればいいかなって思います(笑)。

今までの自分はできなかったけど、
今の自分なら工夫ができる

──最後に、今回のアルバムに「HOPE」と名付けた理由を教えてください。

自分の今の気持ちや強く感じていること。それと今の世の中をリンクさせる言葉は「HOPE」しかないなと思って付けました。まず今の世の中に対しての“HOPE”は、コロナ禍で世界が大変だけど、希望を持ち続けなきゃいけないということ。きれい事ですけど、希望なくして楽しく生きていくことはできないんで。いろんなことが終わったらこういうことをしたいなとか、未来がこうなればいいなとか、そういう希望を持ち続けて欲しいし、それが必要だっていう思いからつけました。

──もう1つの“HOPE”は?

自分が今、強く持っているものも「HOPE」なんです。デビューして3年目くらいから最近まで、僕はたぶん希望というものをずっと失くしていたんです。もう無理だと思ってた。自分の環境であったり、評価されないっていうこととか、デビュー前に「ああなって、こうなって、こうなる」と描いていたことが全然叶わないという状況に希望をなくしてたんです。

──ある種、諦めの境地だった。

そう。自分がやるべき目の前のことにトライしていく。そこに挑戦心や、こうやったらどうだろう?という向上心はあるけど、基本的にはもう大きく爆発することはないだろうと思ってた。そんな中、1、2年前にジブリの「風立ちぬ」を何気なく観たんですね。そうしたら、人間が才能を爆発させる時期は20歳からの10年で終わるっていう意味のセリフがあって、すごくショックを受けたんです。でも、確かにそうだわと思って。

──実感できる部分があったと。

20代前半のときに猛烈に感じていた、「これがしたい、あれがしたい」「これができた、こんないい曲ができた」っていうクリエイティブな感覚は薄れていってるし、「一生懸命がんばって1曲できた」みたいなことのほうが多くなってきてる。そう考えると、才能を爆発させる時期にあまり結果を出せなかったなと思って、すごく悔しくてショックを受けたんですけど、才能を爆発させられないんだったら、今あるスキルで今まで以上の工夫をしようと。まさに今回のアルバムを作るときもいろいろ工夫したんです。それがなんやかんや楽しくて。希望って、失ってもちゃんとまたよみがえってくるんだなと思えたんです。今までの自分はできなかったけど、今の自分なら工夫ができるっていうワクワクが戻ってきて。

──新たな希望が持てた。

防衛本能じゃないけど、人間ってそういうふうにうまくできてるんだなと思った。じゃないと20代後半で、夢が叶わなかったり、自分の限界が見えたときに、みんな希望を失っちゃうじゃないですか。

──あとは枯れるのを待つだけ、みたいな。

もうダメじゃんってなるところが、僕みたいに31、32歳くらいで新たな視野が広がるというか。それが今回のアルバムに反映されてるから、「HOPE」にしたいなと思って付けたんです。

──花に例えると、20代のときは種を蒔いておけば勝手に育つくらいの勢いがある。それを経て、次は、どんな土に植えるのか、どんなペースで水をやるのか、どんな方角に鉢を向けるのか、そういう工夫次第で花を大きく育てることはできると。

そう。もう放っておいていい時期は終わったんです。それがわかったから、今度は上手に工夫して花を咲かせることができる。もしかしたら、それが、がむしゃらに何もせず勝手に咲いてた花よりもきれいに咲く可能性もあるから。今はそういうマインドでいます。

──本作を第3章の始まりと位置付けていますが、次のステージの花に期待しています。

1stアルバムからベストアルバムまでの第1章は、ただただがむしゃらだった、目の前のことに精一杯だった時期。だからこそ根本にあるものが出た。第2章の「PROUD」から「WHITE」は、意地になってた時期(笑)。第3章はその次のフェーズに進んで工夫ができるようになった。大人になったことによって、より洗練されたものを表現していけるんじゃないかなと僕自身が希望を持ってます。

ライブ情報

「Family Fes 2020 "Shota Shimizu Birthday" 延期公演」
  • 2021年8月18日(水)大阪府 Zepp Namba
  • 2021年8月19日(木)大阪府 Zepp Namba
  • 2021年8月20日(金)大阪府 Zepp Namba
「Family Fes 2021 追加公演」
  • 2021年8月25日(水)東京都 Zepp Tokyo
  • 2021年8月26日(木)東京都 Zepp Tokyo

<出演者>
清水翔太 / 加藤ミリヤ / 青山テルマ / 當山みれい

清水翔太