SHE'S|自信を更新して提示する、これがSHE'Sの核

SHE'Sが11月14日に4thシングル「The Everglow」をリリースした。

本作にはMBS / TBS系ドラマイズム枠の新ドラマ「ルームロンダリング」のオープニングテーマに起用された表題曲のほか、カップリングとして「Come Back」「月は美しく」を収録。いずれも美しい旋律が響く楽曲に仕上がっている。

音楽ナタリーではひさびさの単独インタビューとなるため、新作の話題と合わせて、メジャーデビュー以降のバンドの状況についても聞いた。井上竜馬(Vo, Key)による「The Everglow」のセルフライナーノーツには「永遠に輝くものなんてない、そうずっと思っていたけれど、僕らが忘れない限りそれは生き続けるんだと歌った大事な曲です」とある。果たして、その真意とは?

取材・文 / 田山雄士 撮影 / moco.(kilioffice)

やれないと思ってたことが、どんどんできるようになってる

──SHE'Sの近況としては初の学園祭ツアー中(※取材は10月下旬に実施)ですが、手応えはどう感じてますか?

井上竜馬(Vo, Key)

井上竜馬(Vo, Key) 栃木、山形、島根といい感じでやれてますよ。各地で人の雰囲気も違うし、ホンマに楽しいです。こうやって学祭をツアーで回れるのは新鮮。僕自身が大学を1年で辞めてしまったので、学祭をほとんど経験したことないのもあって(笑)。

服部栞汰(G) 竜馬は純粋にめっちゃ楽しんでるよな。これまでバンドで行ったことがない土地にも行けてるし、初めての場所で初めてのお客さんに観てもらえる。このツアーはそういう意味でもありがたくて、刺激的なんです。

広瀬臣吾(B) 環境もグラウンドの特設ステージやったり体育館やったり、ライブハウスとはまったく違うじゃないですか。そういうのもいい経験になってます。

木村雅人(Dr) こんなに密に学生と関われることもなかなかないしね。軽音部の雰囲気を見に行ったりするのも面白いし、昔を思い出す感覚もあって、初心に帰れると言うか。

広瀬 大学が始まるときにはSHE'Sを組んでて、学校は行ってたけどもほぼバンドの活動とバイトしかしてなかったですからね。俺らは軽音学部も入らず、学校の外で活動してたもんな。

服部 サークルとか、大学生らしいことをほとんどしてなかった(笑)。

──音楽ナタリーでの単独取材はメジャーデビュー時以来(参照:SHE'S「Morning Glow」インタビュー)なので、SHE'Sがその後フルアルバムなどを経て、今どんな状況にあるのかも聞かせてください。

井上 大きいターニングポイントは、その間に上京したことですよね。1stフルアルバムの「プルーストと花束」(2017年1月リリース)のツアーが終わってすぐやから、去年の4月か。生活環境もそうですけど、制作の環境が変わってすごくやりやすくなった。外部のプロデューサーに初めてお願いしたりして、より音楽に集中できるようになって、変わっていくことに対して柔軟になったよね?

広瀬 そうやな。デビュー以降はライブもたくさんこなせるようになってきたし。

木村 ツアーやってレコーディングやってっていう、そのサイクルで成長できてると思う。

井上 今年は先輩ミュージシャンと対バンツアーができて、そこでSHE'Sのライブをもう1回見つめ直せたのもありましたね。「自分がお客さんやとしたら、SHE'Sに何を求めて観に行くやろ?」と俯瞰的に考えたとき、「ブチ上げて叫び散らすような、ただ熱く在るだけのバンドではないな」ってわかったんで、ライブのことを踏まえて「アップテンポの曲が欲しいなあ」とかは思わへんようになりました。むしろ、ミドルからスロー寄りで作るようになったり。バンドがどんどん変わりたい時期に来てるのは間違いないです。

服部 ホールツアーも大きかったね。メンバー4人だけじゃなくて、ホーンとストリングスが入った11人編成でどうやっていくのかって中で、バンドとしての結束力がさらに固まっていったと思います。

広瀬 シンプルに音楽がより好きになっていった感じもあるな。各自が聴く音楽の幅も広がっていって。

──2ndフルアルバム「Wandering」(2017年12月リリース)では、サウンドがかなり変貌しましたもんね。

広瀬 そうですね。それ以降で言うと、前作の3rdシングル「歓びの陽」はエレクトロ寄りにトライしたり。あとは洋楽的なアプローチも増えてきて、例えばThe Chainsmokersみたいなサウンドが面白いかなと思ったりして。昔は抵抗があったものも、今は積極的に取り入れられるようになってきてます。

井上 前々からやりたかったんやけど、ようやく形にできるようになってきた感じかな。エレクトロ×ピアノロック、みたいなね。プロデューサーの百田留衣(agehasprings)さんの力も借りて。自分らのやったことのない音楽を作るんだという気持ちが芽生えてきてて、「これはSHE'Sではやれへん」と思ってたことさえ、どんどんできるようになってますね。

過去を思い出すことで今のエネルギーにしてる

──さっき話に出たとおり、ニューシングルの「The Everglow」はミドルからスロー寄りの心地よさがある気がしました。

井上 うん。サウンド面も今回は突拍子のないことはしてなくて、SHE'Sらしい世界観とスケール感のある作品にできたと思います。

──過去を慈しむような楽曲という印象を感じたんですが、ここに来てそういったトーンの曲が出てきてるのはどうしてなんでしょう?

井上 1stアルバムの「プルーストと花束」はすごく自分の過去と向き合って作ったアルバムなんですよ。それを作り終えて一度「過去を振り返るのはもういいか」「今と未来をしっかり見ていける人になれたら、また違う強さが持てるんかな」となったんですけど、やっぱり自分は過去を大切にしてるし、過去を思い出すことで今のエネルギーにしてるなって気付いて。

──どこかのタイミングで、考えがまた変わったということですか?

井上 2015年にリリースした2ndミニアルバム「WHERE IS SHE?」の1曲目に「Change」って曲があるんですけど、そこでは「ずっと変わらないものなんてないよ」という考えでした。でも、最終的にその曲において断言はできてなくて……。「もし、あるならば」と信じたい気持ちで「不変を探していくよ」と締めたんです。その不変が自分の中でようやく腑に落ちた瞬間があって。写真を見て思い返したり、昔の友達と会ってしゃべったりしたときに、「ずっと忘れられへんようなものって存在するなあ」「青春の記憶は輝いてるままやな」ってわかったんですね。その一部として、修学旅行の夜に友達と一緒に星を観に行ったときのことが「The Everglow」の歌詞になった感じで。

──過去を振り返るにしても、それこそ「プルーストと花束」のときとは違う味わいがありますね。

井上 そうですね。以前は「こんなことがあって悲しかったな」「こういう生き方しちゃってたな」みたいな過去の振り返り方やったけど、まったく別モノとして自分を受け入れられたのかなって。

広瀬臣吾(B)

広瀬 最初はサビだけのピアノ弾き語りのバラードとして竜馬が作ってきたんですけど、そのメロディと歌詞を聴いたときに「これは名曲になるな!」と思いました。

服部 そのときはバラードの印象やったけど、どんな形でもいけそうなメロディに感じたね。

木村 うん。1回聴いただけですごく歌詞が印象に残ったし、そのサビを際立たせるためにほかをどうするかってところが大事だったと思います。最初と最後のドラムのロールは早くに決まって、サビに駆け上がるダイナミクスとかの抑揚を大事にして。

井上 デモのアレンジは何も気にせず作ってたけど、臣吾が言ってくれたんです。

広瀬 「アップテンポにしたらカッコええんちゃう?」って。

井上 「My Chemical Romanceの『Welcome To The Black Parade』みたいなイメージ?」って聞いたら、「そうそうそう!」みたいな。そこからアレンジが進んでいきましたね。

木村 ドラムはイントロ、Aメロ、Bメロ、サビと基本はずっと同じリズムを叩いてるんですけど、アップテンポで普通にスネア刻むと音量が出すぎちゃうんです。そこをいかに落としつつ、疾走感を生むかが肝やったかな。