音楽ナタリー PowerPush -柴山一幸

超ネガティブなポップメーカーの叫び

「YELLING」を作り上げた仲間たち

──本作の参加メンバーについて教えてください。まず矢部浩志さん(Dr / Controversial Spark、ex. カーネーション)に声をかけた理由は?

柴山一幸

僕はもともとカーネーションのファンで、大学生の頃に東京・渋谷CLUB QUATTROで初めてライブを観て矢部さんのドラミングに驚いたんです。ドラマーって音の出し方とかビートの刻み方とかいろいろうまい人はたくさんいるんですけど、彼は歌を壊すことなく、歌ありきで叩くんですよね。「こんなドラマーが日本にいるんだ!」ってビックリして以来、自分が理想のバンドを考えるときのドラマーには彼をイメージしていて。そして今作を作るにあたって矢部さんのドラムがパッと思い付いて、お願いすることにしました。

──憧れの人をメンバーに迎えたとなると気合いが入りますね。

数年前あがた森魚さんのライブを観に行ったとき、矢部さんがドラムを叩いてたんです。楽屋で挨拶をして、新譜を出すたびに送ってはいたんですが、そしたら矢部さんからいきなり「柴山くん、ドラム叩かせてよ」っておっしゃられて(笑)。彼のファンから「なんで矢部があんな格下の柴山一幸とかいうよくわかんないやつとやるんだ」って言われるかもしれないけど、もともとは矢部さんから言ってくれたものなんですよ。

──ははは(笑)。彼はドラムを叩くだけでなく、アルバム収録曲「SAYONARA」の作曲も行っていますね。

はい。もともと僕と彼で共作をするつもりだったんですが、最初に彼が送ってきたデモの時点でもう曲として完成していたんです。矢部さんは歌い手じゃないので、メロディラインが歌うためのものというよりキーボードで整然と音符を打ち込んだもので。最初に聴いたときは「整理されすぎているかも」と感じたんですが、歌詞を考えてみたらすぐに98%くらいできちゃったんです(笑)。それを矢部さんに見せたら「いいじゃん」って。

──スムーズに歌詞ができることは珍しいことなんですか?

楽曲提供をしていたときはたびたびありました。おそらく自分がゼロから作るものじゃないことでいい意味で責任が軽くなってるんですよね。自分の曲では書けないような歌詞が生まれました。

──ほかのメンバーはどういった方々が?

ベースの若山(隆行)くんは僕がデビューした当時から10年以上一緒にやっています。ギターはライブで僕のサポートをやってくれていた加藤ケンタくん(Natural Records)のほかに、主にメロディを弾くリードギターとしてメトロトロンにいた青木孝明さん、デビューアルバムのときに一緒にやっていた西村哲也さん(グランドファーザーズ)に声をかけました。ギターが3人もいれば音も使い分けられるなあと思って。

柴山一幸

──あとはキーボード担当として杉浦琢雄さん(東京60WATTS)も参加していますね。

そうなんです。2月のレコーディングのときに数曲書いた段階で「やっぱりキーボードがないと厳しい」って思って(笑)。昔一緒に音楽をやってて「I'll be there」でも「あなたの胸に抱かれたままで」を一緒に作った杉浦くんに声をかけました。

──今回のアルバムではオープニングナンバー「Headway」と、「一つの幸せ」「りんご病のあの娘」の3曲を共作していますね。

はい。昔と同じように一緒に曲を書いたものもあれば、僕が書いた曲でキーボードをあとから入れてもらったものもありますね。

柴山一幸は超ネガティブ人間

──今回のアルバムではサウンドの変化に加え、ボーカルの位置付けも変わったように感じました。前作は楽曲を構成する音の1つとして歌声があるといった印象を持っていましたが、今回は声がきちんと立っていて、柴山さんのボーカリストとしての存在感を強く意識しました。

これも“本当の自分”に近付けたくて、素直に表現した結果ですね。音楽性と同じで、若いときに未熟ながらやってみた結果「これじゃウケない、売れないんだ」と感じて以降しばらくは自分の声を炭竃くんの楽曲アレンジなどで“武装”していたんです。それを今作では解除して。

──では歌詞の中で表現されているのも“本当の自分”ですか? 今作は冒頭から「澱(よど)んだ」「くすんで」など、やや陰のあるワードが随所に散りばめられています。

もちろん。僕は「ネガティブナイト」ってライブイベントを企画するくらい超ネガティブなんですよ(笑)。

──前作は音楽賛歌といえるような、ブライトな内容の歌詞が目白押しだった印象ですが。

柴山一幸

あのときは、「I'll be there」を出すまでは誰だかよくわからない存在だった自分が、人から次のアルバムを待っててもらえてることに気付いてうれしくなったんです。「音楽で人とコミュニケーションができるんだ!」という発見があったから「君たちも音楽のスターだよ!」なんて明るく歌ってましたね。ステージで歌える、アルバムを作っていられるっていう自分がすごく幸せだった。

──喜びがダイレクトに出たんですね。

そうそう。でも本来はそうじゃないんですよ。僕はネガティブで……まあ本当にどうしようもなくネガティブだったら音楽辞めてるか死んでるかだと思うんだけど、こうやって続けてはいる。「逃げたい」と思うこともあるから苦しいとは感じますけどね。

ニューアルバム「YELLING」/ 2015年5月27日発売 / 2700円 / GO→ST / INPH-011
ニューアルバム「YELLING」
収録曲
  1. Headway
  2. 一つの幸せ
  3. song of superman
  4. Why Why Why
  5. りんご病のあの娘
  6. SAYONARA
  7. コタツでアイス
  8. 機関銃とセーラー服
  9. カプセルラブ
  10. 愛こそは不得手
柴山一幸 & the BD's New Album「YELLING」発売記念ワンマンライブ
  • 2015年6月12日(金)愛知県 Valentine Drive
    ゲスト:高橋てつや / The Swastika
    料金:前売 2500円 / 当日 3000円(ドリンク代別)※学割あり
  • 2015年6月21日(日)東京都 HEAVEN青山
    ゲスト:伊藤俊吾と佐々木良
    料金:前売 3000円 / 当日 3500円(ドリンク代別)※学割あり
  • the BD's:杉浦琢雄(Key)/ 加藤ケンタ(G)/ 若山隆行(B)/ 矢部浩志(Dr)/ 森芳樹(Perc ※東京公演のみ)
柴山一幸「YELLING」ディスクユニオン購入特典イベント
  • 2015年6月25日(木)東京都 dues新宿
    バンドメンバー:杉浦琢雄(Key)/ 加藤ケンタ(G)/ 若山隆行(B)/ 矢部浩志(Dr)/ 森芳樹(Perc)
柴山一幸(シバヤマイッコウ)
柴山一幸

2001年に鈴木博文(ムーンライダーズ)主宰のレーベル・メトロトロンレコードよりアルバム「Everything」でデビューを果たした。2008年5月には田辺マモル、徳永憲らをゲストに迎えて制作した2ndアルバム「涙色スケルトン」を発表。田辺マモルのサウンドプロデュースや田村ゆかりへの楽曲提供などでも幅広く活躍する。2013年3月の3rdアルバム「I'll be there」発売以降はライブも精力的に行い、2014年6月にはGO→STレーベルより4thアルバム「君とオンガク」をリリース。2015年5月に5thアルバム「YELLING」を発表した。