ナタリー PowerPush - 柴山一幸×澤部渡(スカート)対談
時代を超えたソングライターの遺伝子
2001年にアルバム「Everything」でデビューしたシンガーソングライター柴山一幸が、通算4枚目となるフルアルバム「君とオンガク」を完成させた。また柴山とは18歳年齢の離れたソングライター、スカート・澤部渡もニューアルバム「サイダーの庭」をリリースする。奇しくも2人は前作もほぼ同時期に発表していたが、今年3月に行われたカーネーションのトリビュートライブが初顔合わせ。その後急速に距離を縮めているという2人に、対談形式で話を聞いた。
取材・文 / 岡村詩野 撮影 / 小坂茂雄
キャリアを重ねた落ち着きがない
柴山一幸 僕、去年3月に「I'll be there」というアルバムを出したんですが、ちょうど同じ時期にスカートの「ひみつ」もリリースされていたんです。雑誌に載っていた「ひみつ」のレビューが軒並み評判がよくて、これはどんな人なんだろう?って思っていたら、周囲のスタッフとかの間で「サワベくんが……」という名前をよく聞くようになって……ああ、スカートの澤部さんか、と。
澤部渡 ありがとうございます。僕のほうは申し訳ないですが柴山さんのことは本当に知らなくて……。
柴山 あれ? 最初会ったときに「I'll be there」っていいですよね、とかって話してなかったでしたっけ?
澤部 いやあ、さすがの僕でもそこまでのウソはつかないと思います……(笑)。
柴山 (笑)。僕もちゃんと作品を聴かせてもらったのは、今年3月のカーネーションのトリビュートライブのときに会って、お互いに作品を交換したときでした。だから、なんだかんだでけっこう最近ですね。
澤部 これまでの作品を聴かせてもらって思ったのは……音楽を長く作っている方って、キャリアを重ねるごとに作品が落ち着いたりすると思うんですが、柴山さんの作品にはそれがないっていうか(笑)。非常に若々しいサウンドと歌詞だなあって。
柴山 あ、それはすごくうれしい。僕は今44歳ですけど、意外とちゃんとまとまった音楽活動ってしてないんです。2001年に最初のアルバム「Everything」をメトロトロン(ムーンライダーズ鈴木博文主宰のレーベル)から出して、2008年に「涙色スケルトン」を出すまでほとんど表立った活動をしていなくて。で、その後も今回のアルバムまでライブとかほとんどやっていないんですよ。曲は書いていましたけど、学校で若い子に教えることをメインにやってきていたんで、ライブとかアルバム録音みたいなことは本当にあまりやってこなかったんです。確かに澤部さんの言うように、ミュージシャンでも僕くらいの年齢になると、自分のルーツに帰っていくような作品を作ったりすることが多いですよね。
澤部 削ぎ落としていく方向に向かったりとか……。豊田(道倫)さんとかもそうですね。
柴山 そうそう、そうですよね。でも僕はまだそこまで行ってないんじゃないかって思いますね。
──今なお新人の心意気でいる、と。
柴山 相当恥ずかしいことですけどね(笑)。でも本当にそうかも。僕は今でもまだ小さなライブハウスで、僕よりはるかに若い20代のミュージシャンと一緒になってやってるんです。正直言って恥ずかしいときもありますよ。本当はワンマンとかでちゃんとやりたいところですもん。楽しいですけどね。若いアーティストと一緒にやれる機会も、僕くらいの歳になるとなかなかないんで。だから、年齢のわりに若々しいって言われることは本当にうれしいですよ。
澤部 なるほどー。合点がいきました。表立った活動をあまりしてこなかったと。
柴山 そうです。だから、年齢は離れてますけど、実はキャリアは澤部さんと同じくらいか、澤部さんのほうがむしろ長いかも(笑)。
目つきがロックだもん
柴山 僕が澤部さんの作品を聴いて感じたのは……澤部さんって26歳ですよね? 今そのくらいの年齢のミュージシャンって、みんなそこそこうまくて、そこそこ言葉も達者で、って感じの人が多いなって印象があるんです。それもいかにも草食系、文化系のミュージシャンって印象。でも、澤部さんのボーカルにはパンクを感じるんですよね(笑)。
澤部 ははははは!(笑)
柴山 澤部さんってほとんどの曲でシャウトしてますよね。すごくよくできたいい曲だし、いろんな音楽をたくさん知ってるんだろうなあって感じの曲を作る方だとも思うんですけど、なんでシャウトしてるんだろう?って(笑)。
澤部 なんかやっぱりアンチテーゼが働いてるんでしょうね。確かに若いバンドって上品に歌う人たちがすごく多いんで。
──いい曲を意識的に“汚したい”ということ?
澤部 それはありますね。僕、ロックはあまり好きじゃないんですけど、どこかにロック的な要素があるとすれば、そうやって壊していこう、汚していこうとする姿勢かもしれないですね。
柴山 だって、もう、目つきがロックだもん(笑)。
澤部 ははははは!(笑)
柴山 最初会ったとき「この人、目が鋭いなー」って。でも純粋に音楽が好きなんだろうなってことも思いましたね。
澤部 今でこそほとんどロックは聴かないですけど、やっぱり10代のときの体験ってあるんだろうなって思いますね。NUMBER GIRLとか好きで聴いてましたし、母親から聴かせてもらったイギー・ポップとかの影響もあるかもしれませんね。
柴山 ギターを弾くきっかけって何だったんですか?
澤部 僕はやっぱり“ゆず世代”なんです。で、どっちかっていったら岩沢(厚治)さんの書く曲のほうが好きでした。今でも岩沢さんの曲はいいなって思いますね。面白いクセのある曲を書くなあって。
収録曲
- Hello!Hello!
- 僕は今も信じている
- 君とオンガク
- ペットサウンド
- お願いダーリン
- サクカサカナイカ
- Cry Wolf
- 機関車
- 手はおひざ
- We are Music-Star
- ポイントカード
収録曲
- さかさまとガラクタ
- アポロ
- 都市の呪文
- ラジオのように
- サイダーの庭
- はなればなれ
- 古い写真
- すみか
柴山一幸(シバヤマイッコウ)
1969年11月8日、愛知県生まれのシンガーソングライター。2001年に鈴木博文(ムーンライダーズ)主宰のレーベル・メトロトロンレコードよりアルバム「Everything」でデビューを果たした。2008年5月には田辺マモル、徳永憲らをゲストに迎えて制作された2ndアルバム「涙色スケルトン」を発表。自身の作品のみならず、田辺マモルのサウンドプロデュースや声優アーティスト田村ゆかりへの楽曲提供など幅広く活躍する。2013年3月の3rdアルバム「I'll be there」発売以降はライブも精力的に行い、2014年6月にはGO→STレーベルより4thアルバム「君とオンガク」をリリース。
スカート
ソングライター澤部渡が2006年に始動させたソロプロジェクト。2010年12月に自主制作アルバム「エス・オー・エス」を発表し、以降はフルアルバムのみならず展示即売会限定のCD-Rなども含め、コンスタントに作品を発表し続けている。さまざまな変遷を経て、現在は佐久間裕太(Dr / 昆虫キッズ)、清水瑶志郎(B / マンタ・レイ・バレエ)、佐藤優介(Key / カメラ=万年筆)をサポートメンバーに迎えて活動中。2014年6月に最新アルバム「サイダーの庭」を発表する。