渋谷すばる「さらば」インタビュー | 旅立ちを歌う新曲で手に入れた、より深くダイナミックな「歌い手としての表現」 (2/2)

ツアーを通じて初めて「Lov U」が自分のものになった

──デジタルシングルのリリース後、5月28日には昨年開催したライブツアー「渋谷すばる LIVE TOUR 2024『Lov U』」の映像作品がリリースされます。振り返ってどんなツアーでしたか?

今回のBlu-rayは、12月25日に埼玉・三郷市文化会館で開催した最終公演の映像が収められていて。そもそも「Lov U」はアルバム制作もそうですけど、その前のトイズファクトリーさんとの出会いからスタートしてる。そうした中でツアーの最終日を迎えられたことが、とりあえずの1周目じゃないですけど、僕だけじゃなくチーム全体での集大成が形になったライブだったと思います。

渋谷すばる

──「Lov U」のツアーは、過去のソロツアーと比べて演出やパフォーマンスも大幅に変わりましたよね。

そうですね。ライブに来てくれる皆さんに楽しんでもらおう、という気持ちは以前と変わらないですけど、楽曲の方向性がこれまでと大きく変わったので、そのアルバムのムードをステージでも表現した感じですね。

──アルバム「Lov U」の楽曲をファンの前で披露されてみて、感触はいかがでしたか?

最初は変な感じがしましたよ。ツアースタート時は客席もちょっと戸惑ってる感じがして。もはや自分が別人に思えるくらい見せ方も変わりましたから(笑)。

──独立後のライブはひたすら曲を歌うのみで、ダンスもなかったのが、ガラッと方向転換しましたからね。

これまで出したアルバムの曲と、それまでとはまったく違う雰囲気の「Lov U」の曲が混ざっているセットリストでしたし、そのすべてをステージの上で表現するわけで。誰もが初めての試みなので、やるまではどうなるのかが全然見えてなかったです。ただ、ツアーの最終公演を終えてスタッフの人に「過去の曲と『Lov U』の曲との境目がまったくなかった」と言ってもらえたのが、すごくうれしかったです。そこで初めて「Lov U」がちゃんと自分のものになったのかな、と思えましたね。しっかり丁寧にアルバムを作ったつもりではいるんですけど、それをライブで表現していくのは別の話なんです。ツアー前半の何本かは、ライブが終わってから本番の音源チェックをしても「なんか難しいな」と感じることがけっこうあって。それでも1本1本にちゃんと向き合ってやっていこう、という気持ちで臨めたのはよかった。凹むこともあったんですけど「そこはしっかり自分と向き合わないといけない」とがんばりました。それが功を奏したと思います。

──映像化されるツアー最終公演の中で、渋谷さんが思うハイライトはどこでしょう?

もはや、すべてが印象的でしたね。特に、本編最後の「人間讃歌」は一番いろんなことを思いました。“第3章”として最初に出した楽曲ですし、「Lov U」の中でも印象的な曲でもあって。最終日の「人間讃歌」は何も考えずに歌いました。もはや無意識に近いぐらい、ただただ歌った感じでしたね。

──無意識で歌われていたときは、気持ちよさとか解放感とか、言葉にするとどんな感情になっていましたか?

周りにいてくれる人たちのことが、自然と頭に浮かびましたね。みんなとずっと一緒に音楽を作ってきたし、その過程でもいろんなことがあったけど、最後の「人間讃歌」を歌えていることがすべての答えなので。そういうことは考えたというか、無意識に頭の中にあったと思います。

──ツアーを通して、ご自身のライブのあり方について再確認や再発見をしたところは?

ライブだけではなくて、人と関わることや人に何か伝えることとか、もっと言えば「お客さんやファンの人に楽しんでもらいたいな」という気持ちが何より大事やなと感じて。その考えを持っていなかったわけではないんですが、以前は自分の表現を突き詰めたいと思いながら作品を作っていたので。

──自分の表現したいことを一番大事にされていた。

うん、それも間違いじゃなかったと思ってるんです。でもそういうのが減って、今はただただ本当に楽しんでもらいたいな、というマインドになった。その考えを持てるようになったとき、より深く、より遠くまで自分の音楽が伝わるんじゃないかなと思えたんです。それを忘れず大切にしていれば、その気持ちを持ったうえでだったら、どんな表現であってもどんな曲であってもちゃんと伝えられるよな、って。音楽に限らず、何かを表現するうえで一番大事な根っこの部分を再確認させてもらった。「伝えるってこうあるべきだよな」というのを、改めて感じましたね。

渋谷すばる
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最近はめっちゃ涙腺が緩くなってる

──少し角度を変えた質問もさせていただけたらと思います。3月は新生活がスタートする時期ということで、渋谷さんがこの春新しく挑戦したいことはありますか?

えっと……ないです(キッパリ)。

──清々しい!

ハハハ。何かあるかな? ありがたいことに今はいろいろと忙しいので、とにかく自由な時間が欲しいですね。ひと段落したら自分の曲も作りたいし、とにかく自分の好きなことをしたい。「やることないな、暇やなあ」ってぐらいのときじゃないと、いいものって生まれないと思うんですよね。

──頭がリセットされている状態から出てくる曲がいいと。

そうですね。暇すぎて時間が余ってるぐらいの状況で作らないとなって。何かに追われながらやってもな、って。そのへんは難しいですよね。

──今は自然と曲が生まれるよりも「この何日間は作曲に充てる」みたいに時間を確保されているんですか?

はい。やっぱり無理やり時間を作らないと、いつまでも曲ができない。なんですけど、曲を作ろうと思っていても、急にスタッフさんから「ちょっとここに仕事を入れてもいいですか?」と言われたら、なかなか断れないんですよね。やりたい曲のイメージは頭の中にはあるので、それをちゃんと形にしたいです。あと、読みたい本もいっぱいありますね。買うばっかりで読めていない本がどんどん溜まっていってるんですよ。

──渋谷さんが買われる本って、作家さんとかジャンルは決まっているんですか?

いや、何も考えずに選んでます。でも小説が多いと思います。あと、最近は谷川俊太郎さんの絵本を読みたくて何冊か買いましたね。

──そういえば、渋谷さんが劉慈欣さんの「三体」というSF作品にハマったという情報を聞いて、少し前に小説を買いまして。

「三体」は映像でめちゃくちゃハマりましたけど、小説を買ったんですか?

──そうなんですよ。

えー! とんでもないところから行きましたね(笑)。あの作品はかなり長いですけど、読めました?

──恥ずかしながら、途中で挫折しました……。

ハハハ、かなり分厚いですしね。僕はドラマをオススメしていただいて、観始めたらすごく面白くて2、3日で全話観ましたね。「三体」を観ると怖くなるんですよ。「俺の家は大丈夫かな!?」って。

──最近も映画やドラマはご覧になります?

ドラマはほぼ観ないですね。たまに映画を観るぐらい。最近だと「ライオン・キング:ムファサ」がすごく面白かったです。

──泣いたりします?

作品にもよりますけど……いや、泣くな。けっこうすぐに泣いちゃいます。でも泣くタイミングが変わってるらしくて「え、そこで?」とよく言われます(笑)。「始まってすぐやで」って。

──泣いた作品名は覚えています?

いや、覚えてないですね。最近はただ子供が笑っているだけのシーンでもちょっと泣きそうになります(笑)。めっちゃ涙腺が緩くなってるんですよ。

──ハハハ。もう1ついいですか? ニューシングルのタイトルにかけて、渋谷さんが今“さらば”したいことってありますか?

いや、ないです(キッパリ)。

──これまた清々しい(笑)。自分のこういう癖や習慣とさよならしたいとか、そういったことも?

それで言うと、ちょっと前までは他人に影響されやすかったんですよ。すごく流されるし、それが嫌やなと思っていたんですけど、そういうのもなくなってきましたね。誰かが「これはこうなんだ」と言ったら「ああ、そうなのか」と信じやすいタイプだったのが、最近は「知るか!」と思うようになって(笑)。

──ブレないというか、人の意見に揺らがなくなったと。

自分は自分だしな、と考えられるようになりましたね。それこそ「Lov U」を作ったことが大きかったです。それまでは自分1人で音楽活動から何からずっとやっていましたし、それ以外もいろんなことがあって、気付けば自分を見失っていた部分もあった。そういうのがちょっとずつですけど、スタッフさんや周りの人と一緒に進んでいける環境を得たことで、自分の軸をつかんできてる感じがあります。いい意味で過去の自分にちゃんと「さらば」をして、どんどん前に進めてますね。

渋谷すばる

プロフィール

渋谷すばる(シブタニスバル)

1981年生まれ、大阪府出身。2019年にソロアーティストとしての活動を開始し、同年10月に1stアルバム「二歳」をリリースした。これまで3枚のアルバムを発表し、全国ツアーをはじめとしたライブも精力的に開催。2022年には「SUMER SONIC」、2023年には「JOIN ALIVE」といった夏フェスにも出演した。2024年8月21日に「人間讃歌」、9月18日に「君らしくね」と新曲2曲を先行配信し、10月16日にアルバム「Lov U」を発表。2025年3月に新曲「さらば」を配信リリースした。5月には昨年開催した全国ツアーの模様を収録した映像作品「渋谷すばる LIVE TOUR 2024『Lov U』」のリリースを控えている。